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林野庁

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第1部 第5章 第2節 原子力災害からの復興(1)

(1)森林の放射性物質対策

(ア)森林内の放射性物質に関する調査・研究

(森林においても空間線量率は減少)

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に大量の放射性物質が放出され、福島県を中心に広い範囲の森林が汚染された。福島県は、平成23(2011)年から、帰還困難区域を除く県内各地の森林において、空間線量率等のモニタリング調査を実施している。令和3(2021)年3月の空間線量率の平均値は0.18μSv/hとなっており、森林内の空間線量率は年々低下している。森林内の空間線量率は、放射性物質の物理減衰とほぼ同様に低下している(資料5-4)。

資料5-4 福島県の森林内の空間線量率の推移

(森林内の放射性物質の分布状況の推移)

森林・林業施策の対応に必要な基礎的知見として、林野庁は、福島県内の森林において、放射性セシウムの濃度と蓄積量の推移を調査している。

森林内では、事故後最初の1年である平成23(2011)年から平成24(2012)年にかけて、葉、枝、落葉層の放射性セシウムの分布割合が大幅に低下し、土壌の分布割合が大きく上昇した。これは、樹木の枝葉等に付着した放射性セシウムが、落葉したり雨で洗い流されたりして地面の落葉層に移動し、更に落葉層が分解され土壌に移行し吸着したためと考えられる。令和3(2021)年時点で、森林内の放射性セシウムの90%以上が土壌に分布し、その大部分は土壌の表層0~5cmに存在している。

また、木材中の放射性セシウム濃度は大きく変動していないことから、事故直後に樹木に取り込まれた放射性セシウムの多くは内部にとどまっていると推察される。一方、毎年開葉するコナラの葉に放射性セシウムが含まれていることや、スギやコナラの辺材や心材で濃度変化がみられることから、一部は樹木内を転流していると考えられる。さらに、事故後に植栽した苗木にも放射性セシウムが認められることなどから、根からの吸収が与える影響も調査していく必要がある。

なお、森林全体での放射性セシウム蓄積量の変化が少なく、かつ大部分が土壌表層付近にとどまっていることなどから、森林外への流出は少ないと考察されている(*16)。


(*16)林野庁ホームページ「令和2年度 森林内の放射性物質の分布状況調査結果について」



(森林整備等に伴う放射性物質の移動)

林野庁は、平成24(2012)年から平成29(2017)年にかけて福島県内の森林に設定した試験地において落葉等除去や伐採等の作業を実施した後の放射性セシウムの移動状況調査を行った。その結果(*17)から、間伐の際に林床を大きく攪(かく)乱しなければ、土砂の移動は少なくなり、放射性セシウムの移動は抑えられると推察される(*18)。また、森林の生育過程において、間伐によって、森林内に光を取り込み下層植生の繁茂を促すことで土壌の移動を抑制させ、放射性セシウムの移動を抑制する効果が期待される。


(*17)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)

(*18)伐採した樹木の搬出や落葉等の除去により放射性物質を森林外へ持ち出すことは、持ち出される放射性セシウムの割合に応じて森林内の空間線量率の低減に影響を与えることが分かっている。しかし、令和3(2021)年時点では、 森林内の放射性セシウムの多くは土壌に分布しており、樹木に含まれる放射性物質の割合は僅かであることから、伐採した樹木の搬出による森林内の空間線量率の低減効果は限定的である。



(ぼう芽更新木等に含まれる放射性物質)

放射性物質の影響によりきのこ生産に用いる原木の生産が停止した地域において、将来的にしいたけ等原木の生産を再開する上で必要な知見を蓄積するため、林野庁は、平成25(2013)年度から、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に伐採した樹木の根株から発生したぼう芽更新木(*19)について調査している。同一の根株から発生したぼう芽枝に含まれる放射性セシウム濃度を測定した結果、直径の大きいものの方がやや低いという傾向がみられた。また、コナラとクヌギの樹種による比較では、クヌギの方が低いという傾向がみられた(*20)。

これらの取組に加えて、林野庁では、福島県及び周辺県のしいたけ等原木林の再生に向け、伐採及び伐採後のぼう芽更新木の放射性セシウム濃度の調査等について支援を行っている。


(*19)伐採した樹木の根株から発生したぼう芽が成長した木。

(*20)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)



(情報発信とコミュニケーション)

これまでの国、福島県等の取組により、森林における放射性物質の分布、森林から生活圏への放射性物質の流出等に係る知見等が蓄積されており、林野庁は、これらの情報の提供とともに、専門家の派遣も含めてコミュニケーションを行うため、工夫を凝らしたシンポジウムや出前講座の開催、パンフレットの作成・配布等の普及啓発活動を実施している。


(イ)林業の再生及び安全な木材製品の供給に向けた取組

(福島県における素材生産量の回復)

福島県全体の素材生産量は、震災が発生した平成23(2011)年には大きく減少したが、森林内の空間線量率が減少したことや、放射性物質対策に関する知見の蓄積や制度の整備に伴い、帰還困難区域やその周辺の一部の地域を除き、おおむね素材生産は可能となり、平成27(2015)年には震災前の水準まで回復している。


(林業再生対策の取組)

放射性物質の影響による森林整備の停滞が懸念される中、森林の多面的機能の維持・増進のために必要な森林整備を実施し、林業の再生を図るため、間伐等の森林整備とその実施に必要な放射性物質対策を推進する実証事業が平成25(2013)年度から継続して実施されている。令和2(2020)年度までに、汚染状況重点調査地域等に指定されている福島県内44市町村(既に解除された市町村を含む。)の森林において、県や市町村等の公的主体による間伐等の森林整備が行われるとともに、急傾斜地等における表土の一時的な移動を抑制する筋工(*21)等が設置されている。令和3(2021)年3月末までの実績は、間伐等10,468ha、森林作業道作設1,289kmとなっている。


(*21)山地斜面において、丸太を等高線に沿って配置し、地表水を分散させ表面侵食を防止するとともに、土壌を保持し雨水の浸透を促進する工法。



(里山の再生に向けた取組)

平成28(2016)年3月に復興庁、農林水産省及び環境省によって取りまとめられた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づく取組の一つとして、平成28(2016)年度から令和元(2019)年度にかけて、「里山再生モデル事業」を実施した。平成30(2018)年3月末までに14か所のモデル地区を選定し、林野庁による森林整備、環境省による除染、内閣府による線量マップの作成等、関係省庁が県や市町村と連携しながら、里山の再生に取り組んだ(*22)。

令和2(2020)年度からは、対象地域を48市町村に拡大し、「里山再生事業」として森林整備等を行っている。


(*22)平成28(2016)年9月に川俣町、葛尾村、川内村及び広野町の計4か所、同年12月に相馬市、二本松市、伊達市、富岡町、浪江町及び飯舘村の計6か所、平成30(2018)年3月に田村市、南相馬市、楢葉町及び大熊町の計4か所を選定。



(林内作業者の安全・安心対策の取組)

避難指示解除区域において、生活基盤の復旧や製造業等の事業活動が行われ、営林についても再開できることを踏まえ、林内作業者の放射線安全・安心対策の取組が進められている。

林野庁では、「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則(*23)」に基づき、森林内の個別の作業における判断に資するため、「森林内等の作業における放射線障害防止対策に関する留意事項等について(Q&A)」を作成し、森林内作業を行う際の作業手順や留意事項を解説している。

また、平成26(2014)年度からは、避難指示解除区域等を対象に、試行的な間伐等を実施し、平成28(2016)年度には、これまで得られた知見を基に、林内作業者向けに分かりやすい放射線安全・安心対策のガイドブックを作成し、森林組合等の林業関係者に配布し普及を行っている。


(*23)「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(平成23年厚生労働省令第152号)



(木材製品や作業環境等の安全証明対策の取組)

林野庁では、消費者に安全な木材製品が供給されるよう、福島県内において民間団体が行う木材製品や木材加工施設の作業環境における放射性物質の測定及び分析に対して、継続的に支援している。これまでの調査で最も高い放射性セシウム濃度を検出した木材製品を使って、木材で囲まれた居室を想定した場合の外部被ばく量を試算(*24)すると、年間0.049mSvと推定され、国際放射線防護委員会(ICRP(*25))2007年勧告にある一般公衆における参考レベル下限値の実効線量1mSv/年と比べても小さいものであった(*26)。福島県においても、県産材製材品の表面線量調査を定期的に行っており、専門家からは、環境や健康への影響がないとの評価が得られている。


(*24)国際原子力機関(IAEA)の「IAEA-TECDOC-1376」による居室を想定した場合の試算に基づき算出。

(*25)「International Commission on Radiological Protection」の略。

(*26)木構造振興株式会社、福島県木材協同組合連合会、一般財団法人材料科学技術振興財団(2019)「安全な木材製品等流通影響調査・検証事業報告書: 46.」



(樹皮の処理対策の取組)

木材加工の工程で発生する樹皮(バーク)は、ボイラー等の燃料、堆肥、家畜の敷料等として利用されるが、バークを含む木くずの燃焼により、高濃度の放射性物質を含む灰が生成される事例が報告されたことなどから、利用が進まなくなり、製材工場等に滞留するようになった。

このため、林野庁では、製材工場等から発生するバークの廃棄物処理施設での処理を支援しており、バークの滞留量は、ピーク時(平成25(2013)年8月)の8.4万トンから、令和3(2021)年11月には3千トンへと減少した。

また、発生したバークを農業用敷料やマルチ材に用いる方法の開発等、利用の拡大に向けた実証が進められている。


(しいたけ等原木が生産されていた里山の広葉樹林の再生に向けた取組)

震災前、福島県は全国有数のしいたけ等原木生産地であり、全国のしいたけ原木生産量の約1割(都道府県境を越えて流通するしいたけ原木の約5割)を福島県産が占めていた。事故後、放射性物質の影響により、しいたけ等原木生産が停滞し、原木となる広葉樹の伐採・更新が進んでいない。林野庁では、森林の生育状況や放射性物質の動態、しいたけ等原木を含む広葉樹材の需要などを総合的に踏まえた伐採・更新による循環利用が図られるよう、計画的な原木林の再生に向けた取組を「里山・広葉樹林再生プロジェクト」として、令和3(2021)年4月より福島県の関係者と連携して推進している。


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