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林野庁

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第1部 第2章 第1節 林業の動向(3)

(3)林業労働力の動向

森林の施業は、主に、山村で林業に就業して森林内の現場作業等に従事する林業労働者が担っている。林業労働力の確保や安全な労働環境の整備は、林業の成長産業化等を通じた山村の活性化のためにも重要である。

(林業労働力の確保)

林業労働力の動向を、現場業務に従事する者である「林業従事者」の数でみると、長期的に減少傾向で推移しており、平成27(2015)年には45,440人となっている。このうち、育林従事者は長期的に減少傾向で推移している一方で、伐木・造材・集材従事者は近年増加している(*34)。

林業従事者の高齢化率(65歳以上の従事者の割合)は、平成12(2000)年以降は低下し、平成22(2010)年には21%となったが、我が国全体の65歳以上の就業者が増加し、全産業の高齢化率が上昇する中で、林業従事者についても5年前から上昇し、平成27(2015)年には25%となっている。一方、若年者率(35歳未満の若年者の割合)は、平成2(1990)年以降は上昇して平成22(2010)年には18%となり、その後は全産業の若年者率が低下する中で、林業従事者についてはほぼ横ばいで推移し、平成27(2015)年には17%となっている(資料2-19)。林業従事者の平均年齢をみると、全産業の平均年齢46.9歳と比べると高い水準にあるが、平成27(2015)年には52.4歳となっており、若返り傾向にある。

一方、日本標準産業分類(*35)に基づき「林業」に分類される事業所に就業している「林業就業者(*36)」には、造林や素材生産など現場での業務に従事する者のほか、事務的な業務に従事する者、管理的な業務に従事している者等が含まれており、平成27(2015)年には、全体で63,663人となっている(*37)。

女性の林業従事者については、かつて、育林作業に多くの者が従事し、昭和60(1985)年には19,151人であったが、平成27(2015)年には2,750人と、男性より大きく減少している。一方で、機械化の進展など直接的な力を必要としない現場が増えてきたこと等を背景に、伐木・造材・集材従事者においては直近の5年間では610人から690人へと増加に転じている(資料2-19)。林業経営体においても、近年は女性を現場作業に従事する職務にも積極的に採用する動きがみられ、女性の働きやすい職場環境の整備を図る取組もみられる(*38)。


林野庁では、平成15(2003)年度から、林業経営体に就業した若年者を中心に、林業に必要な基本的な知識や技術の習得を支援する「「緑の雇用」事業」を実施して、新規就業者の確保・育成を図っている(資料2-20)。


また、近年、全国各地で就業前の若手林業技術者の教育・研修機関を新たに整備する動きが広がっている(資料2-21)。林野庁では、林業大学校等に通う者を対象に給付金を支給する「緑の青年就業準備給付金事業」を実施して、就業希望者の裾野の拡大や、将来的な林業経営の担い手の育成を支援している。林業大学校については、自治体と連携しながら林業従事者に地域の実情を踏まえた森林施業プランナーの育成を目的とする研修を実施するなど、就業後の人材育成に貢献する動きもみられる(事例2-1)。

このほか、都道府県知事が指定する林業労働力確保支援センターにおいて、新たに林業に就業しようとする者に対し、林業の技術等を習得するための研修や、林業への就業に向けた情報の提供、相談等を行っている。

事例2-1 林業大学校と連携した「森づくり人材育成研修」の取組

愛知県豊田市、豊田森林組合及び岐阜県立森林文化アカデミーの3者は、平成30(2018)年3月に人材育成協定を締結し、豊田森林組合の職員を対象に、岐阜県立森林文化アカデミーの教員等を講師とする、現場に応じた施業提案や現場管理を行う森林施業プランナーの育成を目的とした「森づくり人材育成研修」を実施している。

研修の第一期は、平成30(2018)年度から令和元(2019)年度までの2年間にわたり、計20日の研修プログラムを計画的に実施するカリキュラムで行われ、同組合の中堅のリーダー候補職員6名が対象となり、職員が働きながら定期的に同校や豊田市の現場で受講した。研修内容は、市の「新・豊田市100年の森づくり構想」に沿った項目で行われ、研修講師が市の森林・地質・地形を事前に視察し、地域事情を踏まえた考え方や技術が学べるよう配慮された。

また、「実践型」の研修となるよう工夫され、道づくり研修では、市内の研修箇所において研修生が講師の指導を受けながら決定した線形により、翌年度に工事が実施され、完成後に事後評価研修が行われた。現地研修と実際の事業を結びつけたことで、排水処理や法面の扱いなど課題点がより明確になり、研修効果の高まりがみられた。

さらに、長期的な将来木施業(注)の視点を養成するため、各研修生ごとに将来木施業を実践するモデル林が設定され、平成30(2018)年度に設定された6か所のモデル林では、研修生が木材生産林(長伐期型)や、針広混交誘導林等の目標林型を設定しており、今後長期に渡って施業トレーニングが行われる予定となっている。

注:「将来木」を早い時期に選び、その成長を妨げる個体だけを間伐する施業手法。

資料:鈴木春彦 (2019) 市町村フォレスターの挑戦. 森林未来会議, 築地書館:198-202頁




(*34)総務省「国勢調査」。同調査における「林業従事者」とは、就業している事業体の「日本標準産業分類」を問わず、林木・苗木・種子の育成、伐採、搬出、処分等の仕事及び製炭や製薪の仕事に従事する者で、調査年の9月24日から30日までの一週間に収入になる仕事を少しでもした者等をいう。林業従事者数等について詳しくは、「平成30年度森林及び林業の動向」第1章第3節(1)23-24ページを参照。

(*35)公的統計を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において行われる経済活動を、主として、生産される財又は提供されるサービスの種類(用途、機能等)などの諸点に着目して区分し、体系的に配列した形で設定したもの。

(*36)国勢調査における「林業(就業者)」とは、山林用苗木の育成・植栽、木材の保育・保護、林木からの素材生産、薪及び木炭の製造、樹脂、樹皮、その他の林産物の収集及び林業に直接関係するサービス業務並びに野生動物の狩猟等を行う事業所に就業する者で、調査年の9月24日から30日までの一週間に収入になる仕事を少しでもした者等をいう。なお、平成19(2007)年の「日本標準産業分類」の改定により、平成22(2010)年のデータは、平成17(2005)年までのデータと必ずしも連続していない。詳しくは、「平成24年度森林及び林業の動向」第5章第1節(3)のコラム(138ページ)を参照。

(*37)総務省「平成27年国勢調査」

(*38)詳しくは、特集第4節(1)の事例 特-9(36ページ)及び、「平成30年度森林及び林業の動向」第1章第3節(4)30-31ページ。



(高度な知識と技術・技能を有する林業労働者の育成)

林業作業における高い生産性と安全性を確保していくため、専門的かつ高度な知識と技術・技能を有する林業労働者が必要となっており、林業技術者の能力の適切な評価、待遇の改善等が図られることが重要となっている。このため、林野庁は、事業主による教育訓練の計画的な実施、能力に応じた昇進及び昇格モデルの提示等を支援するほか、段階的かつ体系的な研修を促進するなど、林業労働者のキャリア形成を支援している。また、キャリアアップにより意欲と誇りを持って仕事に取り組めるよう、段階的かつ体系的な研修の修了者については、習得した知識、技術・技能のレベルに応じて名簿に登録する制度が運用されている(資料2-22)。


このような状況の下、業界団体において、林業従事者の技能向上、就職環境の整備及び社会的・経済的地位の向上を図るため、平成31(2019)年4月に「林業技能向上センター」を立ち上げ、技能検定制度への林業の追加を目指し、受検申請者見込み数の整理や職務分析表の作成等に取り組む動きもみられる。この技能検定の試験は、外国人技能実習2号の評価試験にもつながるものであるところ、外国人材については、愛媛県において平成29(2017)年度から3か年の事業として外国人技能実習1号の実習生の受入れが行われるなど、関心が高まっており、この面からも、技能検定制度への林業の追加が期待されている。

また、林野庁では、平成25(2013)年度から、林業従事者の働く意欲の向上、職場への定着やスキルアップ等を実現するための能力評価システムの構築に対して支援を行っており、令和元(2019)年度には、能力評価システム導入説明会を全国7会場で実施するなど、各地で同システムの普及に取り組んでいる(*39)。


(*39)林業労働者のキャリア形成等について詳しくは、「平成30年度森林及び林業の動向」第1章第3節(3)26-29ページも参照。



(林業における雇用や労働災害の現状)

林業経営体への新規就業者については、「緑の雇用」事業により、新規就業者の増加、若年者率の向上等の成果も見られるが(*40)、依然として林業従事者の所得水準は他産業と比べて低いなどの状況にある中(*41)、現場作業員の確保が課題となっている(*42)。

また、林業作業の季節性や事業主の経営基盤のぜい弱性等により、林業労働者の雇用は必ずしも安定していないことがあり、雇用が臨時的、間断的である場合など、社会保険等が適用にならないこともある。

しかし、近年は、全国的に把握が可能な森林組合についてみると、通年で働く専業的な雇用労働者の占める割合が上昇傾向にあるとともに(資料2-23)、社会保険等が適用される者の割合も上昇している(資料2-24)。この傾向は、通年で作業可能な素材生産の事業量の増加によるものと考えられる。また、月給制の割合も増えているほか(資料2-25)、賃金水準も全体的に上昇している(*43)(資料2-26)。


林業労働における死傷者数は、長期的に減少傾向にあり(資料2-27)、その要因としては、高性能林業機械の導入や路網整備等による労働負荷の軽減や、チェーンソー防護衣の普及等が考えられる。一方で、林業における労働災害発生率は、平成30(2018)年の死傷年千人率(*44)でみると22.4で、全産業平均の9.7倍となっており、全産業の中で最も高い状態が続いている(*45)。


平成28(2016)年から平成30(2018)年までの3年間の林業労働者の死亡災害についてみると、発生した112件のうち、年齢別では50歳以上が76%となっており、作業別では伐木作業中の災害が66%となっている(資料2-28)。


(*40)詳しくは、第2章第1節(3)117-118ページ。

(*41)「平成30年分民間給与実態統計調査結果」(国税庁)の業種別平均給与によると、農林水産・鉱業の平均給与は312万円(全産業平均:441万円)。

(*42)平成29(2017)年度の林業作業士(フォレストワーカー)研修生、現場管理責任者(フォレストリーダー)研修生及び統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)研修生並びに研修生を受け入れている林業経営体を対象に、全国森林組合連合会が実施したアンケート調査では、約9割の森林組合が最近3年間の事業量からみて現場作業員が不足していると回答しており、最近3年間の求人数と応募者数については、約4割の森林組合が応募者数は求人数を下回ったと回答。

(*43)森林組合の雇用労働者の雇用条件等について詳しくは、「平成30年度森林及び林業の動向」第1章第3節(3)28ページも参照。

(*44)労働者1,000人当たり1年間に発生する労働災害による死傷者数(休業4日以上)を示すもの。

(*45)厚生労働省「労働災害統計」



(安全な労働環境の整備)

このような労働災害を防止し、健康で安全な職場づくりを進めることは、林業労働力を継続的に確保するためにも不可欠である。このため、林野庁では、厚生労働省、関係団体等との連携により、林業経営体に対して安全巡回指導、労働安全衛生改善対策セミナー等を実施するとともに、「「緑の雇用」事業」において、新規就業者を対象とした伐木作業技術等の研修の強化、最新鋭のチェーンソー防護衣等の導入等を支援している。また、林業経営体の自主的な安全活動を推進するため、林業経営体の指導等を担える労働安全の専門家の派遣等に対して支援している。

また、農林水産省一体として業界の垣根を越えた議論を開始すべく、令和2(2020)年2月に「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策に関する有識者会議」を設置するとともに、令和2(2020)年3月にはシンポジウムを開催し(*46)、その模様を動画で配信した(*47)。

一方、厚生労働省は、平成30(2018)年2月、平成30(2018)年度からの5年間を計画期間とする「第13次労働災害防止計画」を策定した。同計画では、「林業」が、死亡災害の撲滅を目指した対策を推進する重点業種に位置付けられている。同計画に基づき、厚生労働省、林野庁、関係団体等が連携して、死亡災害が多発している伐木等作業における安全対策の充実強化を図ることとしている。平成31(2019)年2月には、厚生労働省において労働安全衛生規則等関連法令の見直しが行われ(*48)、令和2(2020)年1月にはチェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン等が改正された。

また、林業と木材製造業の事業主及び団体等を構成員とする林業・木材製造業労働災害防止協会(*49)は、国の労働災害防止計画を踏まえ、「林材業労働災害防止計画」を策定するなど、林材業の安全衛生水準の向上に努めている。

さらに、民間の取組として、伐倒等の各種練習機や安全性・機能性を考慮したチェーンソー防護衣の開発・販売(*50)、伐木作業に必要な技術及び安全意識の向上に向けた競技大会も開催されている(*51)(事例2-2)。

このほかにも、地方公共団体による安全に特化した林業研修体制の構築や、林業科の高校生を対象とした普及啓発など、労働災害の防止に向けた取組が進められている(*52)。

事例2-2 独メーカーとの協同による日本に適したチェーンソー防護パンツ開発の取組

林業における労働災害のうち死亡災害の約7割はチェーンソーによる伐木作業時に発生しており、令和元(2019)年8月に労働安全衛生規則が施行され下肢の切創防止用保護衣の着用が義務付けられることとなった。高い安全基準を確保しつつ、機能性の高いチェーンソー防護パンツ等が求められている。

岐阜県森林技術開発・普及コンソーシアム(注1)の会員である林業事業体3者(注2)と、ドイツの林業用防護服製造メーカーであるP.SS社(注3)は、労働安全衛生規則等の改正を踏まえ、欧州の高い安全基準をクリアしつつ、日本の高温多湿となる夏期の気候や日本人の体型に合った機能性の高いチェーンソーパンツの共同開発に取り組んだ。

P.SS社が製作した試作品を会員事業体3者がモニターとなって使用し、日本人の体型に合うものとすること、笹やぶ等によるひっかき傷でも破れにくい強化生地の使用、通気性、伸縮性、視認性を高めるためのカラー配色等の改良が加えられた。

令和元(2019)年5月に最終製品が完成し、同月に開催されたコンソーシアム通常総会で発表され、販売が開始された。同会事務局や販売代理店となった同会員企業には、使用者の反響として、女性を始め小柄な体型にも合うことや、軽量性、デザイン性が優れている等の声が寄せられているとしている。

注1:岐阜県の林業・木材産業関係事業者、教育・研究機関及び行政機関等で構成される組織。

2:飛騨市森林組合、株式会社丸光イトウ、有限会社根尾開発

3:Pfeiffer Sicherheitssysteme社



(*46)新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、無聴衆による開催となった。

(*47)有識者会議とシンポジウムについては、農林水産省ホームページ「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策」参照。

(*48)ア)受け口を作るべき立木の対象を胸高直径20cm以上に拡大、イ)事業者に対する速やかなかかり木処理の義務付けと、かかり木処理における、浴びせ倒しやかかられている木の伐倒の禁止、ウ)伐倒木の高さの2倍の範囲の立入禁止、エ)事業者に対する、チェーンソー作業時の下肢防護衣の着用の義務付け、オ)チェーンソー作業に係る教育の充実等が盛り込まれた。

(*49)「労働災害防止団体法」(昭和39年法律第118号)に基づき設立された特別民間法人。

(*50)伐倒練習機の開発の取組について詳しくは、「平成30年度森林及び林業の動向」第1章事例集 事例1-6(47ページ)を参照。

(*51)競技大会については、「平成26年度森林及び林業の動向」第3章第1節(4)の事例3-5(120ページ)を参照。

(*52)安全に特化した研修体制の構築について詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」第3章第1節(4)の事例3-3(107ページ)を参照。



(林業活性化に向けた女性の取組)

女性の森林所有者や林業従事者等による林業研究グループが1970年代から各地で設立され、森林づくりの技術や経営改善等の研究活動を実施してきたほか、子供達への環境教育、特用林産物の加工・販売など森林資源を活用した地域づくりを展開している。また、都道府県の女性林業技術系職員による「豊かな森林づくりのためのレディースネットワーク・21」は、SNSを活用したネットワークを構築し、会員相互の情報共有や技術研鑽を続けており、全国フォーラムや交流会等を通じ、森林・林業の発展に向け、活動を実施している。

学生や様々な職業の女性らから成る「林業女子会(*53)」については、平成22(2010)年以降、全国各地で結成されており、林業や木材利用について語り合うワークショップや森林鳥獣被害の減少にも貢献するジビエ料理の普及促進、森林空間を利用しリラックス効果が期待できる「森ヨガ」など、活動の輪が各地に広がっている。


(*53)平成22(2010)年に京都府で結成されて以降、令和元(2019)年末現在、25グループが活動している(海外1グループを含む)。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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