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第1部 第1章 第4節 国際的な取組の推進(1)

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森林は、気候変動の緩和、生物多様性の保全、土壌や水の保全、自然災害リスクの軽減、木材、食料、燃料、飼料等の供給など、人類の生存に不可欠な財やサービスを提供しているが、農地への転用等に起因する減少・劣化(*122)の影響が懸念されており、持続可能な森林経営の推進や地球温暖化防止に向けた国際的な取組が進められている。

以下では、持続可能な森林経営の推進、地球温暖化対策と森林、生物多様性に関する国際的な議論及び我が国による森林分野での国際協力について記述する。


(*122)FAO「世界森林資源評価2020(Global Forest Resources Assessment 2020)」では、人為活動・自然災害・火災等の要因によって森林のもつ様々な機能が低下することと記述されている。



(1)持続可能な森林経営の推進

(世界の森林の減少傾向が鈍化)

国際連合食糧農業機関(FAO(*123))の「世界森林資源評価2020」によると、2020年の世界の森林面積は約41億haであり、世界の陸地面積の31%を占めている(*124)。

1990年以降の世界の森林面積は、アジアでは中国の植林等により増えているものの、アフリカ、南米等では熱帯林が減っており、世界全体としては減り続けている。この森林が失われる面積の年平均は1990年から2000年の10年間については7.8百万ha、2010年から2020年の10年間については4.7百万haとなり、縮小傾向にある。これは、開発等による森林減少面積が近年縮小しているためである(資料1-37)。また、FAOの「世界森林白書2020(*125)」によると、ラテンアメリカやアフリカ等の熱帯及び亜熱帯地域における森林減少の7割以上が農業開発(商業生産・自給)に起因している(資料1-38)。

また、FAOは、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的に経済が停滞し、都市部の雇用が減少することによる農村部への人口移動、薪や食料など様々な生活必需品を提供する森林への圧力の増大、短期的な経済復興の優先等から、森林資源の過剰採取、違法伐採等が増加し、森林の減少及び劣化が拡大するおそれを指摘している。


資料1-38 地域別の森林減少の要因(2000~2010年)

(*123)「Food and Agriculture Organization of the United Nations」の略。各国国民の栄養水準と生活水準の向上、食料及び農産物の生産及び流通の改善並びに農村住民の生活条件の改善を目的として、昭和20(1945)年に設立された国連専門機関であり、本部をイタリアのローマに置いている。

(*124)FAO(2020)世界森林資源評価2020メインレポート:14.

(*125)FAO「State of the World's Forests 2020」。世界森林白書は、2年に1度FAOが公表する世界の森林に関する動向報告であり、2020年は生物多様性保全について特集。



(国連における「持続可能な森林経営」に関する議論)

持続可能な森林経営の推進に向けては、1992年の「国連環境開発会議(UNCED(*126))」(以下「地球サミット」という。)において「森林原則声明(*127)」が採択されて以降、国連の場で政府間対話が継続的に開催されている(資料1-39)。2000年には「森林に関する国際的な枠組(*128)(IAF(*129))」が採択され、本枠組に基づき2001年以降は、経済社会理事会の下に設置された「国連森林フォーラム(UNFF(*130))」において、各国政府、国際機関等が森林問題の解決策を議論している。


2015年5月に開催された「UNFF第11回会合」(UNFF11)において、IAFを強化した上でこれを2030年まで延長すること等が決定された。

2015年9月には、国連サミットにおいて「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」が採択され、持続可能な環境や社会を実現するために先進国及び開発途上国を含む全ての国が取り組むべき目標として、SDGs(持続可能な開発目標)が示された。森林は、目標15において、「持続可能な森林の経営」が掲げられているほか、17の目標の多くに関連する。

2017年4月には、延長されたIAFの戦略計画である「国連森林戦略計画2017-2030(UNSPF(*131))」がUNFFでの議論を経て国連総会で採択された。UNSPFは、SDGsを始めとする国際的な目標等における森林分野の貢献を目的に、世界の森林減少の反転や森林劣化の防止、森林を基盤とする経済的、社会的、環境的な便益の強化など、2030年までに達成すべき6の「世界森林目標」及び26のターゲットが掲げられている。

また、FAOにおいては、2020年10月に「第25回FAO林業委員会(COFO25(*132))」が開催され、SDGs、パリ協定等の国際的な開発アジェンダの達成、新型コロナウイルスの感染拡大からの回復及び農業と食料システムの変革に向けて森林が果たすべき役割等について議論が行われた。


(*126)「United Nations Conference on Environment and Development」の略。

(*127)正式名称は「Non-legally binding authoritative statement of principles for a global consensus on the management, conservation and sustainable development of all types of forests(全ての種類の森林の経営、保全及び持続可能な開発に関する世界的合意のための法的拘束力のない権威ある原則声明)」。世界の全ての森林における持続可能な経営のための原則を示したものであり、森林に関する初めての世界的な合意である。

(*128)UNFF及びそのメンバー国、「森林に関する協調パートナーシップ」、森林の資金動員戦略の策定を支援する「世界森林資金促進ネットワーク」及びUNFF信託基金から構成される。

(*129)「International Arrangement on Forests」の略。

(*130)「United Nations Forum on Forests」の略。

(*131)「United Nations Strategic Plan for Forests 2017-2030」の略。

(*132)「The twenty-fifth session of the Committee on Forestry」の略。



(アジア太平洋地域における「持続可能な森林経営」に関する議論)

「アジア太平洋経済協力(APEC(*133))林業担当大臣会合」は、第4回会合が2017年に開催され、各エコノミー(*134)は、2020年までに域内で森林面積を少なくとも2,000万ha増加させるという目標に貢献するなど、8の目指すべき活動を盛り込んだ「第4回APEC林業閣僚会議のソウル声明」を採択した(*135)。

また、2020年10月に開催された「ASEAN+3農林大臣会合(東南アジア諸国連合(*136)(ASEAN(*137))及び日中韓)」では、持続可能な森林経営、気候変動の緩和と適応等に関して、我が国始め各国の協力の取組の進捗状況が報告された。

さらに、我が国は、中国、韓国及びインドとの間で森林・林業分野に関する二国間・三国間の定期対話を行ってきており、今後の協力の進め方や課題等について協議した。


(*133)「Asia Pacific Economic Cooperation」の略。

(*134)APECに参加する国・地域をエコノミー(economy)という。現在、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、シンガポール、台湾、タイ、アメリカ、ベトナムの21エコノミーが参加。

(*135)APECホームページ「2017 APEC Meeting of Ministers Responsible for Forestry」

(*136)インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアから構成。

(*137)「Association of Southeast Asian Nations」の略。



(持続可能な森林経営の「基準・指標」)

地球サミット以降、持続可能な森林経営の進展を評価するための、国際的な「基準・指標(*138)」の作成及び評価が進められている。現在、熱帯木材生産国を対象とした「国際熱帯木材機関(ITTO(*139))基準・指標」、欧州諸国による「フォレスト・ヨーロッパ」、我が国を含む環太平洋地域の温帯林・亜寒帯林諸国による「モントリオール・プロセス」など、世界の各地域において取組が進められている。

「モントリオール・プロセス」には、カナダ、米国、ロシア、我が国等の12か国(*140)が参加し、共通の「基準・指標」に基づき各国の森林経営の持続可能性の評価及び公表に取り組んでいる。現在の「基準・指標」は、2008年に指標の一部見直しが行われ、7基準54指標から構成されている(資料1-40)。我が国は2007年から2020年まで事務局を担当するなど、対話の推進に貢献した。


(*138)「基準」とは、森林経営が持続可能であるかどうかをみるに当たり森林や森林経営について着目すべき点を示したもの。「指標」とは、森林や森林経営の状態を明らかにするため、基準に沿ってデータやその他の情報収集を行う項目のこと。

(*139)「The International Tropical Timber Organization」の略。同機関の概要については、第4節(4)115ページを参照。

(*140)アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、チリ、中国、日本、韓国、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、米国、ウルグアイ。



(違法伐採対策に関する国際的な枠組み)

森林の違法な伐採は、地球規模の環境保全や持続可能な森林経営を著しく阻害する要因の一つであることから、国際的な枠組みでの違法伐採に対処する取組及び合法伐採木材の貿易を促進する取組が進められている(*141)。

我が国は、熱帯木材生産国における適切な森林管理に向けて、ITTOを通じ、フィリピン、モザンビーク、パナマ等におけるプロジェクトに資金拠出を行ってきた(事例1-5)。

2020年には、新たに、我が国の拠出により、グアテマラにおける木材サプライチェーンの透明性向上のための制度構築とアフリカ地域における合法木材利用に関する認識向上及び合法性確認に関する能力開発の二つのプロジェクトが開始された。

APECでは2011年に「違法伐採及び関連する貿易専門家グループ(EGILAT(*142))」が設立され、我が国は当初からこれに参加している。EGILATでは、違法伐採対策及び合法伐採木材の貿易の推進に関する情報・取組の共有や意見交換、関係者の能力開発等について、APECエコノミーが協力して取り組んでいる。2020年8月及び2021年2月にウェブ上で開催された同会合では、各エコノミーの違法伐採対策に係る取組状況について、報告、意見交換等が行われた。我が国は「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(*143)」(クリーンウッド法)の概要や、同法に基づく登録木材関連事業者の増加状況等について説明を行った(*144)。

事例1-5 国際熱帯木材機関(ITTO)への拠出によるパナマでの違法伐採対策プロジェクト

林野庁は、平成28(2016)年から令和2(2020)年にかけて、ITTOへの資金拠出を通じて、パナマにおける違法伐採対策のプロジェクトを支援した。

パナマでは、国内における伐採量の30~51%が違法伐採という推計もあり、違法に伐採された木材を市場から排除することが重要な課題となっていた。

このため、パナマ政府は、流通する木材が合法に伐採されたものであることを確認できるようにするため、ITTOの支援を受けて、立木から製品までの流通履歴をバーコードで追跡できる技術を開発し、試行的な運用を行うこととした。

このバーコードは、大きさ5cm程度のチップに記載されている。伐採前の立木にチップを取り付けた後、スマートフォンでバーコードを読み取り、伐採箇所、樹種、樹高、直径等の情報を入力する。製品への加工後も、同じ情報を記録したチップが取り付けられ、輸送経路のチェックポイント等で、どの立木から加工されたかを確認することができる。

本システムにより、伐採地の由来が不明な木材を市場から排除するとともに、行政機関も、伐採許可等の事務手続の合理化や伐採量の的確な把握を行うことが可能となる。

今回の試行では、同国東部ダリエン地域を中心に、20のサイトを設定し、サイトから伐採・搬出された全ての木材にバーコードを貼付して、実際に流通経路での確認を行うことにより、本システムの有効性を確認することができた。同国の森林局長は、本システムの導入後、同地域で、違法伐採が90%減少したことを報告している。

今回の成果を踏まえて、パナマの環境省は、ITTOに対して、同様のシステムを国内に普及するための新たなプロジェクトを提案している。




(*141)違法伐採対策については、第3章第1節(4)164-166ページを参照。

(*142)「Experts Group on Illegal Logging and Associated Trade」の略。

(*143)「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(平成28年法律第48号)

(*144)18th EGILAT (2020年8月)、19th EGILAT(2021年2月)、APEC EGILATホームページを参照。



(森林認証の取組)

森林認証制度は、第三者機関が、森林経営の持続性や環境保全への配慮等に関する一定の基準に基づいて森林を認証するとともに、認証された森林から産出される木材及び木材製品(認証材)を分別し、表示管理することにより、消費者の選択的な購入を促す仕組みである。

国際的な森林認証制度としては、世界自然保護基金(WWF(*145))を中心に発足した森林管理協議会(FSC(*146))が管理する「FSC認証」と、ヨーロッパ11か国の認証組織により発足したPEFC(*147)森林認証プログラムが管理する「PEFC認証」の二つがあり、令和2(2020)年12月現在、それぞれ2億2,162万ha(*148)、3億2,459万ha(*149)の森林を認証している。このうちPEFC認証は、世界40か国の森林認証制度との相互承認の取組を進めており、認証面積は世界最大となっている。

我が国独自の森林認証制度としては、一般社団法人緑の循環認証会議(SGEC/PEFC-J(*150))が管理する「SGEC認証」がある。モントリオール・プロセスの基準・指標を基本に作られたSGEC認証は、平成28(2016)年6月には、PEFC認証との相互承認が実現し、SGEC認証を受けていることで、PEFC認証を受けた木材及び木材製品として取り扱うことができるようになった。

また、認証材は、外見が非認証材と区別がつかないことから、両者が混合しないよう、加工及び流通の過程において、その他の木材と分別して管理する必要がある。このため、各工場における木材及び木材製品の分別管理体制を審査し、承認する制度(CoC(*151)認証)が導入されており、令和2(2020)年12月現在、FSC認証、PEFC認証のCoC認証は、世界で延べ5万7千件以上の取得がなされている(*152)。


(*145)「World Wide Fund for Nature」の略。

(*146)「Forest Stewardship Council」の略。

(*147)「Programme for the Endorsement of Forest Certification」の略。

(*148)FSC「Facts & Figures」(2020年12月1日)

(*149)PEFC「PEFC Global Statistics:SFM & CoC Certification」(2020年12月)

(*150)「Sustainable Green Ecosystem Council endorsed by Programme for the Endorsement of Forest Certification schemes」の略。

(*151)「Chain of Custody(管理の連鎖)」の略。

(*152)FSC「Facts & Figures」、PEFC「PEFC Global Statistics:SFM & CoC Certification」



(我が国における森林認証の状況)

我が国における森林認証は、主にFSC認証とSGEC認証によって行われており、令和2(2020)年12月現在の国内における認証面積は、FSC認証が約41万ha、SGEC認証が約216万haとなっている(資料1-41)。森林面積に占める認証森林の割合は、欧州や北米の国々に比べて低位にある(資料1-42)。CoC認証の取得件数については、我が国でFSC認証が1,627、SGEC認証(PEFC認証を含む(*153))は542となっている(*154)。


令和2(2020)年に農林水産省が実施した「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」で、林業者690経営体に対して森林認証の取得に当たり障害と思われることについて尋ねたところ、「森林の所有規模が小さく、取得しても十分に活用できないこと」、「森林認証材が十分に評価されていないこと」、「取得時及びその後の維持に費用がかかること」という回答が多かった(資料1-43)。また、消費者1,000名に対し、森林認証のマークを示し、その認知度について尋ねたところ、「意味を知っている」と答えた消費者は3.6%にとどまった。これらの結果から、認証森林の割合が低位にとどまっている要因として、消費者の森林認証制度に対する認知度が低く、林業者がメリットを期待できないことが考えられる。

林野庁では、森林認証制度や森林認証材の普及促進や、森林認証材の供給体制の構築に取り組む地域に対して支援している。また、令和3(2021)年に開催される「2020年東京オリンピック競技大会・パラリンピック競技大会」の競技施設では、それぞれの整備主体が定める調達基準により、森林認証材等の木材が使用されており、これらの取組が森林認証取得への後押しとなることが期待される。


(*153)相互承認によりいずれかのCoC認証を受けていれば、SGEC認証森林から生産された木材を各認証材として取り扱うことができる。

(*154)FSC「Facts & Figures」(令和2(2020)年12月1日現在)、SGEC/PEFC-J「SGEC-FM認証事業体リスト」、「SGEC/PEFC-CoC認証事業体リスト」(令和2(2020)年12月31日現在)



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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