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第1部 第1章 第4節 国際的な取組の推進(2)

(2)地球温暖化対策と森林

(国際的枠組みの下での地球温暖化対策)

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)(*155)が2018年10月に発表した「1.5℃特別報告書(*156)」によると、地球の平均気温は工業化以前の水準に比べて人間活動により約1.0度上昇したと推定されている。また、地球温暖化による気象災害の増加や農作物への影響などの自然及び人間システムに対する負の影響は既に観察されており、更なる地球温暖化により健康、生計、食料安全保障、水供給、人間の安全保障及び経済成長に対するリスクは増大するとしている。同時に、現在既に実施されている適応策及び緩和策の規模の拡大や加速化、革新的な取組により、これらのリスクが低減することも示唆している。

地球温暖化は、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つであり、その原因と影響は地球規模に及ぶため、1980年代以降、様々な国際的対策が行われてきた。我が国は、国際社会の一員として、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行う「緩和策」として森林吸収源対策等に取り組んでいるほか、気候変動によって既に現れている影響や避けられない影響に対する「適応策」として山地災害予防対策等を実施することにより、国内外で地球温暖化対策を推進している。


(*155)気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)について取りまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的として、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)の下に設立された組織。IPCCは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略。

(*156)正式には、「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書」。



(気候変動枠組条約と京都議定書)

1992年には、地球温暖化防止のための国際的な枠組みとして「気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約(UNFCCC(*157)))」が採択された。同条約では、気候システムに危険な影響をもたらさない水準で、大気中の温室効果ガス濃度を安定化することを目的として、国際的な取組を進めることとされた。

また、平成9(1997)年には、京都市で「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」が開催され、条約の目的をより実効的に達成するための法的枠組みとして、先進国の温室効果ガスの排出削減目標等を定める「京都議定書」が採択された。同議定書では、2013年から2020年までの8年間を「第2約束期間」としており(*158)、2011年に開催された「国連気候変動枠組条約第17回締約国会議(COP17(*159))」では、同期間における各国の森林経営活動による吸収量の算入上限値を1990年総排出量の3.5%とすること、国内の森林から搬出された後の木材(伐採木材製品(HWP(*160)))における炭素貯蔵量を評価し、炭素蓄積の変化量を各国の温室効果ガス吸収量又は排出量として計上することなどが合意された(*161)。

我が国は、第2約束期間においては同議定書の目標を設定していないが、温室効果ガスの一層の削減の必要性を認めたCOP16の「カンクン合意」に基づき、2020年度の温室効果ガス削減目標を2005年度総排出量比3.8%減以上として国連気候変動枠組条約事務局に登録し、「地球温暖化対策計画(*162)」に従い森林吸収源対策により約3,800万CO2トン(2.7%)以上の吸収量を確保することとしている(*163)。なお、第2約束期間の目標を設定していない先進国も、COP17で合意された第2約束期間の森林等吸収源のルールに則して、2013年以降の吸収量の報告を行い、審査を受けることとなっている(*164)。


(*157)「United Nations Framework Convention on Climate Change」の略。

(*158)2008年から2012年までの5年間を「第1約束期間」とし、この期間において我が国は、基準年(1990年)比6%の削減目標を達成し、このうち森林吸収量については目標であった3.8%分を確保した。

(*159)ここでは、「COP11」以降の「COP」は、「京都議定書締約国会合(CMP)」を含む一般的な呼称として用いる。

(*160)「Harvested Wood Products」の略。

(*161)京都議定書第2約束期間における森林関連分野の取扱いについては、「平成24年度森林及び林業の動向」第3章第3節(2)78-80ページを参照。

(*162)地球温暖化対策計画については、第4節(2)111-112ページを参照。

(*163)平成25(2013)年11月に国連気候変動枠組条約事務局に暫定の削減目標として3.8%減を登録、平成28(2016)年5月の地球温暖化対策計画の閣議決定を踏まえて、改めて同7月に3.8%減以上とする削減目標を正式に登録している。

(*164)農林水産省プレスリリース「「気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」、「京都議定書第11回締約国会合(CMP11)」等の結果について」(平成27(2015)年12月15日付け)



(2020年以降の法的枠組みである「パリ協定」等)

また、COP17における合意に基づき、全ての締約国に適用される2020年以降の新たな法的枠組みについて交渉が進められた結果、2015年のCOP21では、2020年以降の気候変動対策について、先進国、開発途上国を問わず全ての締約国が参加する公平かつ実効的な法的枠組みである「パリ協定(*165)」が採択された(*166)(資料1-44)。同協定は2016年11月に発効し、我が国は同月に同協定を締結している(*167)。

2018年のCOP24では、2020年以降のパリ協定の本格運用に向けて、パリ協定の実施指針が採択された。実施指針では、これまで使用してきた方法により温室効果ガスの排出・吸収量を計上することが認められたため、パリ協定の下でも、森林の適切な経営管理や木材利用を進めることで、我が国の森林が吸収源として評価され、排出削減目標の達成に貢献することが可能となった。

資料1-44 「パリ協定」の概要

(*165)「Paris Agreement」の日本語訳。

(*166)「平成27年度森林及び林業の動向」トピックス4(5ページ)も参照。

(*167)外務省プレスリリース「パリ協定の受諾書の寄託」(平成28(2016)年11月8日付け)



(「地球温暖化対策計画」に基づき対策を推進)

政府は、パリ協定や平成27(2015)年に気候変動枠組条約事務局へ提出した約束草案(*168)等を踏まえ、我が国の地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するための「地球温暖化対策計画」を、平成28(2016)年5月に閣議決定した。同計画では、令和2(2020)年度の温室効果ガス削減目標を平成17(2005)年度比3.8%減以上、令和12(2030)年度の温室効果ガス削減目標を平成25(2013)年度比26.0%減とし、この削減目標のうち、それぞれ約3,800万CO2トン(2.7%)以上、約2,780万CO2トン(2.0%)を森林吸収量で確保することを目標としている(資料1-45)。この目標達成のため、適切な間伐等による健全な森林整備や、保安林等の適切な管理・保全、効率的かつ安定的な林業経営体の育成、国民参加の森林もりづくりの推進、木材及び木質バイオマス利用の推進等の森林吸収源対策に総合的に取り組むことが明記されている。森林吸収量には、HWPによる炭素貯蔵量の変化量も含まれており、令和元(2019)年度における森林吸収量は1,170万炭素トン(約4,290万CO2トン)、このうちHWPによる貯蔵量は103万炭素トン(約379万CO2トン)となっている(*169)。

平成29(2017)年3月には、農林水産省において、同計画に掲げられた農林水産分野における地球温暖化対策を推進するため、その取組の推進方向を具体化した「農林水産省地球温暖化対策計画」を策定した。

資料1-45パリ協定における我が国の温室効果ガス削減と森林吸収量の目標 「パリ協定」の概要

(*168)自国が決定する貢献案。平成27(2015)年7月に地球温暖化対策推進本部で令和12(2030)年度に平成25(2013)年度比で26.0%減とすることを決定。

(*169)二酸化炭素換算の吸収量(CO2トン)については、環境省プレスリリース「2019年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」(令和3(2021)年4月13日付け)による。CO2トンは、炭素換算の吸収量(炭素トン)に44/12を乗じて換算したもの。



(「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の策定等)

パリ協定においては、温室効果ガスの低排出型の発展のための長期的な戦略を策定、通報することが要請されている。このため、政府は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を令和元(2019)年6月に閣議決定した。同戦略では、最終到達点として今世紀後半のできるだけ早期に「脱炭素社会」の実現を目指すとともに、2050年までに80%の温室効果ガスの削減に大胆に取り組むとし、排出削減対策とともに、間伐や早生樹等の植栽を含む再造林等の適切な森林整備、木材利用の拡大に向けたイノベーションの創出、木質バイオマス由来マテリアルの用途拡大などの森林吸収源対策等に取り組むこととした。

さらに、第203回国会(臨時会)における菅内閣総理大臣所信表明演説(2020年10月26日)において、我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことが宣言された。今後、地球温暖化対策計画やパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略等の見直しが予定されている。


(開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)への対応)

開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の約1割を占めるとされ(*170)、地球規模の課題となっている。このため、パリ協定においては、開発途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減並びに森林保全、持続可能な森林経営及び森林炭素蓄積の強化(REDD+(レッドプラス)(*171))の実施及び支援が奨励されている。

我が国は、REDD+の推進に資する人材育成、荒廃地等での植林技術や森林資源の持続的活用手法の開発・普及等により開発途上国の取組を支援している。また、民間企業による活動を促進するため、二国間クレジット制度(*172)(JCM(*173))の下でREDD+を実施するための規則やガイドライン類の策定支援を進めており、令和2(2020)年12月現在、カンボジア及びラオスとの間でガイドライン類が策定されている。

さらに、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所に平成22(2010)年に開設されたREDD研究開発センターでは、民間企業の活動を支援するため、REDD+の実施に必要とされる技術の開発や技術解説書による情報提供等に取り組んできた。令和3(2020)年9月1日には、気候変動緩和策と適応策の両面について取り組むべく、「REDDプラス・海外森林防災研究開発センター」として機能を強化し、引き続き民間企業のREDD+活動を支援していくこととしている。

また独立行政法人国際協力機構(JICA)とREDD研究開発センターが平成26(2014)年に立ち上げた「森から世界を変えるREDD+プラットフォーム」は、関係省庁、民間企業、NGO等が連携を強化し、情報を発信・共有する場として、90団体の加盟を得て、セミナーや動画配信等の様々な活動が行われてきたが、令和2(2020)年12月末で予定の設置期間を迎え一旦活動を終了した。令和3(2021)年以降は、同プラットフォームは、名称を変更しREDD+だけでなくより幅広い森林分野の活動について、多様な関係者の情報交換や連携を図る場として継続していく。

国際機関を通じた協力としては、我が国はこれまでに、2007年に世界銀行が設立した「森林炭素パートナーシップ基金(FCPF(*174))」の準備基金(*175)に14百万ドル、森林減少を抑制するための拡大資金を提供する世界銀行の森林投資プログラム(FIP(*176))に60百万ドル、開発途上国のREDD+戦略の準備や実施を支援するためにFAO、国連開発計画(UNDP(*177))及び国連環境計画(UNEP(*178))が設立したプログラムであるUN-REDDに3百万ドルを拠出している。また、開発途上国の気候変動対策を支援する多国間資金である「緑の気候基金(GCF(*179))」への資金拠出(初期拠出15億ドル、第一次増資15億ドル)を通じ、REDD+実施による排出削減成果に応じた支払を実施するなど開発途上国のREDD+活動を支援している。


(*170)IPCC(2014)IPCC Fifth Assessment Report: Climate Change 2014: Synthesis Report: 88.

(*171)Reducing emissions from deforestation and forest degradation, and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in developing countriesの略。

(*172)開発途上国への温室効果ガス削減技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成に活用するもの。

(*173)「Joint Crediting Mechanism」の略。

(*174)「Forest Carbon Partnership Facility」の略。

(*175)開発途上国に対して、森林減少の抑制やモニタリング等のための能力の向上(技術開発や人材育成)を支援するための基金。

(*176)「Forest Investment Program」の略。

(*177)「United Nations Development Programme」の略。

(*178)「United Nations Environment Programme」の略。

(*179)「Green Climate Fund」の略。



(気候変動への適応)

農林水産省は、平成27(2015)年8月に「農林水産省気候変動適応計画」を策定した。同計画の内容は、同年11月に策定された政府全体の「気候変動の影響への適応計画」に反映されている。また、平成29(2017)年3月には「農林水産省地球温暖化対策計画」の策定を踏まえた改定により国際協力等の追加が行われたほか、平成30(2018)年11月には「気候変動適応法(*180)」に基づき策定された「気候変動適応計画」の内容を踏まえて改定された。

「農林水産省気候変動適応計画」及び「気候変動適応計画」では、将来、気候変動による豪雨の発生頻度や台風の最大強度の増加等が予測されている。これらに対応するため、森林・林業分野においては、山地災害が発生する危険性の高い地区のより的確な把握を行い、土砂流出防備保安林等の計画的な配備を進めるとともに、土石流等の発生を想定した治山施設の整備や健全な森林の整備、集中豪雨の発生頻度の増加を考慮した林道施設の整備等を実施するほか、渇水等に備えた森林の水源かん養機能の適切な発揮に向けた森林整備、高潮や海岸侵食に対応した海岸防災林の整備等を推進していくこととしている。また、気候変動による影響についての知見が十分ではないことから、人工林における造林樹種の成長等に与える影響や天然林における分布適域の変化等の継続的なモニタリングや影響評価、高温・乾燥ストレス等の気候変動の影響に適応した品種開発等の調査・研究を推進していくとともに、被害先端地域における松くい虫被害の拡大防止(*181)や、国有林野における「保護林」や「緑の回廊」の保護・管理等についても積極的に取り組んでいくこととしている。

また、気候変動や山地の荒廃等が災害発生リスクの増加の要因となっていることを踏まえ、我が国は開発途上国において、我が国民間企業の海外展開の推進も念頭に、開発途上国の防災・減災等の機能強化に資する森林技術の開発や情報発信を実施している。

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所REDDプラス・海外森林防災研究開発センターでは、開発途上国における森林を活用した減災・防災機能の強化を通じた気候変動適応策に取り組んでいる。さらにGCFでは、開発途上国の気候変動対策を支援するという基本方針に基づき、REDD+活動への支援のみならず、生態系や水資源の保全など適応分野での支援についても積極的に行っていくこととしている。


(*180)「気候変動適応法」(平成30年法律第50号)

(*181)松くい虫被害の拡大防止対策については、第3節(4)100-101ページを参照。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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