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林野庁

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第1部 第5章 第2節 原子力災害からの復興(2)

(2)森林の放射性物質対策

森林内の放射性物質への対策については、平成23(2011)年度から森林内の放射性物質の分布状況等について継続的に調査を進めているほか、森林の整備を行う上で必要な放射性物質対策技術の実証等の取組を進めている。また、木材製品が安全に供給されるための取組が行われている。


(ア)森林内の放射性物質に関する調査・研究

森林に降下・付着した放射性物質は、その多くが長期的に森林内に留まることが、チェルノブイリ原子力発電所事故後の調査等から明らかになっているが、我が国の森林ではこうした放射性物質の挙動に関するデータは得られていなかった。森林における放射性物質による影響は長期間に及ぶことから、今後の森林・林業施策の対応に必要な基礎的知見として、継続的にデータを収集・分析していく必要がある。そのため、国や県、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等により、様々な調査・研究が進められている。


(森林内の放射性物質の分布状況の推移)

林野庁は、平成23(2011)年度から、福島県内の森林において、東京電力福島第一原子力発電所からの距離が異なる地点で、放射性セシウムの濃度と蓄積量の推移を調査している。

森林内では、事故後最初の1年である平成23(2011)年から平成24(2012)年にかけて、葉、枝、落葉層の放射性セシウムの分布割合が大幅に低下し、土壌の分布割合が大きく上昇した。これは、樹木の枝葉等に付着した放射性セシウムが、落葉したり雨で洗い流されたりして地面の落葉層に移動し、更に落葉層が分解され土壌に移動したためと考えられる。その後も放射性セシウムの土壌への分布割合は更に増えており、令和2(2020)年時点で、森林内の放射性セシウムの90%以上が土壌に分布し、その大部分は土壌の表層0~5cmに存在している。また、木材中の放射性セシウム濃度は大きく変動していないことから、事故直後に樹木に取り込まれた放射性セシウムの多くは内部に留まっていると推察される。一方、毎年開葉するコナラの葉に放射性セシウムが含まれていることや、スギやコナラの辺材や心材で濃度変化がみられることなどから、一部は樹木内を転流していると考えられる。さらに、事故後に植栽した苗木にも放射性セシウムが認められることや、事故後にスギの幹材に取り込まれた放射性セシウムの半分程度が土壌から根を通じて吸収されたものと推定する研究結果も報告されている(*52)ことから、根からの吸収が与える影響も調査していく必要がある(資料5-10)。


土壌の放射性セシウム濃度については、時間の経過とともに、順次、地上部から落葉層、0~5cmの土壌への移行が見られ、また一部では更に深い層への移行が見られることから、今後もその移行状況を注視していく必要がある。

また、森林全体での放射性セシウムについては、蓄積量の変化が少なく、かつ大部分が土壌表層付近に留まっていることや渓流水中の放射性セシウム濃度の調査等から、森林に付着した放射性セシウムの多くは森林内に留まり、森林外への流出は少ないと考察されている(*53)。


(*52)国立研究開発法人国立環境研究所及び国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所プレスリリース「スギ材に取り込まれた放射性セシウムはどこからきたのか?」(令和2(2020)年11月19日付け)

(*53)林野庁ホームページ「平成30年度 森林内の放射性物質の分布状況調査結果について」



(森林整備等に伴う放射性物質の移動)

林野庁は、平成23(2011)年度から、福島県内の森林に設定した試験地において、落葉等除去や伐採等の作業を実施した後の放射性セシウムの移動状況について調査を行っている。森林内の地表水や移動土砂等を調べたところ、地表流水からは放射性セシウムがほとんど検出されず、林床の放射性セシウムは主に土砂に付着して移動していると推察された。間伐等の森林整備による放射性セシウムの移動量については、何も実施していない対照区と比べて大きな差は確認されなかった。一方で、落葉等除去を実施した箇所では、1年目の放射性セシウムの移動量が何も実施していない対照区に比べて大きくなることが確認されたが、2年目以降は対照区と同程度であった(*54)。このようなことから、間伐の際には、林床を大きくかく乱しなければ、土砂の移動が少なく、放射性セシウムの移動への影響は小さいと考えられる。また、森林の生育過程において、間伐は、森林内に光を取り込み下層植生の繁茂を促すことで土壌の移動を抑制させることとなり、放射性セシウムの移動も抑制する効果が期待される。

なお、伐採した樹木の搬出や落葉等除去により放射性物質を森林外へ持ち出すことは、持ち出される放射性セシウムの割合に応じて森林内の空間線量率の低減に影響を与えることが分かっている。しかし、令和2(2020)年時点では、森林内の放射性セシウムの多くは土壌に分布しており、樹木に含まれる放射性物質の割合は僅かであることから、伐採した樹木の搬出によって森林内の放射性物質の蓄積量が減少することによる空間線量率の低減効果は限定的である。


(*54)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)



(ぼう芽更新木等に含まれる放射性物質)

東京電力福島第一原子力発電所の事故後に伐採した樹木の根株から発生したぼう芽更新木に含まれる放射性物質に関する知見は、放射性物質の影響によって原木きのこ生産に用いる原木の生産が停止した地域において、伐採とぼう芽更新の繰り返しによって成立してきた広葉樹資源の循環利用を存続させ、将来的にきのこ原木の生産を再開する上で必要であり、林野庁は、平成25(2013)年度から、ぼう芽更新木について調査している。同一の根株から発生したぼう芽枝に含まれる放射性セシウム濃度を測定した結果、経年による変化傾向はみられなかったが、直径の大きいものの方がやや低いという傾向がみられた。また、コナラとクヌギの樹種による比較では、クヌギの方が低いという傾向がみられた(*55)。

さらに、平成26(2014)年度から、稲作で効果が確認されているカリウム施肥を行った場合の、土壌から樹木への放射性セシウムの吸収抑制効果についても調査が行われている。コナラのぼう芽更新木について、カリウム施肥区と非施肥区を設定して試験を行った結果、施肥後2年間は効果がみられなかったが、追肥を実施した3年目に一部で放射性セシウム濃度の低下がみられた(*56)。一方、別の試験で新たに植栽したヒノキについては、土壌中の交換性カリウム(*57)濃度が低い場合には、カリウム施肥による樹木の放射性セシウム吸収抑制が確認されたとする報告もある(*58)。ぼう芽更新木や新たに植栽した樹木の放射性セシウム濃度は個体や地域による差が大きいことから、放射性セシウムの吸収に影響する要因等について引き続き検証する必要がある。

これらの取組に加え、林野庁では、福島県及び周辺県のほだ木等原木林の再生に向け、伐採及び伐採後のぼう芽更新木の放射性セシウム濃度の調査等について支援を行っている。


(*55)林野庁「平成28年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成29(2017)年3月)

(*56)林野庁「平成29年度森林における放射性物質拡散防止等技術検証・開発事業報告書」(平成30(2018)年3月)

(*57)土壌中に含まれるカリウムのうち、植物などの生物に吸収可能な性質のもの。

(*58)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所プレスリリース「樹木の放射性セシウム汚染を低減させる技術の開発へ―カリウム施肥によるセシウム吸収抑制を確認―」(平成29(2017)年12月21日付け)



(情報発信とコミュニケーション)

「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」では、森林・林業の再生のための取組等について、最新の情報を分かりやすく丁寧に提供する取組を進めることとされている。これまでの国、福島県等の取組により、森林における放射性物質の分布、森林から生活圏への放射性物質の流出等に係る知見等が蓄積されてきている。林野庁は、これらの情報の提供とともに、専門家の派遣も含めてコミュニケーションを行うため、工夫を凝らしたシンポジウムや出前講座の開催、パンフレットの作成・配布等の普及啓発活動を実施している。


(イ)林業の再生及び安全な木材製品の供給に向けた取組

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、林業の現場では、立木伐採の停止、伐採現場で稼働していた高性能林業機械等の放置、迂回通行による運搬経費のかかり増し、作業現場の放射能汚染度測定と現場作業への不安、きのこ用原木の納入停止、従業員の解雇・休業等により、損害が発生した(*59)。

森林・林業の再生を図るため、東日本大震災の発生から10年にわたり、様々な取組が行われてきた。


(*59)大塚生美(2011)林業経済, 64(5):23-26.



(林業再生対策の取組)

放射性物質の影響による森林整備の停滞が懸念される中、森林の多面的機能の維持・増進のために必要な森林整備を実施し、林業の再生を図るため、平成25(2013)年度から継続して、間伐等の森林整備とその実施に必要な放射性物質対策を推進する実証事業が実施されている。令和元(2019)年度までに、汚染状況重点調査地域等に指定されている福島県内44市町村(既に解除された市町村を含む。)の森林において、県や市町村等の公的主体による間伐等の森林整備が行われるとともに、急傾斜地等における表土の一時的な移動を抑制する筋工等が設置されている。令和2(2020)年3月末までの実績は、間伐等8,444ha、森林作業道作設1,032kmとなっている。


(里山の再生に向けた取組)

平成28(2016)年に取りまとめられた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づく取組の一つとして、平成28(2016)年度から令和元(2019)年度にかけて、「里山再生モデル事業」を実施した。同事業は、避難指示区域(既に解除された区域を含む。)及びその周辺の地域においてモデル地区を選定し、里山再生を進めるための取組を総合的に推進するもので、平成30(2018)年3月末までに14か所のモデル地区を選定した(*60)。同地区では、林野庁の事業により間伐等の森林整備を行うとともに、環境省の事業による除染、内閣府の事業による線量マップの作成等、関係省庁が県や市町村と連携しながら、里山の再生に取り組んだ。

令和2(2020)年度からは、対象地域を48市町村に拡大し、「里山再生事業」として森林整備等を行っている。


(*60)平成28(2016)年9月に川俣町、葛尾村、川内村及び広野町の計4か所、同12月に相馬市、二本松市、伊達市、富岡町、浪江町及び飯舘村の計6か所、平成30(2018)年3月に田村市、南相馬市、楢葉町及び大熊町の計4か所を選定。



(林内作業者の安全・安心対策の取組)

避難指示解除区域において、生活基盤の復旧や製造業等の事業活動が行われ、営林についても再開できることを踏まえ、林内作業者の放射線安全・安心対策の取組が進められている。

平成24(2012)年に改正された「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(*61)(以下「除染電離則」という。)では、1万Bq/kgを超える汚染土壌等を扱う業務(以下「特定汚染土壌等取扱業務」という。)や、土壌等を扱わない場合にあっても平均空間線量率が2.5μSv/hを超える場所で行う業務(以下「特定線量下業務」という。)について、雇用される者に係る被ばく線量限度や線量の測定、特別教育の実施など事業者に対する義務を規定している。

林野庁では、除染電離則の改正を受けて、平成24(2012)年に「森林内等の作業における放射線障害防止対策に関する留意事項等について(Q&A)」を作成し、森林内の個別の作業が特定汚染土壌等取扱業務や特定線量下業務に該当するかどうかをフローチャートで判断できるように整理するとともに、実際に森林内作業を行う際の作業手順や留意事項を解説している。

また、平成25(2013)年には、福島県内の試験地において、機械の活用による作業者の被ばく低減等について検証を行い、キャビン付き林業機械による作業の被ばく線量は、屋外作業と比べて35~40%少なくなるとの結果が得られた(*62)。このため、林野庁では、林業に従事する作業者の被ばくを低減するため、リースによる高性能林業機械の導入を支援している。

平成26(2014)年度からは、避難指示解除区域等を対象に、試行的な間伐等を実施し、これまでに得られた知見を活用した放射性物質対策技術の実証事業を実施している。その結果、林内作業における粉じん吸入による内部被ばくはごく僅かであり、作業者の被ばく線量を低減させるには外部被ばくを少なくすることが重要ということが明らかになった(*63)。

平成28(2016)年度には、これまで得られた知見を基に、林内作業者向けに分かりやすい放射線安全・安心対策のガイドブックを作成し、森林組合等の林業関係者に配布し普及を行っている。


(*61)「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」(平成23年厚生労働省令第152号)。「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)第22条、第27条等の規定に基づく厚生労働省令。

(*62)農林水産省プレスリリース「森林における放射性物質の拡散防止技術検証・開発事業の結果について」(平成25(2013)年8月27日付け)

(*63)林野庁「平成26年度「避難指示解除準備区域等における実証事業(田村市)」報告書」(平成27(2015)年3月)



(木材製品や作業環境等の安全証明対策の取組)

林野庁では、消費者に安全な木材製品が供給されるよう、福島県内において民間団体が行う木材製品や木材加工施設の作業環境における放射性物質の測定及び分析に対して、継続的に支援している。これまでの調査で最も高い放射性セシウム濃度を検出した木材製品を使って、木材で囲まれた居室を想定した場合の外部被ばく量を試算(*64)すると、年間0.049mSvと推定され、国際放射線防護委員会(ICRP(*65))2007年勧告にある一般公衆における参考レベル下限値の実効線量1mSv/年と比べても小さいものであった(*66)。また、各種放射線検知装置を導入した工場等の放射線量を測定した結果、航空機モニタリングの値よりもやや低い傾向が確認できた。

福島県においても、県産材製材品の表面線量調査を定期的に行っており、放射線防護の専門家から、環境や健康への影響がないとの評価が得られている。

このほか、林野庁では、製材品等の効率的な測定検査手法の検証・開発について支援を行っている。これにより効果的に木材の表面線量を測定するための装置の開発、効果的な測定装置を配置するための木材流通実態調査の実施や放射性物質測定装置の設置等、原木の受入れから木材製品の出荷に至る安全証明体制構築に向けた取組を進めている。


(*64)IAEA(国際原子力機関)の「IAEA-TECDOC-1376」で報告されている、居室を想定した場合の試算に基づき算出。

(*65)「International Commission on Radiological Protection」の略。

(*66)木構造振興株式会社、福島県木材協同組合連合会、一般財団法人材料科学技術振興財団(2018)安全な木材製品等流通影響調査・検証事業報告書:47.



(樹皮の処理対策の取組)

木材加工の工程で発生する樹皮(バーク)は、ボイラー等の燃料、堆肥、家畜の敷料等として利用されてきた。しかしながら、バークを含む木くずの燃焼により、高濃度の放射性物質を含む灰が生成される事例が報告されたことなどから、バークの利用が進まなくなり、製材工場等に滞留する状況が続いていた。なお、福島県は、バークの放射線セシウム濃度が基準値を超えないよう、0.5μSv/h以上の空間線量の森林では素材生産をしないよう定めている。

林野庁では、製材工場等から発生するバークについて、平成25(2013)年度から廃棄物処理施設での処理を支援している。バークの滞留量は、ピーク時である平成25(2013)年8月には8.4万トンであったが、令和2(2020)年5月には2千トンへと減少した。

また、今後、バークの発生量の増加に対応するため、農業用敷料やマルチ材等の新たな利用方法の開発等、利用拡大に向けた実証が進められている。


(福島県における素材生産量の回復)

森林内の放射線率が減少したことや、放射性物質対策に関する知見の蓄積や制度の整備に伴い、令和2(2020)年3月10日時点で、帰還困難区域やその周辺の一部の地域を除き、おおむね素材生産は可能となっている。一方、東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年近くが経過してから、ようやく活動が可能となった地域もある(事例5-5)。福島県全体の素材生産量は、震災が発生した平成23(2011)年には大きく減少したが、平成27(2015)年には震災前の水準まで回復している。

事例5-5 9年以上を経て事務所を再開、森林・林業の再生に取り組む双葉地方森林組合

福島県双葉郡ふたばぐん8町村を地区とする双葉地方森林組合は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で長く避難を余儀なくされていたが、令和2(2020)年11月4日、約9年8カ月ぶりに本来の富岡町とみおかまち小良ケ浜おらがはまの事務所で業務を再開することが叶った。

同組合は、原子力発電所事故により管内のほとんどが避難指示区域となった。原発事故の翌月には避難先の田村たむら市で業務を再開し、平成24(2012)年には三春町みはるまちにプレハブの仮事務所を建てて、除染事業の受注や、管内の避難指示が解除された区域から順次森林整備を進めるなど、事業を継続してきた。帰還困難区域内に位置する富岡町の事務所は、住民の帰還に向けて除染やインフラ整備が進められる特定復興再生拠点区域(注)に含まれており、令和2(2020)年6月に除染が完了した。

現在も、管内の4割は帰還困難区域に含まれており、今後は森林再生に向けた人材確保が課題となる。同組合は、本来の事務所に戻ったことで、住民の要望にも迅速に対応しやすくなるとしており、宅地周辺の木の伐採など住民の帰還を後押しする活動を進めるとともに、森林整備とその実施に必要な放射性物質対策を推進する福島県の実証事業「ふくしま森林再生事業」に取り組み、双葉郡の森林再生に向けて、管内自治体・森林組合が連携しながら難局を乗り越えたいと考えている。

注:帰還困難区域内でも、国が避難指示を解除して居住を可能と定めることが可能となった区域。

資料:令和2(2020)年11月5日付け福島民友新聞みんゆうNet



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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