第1章 森林の整備・保全
1. 森林の適正な整備・保全の推進






(1)我が国の森林の状況と多面的機能
➢ 森林は、国土保全、水源涵(かん)養、地球温暖化防止等の多面的機能を通じて、国民生活・国民経済に貢献
森林の多面的機能は、貨幣評価できる一部の機能だけでも年間70兆円
➢ 森林面積は国土面積の3分の2
このうち約4割を占める人工林は、半数が50年生を超え、本格的な利用期に
➢ 森林蓄積は人工林を中心に年々増加し、2017年3月末時点で約52億m3
➢ 国民が森林に期待する役割は、「山崩れや洪水などの災害を防止する働き」、「二酸化炭素を吸収する働き」の割合が高い
(2)森林の適正な整備・保全のための森林計画制度
➢ 森林の有する多面的機能を持続的に発揮させるため、森林・林業基本計画等を策定
➢ 2019年5月には、2018年10月に策定された全国森林計画に基づき、上記期間における間伐等の森林整備や山地災害の復旧・予防等の目標・成果指標を定めた森林整備保全事業計画を策定
(3)森林経営管理制度及び森林環境税
森林経営管理制度
➢ 2019年4月に森林経営管理法が施行され、「森林経営管理制度」がスタート
➢ 市町村が主体となって、適切な経営管理が行われていない森林について、林業経営者等に経営管理の集積・集約化を図る制度
➢ 市町村では、経営管理権集積計画の作成に向け、森林所有者への意向調査が始動
制度を活用した森林整備に着手した取組も出てきている状況
➢ 制度の実施体制が十分ではない市町村も多く、国は地域林政アドバイザーの活用推進や市町村職員向けの実務研修の実施等により市町村の体制整備を支援
都道府県でも、森林環境譲与税も活用しつつ、地域の実情に応じた市町村の支援を実施

事例 兵庫県養父(やぶ)市 ~森林経営管理制度を活用した間伐の実施~
➢ 2万haを超える人工林を有する兵庫県養父市は、年々増加する手入れ不足の森林の解消を図るため、2019年度から森林環境譲与税を活用した森林整備を実施
➢ 経営管理権集積計画の作成から保育間伐の実施までを、森林組合と連携しながら試行的に行ったものであり、今後の森林整備につなげる取組
森林環境税・森林環境譲与税
➢ 森林の公益的機能の維持増進のため、国民が等しく負担を分かちあい我が国の森林を支える仕組みとして、2019年3月に「森林環境税」及び「森林環境譲与税」が創設
「森林環境税」は2024年から課税、「森林環境譲与税」については、「森林経営管理制度」の導入に合わせて2019年度から譲与開始
➢ さらに、災害防止・国土保全機能強化等の観点から、森林整備を一層促進するために、2020年度から2024年度の各年度における森林環境譲与税の譲与額を前倒しで増額
➢ 森林環境譲与税は、新たに市町村が担うこととなる森林の公的な管理を始めとする森林整備のほか、人材育成・担い手の確保、都市部における木材利用の促進や普及啓発等の「森林整備及びその促進に関する費用」に充当
➢ 都市部の森林環境譲与税を地方の森林整備に活用するなど、都市部と地方が連携する取組も出てきている状況

事例 都市部と地方が連携した取組事例(愛知県豊明(とよあけ)市×長野県上松町(あげまつまち))
➢ 愛知県豊明市では森林環境譲与税を活用し、木曽川上下流域として交流を続けている長野県上松町の木工製品を市内の新生児に贈る取組を開始
➢ 上松町の森林整備や木材利用を促進するとともに、幼児期から木に触れる機会を創出
(4)森林経営管理制度及び森林環境税
➢ 国、都道府県、研究機関等が連携して、森林の多面的機能の発揮、林業の発展、林産物の供給及び利用の確保、造林の低コスト化等に向けた研究・技術開発を実施
➢ 研究・技術開発の成果等は、林業普及指導員を通じて地域に普及
➢ 森林・林業について高度な知識・技術を有する森林総合監理士を育成
2. 森林整備の動向






(1)森林整備の推進状況
➢ 森林の多面的機能の発揮を図りつつ、資源を持続的に利用していくためには、主伐後の再造林や間伐等の着実な実施が必要
➢ 2018年12月に改定された「国土強靭(じん)化基本計画」でも、森林の整備・保全、木材利用等が位置付け
➢ 森林所有者等による再造林、間伐、路網整備等に対して「森林整備事業」により支援
➢ 令和元年房総半島台風等による風倒木被害を受け、重要インフラ周辺の森林整備を推進
➢ 我が国における2018年度の山行(やまゆき)苗木の生産量は、約60百万本
再造林を推進するため、苗木の安定供給が一層重要
➢ スギの花粉症対策苗木の生産拡大等によるスギ花粉発生源対策を推進
(2)社会全体で支える森林(もり)づくり
➢ 2019年6月2日に愛知県で天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ「第70回全国植樹祭」を開催
➢ NPOや企業等の多様な主体が森林づくり活動を実施
➢ 森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を高める「森林環境教育」を推進
3. 森林保全の動向





(1)保安林等の管理及び保全
➢ 公益的機能の発揮が特に要請される森林を「保安林」に指定し、伐採、転用等を規制するほか、保安林以外の森林が転用される場合も「林地開発許可制度」で適正な開発を確保
(2)治山対策の展開
➢ 近年、短時間の大雨が増加傾向にあることから、山地災害による被害の未然防止・軽減に向けて、山地災害危険地区の的確な把握、流木対策の強化、荒廃森林の整備等の総合的な治山対策を推進
➢ 山地災害が発生した場合には、被災した地方公共団体への職員派遣による技術的支援や災害復旧事業等を実施
➢ 平成30年度補正予算から「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」として、治山施設の設置、流木対策、間伐、林道改良等の緊急対策を実施し、「災害に強い森林づくり」を推進

コラム 2019年度の山地災害等に対する学識経験者による緊急調査結果の概要
➢ 令和元年房総半島台風や令和元年東日本台風により、倒木による森林被害や山腹崩壊等の山地災害が発生したことから、林野庁では災害の発生原因や特徴、今後の対策等を検討するため、学識経験者による緊急調査を実施
➢ 千葉県内の森林被害の状況を調査したところ、記録的な暴風により、森林の樹種等に関わらず小規模な被害地が広範囲に散在するといった被害の特徴を確認
(3)森林における生物多様性の保全
➢ 「生物多様性国家戦略2012-2020」(2012年)を踏まえ、適切な間伐等や多様な森林づくり、原生的な森林生態系の保護・管理等を推進
➢ 世界遺産、ユネスコエコパーク等においても森林の厳格な保護・管理等を推進
また、「奄美大島(あまみおおしま)、徳之島(とくのしま)、沖縄島(おきなわじま)北部及び西表島(いりおもてじま)」を2020年に自然遺産として世界遺産一覧表へ記載するための取組を推進
(4)森林被害対策の推進
野生鳥獣被害の動向及び対策
➢ 近年、野生鳥獣による森林被害面積は減少傾向にあるも、依然として深刻
2018年度には約5,900haの森林で被害が発生、約7割がシカによる被害
➢ 防護柵の設置等による被害の防除、捕獲による個体群管理等を総合的に推進
その他の森林被害の動向及び対策
➢ 松くい虫被害は近年は減少傾向も、最大の森林病害虫被害であり、抵抗性マツの苗木生産、薬剤等による「予防対策」や、被害木くん蒸等の「駆除対策」等の取組を実施
➢ 火災、気象災及び噴火災により森林に発生した損害を塡補する森林保険制度を国立研究開発法人森林研究・整備機構が実施
4. 国際的な取組の推進





(1)持続可能な森林経営の推進
➢ 2015年の世界の森林面積は40億ha(陸地面積の31%)で、南米等の熱帯林では減少が進む一方、アジア等では増加しており、全体として森林面積の減少は減速傾向
➢ 我が国が事務局を務める「モントリオール・プロセス」の会合を開催(2019年10月、熊本)し、持続可能な森林経営の推進状況を科学的・客観的に評価するための基準・指標について議論
➢ 国際的な枠組みでの違法伐採対策として、APECの「違法伐採及び関連する貿易専門家グループ(EGILAT)」に参加し、情報共有や意見交換、関係者の能力開発等の取組を協力して実施
➢ 森林認証は国際的なFSC認証とPEFC認証、我が国独自のSGEC認証(2016年にPEFC認証と相互承認)等が存在
我が国の森林の1割程度で取得
(2)地球温暖化対策と森林
➢ 地球温暖化は最も重要な環境問題の一つであり、世界の平均気温上昇に伴う負の影響が懸念
➢ 「気候変動枠組条約」の下、先進国、開発途上国を問わず全ての締約国が参加する法的枠組みである「パリ協定」が2016年11月に発効
➢ 「地球温暖化対策計画」(2016年5月)に掲げる温室効果ガス削減目標の達成に向け、間伐等の森林整備や地域材の利用等の森林吸収源対策を着実に実施する必要
➢ 2018年12月開催のCOP24において、パリ協定の下でも京都議定書第2約束期間と同様の森林吸収量の計上ルールを採択
➢ 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月)において、2050年に向けた長期的なビジョンとして森林吸収源対策の推進等を位置付け
➢ 開発途上国の森林減少及び劣化に由来する排出の削減等(REDD+)の取組や、「気候変動適応計画」(2018年11月)等に基づく適応策を推進

(3)生物多様性に関する国際的な議論
➢ 2019年12月現在、我が国を含む194か国、欧州連合(EU)及びパレスチナが「生物多様性条約」を締結、遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する「名古屋議定書」については、我が国を含む123か国・地域が締結
2018年11月にはエジプトでCOP14を開催
(4)我が国の国際協力
➢ 技術協力や資金協力等の二国間協力、国際機関を通じた多国間協力等により、持続可能な森林経営の推進等に貢献
➢ 「日中民間緑化協力委員会第20回会合」(2019年12月、中国)を開催し、19年間にわたって日中両国で進めた植林緑化事業の成果を確認する等、協力を推進
お問合せ先
林政部企画課
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