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林野庁

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第1部 第2章 第3節 山村(中山間地域)の動向(2)

(2)山村の活性化

(山村の内発的な発展)

山村には、豊富な森林資源、水資源、美しい景観のほか、多様な食文化や木の文化を始めとする伝統・文化、生活の知恵や技等、有形無形の地域資源が数多く残されており、山村地域での生活を成り立たせていくためには、地域資源を活かした産業の育成等を通じた山村の内発的な発展が不可欠である。

また、都市住民や外国人観光客は、このような地域資源に対し大きな関心を寄せている。特に、木の文化については、我が国では、古くから生活のあらゆる場面で木を使い、各地域の気候や食文化等とも連動し、古民家等の木造建築物や木製食器等の多様な文化を生み出してきたところであり、これらを活用した観光コンテンツの育成も取り組まれている(資料2-33)。


このため、農林水産省では、森林資源を活用して、林業・木材産業を成長発展させるほか、特用林産物、広葉樹、ジビエなどの地域資源の発掘と付加価値向上等の取組を支援するとともに、インバウンドを含めた旅行者が農山漁村地域に宿泊し、地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農泊」を推進し、Wi-Fi、多言語対応等のインバウンド受入環境の整備、古民家等を活用した滞在施設の整備等を支援している。また、国有林野事業においても、「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林(*76)」を選定し、外国人観光客も含めた利用者の増加を目的として、標識類等の多言語化、歩道等の施設整備等に取り組んでいる。


(*76)「日本美しの森 お薦め国有林」については、第4章第2節(3)168-169ページを参照。



(山村地域のコミュニティの活性化)

山村地域の人口が減少する中、集落の維持・活性化を図るためには、地域住民や地域外関係者による協働活動を通じたコミュニティの活性化が必要である。さらに、地域資源の活用により山村地域やその住民と継続的かつ多様に関わる「関係人口(*77)」の拡大につながることが期待されている。

このため、林野庁では、山村の生活の身近にある里山林の継続的な保全管理、利用等の協働活動の取組を支援している(事例2-5)。

また、地域の新たな支え手を確保できるよう、特定地域づくり事業協同組合(*78)等の枠組みの活用を推進するとともに、林業高校・大学校への就学、「緑の雇用」事業によるトライアル雇用等を契機とした移住・定住の促進を図っている。

令和3(2021)年6月に内閣府が行った「農山漁村に関する世論調査」によると、農山漁村地域への移住願望がある者の割合は26.6%であった。

このほか、農林水産省は令和2(2020)年から「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」を開催し、今後農地として維持困難となる可能性がある土地の利用方策について検討を行い、この中で農用地の保全を図る事業として、放牧、鳥獣緩衝帯の整備、林地化が検討されている(*79)。これを踏まえ、令和4(2022)年3月に国会に提出した「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律の一部を改正する法律案」では、活性化計画(*80)の対象事業に農用地の保全を図る事業を追加するとともに、同事業の実施に当たっての農地転用手続の迅速化を図ることとしている。

事例2-5 森林整備に併せ古道を再生、活用し、地域活性化へ

静岡県の西伊豆(にしいず)地域に位置する松崎町(まつざきちょう)の山中には、かつての生活道や薪炭採取のために使われた歴史ある古道がある。地域住民らで組織する団体「西伊豆古道再生プロジェクト」では、荒廃した里山林の整備に取り組みながら、この古道に新たな価値を見いだし、活用している。

荒廃した古道は里山整備とともに再生され、現在はマウンテンバイク(以下「MTB」という。)コースとして活用されており、同団体はMTBトレイルツアーを実施している。40kmに及ぶ再生された古道には一年を通じMTB愛好家が訪れており、海の観光がメインであった地域に、冬の閑散期でも楽しめる新たな観光資源が創出された。古道は海外のガイドブックにも掲載され、アフターコロナにはインバウンドの集客を期待している。

また、里山整備により発生した広葉樹材は、地元の伝統食材である伊豆田子(いずたご)節(かつお節)をいぶすための薪として活用してもらうなど、食文化の保存にも一役買っている。

さらに、松崎町役場や教育委員会とも連携し、中学生の体験学習の受入れや、MTBツアーをふるさと納税の返礼品とするなど、古道を核にした活動は、地域を巻き込み、ますます広がりを見せている。


(*77)地域や地域の人と多様な形でかかわる人々。

(*78)地域人口の急減に直面している地域において、農林水産業、商工業等の地域産業の担い手を確保するための特定地域づくり事業を行う事業協同組合。特定地域づくり事業とは、マルチワーカー(季節ごとの労働需要等に応じて複数の事業者の事業に従事)に係る労働者派遣事業等をいう。

(*79)農林水産省ホームページ「長期的な土地利用の在り方に関する検討会」

(*80)「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律」(昭和40年法律第64号)第5条。現行では、農山漁村における定住及び農山漁村と都市との交流促進を図るため都道府県又は市町村が作成した計画で、農業振興施設の整備、生活環境施設の整備、交流施設の整備の事業を記載できる。当該計画が農林水産大臣に提出されることにより、国は農山漁村活性化交付金の交付等の支援措置を講ずることが可能。



(多様な森林空間利用に向けた「森林サービス産業」の創出)

近年、人々のライフスタイルや社会情勢が変化する中で、森林環境教育の場、レクリエーションの場に加え、メンタルヘルス対策や健康づくりの場、社員教育の場等として、森林空間を利用しようとする新たな動きもある(*81)(事例2-6)。

令和2(2020)年10月~11月に農林水産省が行った「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」によると、日常の生活の中で、森林で行いたいことについては、「心身の健康づくりのため森林内の散策やウォーキング」の割合が特に高かったほか、スポーツ、文化、教育等の分野での活用にも一定のニーズがあった(資料2-34)。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、自然豊かなリゾート地等で余暇を楽しみつつ仕事を行うワーケーションにも注目が集まっている。


このような中、林野庁は健康、観光、教育等の多様な分野で森林空間を活用して、山村地域における新たな雇用と収入機会を生み出すとともに、山村の活性化に向けた関係人口の創出・拡大につながる「森林サービス産業」に取り組む地域数を令和7(2025)年度までに45地域とする目標を設定している。令和3(2021)年度は、森林空間を活用することによる心身の状態の変化を測定するモニターツアー等の取組を3地域で、研修会の開催を4地域で実施した(*82)。こうした地域の中には国有林の「レクリエーションの森」を観光資源として活用する取組も見られる(*83)。

また、農林水産省では、「農泊」の推進の一環として、森林空間を観光資源として活用するための体験プログラムの開発や、山村でのワーケーション施設の整備等に対する支援を行っている。このような取組が進展することにより、山村においては、体験プログラムを提供するガイド等の収⼊機会の確保につながるとともに、都市から山村に訪れる人が増えたり、体験プログラム等により旅行者の滞在時間が延びることで、飲⾷店や小売店等の地域の関係者の収入増加にもつながることが期待される。また、人生百年時代を迎える中、様々なライフスタイルやライフステージにおいて森林空間を活用する取組によって、働き方改革の実現、健康寿命の延伸、アクティブ・ラーニング(*84)やウィズコロナの生活様式の実践等が図られ、社会課題の解決につながることが期待される。

事例2-6 企業の健康経営を新たなターゲットに森林空間を活用したモニターツアーを実施

静岡県富士宮(ふじのみや)市猪之頭(いのかしら)地区の自治会やキャンプ場運営会社等で組織するNPO法人猪之頭振興協議会では、富士山麓の景観、豊富な森林、湧水などの地域資源を活かし、インバウンド向けツアーの実施等に取り組んできた。

新型コロナウイルス感染症の影響による地域への訪問者減少の中、同協議会では、健康経営(注)に取り組む企業に着目し、企業・保険者等でメンタルヘルス対策や生活習慣病予防などに携わる者、産業保健スタッフ等を対象に、心身の健康増進プログラムの体験ツアーを新たに実施した。

参加者は、森林空間で自己と向き合う瞑(めい)想、湧水を巡るe-bike(電動アシストマウンテンバイク)ツアー、ご来光を浴びる早朝リラックスプログラムなどを体験したところ、心理的回復効果が体験中から確認されるとともに、体験後も1か月間持続する結果となった(図表)。

体験プログラムにより取得した心身の健康状態のデータは、健康経営に興味のある地元企業にも共有されており、今後は健康経営を行う企業の従業員による継続的な来訪等が期待される。


注:従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されている。(経済産業省ホームページ「健康経営」)



図表 体験プログラムによる心理的回復効果

(*81)森林空間を利用したアウトドアスポーツやメンタルヘルス、社員教育等の事例については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第2節(3)25-29ページを参照。

(*82)令和2(2020)年度に実施したモデル事業の成果については、林野庁ホームページ(https://www.rinya.maff.go.jp/j/sanson/kassei/attach/pdf/sangyou-107.pdf)を参照。

(*83)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定等の国有林の観光資源としての活用等に向けた取組については第4章第2節(3)168-169ページを参照。

(*84)主体的・対話的で深い学びのこと。


挿絵5

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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