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第1部 第5章 第2節 原子力災害からの復興(1)


東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に大量の放射性物質が放散され、福島県を中心に広い範囲の森林が汚染されるとともに、林業・木材産業にも影響が及んでいる。

以下では、原子力災害の発生・影響を振り返った上で、原子力災害からの復興に向けた、森林内の放射性物質に関する調査・研究、林業・木材産業の再生に向けた取組、安全な林産物の供給、損害の賠償について記述する。

(1)原子力災害の発生と放射性物質への対応

(原子力災害の発生・影響)

東京電力福島第一原子力発電所では、平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震を受けて、1号機から3号機が自動停止した後、津波により非常用ディーゼル発電機等が冠水して、全ての電源を喪失した。このため、1号機から3号機では炉心冷却機能が失われて炉心溶融に至った。1号機と3号機では、化学反応により発生した水素が原因と思われる爆発が発生して、環境中に大量の放射性物質が放散された。また、2号機と4号機でも同様の爆発が発生した(*45)。

政府は、東日本大震災の発生当日に、「原子力災害対策特別措置法(*46)」に基づき、「原子力緊急事態宣言」を発出した。東京電力福島第一原子力発電所周辺については、震災当日に半径3km以内の住民に避難指示が出され、翌日には避難指示が半径20km以内まで拡大された(「避難指示区域」)。同4月21日には、より厳しい規制措置として、「避難指示区域」全域が、原則として立入りを禁止する「警戒区域」に設定された。また、同日に、半径20km以遠の周辺地域で事故発生からの1年間で積算線量が20mSvに達するおそれのある区域が、住民等におおむね1か月を目途に別の場所への計画的な避難を求める「計画的避難区域」に設定された(*47)。

これらの避難指示区域(計画的避難区域を含む。)については、平成24(2012)年3月から、「警戒区域」の一部が解除されるとともに、「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の3区分に見直されることとなった。5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがあり、平成24(2012)年3月時点での年間積算線量が50mSv超の地域は「帰還困難区域」、平成24(2012)年3月時点からの年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域は「居住制限区域」、年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域は「避難指示解除準備区域」とされた。

令和2(2020)年3月10日時点で、帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されている(資料5-6)。


(*45)原子力災害対策本部「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について-」(平成23(2011)年6月):概要 6-8.

(*46)「原子力災害対策特別措置法」(平成11年法律第156号)

(*47)平成23(2011)年4月22日付け原子力災害対策本部長指示。



(「放射性物質汚染対処特措法」に基づく除染)

東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射性物質で汚染された地域では、放射性物質の影響を速やかに低減させることが大きな課題となった。政府は、平成23(2011)年8月に公布された「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(*48)」(以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき、除染(*49)を進めることとした。

放射性物質汚染対処特措法に基づき、環境大臣は、「除染特別地域」と「汚染状況重点調査地域」を指定することとされている。このうち、除染特別地域は、「警戒区域」又は「計画的避難区域」の指定を受けたことがある地域が指定されており、環境大臣が定める「特別地域内除染実施計画」に基づいて、国により除染等が実施されてきた。また、汚染状況重点調査地域は、空間線量率が毎時0.23μSv以上の地域を含む市町村が指定されており、指定を受けた市町村は汚染の状況について調査測定を行った上で「除染実施計画」を定め、この計画に基づき市町村、県、国等により除染等の措置等が実施されてきた。令和3(2021)年3月末時点で、除染特別地域は福島県11市町村が指定されており、汚染状況重点調査地域は8県87市町村が指定されている。

林野庁では、除染作業に伴って発生した除去土壌等の仮置場用地として国有林を使用したいとの地方公共団体等からの要請があった場合、国有林野の無償貸付け等を行ってきている(*50)。

原子力規制委員会が令和元(2019)年8月から同年11月にかけて実施した航空機モニタリングの結果では、東京電力福島第一原子力発電所から80km圏内における空間線量率は、事故直後の平成23(2011)年11月と比べ、78%(*51)減少していると示された(資料5-7)。

資料5-7 航空機モニタリングによる空間線量率の経年変化

(*48)「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号)

(*49)放射性物質を「取り除く」、「遮る」、「遠ざける」などの方法を組み合わせて環境中にある放射性物質による追加被ばく線量を低減すること。

(*50)第4章第2節(3)236-237ページを参照。

(*51)本値は、対象地域を250mメッシュに区切り、各メッシュの中心点の測定結果の比から算出している。



(森林除染等の方針)

森林の除染については、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針(平成23(2011)年11月閣議決定)において、住居等近隣における措置を最優先に行うこととされた。環境省が平成23(2011)年12月に策定した「除染関係ガイドライン」の中で、「住居等近隣の森林」の除染の方法について具体的な方法が示されている。同ガイドラインの森林部分については、平成25(2013)年12月に、森林内の放射性物質の動態や効果的な除染手法に係る知見の追加等の見直しが行われた。

平成27(2015)年12月には、環境省の「第16回環境回復検討会」において、森林から生活圏への放射性物質の流出・拡散に関する調査等から得られた知見に基づき、「森林における放射性物質対策の方向性について」が取りまとめられた。この中で、「住居等近隣の森林」及び「利用者や作業者が日常的に立ち入る森林」については、引き続き必要な除染を進めていくことが適当であるとされた。一方、森林の表層の堆積有機物や土壌は森林にとって非常に重要なものであるため、広範囲にわたってこれらを除去すれば、土壌流出や地力低下による樹木への悪影響が懸念されることから、住居等近隣や人が日常的に立ち入るエリア以外については、堆積有機物の除去は基本的には実施しないことが適当であるとされた。ただし、現場の状況に応じて、森林からの土壌の流出防止に効果がある場所に木柵工、土のう筋工等の対策工を実施することは可能とされた。また、同エリアにおける林業の再生のための取組として、作業者の被ばく低減に取り組みながら、引き続き、間伐等の森林整備と放射性物質対策を一体的に実施する事業や、林業再生に向けた実証事業等を推進することが適当とされた。

平成28(2016)年3月には、復興庁、農林水産省及び環境省による「福島の森林・林業の再生のための関係省庁プロジェクトチーム」が、福島県民の安全・安心の確保、森林・林業の再生に向け、「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」を取りまとめた(資料5-8)。これに基づき、国は、県及び市町村と連携しつつ、住民の理解を得ながら、生活環境の安全・安心の確保、住居周辺の里山の再生、奥山等の林業の再生に向けた取組や、調査研究等の将来に向けた取組、情報発信等の取組を着実に進めている。なお、「住居等近隣の森林」及び「利用者や作業者が日常的に立ち入る森林」については、平成30(2018)年3月末までに帰還困難区域を除き除染を完了している。このうち国有林については、林野庁が福島県、茨城県及び群馬県の3県約29haで除染を実施した。

資料5-8 福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組(骨子)

(森林においても空間線量率は減少)

福島県は、平成23(2011)年から、帰還困難区域を除く県内各地の森林において、空間線量率等のモニタリング調査を実施してきた。このうち継続して調査を行っている362か所の平均の空間線量率は、令和元(2019)年度では、平成23(2011)年度と比較して約78%低下した。また、1.00μSv/h以上の区域は、調査箇所数比で35%から0.3%に減少し、放射性物質汚染対処特措法にある汚染状況重点調査地域の基準である0.23μSv/h未満の区域は、調査箇所数比で12%から66%に増加している。令和2(2020)年3月の空間線量率の平均値は0.20μSv/hとなっており、森林内の空間線量率は年々低下している。

放射能は、時間の経過と共に減衰していく性質を持っているため、原子力発電所の事故で拡散した放射性物質は自然界に永遠に残るものではなく、次第に減少していく。福島県によるモニタリング調査の結果では、9年間の森林内の空間線量率は、放射性物質の物理学的減衰とほぼ同じように低下した。この結果から、今後も同様の推移をたどることを仮定すると、森林内の空間線量率の平均値は、東京電力福島第一原子力発電所事故から15年後の令和8(2026)年3月には0.15μSv/h、25年後の令和18(2036)年3月には0.12μSv/hに減衰すると予想される(資料5-9)。

資料5-9 福島県の森林内の空間線量率の推移

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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