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林野庁

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第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(3)

(3)社会全体で支える森林もりづくり

山地災害防止や地球温暖化防止への関心に加えて、近年は社会・経済の持続性への危機意識やESG投資(*59)の拡大の流れを背景に、市民や企業の間でSDGsへの関心が高まっている。このような中、林業・木材産業関係者を中心に企業、個人、行政等が連携して多様な主体による様々な森林もりづくり活動が行われている(*60)。


(*59)従来の財務情報に加え、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を判断材料とする投資手法。The Global Sustainable Investment Alliance “2018 Global Sustainable Investment Review” によると、世界全体のESG投資額は、2016年から2018年までの2年間で34%増加し、30兆6,830億ドルとなった。

(*60)多様な主体による森林づくり活動の取組事例については、「令和元年度森林及び林業の動向」特集第2節(1)12-14ページを参照。



(ア)国民参加の森林もりづくりと国民的理解の促進

(「全国植樹祭」・「全国育樹祭」の開催)

国土緑化運動の中心的な行事である「全国植樹祭」が、天皇皇后両陛下の御臨席を仰いで毎年春に開催されている。第1回の全国植樹祭は、昭和25(1950)年に山梨県で「荒廃地造林」をテーマに開催された。

「全国育樹祭」は、皇族殿下によるお手入れや参加者による育樹活動等を通じて、森を守り育てることの大切さについて国民の理解を深めることを目的として毎年秋に開催されている。第1回の全国育樹祭は、昭和52(1977)年9月に大分県で開催された。

令和2(2020)年度の「第71回全国植樹祭」及び「第44回全国育樹祭」については、新型コロナウイルス感染症対策に鑑み令和3(2021)年度に延期された。令和3(2021)年5月に「第71回全国植樹祭」が島根県で開催され、同年10月に「第44回全国育樹祭」が北海道で開催される予定である。


(多様な主体による森林もりづくり活動が拡大)

NPO、企業等の多様な主体により森林もりづくり活動が行われており、林野庁では、これらの活動を促進するための支援を行っている。

森林もりづくり活動を実施している団体の数は、平成30(2018)年度は3,303団体であり、平成12(2000)年度の約6倍となっている(資料1-21)。各団体の活動目的としては、「里山林等身近な森林の整備・保全」や「森林環境教育」を挙げる団体が多い。森林もりづくり活動においては、チェーンソー等の機械を使用した活動を行っている団体も多く、参加者やスタッフ、活動資金の確保に次いで安全の確保を課題として挙げる団体が多くなっている(*61)。


また、CSR(企業の社会的責任)活動の一環等として、企業による森林もりづくり活動も行われている。特に、ESG投資の拡大、環境問題への危機意識等から企業は具体的な行動を取ろうとしており、森林もりづくりに関わろうとする企業も増加している。

近年は民有林を中心に活動の実施箇所数が伸びてきており、令和元(2019)年度の実施箇所数は1,753か所であった(資料1-22)。具体的な活動としては、顧客、地域住民、NPO等との協働による森林もりづくり活動、基金や財団を通じた森林再生活動に対する支援、企業の所有森林を活用した地域貢献等が行われているほか、森林所有者との協定締結による森林整備の取組も行われるなど、各企業の性格を活かしながら、地域の課題等の解決に向けた役割を果たしている。


(*61)林野庁補助事業「森林づくり活動についての実態調査 平成30年調査集計結果」(平成31(2019)年3月)。ボランティア活動における安全確保に向けた取組事例については、「平成29年度森林及び林業の動向」第2章第2節(2)の事例2-1(49ページ)を参照。



(幅広い分野の関係者との連携)

幅広い分野の関係者の参画による森林もりづくり活動として、平成19(2007)年から「美しい森林もりづくり推進国民運動」が進められている。同運動では、経済団体、教育団体、環境団体、NPO等により構成される「美しい森林もりづくり全国推進会議」が、里山整備、森林環境教育、生物多様性保全等に取り組んでいる。同運動の一環として平成20(2008)年に開始された「フォレスト・サポーターズ」制度は、個人や企業等が日常の生活や業務の中で自発的に森林整備や木材利用に取り組む仕組みであり、登録数は令和2(2020)年12月末時点で約6.9万件となっている。


(森林環境教育を推進)

現代社会では、人々が日常生活の中で森林や林業に接する機会が少なくなっている。このため、森林内での様々な体験活動等を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める「森林環境教育」の取組が進められている。森林や林業の役割を理解し、社会全体で森林を持続的に保全しつつ利用していくことは持続可能な社会の構築に寄与し得るものであることから、「持続可能な開発のための教育(ESD)(*62)」の考え方を取り入れながら森林環境教育に取り組む事例もみられる。

森林環境教育の例として、学校林(*63)の活用による活動が挙げられる。学校林を保有する小中高等学校は、全国の6.8%に相当する約2,500校で、学校林の合計面積は全国で約1万7千haとなっている。学校林は「総合的な学習の時間」等で利用されており、植栽、下刈り、枝打ち等の体験や、植物観察、森林の機能の学習等が行われている(*64)。

このほか、森林環境教育の取組としては、「緑の少年団」による活動がある。緑の少年団は、次代を担う子供たちが、緑と親しみ、緑を愛し、緑を守り育てる活動を通じて、ふるさとを愛し、人を愛する心豊かな人間に育っていくことを目的とした団体である。令和3(2021)年1月現在、全国で3,168団体、約32万人が加入して学校教育や社会教育と連携し、森林の整備活動等を行っている(*65)。

また、「聞き書き甲子園(*66)」は、全国の高校生が、造林手ぞうりんしゅ、炭焼き職人、漆塗り職人、漁師等の「名手・名人」を訪ね、一対一の対話を「聞き書き(*67)」して、知恵、技術、考え方、生き方等を学ぶ活動である。高校生の作成した記録はホームページ上で公開され、森林・林業分野の伝統技術や山村の生活を伝達する役割も果たしている。令和2(2020)年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため聞き書きをする高校生の募集は中止としたが、同年6月に令和元(2019)年度の成果発表の場となるフォーラムを初のオンラインで開催し、全国に取組を発信した。

林野庁においては、林野図書資料館が森林の魅力や役割・林業の大切さについて、分かりやすく表現した漫画やイラストを作成し、地方公共団体の図書館等と連携して、企画展示等を実施している(資料1-23)。また、漫画やイラストをホームページで公開し、誰でも自由に使用できるようにしたことで、各森林管理局や林業団体等においても、これらを活用し、地域の小中学校や住民を対象として森林環境教育が行われている。


(*62)人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等、人類の開発活動に起因する現代社会における様々な問題を、各人が自らの問題として主体的に捉え、身近なところから取り組むことで、それらの問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、もって持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動。ESDは「Education for Sustainable Development」の略。

(*63)学校が保有する森林(契約等によるものを含む。)であり、児童及び生徒の教育や学校の基本財産造成等を目的に設置されたもの。

(*64)公益社団法人国土緑化推進機構「学校林現況調査報告書(平成28年調査)」(平成30(2018)年3月)

(*65)公益社団法人国土緑化推進機構ホームページ「緑の少年団」

(*66)林野庁、水産庁、文部科学省、環境省、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施されている取組。平成14(2002)年度から「森の聞き書き甲子園」として始められ、平成23(2011)年度からは「海・川の聞き書き甲子園」と統合し、「聞き書き甲子園」として実施。

(*67)話し手の言葉を録音し、一字一句全てを書き起こした後、一つの文章にまとめる手法。



(イ)森林整備等の社会的コスト負担

(森林整備等を主な目的とした地方公共団体独自の住民税の超過課税の取組)

令和2(2020)年4月現在、37の府県において、森林整備等を目的とした住民税の超過課税により、地域の実情に即した課題に対応するために必要な財源確保の取組が行われており、全37府県で森林整備・保全に活用されているほか、各府県の実情に即して木材利用促進、普及啓発、人材育成等に幅広く活用されている。なお、関係府県においては、超過課税の期限や見直し時期も踏まえつつ、国の森林環境税との関係の整理が行われており、地域独自の取組と国の森林環境税がそれぞれの役割分担の下で効果的に活用され、森林整備等が一層進むことが期待される(資料1-24)。

資料1-24 地方公共団体による森林整備等を主な目的とした住民税の超過課税の取組状況

(「緑の募金」により森林もりづくり活動を支援)

「緑の募金」は、「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律(*68)」に基づき、森林整備等の推進に用いることを目的に行う寄附金の募集である。昭和25(1950)年に、戦後の荒廃した国土を緑化することを目的に「緑の羽根募金」として始まり、現在では、公益社団法人国土緑化推進機構と各都道府県の緑化推進委員会が実施主体となり、春と秋の年2回、「家庭募金」、「職場募金」、「企業募金」、「街頭募金」等が行われている。令和元(2019)年には、総額約21億円の寄附金が寄せられた。

寄附金は、(ア)水源林の整備や里山林の手入れ等、市民生活にとって重要な森林の整備及び保全、(イ)苗木の配布や植樹祭の開催、森林ボランティアの指導者の育成等の緑化の推進、(ウ)熱帯林の再生や砂漠化の防止等の国際協力に活用されているほか、東日本大震災等の災害からの復興のため、被災地における緑化活動や木製品提供等に対する支援にも活用されている(*69)。


(*68)「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」(平成7年法律第88号)

(*69)緑の募金ホームページ「災害復興支援」



(森林関連分野のクレジット化の取組)

農林水産省、経済産業省及び環境省は、地方への資金の還流を促し、地球温暖化対策と地域経済の振興の両立を図るため、平成25(2013)年から「J-クレジット制度」を運営している。同制度は、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証するものである。クレジットを購入する者は、入手したクレジットを「地球温暖化対策の推進に関する法律(*70)」に基づく報告やカーボン・オフセット(*71)等に利用することができる。森林分野の方法論(*72)として森林経営活動と植林活動が承認されており、令和3(2021)年3月現在で37件が登録されているほか、旧制度(*730)から48件のプロジェクトが移行されている。また、再生可能エネルギー分野の方法論として木質バイオマス固形燃料により化石燃料又は系統電力を代替する活動も承認されており、73件が登録されているほか、旧制度から85件のプロジェクトが移行されている。

J-クレジット制度のほかにも、地方公共団体や民間団体など多様な主体によって、森林の二酸化炭素吸収量を認証する取組が行われている。


(*70)「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年法律第117号)

(*71)日常生活や企業等の活動で発生するCO2(=カーボン)を、森林による吸収や省エネ設備への更新により創出された他の場所の削減分で埋め合わせ(=オフセット)する取組。

(*72)排出削減・吸収に資する技術ごとに、適用範囲、排出削減・吸収量の算定方法及びモニタリング方法を規定したもの。

(*73)「国内クレジット制度」と「J-VER制度」であり、この2つを統合して「J-クレジット制度」が開始された。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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