このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 第2章 第1節 林業の動向(4)

(4)林業経営の効率化に向けた取組(*42)

我が国の森林資源は、戦後造成された人工林を中心に本格的な利用期を迎えているが、林業経営に適した森林を経済ベースで十分に活用できていない。その理由として、私有林の小規模・分散的な所有構造に加え、山元立木価格が長期的に低いままであることや森林所有者の世代交代等により、森林所有者の森林への関心が薄れていることなどが挙げられる(*43)。

森林所有者の関心を高めるためには、林業が経営的にも持続し、森林所有者へ利益を還元していくことが重要となる。そのためには、施業の集約化や、育林を含む林業の作業システムの生産性の向上、低コスト化等により、林業経営の効率化を図り、林業の成長産業化を推進することが重要である。特集1において、林業経営体による生産性向上や育林コスト低減の取組を記述したが、ここでは、生産性向上の前提となる施業の集約化と路網整備について記述する。


(*42)林業経営の収益性向上の取組(販売強化の取組、木材生産・育林コスト低減の取組)については、特集1第2節19-38ページを参照。

(*43)我が国林業の構造的な課題については、「平成29年度森林及び林業の動向」第1章第1節(3)16-22ページを参照。



(ア)施業の集約化

(a)施業の集約化の必要性

森林所有者自らが経営管理(*44)(所有者自らが民間事業者に経営委託する場合を含む。)を行う意向を有している場合であっても、我が国の私有林の所有構造が小規模・分散的であるため、個々の森林所有者が単独で効率的な森林施業を実施することが難しい場合が多い。このため、隣接する複数の森林所有者が所有する森林を取りまとめて路網整備や間伐等の森林施業を一体的に実施する「施業の集約化」の推進が必要となっている。

施業の集約化により、作業箇所がまとまり、路網の合理的な配置や高性能林業機械を効果的に使った作業が可能となることなどから、様々な森林施業のコスト縮減が期待できる。また、素材生産においては、一つの施業地から供給される木材のロットが大きくなることから、径級や質の揃った木材をまとめて供給するなど需要者のニーズに応えるとともに、供給側が一定の価格決定力を有するようになることも期待できる。


(*44)森林経営管理法第2条第3項において、「経営管理」は、森林について自然的経済的社会的諸条件に応じた適切な経営又は管理を持続的に行うことと定義されている。



(施業集約化を推進する「森林施業プランナー」の育成)

施業の集約化の推進に当たっては、「森林施業プランナー」による「提案型集約化施業(*45)」が行われており、令和3(2021)年3月までに全国で2,405名が認定され、施業団地の取りまとめや森林経営計画の策定支援等を担っている(*46)(事例2-2)。林野庁では、平成19(2007)年度から、民間の林業経営体の職員を対象として、「森林施業プランナー研修」等を実施している。

事例2-2 提案型集約化施業の取組

群馬県北西部に位置する吾妻あがつま森林組合は、厳しい経営状況を改善するため、職員の技術力向上や、安全対策の見直しなど様々な組織改革に取り組み、平成23(2011)年には、管内に群馬県森林組合連合会の渋川しぶかわ県産材センターが設立されたことを契機に、山林の価値向上に取り組むべく、それまでの切捨間伐から搬出間伐への移行を開始した。

搬出間伐への移行に当たっては、効率的な搬出間伐を行うための施業集約化を推進することとし、提案型集約化施業の知識・技術を有する認定森林施業プランナーの資格を職員が取得し、森林所有者に施業内容等を説明するための地区座談会を、令和元(2019)年には8回開催するなど、施業集約化に向けた取組を強化した。

この結果、平成24(2012)年には9団地、67haであった提案型集約化施業(搬出間伐)による実績が、令和2(2020)年には11団地、113haにまで拡大することとなり、搬出材積も約5千m3から約1万4千m3に拡大した。さらに、近年は年間約30haの主伐とカラマツ及びスギの再造林を行っており、約1万3千m3を生産している。

吾妻森林組合では、更なる施業団地の拡大に向けて、組合に在籍する認定森林施業プランナーを施業提案等のプランナー業務に専念させるための業務体制の見直し、より多くの利益を森林所有者へ還元する方法の検討、市町村職員との連携など、新たな取組を続けている。



このほか、情報通信技術(以下「ICT」という。)を活用した新たな林業技術や森林経営管理制度への対応など森林施業プランナーに求められる研修内容の改善を行っている。都道府県等では、地域の実情を踏まえた研修カリキュラムの作成を行っている。平成24(2012)年からは民間団体である「森林施業プランナー協会」がその認定を行うなど、それぞれ役割分担しながら、各地で活躍できる森林施業プランナーの育成を進めている。

認定開始からおよそ10年が経過し、集約化した団地の森林も成長する中、森林施業プランナーの役割としては、集約化や効率的な路網計画、施業の実施に加え、木材の有利販売、伐採後の再造林等が求められる。このため、林野庁では、令和2(2020)年度から、木材の有利販売等の役割を担う森林経営プランナーの育成を開始した(*47)。


(*45)施業の集約化に当たり、林業経営体から森林所有者に対して、施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにした「施業提案書」を提示して、森林所有者へ施業の実施を働き掛ける手法。

(*46)施業集約化を担う人材育成については、特集1第4節(1)44ページも参照。

(*47)森林経営プランナーについては、特集1第4節(1)44-45ページを参照。



(b)施業集約化に資する制度

(森林経営計画制度)

平成24(2012)年度から導入された「森林法(*48)」に基づく森林経営計画制度では、森林の経営を自ら行う森林所有者又は森林の経営の委託を受けた者が、林班(*49)又は隣接する複数林班の面積の2分の1以上の森林を対象とする場合(林班計画)や、所有する森林の面積が100ha以上の場合(属人計画)に、自ら経営する森林について森林の施業及び保護の実施に関する事項等を内容とする森林経営計画を作成できることとされている。森林経営計画を作成して市町村長等から認定を受けた者は、税制上の特例措置や融資条件の優遇に加え、計画に基づく造林、間伐等の施業に対する「森林環境保全直接支援事業」による支援等を受けることができる。

同制度については、導入以降も現場の状況に応じた運用改善を行っている。平成26(2014)年度からは、市町村が地域の実態に即して、森林施業が一体として効率的に行われ得る区域の範囲を「市町村森林整備計画」において定め、その区域内で30ha以上の森林を取りまとめた場合にも計画(区域計画)が作成できるよう制度を見直し、運用を開始した。この「区域計画」は、小規模な森林所有者が多く合意形成に多大な時間を要することや、人工林率が低いこと等により、林班単位での集約化になじまない地域においても計画の作成を可能とするものである。これにより、まずは地域の実態に即して計画を作成しやすいところから始め、計画の対象となる森林の面積を徐々に拡大していくことで、将来的には区域を単位とした面的なまとまりの確保を目指すこととしている(資料2-18)。

しかし、森林所有者の高齢化や相続による世代交代等が進んでおり、森林所有者の特定や森林境界の明確化に多大な労力を要していることから、令和2(2020)年3月末現在の全国の森林経営計画作成面積は495万haで、民有林面積の約29%となっている。

資料2-18 森林経営計画制度の概要

(*48)「森林法」(昭和26年法律第249号)

(*49)原則として、天然地形又は地物をもって区分した森林区画の単位(面積はおおむね60ha)。



(森林経営管理制度)

平成31(2019)年4月から開始された森林経営管理制度(*50)は、経営管理が行われていない森林について、市町村や林業経営者にその経営管理を集積・集約化する新たな制度であり、同制度も運用していくことにより、施業の集約化が進展することが期待されている。


(*50)森林経営管理制度については、第1章第2節(2)80-86ページを参照。



(C)森林情報の把握・整備

森林経営計画の作成など施業の集約化に向けた取組を進めるためには、その前提として、森林所有者、境界等の情報が一元的に把握され、整備されていることが不可欠である。


(所有者が不明な森林の存在)

我が国では、所有森林に対する関心の低下等により、相続に伴う所有権の移転登記がなされないことなどから、所有者が不明な森林も生じている。

国土交通省が実施した平成29(2017)年度地籍調査(*51)における土地所有者等に関する調査によると、不動産登記簿上の土地所有者の住所に調査通知を郵送したところ、土地所有者に通知が到達しなかった割合は筆数ベースで全体の約22%、林地については28%となっている(*52)。

また、「2005年農林業センサス」によると、森林の所在する市町村に居住していない、又は事業所を置いていない者(不在村者)の所有する森林が私有林面積の約4分の1を占めており、そのうちの約4割は当該都道府県外に居住する者等の保有となっている(*53)。

所有者が不明な森林については、固定資産税の課税に支障が生じるなど様々な問題が生じているが、不在村者が所有する森林を含め、このような森林では森林の適切な経営管理がなされないばかりか、施業の集約化を行う際の障害となり、森林の経営管理を集積・集約化していく上での大きな課題となっている。

このほか、令和元(2019)年10月に内閣府が実施した「森林と生活に関する世論調査」で、所有者不明森林の取扱いについて聞いたところ、間伐等何らかの手入れを行うべきとの意見が91%に上っており、所有者不明森林における森林整備等の実施が課題となっている。


(*51)「国土調査法」(昭和26年法律第180号)に基づき、主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査。

(*52)国土交通省「国土審議会土地政策分科会企画部会国土調査のあり方に関する検討小委員会第8回資料」

(*53)農林水産省「2005年農林業センサス」。なお、2010年以降この統計項目は把握していない。



(境界が不明確な森林の存在)

令和2(2020)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」では、林業者690経営体に対して森林の境界の明確化が進まない理由について尋ねたところ、「相続等により森林は保有しているが、自分の山がどこかわからない人が多いから」、「高齢のため現地の立会ができないから」、「境界を明確化するのに費用がかかるから」という回答が多かった(資料2-19)。このような状況から、境界が不明確で整備が進まない森林もみられる。また、こうした状況の下、森林所有者に無断で、立木が伐採された事案も発生している(*54)。


(*54)森林の無断伐採については、第1章第2節(1)77-78ページを参照。



(所有者特定、境界明確化等の森林情報の把握に向けた取組)

森林所有者の特定に向けては、平成24(2012)年度から、新たに森林の土地の所有者となった者に対して、市町村長への届出を義務付ける制度(*55)が開始され、相続による異動や、1ha未満の小規模な森林の土地の所有者の異動も把握することが可能となった(*56)。あわせて、森林所有者等に関する情報を行政機関内部で利用するとともに、他の行政機関に対して、森林所有者等の把握に必要な情報の提供を求めることができることとされた(*57)。

さらに、林野庁では、平成22(2010)年度から、外国人及び外国資本による森林買収について調査を行っており、令和2(2020)年5月には、平成31(2019)年1月から令和元(2019)年12月までの期間における、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収の事例(31件、計163ha)等を公表した(*58)。平成18(2006)年から令和元(2019)年の事例の累計は264件、2,305ha(森林面積全体の0.009%)となっている。林野庁では、引き続き、森林の所有者情報の把握に取り組むこととしている。

境界の明確化に向けては、従来は個別に管理されていた森林計画図や森林簿といった森林の基本情報をデジタル処理し、システムで一元管理することで、森林情報を迅速に把握することが可能な森林GISや高精度のGPS、ドローン等を活用して現地確認の効率化を図る取組(*59)が実施されている。

林野庁では、「森林整備地域活動支援対策」により、森林経営計画の作成や施業の集約化に必要となる森林情報の収集、森林調査、境界の明確化、合意形成活動や既存路網の簡易な改良に対して支援している。

このほか、「国土調査法(*60)」に基づく地籍調査も行われているが、令和元(2019)年度末時点での地籍調査の進捗状況は宅地で51%、農用地で70%であるのに対して、林地(*61)では45%にとどまっている(*62)。このような中で、国土交通省では、令和2(2020)年3月の国土調査法の改正によりリモートセンシングデータを活用した調査手法の導入を措置するなど、山村部における地籍調査の円滑化・迅速化を図るための取組を進めており、また、林野庁においても森林境界を含む森林資源の把握等において航空レーザ計測等によるリモートセンシングデータの取得・活用を進めている。国土交通省と林野庁では、リモートセンシングデータを含め、これらの森林境界明確化活動と地籍調査の成果を相互に活用することなどの連携を通じて、境界の明確化に取り組んでいる(資料2-20)。


(*55)「森林法」第10条の7の2、「森林法施行規則」(昭和26年農林省令第54号)第7条、「森林の土地の所有者となった旨の届出制度の運用について」(平成24(2012)年3月26日付け23林整計第312号林野庁長官通知)

(*56)都市計画区域外における1ha以上の土地取引については、「国土利用計画法」(昭和49年法律第92号)に基づく届出により把握される。

(*57)「森林法」第191条の2、「森林法に基づく行政機関による森林所有者等に関する情報の利用等について」(平成23(2011)年4月22日付け23林整計第26号林野庁長官通知)。

(*58)林野庁プレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」(令和2(2020)年5月8日付け)

(*59)境界確認の効率化の事例については、「平成27年度森林及び林業の動向」第3章第1節(2)の事例3-1(91ページ)、「平成28年度森林及び林業の動向」第3章第1節(2)の事例3-1(93ページ)及び「平成29年度森林及び林業の動向」第1章第3節(3)の事例1-3(31ページ)等を参照。

(*60)「国土調査法」(昭和26年法律第180号)

(*61)地籍調査では、私有林のほか、公有林も対象となっている。

(*62)国土交通省ホームページ「全国の地籍調査の実施状況」による進捗状況。



(林地台帳制度)

平成28(2016)年5月の森林法の改正により、市町村が統一的な基準に基づき、森林の土地の所有者や林地の境界に関する情報等を記載した「林地台帳」を作成し、その内容の一部を公表(*63)する制度が創設された。以降、林野庁から都道府県・市町村に配布された整備・運用マニュアル等に基づき、登記簿等を基に、林地台帳の整備が進められ、平成31(2019)年4月に制度の本格運用を開始した。これにより、前述の新たに土地の所有者となった者の届出や「森林整備地域活動支援対策」の成果等により精度向上を図りつつ、森林経営の集積・集約化を進める林業経営体に対する情報の提供等を行うことが可能となった。

さらに、令和2(2020)年6月に成立した第10次地方分権一括法(*64)により、林地台帳の整備に当たり市町村自ら調査を行って得た情報を活用することができるようになった。これにより、市町村は林地台帳の森林所有者情報を更新する際に、固定資産課税台帳の情報を内部利用することが可能となり、台帳の精度向上につながることが期待される。


(*63)森林の位置や地番の確認を行いやすくして保有森林への関心を高めるほか、森林所有者による林地台帳情報の修正申出を喚起するため、林地台帳の一部及び台帳に付帯する地図を公表(公表することにより個人の権利利益を害するものを除く。)。また、地域の森林整備の担い手による集約化の取組を促進するため、同一の都道府県内で森林経営計画の認定を受けている林業経営体等に対しては、情報提供が可能。

(*64)「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(令和2年法律第41号)



(森林情報の高度利用に向けた取組)

森林資源等に関する情報を市町村や林業経営体等の関係者間で効率的に共有するため、都道府県において森林クラウドの導入が進んでおり、令和2(2020)年3月末現在16道県において導入されている。

加えて、地形等の把握が可能な精度のレーザ計測(照射密度1点/m2)が進みつつあり、森林蓄積等の資源情報が把握可能な、より高精度のレーザ計測(照射密度4点/m2)等によるデータの取得・解析も複数の地方公共団体で実施されている。これらにより把握した情報を森林クラウドに集積することで、市町村や林業経営体等による森林資源情報の高度利用が可能となる(資料2-21)。このため、林野庁では、精度の高い森林資源情報等の把握や共有に森林クラウド等のICTの活用を図る取組を進めているほか、市町村において林地台帳をより効果的に活用できるよう、伐採届の情報と林地台帳上の所有者や境界の情報を照合するようなモデル的なシステム整備等に支援している。

さらに、令和2(2020)年度からは、森林境界の明確化に対して航空レーザ計測等のICT活用の取組も新たに支援している。

資料2-21 森林クラウドを活用した森林施業の集約化のイメージ

(d)施業の集約化等に資するその他の取組

(所有者が不明な森林等への対応)

施業の集約化を進めるためにも、所有者情報の把握や森林境界の明確化を進めることが急務であるが、林業経営体等の民間ベースの活動では、取得できる情報に限りがあるなどの課題があり、所有者情報の把握等については公的主体による取組も期待される。そのような中、森林経営管理法においては、所有者が不明な森林等について、市町村が所有者を探索するなどの一定の手続きを経た上で、市町村が所有者に代わって経営や管理を行う特例も措置されている。また、所有者自らが伐採や造林を行おうとする場合において、所有者の一部が不明であり共有者間での合意形成を図ることができないことへの対応として、市町村や都道府県が関与する一定の手続きを経て、所在の知れた所有者のみで伐採や造林を行うことを可能とする森林法の特例も措置されているところである。実際にこの森林法の特例を活用した森林施業も行われている。


(山林に係る相続税の特例措置等)

大規模に森林を所有する林家では、相続を契機として、所有する森林の細分化、経営規模の縮小、後継者による林業経営自体の放棄等の例がみられる。林家を対象として、林業経営を次世代にわたって継続するために求める支援や対策について尋ねたところ、保有山林面積規模が500ha以上の林家では、「相続税、贈与税の税負担の軽減」と回答した林家が53%で最も多かった(*65)。

このような中で、山林に係る相続税については、評価方法の適正化や評価額の軽減等を図る措置を講ずるとともに、森林施業の集約化や路網整備等による林業経営の効率化と継続確保を図るため、効率的かつ安定的な林業経営を実現し得る中心的な担い手への円滑な承継を税制面で支援する「山林に係る相続税の納税猶予制度(*66)」が設けられており、その制度の利用の促進を図っている。


(*65)農林水産省「林業経営に関する意向調査」(平成23(2011)年3月)

(*66)一定面積以上の森林を自ら経営する森林所有者を対象に、経営の規模拡大、作業路網の整備等の目標を記載した森林経営計画が定められている区域内にある山林(林地・立木)を、その相続人が相続又は遺贈により一括して取得し、引き続き計画に基づいて経営を継続する場合は、相続税額のうち対象となる山林に係る部分の課税価格の80%に対応する相続税の納税猶予の適用を受けることができる制度(平成24(2012)年4月創設)。



(イ)路網の整備

(路網の整備が課題)

路網は、木材を安定的に供給し、森林の有する多面的機能を持続的に発揮していくために必要な造林、保育、素材生産等の施業を効率的に行うためのネットワークであり、林業の最も重要な生産基盤である。また、路網を整備することにより、作業現場へのアクセスの改善、機械の導入による安全性の向上、労働災害時の搬送時間の短縮等が期待できることから、林業の労働条件の改善等にも寄与するものである。

このような中、我が国においては、地形が急しゅんで、多種多様な地質が分布しているなど厳しい条件の下、路網の整備を進めてきたところであり、令和元(2019)年度末の総延長は38.3万kmとなっている。しかしながらその内訳を見ると、相対的にコストの低い森林作業道の整備は進んでいるが、10トン積以上のトラックが通行できる林道(林業専用道を含む。)の整備が遅れている。流通コストの低減にはセミトレーラ等の大型車両により木材を効率的に運搬することが重要であり、タワーヤーダ等大型の高性能林業機械を搬送・配置するためにも、林道の整備を進めていくことが不可欠である。

さらに、前線、台風等に伴う豪雨が頻発し山地災害が激甚化する中で、既設林道では、年間の被災延長が開設延長を上回る状態となっている。一方で、豪雨等の自然災害により一般公道が不通となった際に、林道が代替路として活用される事例もあり、地域への貢献という意味でも災害に強い路網の整備が求められている。

このため、林野庁では、令和2(2020)年に「今後の路網整備のあり方検討会」を開催し、災害に強く木材の大量輸送等に対応した林道の開設・改良に集中的に取り組む等、今後の路網整備の方向性を整理し公表した。


(適切な路網の作設を推進)

林野庁では、路網を構成する道を、一般車両の走行も想定した幹線、支線等の「林道」、主として森林施業に使用する林道で、普通自動車(10トン積トラック)等の走行を想定した「林業専用道」及びフォワーダ等の林業機械の走行を想定した「森林作業道」の3区分に整理して、傾斜や対応する作業システムに応じ、これらをバランスよく組み合わせた路網の整備を進めていくこととしている(資料2-22)。

資料2-22 路網整備における路網区分及び役割

また、適切な路網の作設を推進するため、林野庁では林道規程や林業専用道及び森林作業道の作設指針(*67)を策定し、各都道府県では、これらを基本としつつ、地域の特性を踏まえた独自の路網作設指針等を策定して、路網の整備を進めている(*68)。令和元(2019)年度には、全国で林道(林業専用道を含む。)等(*69)557km、森林作業道14,125kmが開設されている。

引き続き各地域において、上述した指針等に基づき、地形・地質等の自然条件や森林資源の状況、開設から維持管理までのトータルコスト等も視野に入れて、強靱で災害に強く、安全で効率的な森林施業・木材生産が可能な路網を整備していくことが期待される。例えば、新規開設路線においては河川沿いを避けた線形や土場等の林業作業用施設を附帯した設計とすることなどに加え、既設路線においても、法面の保護、排水施設の改良、曲線部の拡幅等を行うなど、新設・既設の双方について、必要な整備を進めることが重要である。


(*67)「林業専用道作設指針」(平成22(2010)年9月24日付け22林整整第602号林野庁長官通知)、「森林作業道作設指針」(平成22(2010)年11月17日付け22林整整第656号林野庁長官通知)

(*68)なお、林業専用道については、現地の地形等により作設指針が示す規格・構造での作設が困難な場合には、路線ごとの協議により特例を認めることなどにより、地域の実情に応じた路網整備を支援することとしている。

(*69)主として木材輸送トラックが走行する作業道を含む。



(路網整備を担う人材を育成)

路網の作設に当たっては、現地の地形や地質、林況等を踏まえた路網ルートの設定と設計・施工が重要であり、高度な知識・技能が必要である。このため、林野庁では、林業専用道等の路網作設に必要な計画や設計、作設及び維持管理を担う技術者の育成を目的とし、国有林野をフィールドとして活用するなどしながら、平成23(2011)年度から「林業専用道技術者研修」を実施しており、令和元(2019)年度までに2,263人が修了し、地域の路網整備の推進に取り組んでいる。

また、平成22(2010)年度から森林作業道を作設する高度な技術を有するオペレーターの育成を目的とした研修を実施し、平成29(2017)年度までに1,629人を育成した。平成30(2018)年度からは、ICT等先端技術を活用した路網作設ができる高度な技術を有する者を育成する研修に取り組んでおり、令和元(2019)年度までに468人が受講した。

現場での路網整備を進める上で指導的な役割を果たす人材の育成にも取り組んでおり、これらの研修の受講者等は、各地域で伝達研修等に積極的に取り組んでいる。令和元(2019)年度は全国で129回の現地検討会等を開催し、2,919人が参加した。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader