このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 特集2 第2節 建築分野における木材利用の動向(2)

(2)非住宅・中高層建築物における木材利用の動向

(非住宅・中高層建築物での木材利用の概況)

令和3(2021)年の我が国の建築着工床面積の現状を用途別・階層別にみると、低層住宅以外の非住宅・中高層建築物の木造率は、6%と低い状況にある(資料 特2-6)。人口減少や住宅ストックの充実等により、我が国の新設住宅着工戸数が全体として減少する可能性も踏まえれば、木造率の低い非住宅・中高層建築物での木造化や内外装の木質化を進め、新たな木材需要を創出することが重要である。


(非住宅・中高層建築物での木材利用環境の整備)

我が国では、「建築基準法(*40)」において、火災時の避難安全や延焼防止等のため壁、柱、床、梁(はり)、屋根等の主要構造部に対して、建築物の規模や用途、立地に応じて防耐火の基準が設けられ、木材の利用が制限されてきた。一方、建築物の木造・木質化に資する観点等から、昭和62(1987)年に燃えしろ設計(*41)が導入され、一定の技術的基準に適合する大断面木造建築物の建築が可能になった。また、平成10(1998)年には、性能規定化(*42)によって木造の耐火建築物の建築が可能となり、主要構造部の木材を防耐火被覆等により耐火構造とする方法のほか、耐火性能検証法(*43)や大臣認定による高度な検証法を用いる方法が位置付けられた。また、令和元(2019)年には、耐火構造等としなくてもよい木造建築物の規模が高さ13m以下かつ軒高9m以下から高さ16m以下かつ3階以下へ見直されたほか、耐火構造等とすべき場合でも、必要な措置を講ずることにより木材を現しで使うことなどが可能となった。

建築基準の合理化に加え、木質耐火部材やCLT(*44)(直交集成板)等の技術開発も進み、制度・技術の両面で利用環境の整備が一定程度進展している。


(*40)「建築基準法」(昭和25年法律第201号)

(*41)火災時の燃え残り部分で構造耐力を維持できる厚さを確保する設計。

(*42)満たすべき性能を基準として明示し、当該性能を有することを一定の方法により検証する規制方式とすること。

(*43)「耐火性能検証法に関する算出方法等を定める件」(平成12年建設省告示第1433号)により、建築物の主要構造部の耐火に関する性能を検証する方法。

(*44)「Cross Laminated Timber」の略。一定の寸法に加工されたひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着したもの。



(非住宅・中高層建築物での木材利用拡大の取組)

公共建築物の木造率は、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(*45)」が施行された平成22(2010)年度の8.3%から令和2(2020)年度の13.9%まで上昇し、特に積極的に木造化を図ってきた低層の公共建築物については、29.7%となった。

民間建築物についても、住宅市場の減少見込みや、持続可能な資源としての木材への注目の高まりなどを背景に、建設・設計事業者や建築物の施主となる企業が非住宅・中高層建築物の木造化・木質化に取り組む例が出てきている。特に低層非住宅建築物で床面積の小さいものについては、既存の住宅建築における技術をそのまま使える場合があることなどから木造率が比較的高い傾向にあり(資料 特2-12)、店舗や事務所等の様々な建築物が木造で建築されている(資料 特2-13)。

資料 特2-12 低層非住宅の規模別着工床面積と木造率

資料 特2-13 木材利用の事例
st2_13_p1.jpg st2_13_p2.jpg st2_13_p3.jpg st2_13_p4.jpg

中高層建築物については、木材を用いた先導的な大規模建築物の建築への支援を活用し、例えば、令和3(2021)年10月には、東京都中央区において、木造と鉄骨造の混構造で12階建ての商業施設が建設された。通りに面した側では1~12階まで耐火集成材の柱と梁(はり)を用い、外装にも木材を使用している。内装においても、耐火集成材の柱と梁(はり)や、CLTの天井が現しで見えるデザインとなっている。施主であるヒューリック株式会社は、循環型社会と脱炭素社会の実現に向けた取組の一環として木材利用に取り組むとともに、木材利用が集客やテナント誘致につながることを期待している。

また、木造で高層建築物を建築する取組もあり、例えば、令和4(2022)年3月には、神奈川県横浜市において、3時間耐火仕様の木材を柱・梁(はり)に採用した地下1階、地上11階の研修施設が建設された。建設業者の株式会社大林組が自社で建設しており、同社は木材利用を通じて持続可能な社会へ貢献するとともに、木質化することにより利用者にリラクゼーション効果があることを期待している。また、この研修施設では、木造で高層を実現するために接合部の強度を高めた新工法(*46)を開発・採用しており、ここで得られた知見を活用して、更に取組を広げていくこととしている。

さらに、オフィスや店舗等については、生産性の向上や利用者の増加への期待から、内装・家具を木質化する動きが広まっている。


(*45)「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)。令和3(2021)年6月に法律名を「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正。

(*46)鋼棒等の接合具と接着剤を併用するGIR接合と超厚合板の貫構造を組み合わせた3層構成の仕口。



(多様な者の連携による木材利用拡大に向けた取組)

このような状況を踏まえ、更に木材利用を進めるため、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)として令和3(2021)年10月に施行された。これにより、建築主たる事業者等が国又は地方公共団体と協定を結び、協働・連携して木材の利用に取り組む「建築物木材利用促進協定制度(*47)」が創設された。協定を締結することは、事業者等にとって、社会的な認知度や評価の向上につながる。また、同協定では、林業・木材産業事業者等も参画した3者協定とすることが可能であり、3者協定により建築主や林業・木材産業事業者等の関係者が信頼関係を構築して木材利用に取り組むことが期待される。

また、持続可能な開発目標(SDGs(*48))やESG投資(*49)への関心が高まりを見せる中、企業、団体、大学研究機関等の様々な関係者が連携し、非住宅・中高層建築物における木材利用の拡大に向けた課題解決を図っている。令和3(2021)年9月には、民間建築物等における木材利用の促進に向けて、経済・建築・木材供給関係団体等、川上から川下までの関係者が広く参画する官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会(ウッド・チェンジ協議会)(*50)」(令和4(2022)年2月現在:49構成員)が立ち上がり、木材を利用しやすい環境づくりに取り組んでいる。


(*47)建築物木材利用促進協定制度については、第3章第2節(1)138-139ページを参照。

(*48)「Sustainable Development Goals」の略。

(*49)従来の財務情報に加え、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を判断材料とする投資手法。

(*50)林野庁プレスリリース「第1回民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会の開催について」(令和3(2021)年9月10日付け)



(非住宅・中高層建築物向けの木材製品への要求)

非住宅・中高層建築物の建築においても、住宅と同様に乾燥材が求められる。また、一定規模以上の建築物では、構造計算による構造安全性の確認が必要であり、強度等の品質・性能の確かなJAS製品等が求められる。

また、規模の大きい建築物では、高い構造安全性と防耐火性を満たすため、CLTや大断面集成材のような高耐力な木材製品や、木質耐火部材が使用される場合が多い。これらの製品は、それぞれの建築物の設計に対応した特注品になることが多く、工期やコストに合わせて、計画的な調達を行う必要がある。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219