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林野庁

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第1部 第5章 第1節 復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(3)

(3)森林等の被害と復旧・復興

(ア)山地災害等と復旧状況

(山地災害等の状況)

東日本大震災により、青森県から高知県までの15県において、山腹崩壊や地すべり等の林地荒廃(458か所)、津波による防潮堤(*5)の被災等の治山施設の被害(275か所)、のり面・路肩の崩壊等の林道施設の被害(2,632か所)、火災による焼損等の森林被害(1,065ha)等が発生した(資料5-1)。

特に、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県では、計253か所、約1,718haの海岸防災林に津波による被害が発生し、多くの立木がなぎ倒され、流失した。

津波の被害を免れた内陸部でも、地震によって山腹崩壊や地すべりが多く発生した。3月11日以降も地震や余震が発生して、災害の規模が拡大した。

資料5-1 東日本大震災による林野関係の被害

(*5)高潮や津波等により海水が陸上に浸入することを防止する目的で、陸岸に設置される堤防。治山事業では、海岸防災林の保護のため、治山施設として防潮堤等を整備している。



(山地災害等からの復旧)

治山施設や林道施設等の被害箇所については、国、県、市町村等が「山林施設災害復旧等事業」等により、災害からの復旧に向けた工事を進めてきた。令和3(2021)年1月時点で、「山林施設災害復旧等事業」の対象箇所では、帰還困難区域等の一部箇所を除き、99%の工事が完了している。帰還困難区域内の未着手箇所については、避難指示解除後に地域や他事業との調整を行いつつ、準備が整った箇所から速やかに着手することとしている。

海岸防災林の被害箇所については、要復旧延長約164kmのうち、令和3(2021)年3月時点で約145kmでの復旧事業が完了している(*6)。


(*6)海岸防災林については、第1節(3)(イ)242-246ページを参照。



(イ)海岸防災林の復旧・再生

(震災による被害は甚大)

東日本大震災では、岩手県宮古みやこ市の検潮所で8.5m以上の津波を観測するなど、青森県から千葉県の太平洋沿岸部で高い津波が観測された。津波の遡上高は、地形の影響を受けて、三陸海岸の小規模な谷では20mを超え、松島湾等の内湾や仙台平野等の平野部においても10m程度に及んだ(*7)。

これらの津波による青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の海岸林の浸水被害は、3,660haで、空中写真等を用いて流出・水没・倒伏の状況を分析した結果、被害率区分「75%以上」が約3割、「25~75%」が約2割強となり、かつてない甚大な被害となっている。津波による浸水被害を受けた海岸林(*8)のうち、海岸防災林については、現地調査の結果、253か所が被害を受け、被害面積は約1,718haとなっている(*9)。

「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」(*10)が平成24(2012)年2月に取りまとめた「今後における海岸防災林の再生について」では、海岸防災林の被害状況、防災効果、再生方針等について報告されている。同取りまとめでは、被災した海岸防災林の調査により、地盤高が低く地下水位が高い場所では、樹木の根が地中深くに伸びず、根の緊縛力が弱かったことから根返りし、流木化したものが多数存在することが確認されたとしている。場所によっては、根の緊縛力が強く根返りはしなかったものの、津波の流体力に耐えられずに、幹折れして、流失したものが多数存在することも報告されている(*11)。


(*7)東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月):4

(*8)海岸林とは海岸防災林を含む海岸部に存在する森林。

(*9)林野庁調べ。

(*10)林野庁では、平成23(2011)年5月から、海岸防災林の被災状況を把握するとともに、海岸防災林の効果を検証し、復旧方法の検討等を行うことを目的として、学識経験者等からなる「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」(座長:太田猛彦(東京大学名誉教授))を開催。合計5回の検討会を開催して、平成24(2012)年2月に、「今後における海岸防災林の再生について」を取りまとめた。

(*11)東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月):6



(海岸防災林の津波被害軽減効果)

東日本大震災における津波では、壊滅的な被害を受けた海岸防災林も多いが、「今後における海岸防災林の再生について」では、津波エネルギーの減衰効果や漂流物の捕捉効果、到達時間の遅延効果が報告されている。

例えば、青森県八戸はちのへ市では、津波により20隻を超える船が漂流して海岸防災林をなぎ倒したが、全て林帯で捕捉され、背後の住宅地への侵入を阻止するとともに、背後の住宅地は3m以上浸水したものの流出しなかった。また、宮城県仙台市若林わかばやし区では、9mを超える津波に襲われ、海岸防災林に甚大な被害が発生したが、林帯の背後にあった住宅は原形をとどめて残存した。さらに、茨城県北茨城きたいばらき市や大洗町おおあらいまちでは、それぞれ6m、4.5mの津波に襲われたが、人工砂丘等により津波エネルギーが減衰されたため、人家等への直接的な被害が軽減された。

また、海岸防災林の有無による津波被害軽減効果の違いを確かめるため、青森県八戸はちのへ市川町いちかわまちの海岸防災林を対象とする数値シミュレーションを行った。その結果、海岸防災林の存在により、津波の内陸への到達時間が遅くなることが確認された。


(復旧に向けた方針)

海岸防災林は、災害の防止や軽減を図る上で重要な役割を有している。被災地の復興に当たっては、「今後における海岸防災林の再生について」において取りまとめた方針を踏まえつつ、被災状況や地域の実情に応じて、林帯幅の確保や生育基盤盛土の造成などによる機能の向上も図るとともに、地域の生態系保全の必要性に応じた再生方法等を考慮しながら、津波や潮害、飛砂及び風害の防備等の機能を発揮する海岸防災林の復旧・再生に取り組むこととしたところである。

こうした方針を踏まえ、復旧全体は、「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」において、令和2(2020)年度までの復旧完了を目指すことと位置付けて、土地利用に関する地元の合意形成等の状況を踏まえつつ、林帯地盤等の復旧が完了した箇所から順次植栽を行ってきた(*12)。なお、林帯地盤の復旧に当たっては、地盤高が低く地下水位が高い箇所では、樹木の根の緊縛力を高め、根返りしにくい林帯を造成する観点から、盛土により植栽木の生育基盤を確保した(資料5-2)。

資料5-2 海岸防災林再生の方向性

(*12)復興庁「復興施策に関する事業計画及び工程表(福島12市町村を除く。)(令和2年4月版)」(令和2(2020)年8月7日)、復興庁「福島12市町村における公共インフラ復旧の工程表」(令和2(2020)年8月7日)



(苗木の供給体制の確立)

平成23(2011)年度の試算において、被災した海岸防災林の再生には、1,000万本程度の苗木が必要になると見込まれた。苗木生産には2~3年を要することから、各地の海岸防災林の再生事業の進捗に合わせて、必要な量の苗木を計画的に確保していくことが必要となった。このため、林野庁は、優良種苗の安定供給体制を確立するため、平成24(2012)年度から平成27(2015)年度まで、事業協同組合等に対して育苗機械や種苗生産施設等の整備を支援し、平成28(2016)年度からは、コンテナ苗を低コストで大量に生産するための施設整備等を支援している。

また、平成25(2013)年度から平成27(2015)年度までの3年間においては、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター東北育種場等が産官共同で、マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの種子生産を増加させる技術の開発等、抵抗性クロマツ苗木の供給体制の確立に向けた取組を行った(*13)。


(*13)「平成28年度森林及び林業の動向」第6章第1節(2)の事例6-2(205ページ)を参照。



(植栽等の実施における民間団体等との連携)

海岸防災林の復旧・再生については、地域住民、NPO、企業等の参加や協力も得ながら、植栽や保育が進められてきた。海岸防災林は古くから地域住民が関わり維持されてきたものであり、このような取組は復興に向けて地域が連携する活動として重要な意義があり、また、大規模災害に対する防災意識の向上を図る観点からも重要である。

例えば、福島県いわき市新舞子しんまいこの被災した海岸防災林では、生育基盤の復旧と植栽を進める中、平成25(2013)年度から、地域住民による植樹活動や保育活動が実施されてきている。

国有林では、平成24(2012)年度から、海岸防災林の復旧事業地のうち、生育基盤の造成が完了した箇所の一部において、公募による協定方式を活用して、NPOや企業等の民間団体の協力も得ながら植栽等を進めている。令和元(2019)年度末時点で、宮城県仙台市内、名取なとり市内、東松島ひがしまつしま市内及び福島県相馬そうま市内の国有林約33haにおいて延べ98の民間団体と協定を締結しており、植栽等の森林整備活動を実施している(事例5-1)。

事例5-1 民間団体と連携した植栽等の実施

平成26(2014)年・平成27(2015)年植栽地 (令和2(2020)年9月撮影)

宮城県名取なとり市の海岸防災林等では、平成23(2011)年から、「名取市海岸林再生の会」及び「公益財団法人オイスカ」により、「東日本大震災復興支援 海岸林再生プロジェクト10ヵ年計画」が実施されている(注1)。同プロジェクトでは、民有林及び国有林約100haの区域において官民で協定を締結し、クロマツ等の苗木の育苗、植栽、下刈り・除伐・つる切り等の保育作業等を行ってきた。

同プロジェクトの特色として、民間からの寄附を活動資金としていることや、地域住民による苗木の自家生産(注2)や地元森林組合への保育作業の委託等を通じて地域の雇用創出を図っていることなどが挙げられる。平成24(2012)年度からは育苗を、平成26(2014)年度からは林野庁の民有林直轄治山事業による生育基盤の造成が完了した箇所等において植栽・保育を行ってきており、令和2(2020)年度までに協定区域内の植栽は完了した。令和3(2021)年度からは、「第2次10ヵ年計画」が始動し、引き続き、協定区域の保育管理が行われる予定である。

令和2(2020)年には、同プロジェクトの10年間のあゆみを綴った「松がつなぐあした -震災10年海岸林再生の記録-(注3)」が出版された。地元市民とオイスカがどのように再生を進めてきたのか、人々の暮らしや農地を砂や潮風から守ってきた海岸林の重要性等が分かりやすく説明されている。

注1:公益財団法人オイスカによる海岸防災林の再生に向けた初期の取組については、「平成24年度森林及び林業の動向」第2章第2節(1)の事例2-4(49ページ)を参照。

2:名取市海岸林再生の会の苗木は、品質や手入れの記録が評価され、平成28年度宮城県山林種苗品評会において最優秀賞を受賞。また、平成28年度全国山林苗畑品評会においても林野庁長官賞を受賞。

3:元日本経済新聞論説委員 小林省太氏が現役記者時代から名取市に通い、100名以上への取材を基にまとめた著書。

資料:公益財団法人オイスカホームページ「東日本大震災復興海岸林再生プロジェクト」、一般社団法人日本治山治水協会「水利科学」令和2(2020)年10月号、令和2(2020)年10月7日付け河北新報


(海岸防災林の復旧状況と今後の課題)

海岸防災林の要復旧延長は、津波により被災し、更に滞水により赤枯れ(*14)が拡大したこと等から、約164kmに及んだ(*15)。令和2(2020)年度末時点では、全ての箇所で復旧工事(*16)に着手済みであり、うち原子力災害被災地域の一部等を除いた約145kmで植栽等の工事が完了した(資料5-3)。

資料5-3 被災直後と現在の海岸防災林の様子

津波によって特に大きな被害を受けた仙台湾沿岸部の海岸防災林においても、令和2(2020)年度をもって、国の直轄事業による植栽等の復旧が完了した(*17)。令和3(2021)年2月に引継ぎ式が行われ、事業完了に伴い、海岸防災林の民有林部分の管理が国から宮城県へ移管された。

海岸防災林について、潮害、飛砂及び風害の防備等の災害防止機能を発揮させるためには、植栽後も、下刈り、除伐、間伐等保育事業を継続的に行う必要がある。このため、植栽が行われた海岸防災林の復旧事業地では、地元住民、NPO、企業等の参加や協力も得つつ、治山事業により必要な保育を実施することとしている(*18)。


(*14)津波によって持ち込まれ、土壌に残留した大量の塩分の影響で、樹木の葉が赤くなり枯れるなどの現象。

(*15)復興庁「復興の現状」(令和3(2021)年3月10日)

(*16)地盤高が低く地下水位が高い箇所では盛土を行うなど、生育基盤を造成した上で、植栽を実施。

(*17)仙台湾沿岸部の海岸防災林の再生については、トピックス6(8ページ)を参照。

(*18)東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月):20-21



(全国に広がる海岸防災林整備)

東日本大震災では、海岸防災林が、津波に対して、津波エネルギーの減衰や漂流物の捕捉、到達時間の遅延等の被害軽減効果を発揮したことが確認された。これを受けて、海岸防災林を、今後の津波対策の一つとして位置付ける動きがみられる。

内閣府の「中央防災会議」は、東日本大震災における政府の対応を検証して、防災対策の充実・強化を図るため、平成23(2011)年10月に「防災対策推進検討会議」を設置した。同会議は、平成24(2012)年7月に、最終報告「防災対策推進検討会議最終報告」を決定・公表した。同報告では、津波対策について、海岸防災林の整備を含めた「多重防御」による地域づくりを推進すべきであると提言された(*19)。

また、同会議の「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」と「津波避難対策検討ワーキンググループ」の報告でも、海岸防災林には後背地への津波外力の低減や漂流物の捕捉等、被害の軽減効果がみられることから、必要に応じて整備を進めていく必要があると提言された(*20)。

林野庁では、これらの提言や「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」での検討結果を踏まえて、都道府県と連携しつつ、被災した海岸防災林の復旧・再生のみならず、全国で海岸防災林の整備を進めている。

また、津波被害軽減効果の高い海岸防災林の造成を全国で推進するため、東日本大震災以降に被災地等で行われた施工実態を踏まえ、平成30(2018)年3月に「海岸防災林の生育基盤盛土造成のためのガイドライン(案)」を取りまとめた。加えて、造成した海岸防災林の適切な保育管理を通じて、津波被害軽減効果を一層高めるため、令和2(2020)年3月に「海岸防災林の保育管理のためのガイドライン(案)」を取りまとめた。


(*19)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議 最終報告」(平成24(2012)年7月31日)

(*20)中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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