このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 第2章 第1節 林業の動向(4)

(4)林業経営の効率化に向けた取組

我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に本格的な利用期を迎えているが、林業経営に適した森林を経済ベースで十分に活用できていない。その理由として、私有林の小規模・分散的な所有構造に加え、山元立木価格が長期的に低いままであることや森林所有者の世代交代等により、森林所有者の森林への関心が薄れていることなどが挙げられる(*54)。


(*54)我が国林業の構造的な課題については、「平成29年度森林及び林業の動向」第1章第1節(3)16-22ページを参照。



(木材販売収入に対して育林経費は高い)

我が国の林業は、販売収入に対して育林経費が高くなっている。50年生のスギ人工林の主伐を行った場合の平均的な木材収入は、平成30(2018)年の山元立木価格に基づいて試算すると、96万円/haとなる(*55)。これに対して、スギ人工林において、50年生(10齢級(*56))までの造林及び保育にかかる経費は、「平成25年度林業経営統計調査報告」によると、114万円/haから245万円/haまでとなっている(*57)。このうち約9割が植栽から10年間に必要となっており、初期段階での育林経費の占める割合が高い状況となっている(資料2-29)。


他方、この森林から主伐して生産される木材について、仮にスギの中丸太、合板用材、チップ用材(いわゆるA材、B材、C材)で3分の1ずつ販売(*58)されたものと見込むと、その売上は322万円/haとなる。こうした木材の売上と主伐を行った場合の収入の差には、伐出・運材等のコストが含まれることとなり、我が国におけるこれらのコストは海外と比べて割高となっているとの研究結果(*59)もある。

このような中、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用のサイクルで、安定的な林業経営を行うには、施業の集約化や、育林を含む林業の作業システムの生産性の向上、低コスト化等により、林業経営の効率化を図ることが重要な課題となっている(資料2-30)。

資料2-30 現在の木材生産にかかるコストのイメージ

(*55)スギ山元立木価格3,061円/m3(第2章第1節(1)111ページ参照。)に、スギ10齢級の平均材積315m3/ha(林野庁「森林資源の現況(平成29(2017)年3月31日現在)」における10齢級の総林分材積を同齢級の総森林面積で除した平均材積420m3/haに利用率0.75を乗じた値)を乗じて算出。

(*56)齢級は、林齢を5年の幅でくくった単位。苗木を植栽した年を1年生として、1~5年生を「1齢級」と数える。

(*57)地域によりばらつきがある。また、林齢によって標本数が少ないものがあることから、集計結果の利用に当たっては注意が必要とされている。

(*58)丸太価格は「平成29年木材需給報告書」を基にha当たり315m3の素材出材量と仮定して試算。

(*59)木材生産にかかるコストについては、「平成29年度森林及び林業の動向」第1章第1節(3)21ページを参照。



(ア)施業の集約化

(a)施業の集約化の必要性

森林所有者自らが経営管理(*60)(所有者自らが民間事業者に経営委託する場合を含む。)を行う意向を有している場合であっても、我が国の私有林の所有構造が小規模・分散的であるため、個々の森林所有者が単独で効率的な森林施業を実施することが難しい場合が多い。このため、隣接する複数の森林所有者が所有する森林を取りまとめて路網整備や間伐等の森林施業を一体的に実施する「施業の集約化」の推進が必要となっている。

施業の集約化により、作業箇所がまとまり、路網の合理的な配置や高性能林業機械を効果的に使った作業が可能となることなどから、様々な森林施業のコスト縮減が期待できる。また、素材生産においては、一つの施業地から供給される木材のロットが大きくなることから、需要者のニーズに応えることが可能となるとともに、供給側が一定の価格決定力を有するようになることも期待できる。


(*60)「森林経営管理法」において、「経営管理」は、森林について自然的経済的社会的諸条件に応じた適切な経営又は管理を持続的に行うことと定義されている。



(施業集約化を推進する「森林施業プランナー」を育成)

施業の集約化の推進に当たっては、森林所有者等から施業を依頼されるのを待つのではなく、林業経営体から森林所有者に対して、施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにした「施業提案書」を提示して、森林所有者へ施業の実施を働き掛ける「提案型集約化施業」が行われており(*61)、これを担う人材として「森林施業プランナー」の育成が進められている。

林野庁では、提案型集約化施業を担う人材を育成するため、平成19(2007)年度から、林業経営体の職員を対象として、「森林施業プランナー研修」等を実施している。

また、都道府県等においても地域の実情を踏まえた森林施業プランナーの育成を目的とする研修を実施しているところであり(事例2-1)、令和元(2019)年度からは、林業・木材成長産業化促進対策交付金の支援対象となっている。

これらの者は、技能、知識、実践力のレベルが様々であることから、平成24(2012)年10月から、「森林施業プランナー協会」が、森林施業プランナーの能力や実績を客観的に評価して認定を行う森林施業プランナー認定制度を開始し、令和2(2020)年3月までに、2,299名が認定を受けている(*62)。


(*61)森林施業プランナー認定制度ポータルサイト「認定者一覧」

(*62)「森林法」(昭和26年法律第249号)



(b)施業集約化に資する制度

(森林経営計画制度)

平成24(2012)年度から導入された「森林法(*63)」に基づく森林経営計画制度では、森林の経営を自ら行う森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者が、林班(*64)又は隣接する複数林班の面積の2分の1以上の森林を対象とする場合(林班計画)や、所有する森林の面積が100ha以上の場合(属人計画)に、自ら経営する森林について森林の施業及び保護の実施に関する事項等を内容とする森林経営計画を作成できることとされている。森林経営計画を作成して市町村長等から認定を受けた者は、税制上の特例措置や融資条件の優遇に加え、計画に基づく造林や間伐等の施業に対する「森林環境保全直接支援事業」による支援等を受けることができる。

同制度については、導入以降も現場の状況に応じた運用改善を行っている。平成26(2014)年度からは、市町村が地域の実態に即して、森林施業が一体として効率的に行われ得る区域の範囲を「市町村森林整備計画」において定め、その区域内で30ha以上の森林を取りまとめた場合にも計画(区域計画)が作成できるよう制度を見直し、運用を開始した。この「区域計画」は、小規模な森林所有者が多く合意形成に多大な時間を要することや、人工林率が低いこと等により、林班単位での集約化になじまない地域においても計画の作成を可能とするものである。これにより、まずは地域の実態に即して計画を作成しやすいところから始め、計画の対象となる森林の面積を徐々に拡大していくことで、将来的には区域を単位とした面的なまとまりの確保を目指すこととしている(資料2-31)。

しかし、森林所有者の高齢化や相続による世代交代等が進んでおり、森林所有者の特定や森林境界の明確化に多大な労力を要していることから、平成31(2019)年3月末現在の全国の森林経営計画作成面積は501万ha、民有林面積の約29%となっている。

資料2-31 森林経営計画制度の概要

(*63)「森林法」(昭和26年法律第249号)

(*64)原則として、天然地形又は地物をもって区分した森林区画の単位(面積はおおむね60ha)。



(森林経営管理制度)

平成31(2019)年4月から開始された森林経営管理制度(*65)は、経営管理が行われていない森林について、市町村や林業経営者にその経営管理を集積・集約化する新たな制度であり、同制度も運用していくことにより、施業の集約化が進展することが期待されている。


(*65)森林経営管理制度について詳しくは第1章第1節(3)60-64ページ参照。



(C)森林情報の把握・整備

森林経営計画の作成など施業の集約化に向けた取組を進めるためには、その前提として、森林所有者や境界等の情報が一元的に把握され、整備されていることが不可欠である。


(所有者が不明な森林の存在)

我が国では、所有森林に対する関心の低下等により、相続に伴う所有権の移転登記がなされないことなどから、所有者が不明な森林も生じている。

国土交通省が実施した平成29(2017)年度地籍調査における土地所有者等に関する調査によると、不動産登記簿上の土地所有者の住所に調査通知を郵送したところ、土地所有者に通知が到達しなかった割合(*66)は筆数ベースで全体の約22%、林地については、28%となっている(*67)。

また、「2005年農林業センサス」によると、森林の所在する市町村に居住していない、又は事業所を置いていない者(不在村者)の所有する森林が私有林面積の約4分の1を占めており、そのうちの約4割は当該都道府県外に居住する者等の保有となっている(*68)。

所有者が不明な森林については、固定資産税の課税に支障が生じるなど様々な問題が生じているが、不在村者が所有する森林を含め、このような森林では、森林の適切な経営管理がなされないばかりか、施業の集約化を行う際の障害となり、森林の経営管理を集積・集約化していく上での大きな課題となっている。

このほか、令和元(2019)年10月に内閣府が実施した「森林と生活に関する世論調査」で、所有者不明森林の取り扱いについて聞いたところ、間伐等何らかの手入れを行うべきとの意見が91%に上っており、所有者不明森林における森林整備等の実施が課題となっている。


(*66)「国土調査法」(昭和26年法律第180号)に基づき、主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査。

(*67)国土交通省「国土審議会土地政策分科会企画部会国土調査のあり方に関する検討小委員会第8回資料」

(*68)農林水産省「2005年農林業センサス」。なお、2010年以降この統計項目は把握していない。



(境界が不明確な森林の存在)

平成27(2015)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」では、林業者モニター(*69)に対して森林の境界の明確化が進まない理由について尋ねたところ、「相続等により森林は保有しているが、自分の山がどこかわからない人が多いから」、「市町村等による地籍調査が進まないから」、「高齢のため現地の立会いができないから」という回答が多かった(資料2-32)。このような状況から、境界が不明確で整備が進まない森林もみられる。また、こうした状況の下、森林所有者に無断で立木が伐採された事案も発生している(*70)。


(*69)この調査での「林業者」は、「2010年世界農林業センサス」で把握された林業経営体の経営者。

(*70)詳しくは、第1章第2節(1)72ページを参照。



(所有者特定や境界明確化など森林情報の把握に向けた取組)

森林所有者の特定に向けては、平成24(2012)年度から、新たに森林の土地の所有者となった者に対して、市町村長への届出を義務付ける制度(*71)が開始され、相続による異動や、1ha未満の小規模な森林の土地の所有者の異動も把握することが可能となった(*72)。あわせて、森林所有者等に関する情報を行政機関内部で利用するとともに、他の行政機関に対して、森林所有者等の把握に必要な情報の提供を求めることができることとされた(*73)。

さらに、林野庁では、平成22(2010)年度から、外国人及び外国資本による森林買収について調査を行っており、令和元(2019)年5月には、平成30(2018)年1月から12月までの期間における、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収の事例(30件、計373ha)等を公表した(*74)。林野庁では、引き続き、森林の所有者情報の把握に取り組むこととしている。

境界の明確化に向けては、従来は個別に管理されていた森林計画図や森林簿といった森林の基本情報をデジタル処理し、システムで一元管理することで、森林情報を迅速に把握することが可能な森林GISや高精度のGPS、ドローン等を活用して現地確認の効率化を図る取組(*75)が実施されている。

林野庁では、「森林整備地域活動支援対策」により、森林経営計画の作成や施業の集約化に必要となる森林情報の収集、森林調査、境界の明確化、合意形成活動や既存路網の簡易な改良に対して支援している。令和2(2020)年度からは、森林境界の明確化に対して航空レーザ計測等の情報通信技術(以下「ICT」という。)活用の取組も新たに支援することとしている。

また、精度の高い森林資源情報等の把握や共有に森林クラウド等のICTの活用を図る取組も進めている。

このほか、「国土調査法」に基づく地籍調査も行われているが、平成30(2018)年度末時点での地籍調査の進捗状況は宅地で55%、農用地で74%であるのに対して、林地(*76)では45%にとどまっている(*77)。このような中で、林野庁と国土交通省は、これらの森林境界明確化活動と地籍調査の成果を相互に活用するなど、連携しながら境界の明確化に取り組んでいる。


(*71)「森林法」第10条の7の2、「森林法施行規則」(昭和26年農林省令第54号)第7条、「森林の土地の所有者となった旨の届出制度の運用について」(平成24(2012)年3月26日付け23林整計第312号林野庁長官通知)

(*72)都市計画区域外における1ha以上の土地取引については、「国土利用計画法」(昭和49年法律第92号)に基づく届出により把握される。

(*73)「森林法」第191条の2、「森林法に基づく行政機関による森林所有者等に関する情報の利用等について」(平成23(2011)年4月22日付け23林整計第26号林野庁長官通知)。

(*74)林野庁プレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」(令和元(2019)年5月31日付け)

(*75)境界確認の効率化の事例については、「平成27年度森林及び林業の動向」第3章第1節(2)の事例3-1(91ページ)、「平成28年度森林及び林業の動向」第3章第1節(2)の事例3-1(93ページ)及び「平成29年度森林及び林業の動向」第1章第3節(3)の事例1-3(31ページ)等を参照。

(*76)地籍調査では、私有林のほか、公有林も対象となっている。

(*77)国土交通省ホームページ「全国の地籍調査の実施状況」による進捗状況。



(林地台帳制度)

平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、市町村が統一的な基準に基づき、森林の土地の所有者や林地の境界に関する情報等を記載した「林地台帳」を作成し、その内容の一部を公表(*78)する制度が創設された。以降、平成28(2016)年度に林野庁から都道府県・市町村に配布された整備・運用マニュアル等に基づき、林地台帳の整備が進められ、平成31(2019)年4月に制度の本格運用を開始した(資料2-33)。これにより、森林経営の集積・集約化を進める森林組合や林業事業体等に対する情報提供等が可能となり、森林組合等が行う施業集約化の合意形成や、市町村が行う森林経営管理制度(*79)の意向調査の対象となる森林所有者の特定等に林地台帳が活用されるようになった。

林野庁では平成31(2019)年度から、今後、市町村において林地台帳をより効果的に活用できるよう、伐採届の情報と林地台帳上の所有者や境界の情報を照合するようなモデル的なシステム整備等に支援している。

また、「令和元年の地方からの提案等に関する対応方針」(令和元(2019)年12月23日閣議決定)において、林地台帳の整備に当たって、地方公共団体が森林所有者等に関する地方税関係情報を内部利用することを可能とすることが明記され、この内容を含む第10次地方分権一括法案が国会に提出された。

資料2-33 林地台帳を活用した森林施業の集約化のイメージ

(*78)森林の位置や地番の確認を行いやすくして保有森林への関心を高めるほか、森林所有者による林地台帳情報の修正申出を喚起するため、林地台帳の一部及び台帳に付帯する地図を公表(公表することにより個人の権利利益を害するものを除く。)。また、地域の森林整備の担い手による集約化の取組を促進するため、同一の都道府県内で森林経営計画の認定を受けている林業経営体等に対しては、情報提供が可能。

(*79)森林経営管理制度の仕組みについて詳しくは、第1章第1節(3)60-62ページ参照。



(d)施業の集約化等に資するその他の取組

(所有者が不明な森林等への対応)

所有者情報の整備や境界明確化に取り組む一方で、所有者が不明なままの森林については、森林経営管理法において、一定の手続を経れば市町村等が経営や管理を行うことができることとする特例が措置されている。なお、共有林の所有者の一部が不明な場合については、森林法において、一定の手続を経ることで伐採・造林を行うことができる制度が措置されており、本制度を活用した森林施業も行われている。


(山林に係る相続税の特例措置等)

大規模に森林を所有する林家では、相続を契機として、所有する森林の細分化、経営規模の縮小、後継者による林業経営自体の放棄等の例がみられる。林家を対象として、林業経営を次世代にわたって継続するために求める支援や対策について尋ねたところ、保有山林面積規模が500ha以上の林家では、「相続税、贈与税の税負担の軽減」と回答した林家が53%で最も多かった(*80)。

このような中で、山林に係る相続税については、評価方法の適正化や評価額の軽減等を図る措置を講ずるとともに、森林施業の集約化や路網整備等による林業経営の効率化と継続確保を図るため、効率的かつ安定的な林業経営を実現し得る中心的な担い手への円滑な承継を税制面で支援する「山林に係る相続税の納税猶予制度(*81)」が設けられており、その制度の利用の促進を図る必要がある。


(*80)農林水産省「林業経営に関する意向調査」(平成23(2011)年3月)

(*81)一定面積以上の森林を自ら経営する森林所有者を対象に、経営の規模拡大、作業路網の整備等の目標を記載した森林経営計画が定められている区域内にある山林(林地・立木)を、その相続人が相続又は遺贈により一括して取得し、引き続き計画に基づいて経営を継続する場合は、相続税額のうち対象となる山林に係る部分の課税価格の80%に対応する相続税の納税猶予の適用を受けることができる制度(平成24(2012)年4月創設)。



(イ)低コストで効率的な作業システムの普及

素材生産は、立木の伐倒(伐木)、木寄せ(*82)、枝払い及び玉切り(造材)、林道沿いの土場への運搬(集材)、椪積はいづみ(*83)といった複数の工程から成り、高い生産性を確保するためには、各工程に応じて、林業機械を有効に活用するとともに、路網と高性能林業機械を適切に組み合わせた作業システムの普及・定着を図る必要がある。また、我が国では木材販売収入に対して特に初期段階での育林経費が高い状況にあることから(*84)、主伐後の再造林の確保に向けて、造林作業に要するコストの低減を図る必要がある。


(*82)林内に点在している木材を林道端等に集める作業。

(*83)集材した丸太を同じ材積や同じ長さごとに仕分けして積む作業。

(*84)木材販売収入と初期段階での育林経費について詳しくは、第2章第1節(4)124-125ページを参照。



(a)路網の整備

(路網の整備が課題)

路網は、木材を安定的に供給し、森林の有する多面的機能を持続的に発揮していくために必要な造林、保育、素材生産等の施業を効率的に行うためのネットワークであり、林業の最も重要な生産基盤である。また、路網を整備することにより、作業現場へのアクセスの改善、機械の導入による安全性の向上、労働災害時の搬送時間の短縮等が期待できることから、林業の労働条件の改善等にも寄与するものである。さらに、地震等の自然災害により一般公道が不通となった際に、林内に整備された路網が回路として活用された事例もみられる(*85)。

林業者モニターを対象に路網整備の状況と意向を尋ねたところ、現在の路網の整備状況は50m/ha以下の路網密度であると回答した者が約6割であったのに対し、今後の路網整備の意向は50m/ha以上の路網密度を目指したいと回答した者が約6割となっている(資料2-34)。


このような中、我が国においては、地形が急しゅんで、多種多様な地質が分布しているなど厳しい条件の下、路網の整備を進めてきたところであり、平成30(2018)年度末現在、林内路網密度は22m/haとなっている(*86)。

「森林・林業基本計画」では、森林施業の効率的な実施のために路網の整備を進めることとしており、林道等の望ましい延長の目安を現状の19万kmに対し33万km程度としている。特に、自然条件等の良い持続的な林業の経営に適した育成単層林を主体に整備を加速化させることとしており、林道等については令和7(2025)年に24万km程度とすることを目安としている。また、「全国森林計画」では、路網整備の目標とする水準を、緩傾斜地(0°~15°)の車両系作業システムでは100m/ha以上、急傾斜地(30°~35°)の架線系作業システムでは15m/ha以上等としている(資料2-35)。


(*85)国有林林道が活用された事例については、「平成23年度森林及び林業の動向」第1章第1節(3)の事例1-1(11ページ)及び「平成28年度森林及び林業の動向」第5章第2節(1)の事例5-1(182ページ)を参照。

(*86)「公道等」、「林道」及び「作業道」の現況延長の合計を全国の森林面積で除した数値。林野庁整備課調べ。



(丈夫で簡易な路網の作設を推進)

林野庁では、路網を構成する道を、一般車両の走行を想定した幹線となる「林道」、大型の林業用車両の走行を想定した「林業専用道」及びフォワーダ等の林業機械の走行を想定した「森林作業道」の3区分に整理して、これらをバランスよく組み合わせた路網の整備を進めていくこととしている(資料2-36)。

資料2-36 路網整備における路網区分及び役割

丈夫で簡易な路網の作設を推進するため、林業専用道と森林作業道の作設指針(*87)を策定し、林業専用道については、管理、規格・構造、調査設計、施工等に関する基本的事項を、森林作業道については、路線計画、施工、周辺環境等について考慮すべき基本的な事項(*88)を目安として示している。

現在、各都道府県では、林野庁が示した作設指針を基本としつつ、地域の特性を踏まえた独自の路網作設指針を策定して、路網の整備を進めている(*89)。平成30(2018)年度には、全国で林道(林業専用道を含む。)等(*90)620km、森林作業道14,364kmが開設されており、林野庁では、今後も、森林資源が充実し林業経営の集積・集約化が見込まれる地域を中心として路網整備を推進していくこととしている。


(*87)「林業専用道作設指針の制定について」(平成22(2010)年9月24日付け22林整整第602号林野庁長官通知)、「森林作業道作設指針の制定について」(平成22(2010)年11月17日付け22林整整第656号林野庁長官通知)

(*88)例えば、周辺環境への配慮として、森林作業道の作設工事中及び森林施業の実施中は、公道又は渓流への土砂の流出や土石の転落を防止するための対策を講ずること、事業実施中に希少な野生生物の生育・生息情報を知ったときは、必要な対策を検討することとされている。

(*89)なお、林業専用道については、現地の地形等により作設指針が示す規格・構造での作設が困難な場合には、路線ごとの協議により特例を認めることなどにより、地域の実情に応じた路網整備を支援することとしている。

(*90)林道等には、「主として木材輸送トラックが走行する作業道」を含む。



(路網整備を担う人材を育成)

路網の作設に当たっては、現地の地形や地質、林況等を踏まえた路網ルートの設定と設計・施工が重要であり、高度な知識・技能が必要である。このため、林野庁では、林業専用道等の路網作設に必要な計画や設計、作設及び維持管理を担う技術者の育成を目的とし、国有林野をフィールドとして活用するなどしながら、平成23(2011)年度から「林業専用道技術者研修」に取り組んでいる。平成30(2018)年度までに2,234人が修了し、地域の路網整備の推進に取り組んでいる。

また、平成22(2010)年度から森林作業道を作設する高度な技術を有するオペレーターの育成を目的とした研修を実施し、平成29(2017)年度までに、1,629人を育成した。平成30(2018)年度からは、ICT等先端技術を活用して路網作設に係る設計作業の効率を向上させる技術等を学ぶ、演習実技を主体にした研修に取り組んでおり、270人が受講した。

これらの研修の受講者等は、各地域で伝達研修等に積極的に取り組んでおり、平成30(2018)年度は全国で151回の「現地検討会」等を開催し、2,656人が参加した。このように、現場での路網整備を進める上で指導的な役割を果たす人材の育成にも取り組んでいる。


(b)高性能林業機械の導入

(高性能林業機械の導入を推進)

高性能林業機械(*91)を使用した作業システムには、林内の路網を林業用の車両が移動して、伐倒した木を引き寄せ、枝を除去して用途に応じた長さに切断し、集積する場所まで運搬するといった作業を行う車両系作業システムや、伐倒した木を林内に張った架線で吊り上げ、集積する場所まで運搬する架線系作業システムがある(資料2-37)。車両系作業システムは、比較的傾斜が緩やかな地形に向いており、路網が整備されていることが必要である。架線系作業システムは、高い密度で路網を開設できない傾斜が急な地形でも導入が可能である。


我が国における高性能林業機械の導入は、昭和60年代に始まり、近年では、路網を前提とする車両系のフォワーダ(*92)、プロセッサ(*93)、ハーベスタ(*94)等を中心に増加しており、平成30(2018)年度は、合計で前年比8%増の9,659台が保有されている。保有台数の内訳をみると、フォワーダが2,650台で3割弱を占めているほか、プロセッサが2,069台、プロセッサと同様に造材作業に使用されることの多いハーベスタは1,849台となっており、両者を合わせて4割強を占めている。このほか、スイングヤーダ(*95)が1,082台で1割強を占めている(資料2-38)。平成30(2018)年度において、素材生産量全体のうち、高性能林業機械を活用した作業システムによる素材生産量の割合は7割となっている(*96)。

また、我が国の森林は急峻な山間部に多く分布することから、林野庁では、急傾斜地等における効率的な作業システムに対応するため、集材の自動化や自走可能な搬器など次世代型の架線系林業機械の開発・導入を推進するとともに(*97)、生産性を意識した作業計画の立案や実行ができる技能者の育成に取り組んでいる。


(*91)従来のチェーンソーや刈払機等の機械に比べて、作業の効率化、身体への負担の軽減等、性能が著しく高い林業機械のこと。

(*92)木材をつかんで持ち上げ、荷台に搭載して運搬する機能を備えた車両。

(*93)木材の枝を除去し、長さを測定して切断し、切断した木材を集積する作業を連続して行う機能を備えた車両。

(*94)立木を伐倒し、枝を除去し、長さを測定して切断し、切断した木材を集積する作業を連続して行う機能を備えた車両。

(*95)油圧ショベルにワイヤーロープを巻き取るドラムを装備し、アームを架線の支柱に利用して、伐倒した木材を架線により引き出す機能を備えた機械。木材を引き出せる距離は短いが、架線の設置、撤去や機械の移動が容易。

(*96)林野庁研究指導課調べ。

(*97)高性能林業機械の開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(1)19-20ページを参照。



(c)造林コストの低減に向けた取組

人工林の多くが本格的な利用期を迎え、主伐の増加が見込まれる中、森林の多面的機能を発揮させつつ、資源の循環利用による林業の成長産業化を実現するためには、主伐後の適切な再造林の実施が必要であり、造林の低コスト化及び苗木の安定供給が⼀層重要になっている。

林野庁では、造林作業に要するコストの低減のため、伐採と造林の一貫作業システムの導入、コンテナ苗(*98)や成長に優れた苗木の活用、低密度での植栽等を推進している。


(*98)コンテナ苗については、第1章第2節(1)72ページも参照。



(「伐採と造林の一貫作業システム」の導入とそれに必要なコンテナ苗の生産拡大)

円滑かつ確実な再造林の実施に向けて、経費の縮減が必要となっている。このため、集材に使用する林業機械を用いるなどして、伐採と並行又は連続して一体的に地ごしらえや植栽を行う「伐採と造林の一貫作業システム」が、近年新たに導入されつつある。伐採と造林の一貫作業システムは、伐採時や伐採してすぐに、グラップル(*99)等の伐採や搬出用の林業機械を用いて伐採跡地の末木枝条を除去・整理して地ごしらえを実施し、丸太運搬用のフォワーダ等の機械で苗木を運搬した上で植栽を行うものである。このため、地ごしらえと苗木運搬の工程を省力化することとなり、労働投入量の縮減などにより作業コストを大きく縮減することが可能となる(*100)。年間を通じて行われる伐採のタイミングと合わせて、同システムにより効率化を図りながら再造林を実施していくためには、従来の裸苗はだかなえでは春又は秋に限られていた植栽適期を拡大していくことが必要となっている。

「コンテナ苗」は、裸苗はだかなえとは異なり、根鉢があることで乾燥ストレスの影響を受けにくいと考えられ、寒冷地の冬季や極端に乾燥が続く時期を除き、通常の植栽適期(春や秋)以外でも高い活着率が見込めることが研究成果により示されている(*101)。このため、伐採時期に合わせて植栽適期を拡大できる可能性があることから、林野庁は、その普及と生産拡大の取組を進めている(資料2-39)。


(*99)木材をつかんで持ち上げ、集積する機能を備えた車両。

(*100)労働投入量の縮減等について詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(1)13ページを参照。

(*101)研究成果については、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(1)14ページを参照。



(成長等に優れた優良品種の開発)

造林・保育の低コスト化、将来にわたる森林の二酸化炭素吸収能力の向上、伐期の短縮等を図るため、初期成長や材質、通直性に優れた品種の開発が必要である。

このような中、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターでは、収量の増大と造林・保育の効率化に向けて、平成24(2012)年から林木育種による第二世代精英樹(エリートツリー)(*102)の選抜を行い、第二世代精英樹が実用化できるようになった。

第二世代精英樹等のうち成長や雄花着生性等に関する基準(*103)を満たすものは、間伐等特措法に基づき、農林水産大臣が特定母樹として指定しており、令和2(2020)年3月末現在、特定母樹として362種類が指定されており、そのうち314種類が第二世代精英樹から選ばれている(資料2-40)。

林野庁では、特定母樹から生産される種苗が今後の再造林に広く利用されるよう、特定母樹による採種園や採穂園の整備を推進している。この結果、九州を中心に、徐々に特定母樹由来の山行苗木が出荷されるようになってきている。このほか、優良な品種の更なる改良に向けて、現在は、第二世代精英樹同士を交配させ、第三世代以降の精英樹の開発も進められている。

資料2-40 特定母樹に指定されたエリートツリー

(*102)成長や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等により得られた次世代の個体の中から選抜される、成長等がより優れた精英樹のこと。

(*103)成長量が同様の環境下の対照個体と比較しておおむね1.5倍以上、雄花着生性が一般的なスギ・ヒノキのおおむね半分以下等の基準が定められている。



(その他の造林・育林コストの低減に向けた取組)

造林経費の多くを占める下刈りは、通常、植栽してから5~6年間は毎年実施されていたが、植栽木が完全に下草に被覆されていない場合には省略したり、成長に優れた苗木と組み合わせること等で、下刈り回数を省略する試験的取組が各地で実施されている(事例2-3)。

また、成長に優れた苗木を用いる等によって植栽本数をhaあたり1,000~2,000本程度に抑えるといった低密度植栽の手法の開発が行われている。低密度での植栽では、植栽に要する経費の縮減が期待できる一方で、下草が繁茂しやすくなる、下枝の枯れ上がりが遅くなり完満な木材が得られなくなるおそれがあるといった課題がある。このため、試験地を設定して、成長状況の調査や技術開発・実証等に取り組んでおり、低密度植栽による育林技術体系を作成するなどの例も出てきている(*104)。

このほか、林野庁では、傾斜地での造林作業を省力化する機械の開発を進めるとともに、令和元(2019)年は林業分野の人材と異分野の人材が協同して造林や林業の課題解決を図るためのビジネスを具体化する取組を支援した(事例2-4)。

事例2-3 下刈り省力化に向けた研究開発の最前線

下刈りは造林-初期保育コストの4~6割を占め、真夏の過酷な屋外労働など林業従事者に掛かる負担が大きいため、下刈り作業の省力化は、林業の省力化・低コスト化、林業従事者の確保に向けた喫緊の課題である。この課題を解決するため、国立研究開発法人森林研究・整備機構、道県、民間企業等が「優良苗の安定供給と下刈り省力化による一貫作業システム体系の開発」(平成28-30年度)において、複数の施業モデルについて実証試験を行った。

図:下刈り回数の削減方法別の再造林コストの比較
写真:植栽年と5年後のワラビ導入林分の状況

〈一貫作業システムの活用〉

秋田県では、通常植栽当年(1年目)から6年目まで下刈りを行っている。しかし、一貫作業システムを導入することで初回の下刈りが省略可能となり、さらに2、3、5年目に下刈りを行えば、4年目の下刈りを省略できる可能性が示唆された。下刈り省略をした翌年の下刈りの労力はかかり増しになるものの、それを加味しても一貫作業システムと組み合わせることで再造林全体のコストは3割程度削減可能となる(図)。

〈カバークロップの活用〉

山形県では、スギ植林地にワラビを植栽することで、苗木の育成を阻害する他の競合植生の発生を抑制し、下刈りを省略する技術を開発した(写真)。さらに、ワラビの特用林産物としての価値を生かすことで、再造林経費及びワラビ栽培経費以上の収益が得られる可能性がある。

〈乗用下刈り機を活用した省力化〉

北海道立総合研究機構林業試験場では、株式会社筑水キャニコムが開発した乗用下刈り機を施業現場で活用し、省力化の効果を検証した。本機は30°までの斜度に対応し、チシマザサ等の刈り払いも可能である。加えて、アタッチメントを付け替えることで走行の障害となる伐根の破砕も可能であり、労働強度の高い下刈り作業の省力化への貢献が期待できる。さらに、植栽幅を機械のサイズに合わせることにより、植栽地を効率良く走行することが可能となることで、飛躍的な作業性の向上が見込まれるため、その有効性について現在北海道で実証実験が行われている。

下刈りの省力化を目指した研究開発は、「成長に優れた苗木を活用した施業モデルの開発」(平成30-令和4年度)において、テーマの一つとして引き続き実施されている。今後は、特定母樹など成長に優れた品種の活用による下刈り期間を短縮した施業体系の整理や、UAV(注)で取得した植栽地画像から下刈りの要否をAIで判別する技術の開発等を進めていくことにより、下刈り省力化の更なる促進を図ることとしている。


注:「Unmanned Aerial Vehicle」の略。人が搭乗しないで飛行する航空機。通称ドローン。


関連webサイト:
http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/conwed/index_pro.html,
http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/brain/h27kakushin/chiiki/ringyo_chojugai/result-6-01.html

事例2-4 林業人材と異分野人材のオープンイノベーションに期待

植栽や下刈りといった森林づくりに欠かせない「造林」は、大半が人力作業であり、重労働、高コスト、担い手不足といった課題を抱えている。令和元(2019)年度、林野庁では、このような「造林」の課題解決をテーマとして、林業現場を知る林業人材と独自の技術やノウハウを持つ異分野人材の協業により、課題解決につながるビジネスを創出する課題解決型事業共創プログラム「Sustainable Forest Action」を実施した。

東京、京都の2ステージにおいて69名の参加応募があり、林業人材と異分野人材の双方から編成された14チームが、約2か月間にわたり、林業体験や合宿等を織り交ぜながら、様々な事業構想の検討や試作品の制作等を行い、12月7日の最終審査会でその成果を発表した。

審査の結果、最優秀賞には、バーチャル学習、現場での林業体験、伐採した木材を加工した家具等をパッケージとして提供する環境教育サービス「森がたり」が選ばれた。これは、体験学習の場、木材供給の場として自伐林家の現場を活用し、自伐林家に収益を還元することで再造林を促すという提案である。

最終審査会で最優秀賞、優秀賞を獲得した事業アイデアには、スポンサーからの協賛金が贈られ、本格的な事業化に向けた取組が進められている。

受賞した事業の概要一覧

(*104)詳しくは、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(1)の事例1-1(15ページ)を参照。



(早生樹の利用に向けた取組)

家具等に利用される広葉樹材については、国外において資源量の減少や生物多様性保全への意識の高まりに伴う伐採規制等の動きがみられることから、近年、国内における広葉樹材の生産への関心が高まってきている。一方で、家具等に用いられる広葉樹材は、おおむね80年以上の育成期間を要することや、針葉樹と比較して幹の曲がりや枝分かれが発生しやすく、通直な用材の生産が難しいことが課題となっている。このような中、センダン等の短期間で成長して早期に活用できる早生樹種による森林施業の技術開発に注目が集まっており、各地で試験的植栽が行われている(*105)。

センダンは、20年生程度で家具材として利用可能になるほど早期に成長し、その木材はケヤキの代替材として利用されるため、地域レベルでセンダン等の早生樹種の広葉樹の施業技術の開発や利用に向けた実証的な取組が増加してきている。また、国有林野事業においてもセンダンの試験植栽等の早生樹種の施業技術開発が進められている(*1065)。また、この他の成長の早い広葉樹についても、育成や利用について様々な取組が行われている。

針葉樹早生樹種としては、コウヨウザン(*107)が注目されている。コウヨウザンは、成長が早く、伐採後は萌芽更新により植栽を省ける可能性が示唆されていることから、再造林・保育の低コスト化を実現できることが期待されている。また、材の強度については、スギよりも強く、ヒノキに近い強度を示す例もある(*108)。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等では、未解明な部分が多い育種技術や育苗、萌芽更新、鳥獣被害対策等の造林技術の確立のため研究が進められている(資料2-41)。


(*105)センダンの試験的植栽の取組について詳しくは、第2章第3節(1)事例2-7(148ページ)を参照。

(*106)センダン等の施業技術開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(1)17-18ページを参照。国有林野事業におけるセンダンの試験植栽の取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」第5章第2節(2)の事例5-8(179ページ)を参照。

(*107)中国大陸や台湾を原産とし、学名は、Cunninghamia lanceolataである。我が国には江戸時代より前に寺社等に導入され、国有林等では林分として育成されているものもある。

(*108)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターホームページ「コウヨウザンの特性と増殖の手引き」



(ウ)先端技術の活用による林業経営の効率化の推進

我が国における人口減少・少子高齢化といった社会的課題と、厳しい地形条件や過酷な現場作業といった林業特有の課題を克服し、林業の低コスト化、省力化、安全性の向上を実現するためには、ICTや人工知能(AI)等の先端技術の活用が有効と考えられる。そのため林野庁では、先端技術を活用し、新技術の開発から普及に至る取組を効果的に進めていくことを目的として、令和元(2019)年12月に「林業イノベーション現場実装推進プログラム」を策定した。本プログラムでは、新技術導入により期待される効果、技術ごとの普及・実装へのロードマップや実装に向けて取り組むべき施策等を提示しており、これに基づき、加速度的に「林業イノベーション」の取組を推進していくこととしている(*109)。

近年は、ICTを活用した生産管理手法として、出材する木材の数量や出荷量等をICTを用いて瞬時に把握する取組等が進展している。特に、土場に椪積された丸太の径級をAIにより自動解析して流通業者、加工業者等と瞬時に共有できるスマートフォンアプリが販売されるなど、AIを活用する取組も進められている。

レーザ計測やドローンによる森林資源量等の把握や、解析されたデータを路網整備や森林整備の計画策定等に利活用する動きも進んでおり、各地で実証的取組が行われている(資料2-42、事例2-5)。

このような技術の進展を踏まえ、再造林、間伐等の森林の整備に対して支援を行う森林整備事業においては、令和2(2020)年度以降、ドローン、空撮画像、GISデータ等を申請や検査に活用していくこととしている。

このほか、AI、ロボット技術の活用など安全性や省力化等を目指した林業機械の開発も進められており、近年は、森林内に進入し伐倒を行うリモコン遠隔操作式の伐倒作業車や、画像を解析するAIの導入により、対象となる集材木を認識し、自動で集材を行う架線集材機械が開発されている。また、無人走行できるフォワーダや林業用アシストスーツ、造材集材作業の自動化に向けた技術の開発等が進められている。

資料2-42 ドローン等による森林資源情報の把握
s2_42_1.jpg s2_42-2.jpg

事例2-5 林業×情報通信技術(ICT)の取組

政府は、林業の成長産業化に向けて、航空レーザ計測等による詳細な森林情報(立木、地形情報)の把握、クラウドによる資源、生産及び需要情報の共有など、情報通信技術(ICT)を活用したスマート林業の実践的取組を推進していくこととしており、各地で取組が進められている。

森林資源の把握や伐採計画の段階において、やまぐちスマート林業実践対策地域協議会(山口県)では、地上レーザ計測により、高精度な森林資源情報を把握するとともに、最適な採材計画の作成や路網設計作業の省力化に取り組んでいる。また、いしかわスマート林業推進協議会(石川県)では、ドローン画像の3D化により森林資源量の自動把握を行いクラウドで共有することで、現地調査を省力化し、効率的で分かりやすい所有者への施業提案につなげているほか、同県農林総合研究センター林業試験場等では、これらの取組の更なる高精度化及び効率化に向け、AIを活用した樹種判別や森林資源量の推定技術の開発に取り組んでいる。

木材の生産・流通段階において、有限会社杉産業(岡山県新見市)では、IoTハーベスタを導入し、需要者が提示する木材の価格データをシステムに入力することで、幹一本が最大の値段となるよう自動的に採材の長さを決定するバリューバッキング機能を活用し、木材需要者のニーズに応じた最適採材に取り組んでいる。また、スマート林業タスクフォースNAGANO(長野県)では、スマートフォンを活用した木材検収システム及び需給マッチングシステムにより、木材を生産した山土場において、丸太のストック状況をペーパーレスで把握・集計・発信するとともに、複数の素材生産業者、地域の木材流通市場及びトラック輸送事業者の間を、クラウドサーバ上でリアルタイムに情報共有するシステムの実証及び県内への普及展開に取り組んでいる。

このような情報通信(ICT)機器の機能を十分発揮させるためには、通信環境の整備が必要となるが、山間部のぜい弱な通信環境に対応するため、LPWA(注)通信技術を活用する取組がみられる。この通信環境を活用し、作業員の安全管理対策や獣害対策に活用する事例もみられる。

今後は、林業事業体等が実施する木材生産での各作業工程(計画、伐採、採材、検収、運材、在庫管理等)を始めとする林業の現場において、このような情報通信技術(ICT)を組み合わせて効果的に活用し、低コストで効率的な林業経営を実現していくことが期待される。


注:Low Power Wide Areaの略。省電力かつ長距離での無線通信が可能な無線通信技術。


情報通信技術(ICT)による生産管理のイメージ

(*109)詳しくは、トピックス4(48-49ページ)を参照。


コラム ニュージーランドの林業

現在、世界の林業は天然林を伐採する天然林採取型から、植栽・保育を経る育成型へと変化しており、人工林材を中心とする木材生産の時代に移り変わってきている。その中で、近年造林面積を増やしている東南アジアやラテンアメリカ、アフリカ諸国においては、ユーカリ類やアカシア類等の早生樹が植栽されている。また、ニュージーランド(以下「NZ」という。)においては、成長の早いことで知られているラジアータパインが植栽されている。特にNZは、日本と同様の温帯気候であるが、我が国より大幅に少ない人数で、我が国よりも多くの丸太を生産している。NZの2018年3月末期における伐採量は3,300万m3であるが、林業従事者数は7,900人(2017年)である。また、丸太を中心に伐採量の6割を輸出しており、2018年の丸太及びチップの輸出量は、2009年の約3倍と、過去10年で丸太輸出量を飛躍的に伸ばしている。

ウインチ付きエクスカベータ(油圧ショベル)にワイヤーで牽引され、急斜面で 伐倒作業をするハーベスタ1
ウインチ付きエクスカベータ(油圧ショベル)にワイヤーで牽引され、急斜面で 伐倒作業をするハーベスタ2

NZは森林が国土の4割を占め、森林のうち人工林は2割未満の173万haであり、人工林においてはラジアータパインが面積の9割を占めている。1万haを超える森林を保有する企業の持つ森林が人工林面積の過半を占め、経済合理性を追求した集約的林業が行われている。これらの企業が人工林経営と林産工場とを併せ持つ場合も少なくない。

NZにラジアータパインが米国から導入されたのは19世紀半ばで、100年余りの歴史の中で、苗木の品種改良を進めながら低コスト化が図られ、疎植化が進展した。当初はha当たり7千~8千本の植栽密度であったが、現在の標準的な施業体系では、植栽密度が800本/ha、主伐期が28年生となっており、主伐期に樹高が36m、材積は2.3m3に達する(注)。ラジアータパインの用途は、製材品、合板、木質パネル等と幅広く、同国内では主に建築用木材製品に使用されることが多い。また、枝打ちをした無節丸太から採れる良質材の割合が高いことも特徴である。施業体系では、無節の良質材生産、構造材生産といった生産目標に応じて、主伐時の立木密度、利用間伐及び枝打ちの有無が決定されている。なお、2018年4月時点では、利用間伐を行わない施業面積が約9割を占め、枝打ち施業の有無は半々程度となっている。

皆伐の方法としては、傾斜地も含め伐倒作業の機械化が進展しており、集材方法は架線系と車両系が使い分けられている。生産性は高く、28~42m3/人・日を実現している企業がある。

山土場から製材工場、港湾への丸太の運送においては、全体の効率化が図られるよう各輸送段階の品質・規格・数量等の情報を把握・コントロールする運送管理システムが活用されている。

これらの取組により、丸太の輸出量を過去10年で伸ばしてきた一方で、木材製品の輸出は横ばいで推移しており、付加価値を高めた木材製品を輸出していけるかについても注目されている。

NZ林業は、苗木の品種改良と低密度植栽を進めてきたことに加え、市場指向型の集約的林業が行われている点が特徴であり、収益性の向上を目指す我が国の林業が学ぶべき点が多い。


注:無節丸太を採る施業体系における樹高及び材積。

資料:NZ一次産業省(MPI)オープンデータ(2020年1月時点)、NZ Facts&Figure2018-2019、FAO「世界森林資源評価2015」、餅田治之 (2019) 世界における森林投資と育林経営. 諸外国の森林投資と林業経営, 29-55頁、木平勇吉 (1999) ニュージーランドの森林・林業. 諸外国の森林・林業, 259-294頁、立花敏 (2010) 第9章 ニュージーランド. 世界の林業:欧米諸国の私有林経営, 345-381頁、松木法生 (2019) ニュージーランドの木材産業. 木材情報, 2019年4月号、森林科学研究所「平成30年度無人化林業システム研究会事業実施報告書」(令和元(2019)年6月)


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader