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林野庁

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第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(2)

(2)森林経営管理制度及び森林環境税

(ア)森林経営管理制度

国内の私有林人工林のうち、森林経営計画が作成されていないなど経営管理が担保されていることが確認できない森林は、全体の3分の2となっている。加えて、我が国の私有林では、所有者が不明な森林や、境界が不明確な森林の存在が課題となっている。このような中、手入れの行き届いていない森林の経営管理を促進し、林業の成長産業化と森林資源の適正な管理の両立を実現するための仕組みとして、平成30(2018)年5月に「森林経営管理法(*51)」が成立し、平成31(2019)年4月から施行された。


(*51)「森林経営管理法」(平成30年法律第35号)



(森林経営管理制度の仕組み)

森林経営管理法で措置された森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託(経営管理権の設定)を受け、林業経営に適した森林は地域の林業経営者に再委託(経営管理実施権の設定)をするとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理(市町村森林経営管理事業)をする制度であり(資料1-18)、所有者の一部又は全部が不明で手入れ不足となっている森林においても、所有者の探索や公告等の一定の手続を経た上で市町村に経営管理権を設定する特例も措置されている。

資料1-18 森林経営管理制度の概要

(制度活用の出発点は経営管理意向調査)

市町村への経営管理権の設定は、森林所有者に対し経営管理の現況や今後の見通しを確認する経営管理意向調査(以下「意向調査」という。)を踏まえて行われる。市町村は経営管理が行われていない森林の所在や、その所有者情報等を林地台帳等により把握・整理し、地域の実情に応じた長期的な計画を立てた上で、地域の関係者と連携しつつ意向調査を実施する。

ここで、森林所有者から市町村に森林の経営管理を委託する希望があった場合には、市町村が森林所有者との合意の下で経営管理の内容等に関する計画(経営管理権集積計画)を定め、公告することにより、市町村に経営管理権が設定されることとなる。


(林業経営者や市町村による経営管理)

市町村は、経営管理権を設定した森林のうち、林業経営に適した森林については、都道府県が公募・公表した一定の要件を満たす民間事業者(*52)の中から委託先の選定を行い、経営管理実施権の設定を行うこととしている。

林野庁では、経営管理の集積・集約化が見込まれる地域を中心とした路網整備や高性能林業機械の導入等により、こうした再委託を受ける意欲と能力のある林業経営者の育成を図ることとしている。他方で、林業経営に適さない森林については、「森林環境譲与税(*53)」も活用しつつ、市町村が林業経営体への事業発注等を通じて間伐等を実施することとなる。


(*52)都道府県が公表している民間事業者については、(ア)森林所有者及び林業従事者の所得向上につながる高い生産性や収益性を有するなど効率的かつ安定的な林業経営の実現を目指す、(イ)経営管理を確実に行うに足りる経理的な基礎を有すると認められるといった条件を満たす者となっている。

(*53)森林環境譲与税については、82-86ページを参照。



(市町村の推進体制への支援)

森林経営管理制度においては市町村が中心的な役割を果たすこととなる一方で、市町村には林務専門の職員がいない、又は少ないなど同制度の推進体制が十分ではないところもあり、市町村が主体となった森林整備等を進めていくための体制の構築が課題となっている。

このため、平成29(2017)年度に「地域林政アドバイザー制度(*54)」が創設され、令和元(2019)年度には、125の自治体で169人のアドバイザーが活用されている。

また、林野庁では市町村等に向けて、説明会での森林経営管理制度の周知や全国の取組状況の情報発信等を行うとともに、森林技術総合研修所においては、同制度に対応した市町村職員向けの実務研修を実施し、森林・林業の知識を有する人材の育成を支援している。

このほか、全ての都道府県において、森林環境譲与税も活用しながら、地域の実情に応じた市町村への支援を行っている。具体的には、市町村に提供する森林資源情報の精度向上・高度化等の技術的支援を始め、市町村支援のための新たな組織の設置のほか、地域林政アドバイザーの市町村への派遣、市町村職員を対象とした研修会等の開催など、多岐にわたる内容の支援が各地で展開されている。


(*54)森林・林業に関して知識や経験を有する者を市町村が雇用することを通じて、森林・林業行政の体制支援を図る制度。平成29(2017)年度に創設され、市町村がこれに要する経費については、特別交付税の算定の対象となっている。なお、平成30(2018)年度から都道府県が雇用する場合も対象となった。



(制度の進捗状況)

取組の初年度である令和元(2019)年度は、森林経営管理制度の活用が見込まれる私有林人工林が所在する市町村(1,592市町村)のうち、約4分の1にあたる390市町村において、約15万haの意向調査が実施され、意向調査の準備も含めれば約7割の市町村において取組が実施された。意向調査を始め、森林経営管理制度に係る取組の進め方は各市町村において様々であり、例えば、林業経営者への再委託を念頭に、林業経営に適する森林を中心として意向調査を実施し、林業経営の効率化の観点から森林経営管理制度に係る取組を推進する市町村もあれば、山地災害等のリスクを考慮して、条件不利地にある森林について市町村において公的管理することを念頭に置き、意向調査を実施する市町村もあるなど、地域の実情に合わせた取組が行われている。また、令和元(2019)年度において、市町村が森林所有者から経営管理の委託を受ける際に策定する経営管理権集積計画の策定は、23市町村で562haとなっており、同計画に基づく市町村森林経営管理事業による森林整備(11市町、187ha)や、林業経営者への再委託(2市、55ha)も始まっている。

令和2(2020)年度においては、令和元(2019)年度の意向調査の結果等を踏まえ、境界の明確化や森林所有者の同意取得といった手続を経て、順次、経営管理権集積計画の策定や市町村による森林整備、林業経営者への再委託が展開されており、森林経営管理制度に係る取組が本格化しつつある状況にある(事例1-1)。

事例1-1 地域に応じた森林経営管理制度の取組

林業経営者への再委託
最上町もがみまち(山形県)~地域の森林資源の活用推進~

最上町は、町が主体となって地域の貴重な森林資源の活用に取り組むとともに、森林の経営管理を促進するため、モデル的に意向調査(約22ha)を実施し、集積計画(約17ha)を策定。令和2(2020)年度には、独自の審査事項として町の林業振興及びエネルギー政策(木質資源の供給)の推進を加えた採点基準にて企画提案を募集し、候補者を選定。同年に再委託を受けた林業経営者による間伐事業が実施されている。

富士ふじ市(静岡県)~施業集約化を目指した再委託~

富士市は、森林経営計画策定済みの森林等の周辺について優先的に意向調査を行うなど、林業経営の効率化の観点から制度を推進。市が中心となって取組を進めることで、これまで民・民では進みにくかった森林での集約化が可能となった。令和元(2019)年度には約52haについて、林業経営者への再委託を行い、令和2(2020)年度は森林経営計画が策定された森林と一体となって間伐事業が実施されている。

市町村による森林整備
恵那えな市(岐阜県)~災害リスクに注目した森林整備~

恵那市では、市内の林業の専門家による委員会を設置し、議論の結果、市民の安全・安心な暮らしの実現として山地災害リスク等も組み込んだ意向調査の優先順位を決定。令和元(2019)年度には、地籍調査が完了し、山地災害リスクの高い森林の中からモデル地区を設定(約81ha)して取組を進めている。令和2(2020)年度には市町村による間伐事業(約68ha)を実施している。

有田川町ありだがわちょう(和歌山県) ~エリア別森林整備の推進~

有田川町では、旧町を単位としたエリア分けを行い、町による公的管理を想定した1地域(町直営)、林業経営者への再委託を想定した2地域(外部委託)で意向調査を実施。外部委託を活用する市町村が多い中、同町では林務部署の体制拡充を行い、職員自らが業務を実施することで森林・林業施策の企画・執行力の向上を図っている。令和元(2019)年度は約1,500haの意向調査を実施し、集積計画(約25ha)を策定。令和2(2020)年度には市町村による間伐事業に加え、林業経営者への再委託も順次実施している。

都道府県による市町村へのサポート
鹿児島県 ~県森連との連携による市町村支援~

鹿児島県では、森林経営管理制度の運用を支援する「森林経営管理市町村サポートセンター」を令和元(2019)年5月に県森林組合連合会に設置。また、県内の2市において、県によるモデル事業の一環として意向調査等の取組が実施され、そのノウハウは業務マニュアルとして他の市町村にも横展開されている。モデルとなった鹿児島市では県の支援組織とも連携し、令和2(2020)年度に約5haの集積計画を策定するに至った。この支援により、鹿児島県では多くの市町村で取組が実施されている。


(イ)森林環境税

(森林環境税の創設)

平成31(2019)年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(*55)」が成立し、「森林環境税(*56)」(令和6(2024)年度から課税)及び「森林環境譲与税」(令和元(2019)年度から譲与)が創設された。


(*55)「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」(平成31年法律第3号)

(*56)森林環境税の創設に係る経緯等については、「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス1(2-3ページ)を参照。



(森林環境税創設の趣旨)

森林の有する公益的機能は、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源のかん養等、国民に広く恩恵を与えるものであり、適切な森林の整備等を進めていくことは、我が国の国土や国民の生命を守ることにつながる一方で、所有者や境界が分からない森林の増加、担い手の不足等が大きな課題となっている。

このような現状の下、平成30(2018)年5月に成立した森林経営管理法を踏まえ、パリ協定の枠組みの下における我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成(*57)や災害防止等を図るための森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から、森林環境税が創設された。

森林環境譲与税は、市町村においては、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充てることとされている。また、都道府県においては、森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用に充てることとされている。

本税により、これまで手入れが十分に行われてこなかった森林の整備が進み、災害防止等の森林の有する公益的機能の維持増進が図られるとともに、都市部における木材需要を創出し山村地域で生産された木材を利用することや、山村地域との交流を通じた森林整備の取組により、都市部住民の森林・林業に対する理解の醸成のほか、山村の振興等にもつながることが期待される。


(*57)地球温暖化対策については、第4節(2)110-114ページを参照。



(森林環境税・森林環境譲与税の仕組み)

森林環境税は、令和6(2024)年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収することとされている。

また、森林環境譲与税は、喫緊の課題である森林整備に対応するため、森林経営管理制度の導入時期も踏まえ、令和元(2019)年度から譲与が開始され、市町村や都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されている(資料1-19)。さらに、災害防止・国土保全機能強化等の観点から、森林整備を一層促進するために、令和2(2020)年3月に森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律等の一部が改正(*58)され、令和2(2020)年度からの森林環境譲与税について、地方公共団体金融機構の公庫債権金利変動準備金を活用し、譲与額が前倒しで増額された(資料1-20)。


(*58)「地方税法の一部を改正する法律」(令和2年法律第5号)による改正。



(森林環境譲与税の使途と活用状況)

令和元(2019)年度は、森林経営管理法に基づく森林所有者への意向調査や間伐等の森林整備関係に全国の市町村のうち5割の市町村が取り組んだほか、森林整備に必要な技術・知識の習得のための講習会の開催など今後の森林整備量の増大に不可欠な人材の育成に1割の市町村が取り組んだ。また、公共建築物における木材利用や森林環境教育等の普及啓発に2割の市町村が取り組むなど、地域の実情に応じた取組が実施されている(事例1-2)。この結果、主な取組実績として、森林経営管理制度に基づく森林所有者への意向調査が約12.5万ha実施されたほか、間伐についても約3,600ha実施された。令和2(2020)年度においても山村地域では森林整備を中心に、都市部では木材利用を中心に、多くの取組が展開されている。

なお、森林環境譲与税が、適正な使途に用いられることが担保されるように、市町村等はインターネットの利用等により使途を公表しなければならないこととされており、順次公表が行われている。

事例1-2 森林環境譲与税を活用した取組


森林を有する地方公共団体の取組

森林を多く有している地方公共団体では、森林経営管理制度の活用や森林所有者との協定に基づく間伐等の取組のほか、人材育成の取組など地域の実情に応じた活用が着実に進んでいる。

木古内町きこないちょう(北海道)~小規模森林の整備支援~

木古内町では、森林所有者の所有規模が小さく、既存の制度だけでは十分に手入れができなかった森林の整備を進めるため、間伐等を支援する町独自の支援制度を創設。令和元(2019)年度は3.32ha、令和2(2020)年度は3.84haの間伐を支援し、森林の有する公益的機能の発揮が図られた。

矢印
松阪まつさか(三重県)~三者協定による間伐の実施~

松阪市では、早期に森林整備を行う必要がある森林について、三者協定(市、森林所有者、事業体)を結び、間伐等の森林整備を推進する方針。

令和元(2019)年度は、172ha、令和2(2020)年度は270haの間伐を実施するなど、税導入前に比べ未整備森林の解消が大きく進んだ。

矢印
添田町そえだまち(福岡県)~荒廃した森林の再生~

添田町では、森林所有者が自ら整備を行ったにもかかわらず、災害やシカの食害など本人に責を負わない事由により荒廃した森林の植栽や獣害対策等を支援。令和元(2019)年度は1.79ha、令和2(2020)年度は、1.24haの植栽や保護柵を設置し、荒廃した森林の整備が進んだ。

日南町にちなんちょう(鳥取県)~林業アカデミーの開校~

日南町では、間伐等の森林整備に必要な人材を育成するため、令和元(2019)年度から町立の林業アカデミーを開校。令和元(2019)年度は、新たに設けた専門のサポートチームと連携し、広大な演習林を活用した実践研修等を実施。現場で求められる技術等を習得した人材の育成が図られた。

都市部の地方公共団体の取組

都市部の地方公共団体では、流域単位又は流域を越えた地方公共団体間の連携により、森林整備や木材利用、普及啓発への活用も始まっている。

豊島としま区(東京都)~地方公共団体間連携による森林整備~

東京都豊島区では、姉妹都市である埼玉県秩父市と森林整備協定を締結し、令和元(2019)年度から秩父市の森林を「としまの森」として整備(択伐)を実施。埼玉県のCO2吸収量認証制度により認証を受けるとともに、区民を対象に環境教育を実施するなど、区市の双方にメリットが生まれている。

一宮いちのみや市(愛知県)~木材利用促進に関する取組~

一宮市では、令和2(2020)年度に市のランドマークタワーである「ツインアーチ138」の内装を国産木材で木質化。木の温かみや香りが感じられる居心地の良い空間を演出することで来場者を増やし、木の良さや森林整備の意義を効果的に普及していくことが期待される。

木質化によるリニューアルの状況
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お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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