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林野庁

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第1部 第5章 第2節 原子力災害からの復興(2)

(2)安全な特用林産物の供給

東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散は、きのこや山菜等の特用林産物の生産にも大きな影響を及ぼしている。

きのこ等の食品中の放射性物質については、検査の結果、厚生労働省の定める一般食品の基準値(100Bq/kg)を超え、更に地域的な広がりがみられた場合には、原子力災害対策本部長が関係県の知事に出荷制限等を指示している。令和4(2022)年3月30日現在、14県196市町村で、22品目の特用林産物に出荷制限が指示されている。


(きのこの放射性物質低減に向けた取組)

林野庁は、原木きのこの生産再開に向けて、「放射性物質低減のための原木きのこ栽培管理に関するガイドライン(*27)」を策定し、全国の都道府県に周知した。出荷制限が指示された地域については、同ガイドラインを活用した栽培管理の実施により基準値を超えるきのこが生産されないと判断された場合、地域の出荷制限は残るものの、ほだ木のロット単位(*28)での出荷が可能となる。

原木しいたけについては、令和4(2022)年3月30日現在、6県93市町村で出荷制限が指示されている(*29)が、このうち6県65市町村でロット単位での出荷が認められるなど、生産が再開されている。

林野庁では、安全なきのこ等の生産に必要な簡易ハウス等の防除施設や放射性物質測定機器の整備等を支援するとともに、風評の払拭に向けて、きのこ等の特用林産物に関する放射性物質の検査結果や出荷制限・解除の情報等をホームページで迅速に発信している。


(*27)「放射性物質低減のための原木きのこ栽培管理に関するガイドライン」(平成25(2013)年10月16日付け25林政経第313号林野庁林政部経営課長通知)。生産された原木きのこが食品の基準値を超えないようにするための具体的な栽培管理方法として、指標値以下の原木を使用すること、発生したきのこの放射性物質を検査することなどの必須工程のほか、状況に応じて原木・ほだ木を洗浄することなどを示している。

(*28)原木の仕入先や植菌時期ごとのまとまり。

(*29)これまでに出荷制限が指示された市町村のうち、2県3市町で出荷制限が解除されている。



(きのこ原木等の安定供給に向けた取組)

林野庁は、都道府県や業界団体に対し、一般食品の基準値を踏まえた「当面の指標値」(きのこ原木とほだ木(*30)は50Bq/kg、菌床用培地と菌床は200Bq/kg)を設定しており(*31)、同指標値を超えるきのこ原木と菌床用培地の使用、生産及び流通が行われないよう要請を行っている。

東日本大震災以前には、きのこ原木は、福島県の阿武隈(あぶくま)地域で生産されていたものが広く全国に流通していたが、指標値を超えるきのこ原木が多く発生したため、現在も生産が回復していない。

きのこ原木の生産量の大幅な減少に伴い、多くの県できのこ原木の安定調達に影響が生じたことから、林野庁では、きのこ原木の安定供給検討委員会(*32)を開催し、需要者と供給者のマッチングを行ってきた(*33)。近年、マッチングが必要なきのこ原木量は減少傾向にあることから、原木きのこの生産者が自ら原木を調達できることが多くなっていると考えられるが、樹種別に見るとミスマッチが生じている状況にある。


(*30)原木にきのこの種菌を植え込んだもの。

(*31)「「きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値の設定について」の一部改正について」(平成24(2012)年3月28日付け23林政経第388号林野庁林政部経営課長・木材産業課長等連名通知)、「「きのこ原木及び菌床用培地の当面の指標値の設定について」の一部改正について」(平成24(2012)年8月30日付け24林政経第179号林野庁林政部経営課長・木材産業課長等連名通知)

(*32)平成25(2013)年度までは「きのこ生産資材安定供給検討委員会」、平成26(2014)年度からは「安全なきのこ原木の安定供給体制構築に係わる検討委員会」と呼称。

(*33)「平成24年度森林及び林業の動向」第2章第3節(2)61ページを参照。



(栽培きのこの生産状況)

平成24(2012)年の東日本地域におけるしいたけ生産量は、東日本大震災以前の平成22(2010)年の4万664トンから30%以上減少して2万7,875トンとなった。原木しいたけの生産量については、現在も平成22(2010)年の50%以下にとどまる一方、菌床しいたけの生産量については、おおむね東日本大震災前の水準にまで回復している(資料5-5)。


(野生きのこ、山菜等の状況)

野生きのこや山菜等の特用林産物については、令和4(2022)年3月30日現在、野生きのこ、たけのこ、くさそてつ、こしあぶら、ふきのとう、ぜんまい等18品目に出荷制限が指示されている。なお、野生きのこについては、全体を1品目として出荷制限が指示されているが、解除に当たっては、平成26(2014)年から、種類ごとに解除できることとされている。

林野庁は、野生きのこ、山菜等の出荷制限の解除が円滑に進むよう、平成27(2015)年に「野生のきのこ類等の出荷制限解除に向けた検査等の具体的運用について(*34)」を通知し、具体的な検査方法や出荷管理について関係都県に周知した。このような中で、野生きのこの出荷制限の解除も進みつつある。一方、近年でも新たに出荷制限が指示される品目もあり、安全な特用林産物を出荷するため、今後も検査等を継続していく必要がある。

さらに、令和3(2021)年3月、原子力災害対策本部が策定する「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」の一部が改正され、出荷制限地域であっても、県が定めた出荷・検査方針により、きのこ・山菜類等を適切に管理・検査する体制が整備された場合は、非破壊検査により基準値を下回ることが確認できたものは出荷可能となり、令和3(2021)年3月にはまつたけ、令和4(2022)年3月には皮付きたけのこに適用される旨、厚生労働省から都道府県へ通知された(*35)。これにより、宮城県及び福島県内の一部において、まつたけの出荷が再開された(事例5-2)。

事例5-2 宮城県・福島県の非破壊検査によるまつたけ出荷の取組

食品中の放射性物質の検査については、これまで、検体を細かく砕いて行う検査のみが認められていたが、厚生労働省において、もとの形状のまま検査可能な非破壊検査機器を用いた検査方法に関する研究が進められ、放射性セシウム濃度が基準値よりも低いまつたけを確実に選別するための「非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法」が策定された。

この結果、令和3(2021)年3月、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」の一部が改正され、宮城県及び福島県は、出荷・検査方針を作成した。当該方針により、令和3(2021)年9月から、野生きのこの出荷制限が指示されている宮城県気仙沼(けせんぬま)市及び福島県内55市町村において、まつたけの非破壊検査による出荷再開が実現した。

令和3(2021)年度は、宮城県及び福島県で合計639検体(注)のまつたけが検査を通過し、検査済証のラベルが付され出荷された。安全性が確認されたきのこ等の出荷の再開が進むことにより、当該地域における特用林産物の産地の再生につながることが期待されている。


注:非破壊検査機器で測定した1つのまとまり。



(*34)「野生のきのこ類等の出荷制限解除に向けた検査等の具体的運用について」(平成27(2015)年11月20日付け27林政経第247号林野庁林政部経営課長通知)

(*35)「非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法について」(令和3(2021)年3月26日付け厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課事務連絡、令和4(2022)年3月25日付け厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課事務連絡)



(薪、木炭、木質ペレットの指標値の設定)

林野庁は、調理加熱用の薪と木炭に関する放射性セシウム濃度の当面の指標値を、それぞれ40Bq/kg、280Bq/kg(いずれも乾重量)に設定し(*36)、都道府県や業界団体に対し、同指標値を超える薪や木炭の使用、生産及び流通が行われないよう要請を行っている。木質ペレットについても、放射性セシウム濃度に関する当面の指標値を、樹皮を除いた木材を原料とするホワイトペレットと樹皮を含んだ木材を原料とする全木ペレットについては40Bq/kg、樹皮を原料とするバークペレットについては300Bq/kgと設定した(*37)。

なお、これらの指標値は、燃焼灰が一般廃棄物として処理可能な放射性濃度を超えないよう定められた。


(*36)「調理加熱用の薪及び木炭の当面の指標値の設定について」(平成23(2011)年11月2日付け23林政経第231号林野庁林政部経営課長・木材産業課長連名通知)

(*37)林野庁プレスリリース「木質ペレット及びストーブ燃焼灰の放射性セシウム濃度の調査結果及び木質ペレットの当面の指標値の設定等について」(平成24(2012)年11月2日付け)



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