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第1部 第5章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(5)

(5)復興への木材の活用と森林・林業・木材産業の貢献

(ア)まちの復旧・復興に向けた木材の活用

(震災後の住宅需要)

東日本大震災では、建物の全壊・半壊は40万戸を超えた。地震発生直後には、最大約47万人程度が公民館・学校等に避難して、長期の避難生活を余儀なくされた(*24)。このため、被災者の住まいの確保が喫緊の課題となり、震災直後から、各県で、「災害救助法(*25)」に基づく「応急仮設住宅(*26)」の建設が始まった。応急仮設住宅については、被災地の各県が、平成25(2013)年4月までに約5.4万戸を建設した(*27)。

令和2(2020)年10月時点でも約4.3万人が避難生活を余儀なくされている。応急仮設住宅等への入居数は減少し、恒久住宅への移転が進んでいる(*28)。


(*24)内閣府「避難所生活者・避難所の推移(東日本大震災、阪神・淡路大震災及び中越地震の比較)」(平成23(2011)年)

(*25)「災害救助法」(昭和22年法律第118号)

(*26)「災害救助法」第4条第1項第1号に基づき、住家が全壊、全焼又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができない者に供与するもの。

(*27)国土交通省ホームページ「応急仮設住宅関連情報」

(*28)令和2(2020)年9月時点の避難者等の入居先は、建設型の仮設住宅は約46戸(木造については供与終了済み)、借上型の仮設住宅は約1,000戸。復興庁「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」(令和2(2020)年12月11日)



(応急仮設住宅における木材の活用)

震災直後から各県で始まった応急仮設住宅の建設は、各県と災害協定を締結していた社団法人プレハブ建築協会に加盟する大手住宅メーカーを中心に進められ、一部は木造で建設された。

また、岩手県住田町すみたちょう独自の取組として、震災発生直後に、同町産のスギ・カラマツを使用した木造仮設住宅110戸を建設し、隣接する陸前高田りくぜんたかた市・大船渡おおふなと市の被災者等に提供するという取組もみられた。

その後、平成23(2011)年のうちに、被災3県(岩手県、宮城県及び福島県)では、地元の建設業者等を対象として、応急仮設住宅の建設事業者を公募することとした。各県の公募に応じた地元業者が、地域材を用いた仮設住宅の供給に積極的に取り組み、東日本大震災で建設された応急仮設住宅の約4分の1が木造となった。平成25(2013)年4月までに、被災地の各県が約5.4万戸の応急仮設住宅を建設したが、被災3県では、この4分の1以上に当たる約1.5万戸が木造で建設された(*29)。


(*29)国土交通省調べ(平成25(2013)年5月16日時点)。



(木造応急仮設住宅建設に関する協定を都道府県と締結)

東日本大震災における木造応急仮設住宅の供給実績と評価を踏まえて、一般社団法人JBN・全国工務店協会(当時は一般社団法人工務店サポートセンター)と全国建設労働組合総連合は、平成23(2011)年9月に、「一般社団法人全国木造建設事業協会」を設立した。同協会では、大規模災害後、木造の応急仮設住宅を速やかに供給する体制を構築するため、各都道府県等との災害協定の締結を進め、同協会では、令和2(2020)年4月までに、37都道府県8市と災害協定を締結している。

また、災害時の木材供給について、地元の森林組合や木材協会等と協定を結ぶ地方公共団体もみられる。


(木造応急仮設住宅への評価)

東日本大震災以前、応急仮設住宅のほとんどは、軽量鉄骨のプレハブ造により供給されていた。一部の応急仮設住宅に対しては、夏に暑く冬に寒い、隙間風で寒い、雨漏り・結露が発生する、隣家の音が気になるなどの課題があった(*30)。これに対して、平成16(2004)年の新潟県中越地震の際に一部で建築された木造の応急仮設住宅では、結露や滴り水は発生せず、断熱性に優れていることが確認されている(*31)。

東日本大震災において建設された木造応急仮設住宅も、利便性や住み心地が高く評価されている。岩手県住田町すみたちょうが提供した木造応急仮設住宅について、ボランティア団体が、住み心地等に関する聞き取り調査を行っており、「木の香りや木肌の柔らかさ・温かみが感じられる」、「追加工事が容易なため、物置台、風除室、軒などが追加できた」、「非木造仮設住宅に比べて結露が少ない」等のコメントが得られている(*32)。


(*30)室崎益輝(1994)地域安全学会論文報告集(4):39-49、神戸弁護士会(1997)阪神・淡路大震災と応急仮設住宅-調査報告と提言、木村悟隆(2006)新潟県中越地震被害報告書:154-163、中村昇(2011)木材情報:1-10.

(*31)木村悟隆(2006)

(*32)岩手県住田町より聞き取り(平成24(2012)年度時点)。



(災害公営住宅における木材の貢献)

避難者が応急仮設住宅から退去した後の居住先の1つとなる「災害公営住宅(*33)」についても、各県で整備が進められてきた。災害公営住宅については、令和2(2020)年12月末時点で、被災3県において約3万戸の計画戸数となっている。「東日本大震災からの復興の基本方針」では、津波の危険性がない地域では、災害公営住宅等の木造での整備を促進するとされており、構造が判明している計画戸数約2万9,800戸の約3割に当たる約7,800戸が木造で建設される予定であり、令和2(2020)年12月末時点で、このうち約99%が建設された。

その中には、応急仮設住宅を解体した木材等を再利用して建てられたものもあり、素材として長く利用できるという木材の利点が活かされている(事例5-3)。また、平成30(2018)年7月に発生した西日本豪雨の際に、福島県の木造応急仮設住宅が、被災した岡山県総社そうじゃ市に再建築され再利用されたという事例もある。

災害公営住宅への木材の利活用が進められてきたのは、被災3県の関係者が連携して復興に取り組んだ結果でもある。東日本大震災から1年後の平成24(2012)年には、被災3県の林業・木材産業関係者、建築設計事務所、大工・工務店等の関係団体により、「地域型復興住宅推進協議会」が設立された。同協議会に所属する住宅生産者グループは、住宅を再建する被災者に対して、地域ごとに築いているネットワークを活かし、地域の木材等を活用し、良質で被災者が取得可能な価格の住宅を「地域型復興住宅」として提案し、供給している(*34)。

事例5-3 仮設住宅から公営住宅へ~受け継がれる地域材~

東日本大震災後、福島県では約8,000戸の木造仮設住宅が建設され、そのうち約600戸は、再利用を想定した解体・組み立てのしやすいログハウス仮設住宅であった。避難指示の解除に伴い、帰還者数が増えつつある地域において、これらの木造仮設住宅を災害公営住宅として生まれ変わらせる取組が行われている。

福島県飯舘村いいたてむら大師堂たいしどう住宅団地では、令和2(2020)年、二本松にほんまつ市の仮設住宅団地から16戸のログハウス仮設住宅を移設し、間取りを広げて12戸の災害公営住宅とした。当住宅は、仮設住宅の骨組みを活かした一室空間を基本として、様々な居住者の住まい方に対応できるよう設計されている。また、住宅内部は木の温かみ、ぬくもりを活かしログ材を極力そのまま見せるデザインとなっている。

県産の木材を使い、地元の工務店の職人が建設したログハウス型仮設住宅が、多くの部材をそのまま活用し、コミュニティのための共有スペース等も創出しながら新たな住宅地に蘇った。資材の循環という地球環境にやさしい社会的な意義等も評価され、当団地は令和2(2020)年度のグッドデザイン賞やログハウス建築コンテスト国土交通大臣賞(ログハウス大賞)を受賞している。

資料:はりゅうウッドスタジオホームページ「大師堂住宅団地」
   公益財団法人日本デザイン振興会ホームページ「GOOD DESIGN AWARD」
   SUUMOジャーナル「震災の記憶を次世代に。伝える取り組みや遺構が続々と」



(*33)災害により住宅を滅失した者に対し、地方公共団体が整備する公営住宅。

(*34)地域型復興住宅推進協議会ほか「地域型復興住宅」(平成24(2012)年3月)。地域型復興住宅の供給とマッチングの取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-3(196ページ)を参照。



(公共施設等での木材の活用)

被災地では、新しいまちづくりに当たり、公共建築物等、人々に広く利用される施設にも木材が活用されてきた。また、地域産材を積極的に活用する取組も行われ、被災地域の復興のシンボル的な役割を担ってきた。

東日本大震災の発生から数年のうちには、津波による被害木を用いて施設を建設する取組が見られた。例えば、宮城県南三陸町みなみさんりくちょうの幼稚園では、平成24(2012)年7月に、津波被害により枯死した樹齢200年余のスギ約200本(約140m3)を用いて、津波で流失した園舎を再建した(*35)。岩手県陸前高田りくぜんたかた市では、平成24(2012)年11月に、建築家のグループが、津波による塩害で枯死したスギを柱に使用して、被災住民が憩う施設を建設した。この施設の建設プロセスは、同8月にイタリアで開催された「ベネチア・ビエンナーレ国際建築展」において最高賞を受賞した(*36)。

また、被災した庁舎の再建に当たり、木材を用いてデザイン性の高い庁舎を建設する例もみられる。福島県国見町くにみまちでは、平成27(2015)年に、多くの地域産業の参画の下、県産のカラマツ集成材を用いて、木に包まれた外観が印象的な庁舎を建設した(*37)。また、宮城県南南三陸町みなみさんりくちょうでは、平成29(2017)年に、日本家屋の伝統的な土間をモチーフに、FSC認証を受けた地元産の杉を活用し、ぬくもりの感じられる庁舎を建設した(*38)。

地域住民の協力の下、大型の公共施設を建設する取組も行われた。岩手県大槌町おおつちちょうでは、平成30(2018)年に、町の中心地域に、木造3階建ての複合施設「大槌町おおつちちょう文化交流センター」(愛称:おしゃっち)を建設した。設計に当たっては、ワークショップ等を通じて町民の意見、要望が反映されている。1階に多目的ホールとエントランスホール、2階に音楽部門と会議部門、3階に図書部門が主に配置され、複雑な架構で支え合う構造が、「一人ひとりが手を取り合って支えよう~わたしたちの井戸端~」というコンセプトを表現している(*39)。


(*35)日本ユニセフ協会ホームページ「東日本大震災緊急募金第157報 宮城県南三陸町あさひ幼稚園で上棟式」(平成24(2012)年5月25日付け)、平成24(2012)年7月7日付け日刊木材新聞7面

(*36)平成24(2012)年9月11日付け毎日新聞夕刊5面、平成24(2012)年11月19日付け読売新聞38面

(*37)ウッドデザイン賞ホームページ「ウッドデザイン賞受賞作品データベース 福島県国見町庁舎 2015年受賞」

(*38)ウッドデザイン賞ホームページ「ウッドデザイン賞受賞作品データベース 南三陸町役場庁舎/歌津総合支所・歌津公民館 2018年受賞」

(*39)「大槌町文化交流センター」については、「平成29年度森林及び林業の動向」第4章第1節(3)の事例4-3(214ページ)を参照。



(コミュニティ形成における林業・木材産業の貢献)

「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」では、被災地は、震災以前から、人口減少や産業空洞化といった全国の地域にも共通する課題を抱えており、眠っている地域資源の発掘・活用や創造的な産業復興、地域のコミュニティ形成の取組等も通じて、「新しい東北」の姿を創造していく、とされている。

これらの課題の解決に向けては、林業・木材産業分野でも、森林資源の活用を通じた復興に向けた取組が行われており、森林認証を活用した地域材のブランド化や、地域材を掛け橋にした交流の場の創出も見られた(事例5-4)。平成25(2013)年度から平成27(2015)年度にかけて実施された復興庁の「「新しい東北」先導モデル事業」を通じた先導的な取組(*40)等も展開されてきた。また、「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」や「地域復興マッチング「ゆいの場」」の開催等を通じ、被災地の産業復興に向けた取組が広がっている(*41)。

事例5-4 木を通して生まれる南三陸町みなみさんりくちょうの交流の場

一般社団法人 南三陸YES工房(宮城県)は、東日本大震災後、面積の約8割が森林という町の魅力を活かし、地域資源である南三陸杉などを活用したモノづくりを行うことで、南三陸町の住民の「雇用」と「交流」の場づくりに取り組んできた。

同工房が製作する木製品、ノベルティグッズは、職人による手作業の技術と最先端のデジタル工作機を合わせることで、購入者の要望に幅広く対応している。廃校となった中学校の木造校舎をリノベーションした工房では、地域資源である木のグッズやまゆ細工等を製作・販売している他、モノづくりを通じた交流としてワークショップを開催して南三陸町の魅力を発信している。間伐材を含め、地域産のスギ・ヒノキ・ホオノキ等からスプーンやペンスタンド等をつくる木工教室は、同時に南三陸杉や森と海の関わり等を学べるプログラムとして人気を集めている。

同工房では自然と共生する社会のあり方を重視しており、地域と共に生きる工房を目指している。近年は、解体しても木材を再利用できる、木組み工法等で作った遊具や家具、什器を製作しており、モノづくりワークショップ等、様々な提案をしていくこととしている。

資料:南三陸YES工房ホームページ
   東京マニュファクチュール・ストーリーホームページ「STORY111 南三陸YES工房「その後」」



(*40)「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-4(197ページ)を参照。

(*41)「「新しい東北」復興ビジネスコンテスト」については、「平成27年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)の事例6-5(197ページ)を参照。「地域復興マッチング「結の場」」については、「平成28年度森林及び林業の動向」第6章第1節(3)208ページを参照。



(イ)エネルギー安定供給に向けた木質バイオマスの活用

(木質系災害廃棄物の有効活用)

東日本大震災では、地震と津波により、多くの建築物や構造物が破壊され、コンクリートくず、木くず、金属くず等の災害廃棄物(がれき)が、13道県239市町村で約2,000万トン発生した(*42)。このうち、木くずの量は、約135万トンであった。これらの災害廃棄物の処理が、被災地の復旧の上で大きな課題となった。

一方、東京電力福島第一原子力発電所での事故や、地震・津波による火力発電所、水力発電所、変電所、送電設備等の被災により、関東地方を中心に、電力の供給が大きく不足する事態が生じた。

このような中、平成23(2011)年5月に環境省が策定した「東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針(マスタープラン)」では、木くずについては、木質ボード、ボイラー燃料、発電等に利用することが期待できるとされた。また、同年7月に政府が策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」では、木質系災害廃棄物を活用した熱電併給を推進することとされた。これらを受け、災害により発生した木くずが各地の木質バイオマス発電施設や木質ボード工場で利用された。


(*42)環境省「平成23年3月東日本大震災における災害廃棄物の処理について」。福島県の避難区域を除く。



(木質バイオマスエネルギー供給体制を整備)

木質バイオマスを含む再生エネルギーの活用について、「東日本大震災からの復興の基本方針」では、将来的には未利用間伐材等の木質資源によるエネルギー供給に移行するとされるなど、その導入促進も掲げられた。

また、平成24(2012)年に閣議決定された「福島復興再生基本方針」では、目標の一つとして、再生可能エネルギー産業等の創出による地域経済の再生が位置付けられた。

このほか、「岩手県東日本大震災津波復興計画」や「宮城県震災復興計画」においても、木質バイオマスの活用が復興に向けた取組の一つとして位置付けられている。

これらを受けて、各県で木質バイオマス関連施設が稼動している(*43)。岩手県、宮城県、福島県においては、令和2(2020)年6月時点で、主に間伐材等由来の木質バイオマスを使用する発電所14件がFIT(*44)認定され、そのうち9件が稼働している。また、木質バイオマスの熱利用については、宮城県気仙沼けせんぬま市や岩手県久慈くじ市で熱供給事業が行われている事例がある。


(*43)木質バイオマスのエネルギー利用については、第3章第2節(3)187-193ページを参照。

(*44)FITについては、第3章第2節(3)189-190ページを参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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