このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 第5章 第2節 国有林野事業の具体的取組(2)


(2)林業の成長産業化への貢献

現在、施業の集約化等による低コスト化や担い手の育成を始め、林業の成長産業化に向けた取組の推進が課題となっている。このため、国有林野事業では、その組織、技術力及び資源を活用し、多様な森林整備を積極的に推進する中で、森林施業の低コスト化を進めるとともに、民有林関係者等と連携した施業の推進、施業集約化への支援、林業事業体や森林・林業技術者等の育成及び林産物の安定供給等に取り組んでいる。


(低コスト化等に向けた技術の開発・普及と民有林との連携)

国有林野事業では、事業発注を通じた施策の推進や全国における多数の事業実績の統一的な分析等が可能であることから、その特性を活かし、植栽本数や下刈り回数・方法の見直し、ICT等を活用した効率的な森林管理、シカ防護対策の効率化等による林業の低コスト化等に向け、先駆的な技術等について各森林管理局が中心となり、地域の研究機関等と連携しつつ事業レベルでの試行を進めている。さらに、現地検討会等の開催による地域の林業関係者との情報交換や、地域ごとの地形条件や資源状況の違いに応じた低コストで効率的な作業システムの提案及び検証を行うなど、民有林における普及と定着に努めている(資料5-8、事例5-8)。

事例5-8 ICTを活用した森林調査現地検討会を開催

九州森林管理局宮崎森林管理署(宮崎県宮崎市)では、平成30(2018)年11月、ICTを活用した森林調査について関係機関との情報共有を図るため、管内の野崎(のさき)国有林において、現地検討会を開催した。

現地検討会では、宮崎県、関係市町村、地域の森林・林業関係者、県内の森林管理署等から約70名が集まり、カメラ付きドローンで撮影したオルソ画像(注)や地上レーザスキャナを活用した森林調査の効率化・省力化の検討成果を紹介し、現地での操作実演を交えながら情報共有・意見交換を行った。参加者からは、機械の性能や精度、活用方法等について活発な質疑や意見交換が行われた。

同森林管理署では、ICTを活用することにより正確で効率的な森林資源の把握が可能となり、適正な木材取引や誤伐・盗伐の防止にもつながるものと考え、引き続き関係機関と情報共有・意見交換を行いながら取組を進めていくこととしている。


注:空中写真を写真上の像の位置ズレをなくし、地図と同じく、真上から見たような傾きのない、正しい大きさと位置に表示される画像に変換したもの


特に近年は、施工性に優れたコンテナ苗の活用による効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等を進めるとともに、植栽適期の長さ等のコンテナ苗の優位性を活かして伐採から造林までを一体的に行う「伐採と造林の一貫作業システム(*7)」の実証・普及に取り組んでいる。この結果、国有林野事業では、平成29(2017)年度には1,569haでコンテナ苗等を植栽し(資料5-9)、868haで伐採と造林の一貫作業を実施した(資料5-10)。


これらの植栽の実証を通じて、我が国でのコンテナ苗の普及に向け、技術的課題の把握、使用方法の改善等に取り組んでいる。

また、国有林野事業では、地域における施業集約化の取組を支援し、森林施業の低コスト化に資するため、民有林と連携することで事業の効率化や低コスト化等を図ることのできる地域においては、「森林共同施業団地」を設定し、国有林と民有林を接続する路網の整備や相互利用、連携した施業の実施、国有林材と民有林材の協調出荷等に取り組んでいる(事例5-9)。

事例5-9 民有林と連携した施業

林野庁は、熊本県内の五木(いつき)地域森林共同施業団地をモデル地域として、九州及び全国における林業の成長産業化を牽引するべく、平成27(2015)年度に一般社団法人日本プロジェクト産業協議会等も参画して策定した全体構想(マスタープラン)等に基づき、関係者と連携した取組を進めている。

九州森林管理局熊本南部森林管理署(熊本県人吉市(ひとよしし))が中心となり、(ア)森林情報を活用し施業予定箇所等を集約した共通図面の作成、(イ)路網の連結による木材搬出コストの低減(試算では1m3当たり最大1,210円の低減)、(ウ)ドローンによる架線設置や伐採と造林の一貫作業システムの導入等による生産・造林コストの低減、(エ)民有林と国有林が連携した製材工場への直送による山元丸太価格の向上(平成30(2018)年度の事例では2割程度の向上)等に取り組んでおり、五木村の林業総生産額は団地設定当初(平成21(2009)年)から2割程度増加している。

当初3,935ha(4協定者)であった団地面積は、平成30(2018)年4月には五木村全域等の18,280ha(11協定者)に広がり、スケールメリットを活かした協調出荷の拡大等を進め、年間約6万m3の原木を安定的に供給することを目指している。

あわせて、こうした取組の成果については、九州森林管理局ホームページへ掲載するなど、情報発信の強化を図ることとしている。


平成30(2018)年3月末現在、森林共同施業団地の設定箇所数は163か所、設定面積は約39万ha(うち国有林野は約22万ha)となっている(資料5-11)。

また、近年、森林・林業分野でも活用が期待されている、操作が容易かつ安価なドローン等の小型無人航空機について、山地災害の被害状況及び事業予定のある森林の概況の調査等への活用や実証に取り組んでいる。


(*7)伐採と造林の一貫作業システムとは、伐採から植栽までを一体的に行う作業システムのこと。詳細については、第3章(127-128ページ)を参照。



(林業事業体及び森林・林業技術者等の育成)

国有林野事業は、国内最大の森林を管理する事業発注者であるという特性を活かし、林業事業体への事業の発注を通じてその経営能力の向上等を促すこととしている。

具体的には、総合評価落札方式や2か年又は3か年の複数年契約、事業成績評定制度の活用等により、林業事業体の創意工夫を促進している。このほか、作業システムや路網の作設に関する現地検討会の開催により、林業事業体の能力向上や技術者の育成を支援するとともに、市町村単位での今後5年間の伐採量の公表や森林整備及び素材生産の発注情報を都道府県等と連携して公表することにより、効果的な情報発信に取り組んでいる。

また、近年、都道府県や市町村の林務担当職員数が減少傾向にある中、国有林野事業の職員は森林・林業の専門家として、地域において指導的な役割を果たすことが期待されている。このため、国有林野事業では、専門的かつ高度な知識や技術と現場経験を有する「森林総合監理士(フォレスター)」等を系統的に育成し、市町村行政に対し「市町村森林整備計画」の策定とその達成に向けた支援等を行っている。

さらに、事業の発注や研修フィールドの提供、森林管理署等と都道府県の森林総合監理士等との連携による「技術的支援等チーム」の設置等を通じた民有林の人材育成を支援するとともに、大学や林業大学校など林業従事者等の育成機関と連携して、森林・林業に関する技術指導に取り組んでいる(事例5-10)。

事例5-10 林業大学校等と連携した林業技術者の育成

四国森林管理局管内には、林業の担い手の育成を目指す高知県立林業大学校、とくしま林業アカデミーなどの森林・林業関連教育機関がある。

同森林管理局はこれらの教育機関との連携支援協定や要請に基づき、実習のフィールドとして国有林を提供するとともに、講義・実習における講師派遣等を行い、新たな林業技術者の育成に連携して取り組んでいる。

平成30(2018)年度は、高知県立林業大学校において、森林共同施業団地の見学、地拵(じごしら)え、植付け、シカ防護ネットの設置等の現地実習、同校主催の公開講座での講義を行った。

とくしま林業アカデミーにおいては、コンパス測量実習への講師派遣、森林経営管理制度等の林業施策に関する講義等を実施した。

また、徳島県立那賀(なか)高等学校森林クリエイト科の全学年の生徒を対象に、平成28(2016)年度から森林・林業白書等を題材に、森林の公益的機能や、木材利用に関する出前講座を継続的に実施しており、平成30(2018)年度までに延べ18回実施している。


(森林経営管理制度への貢献)

森林経営管理制度が、効率的に機能するよう、国有林野事業においても積極的に貢献していく必要がある。このため、市町村が集積・集約した森林の経営管理を担うこととなる林業経営者に対する国有林野事業の受注機会の拡大へ配慮するほか、市町村林務行政に対する技術的支援や公的管理を行う森林の取扱手法の普及、地域の方々の森林・林業に対する理解の促進への寄与等に取り組むこととしている。また、国有林野事業で把握している林業経営者の情報を、市町村に提供することとしている。


(森林経営管理制度を円滑に進めるための国有林からの木材供給対策)

森林経営管理制度を円滑に進めるためには、川上側の林業と川中・川下側の木材関連産業の連携強化を進め、意欲と能力のある林業経営者を育成しながら、木材需要の拡大を図ることが重要となっている。このことを踏まえ、平成30(2018)年11月に、「農林水産業・地域の活力創造本部」において改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン」では、国有林野の一定の区域で、公益的機能を確保しつつ、意欲と能力のある林業経営者(森林組合、素材生産業者、自伐林家等)が、長期・安定的に立木の伐採を行うことができる仕組みや、意欲と能力を有する林業経営者と連携する川下事業者に対する資金供給の円滑化を図る仕組みを創設することが位置付けられ、平成31(2019)年2月に「国有林野の管理経営に関する法律」等の一部を改正する法律案を国会に提出した(資料5-12)。


(林産物の安定供給)

国有林野事業では、公益重視の管理経営の下で行われる施業によって得られる木材について、持続的かつ計画的な供給に努めることとしている。国有林野事業から供給される木材は、国産材供給量の約2割を占めており、平成29(2017)年度の木材供給量は、立木によるものが171万m3(丸太換算)、素材(丸太)によるものが269万m3、全体として前年度より27万m3増の計440万m3となっている。

国有林野事業からの木材の供給に当たっては、集成材・合板工場や製材工場等と協定を締結し、林業事業体の計画的な実行体制の構築に資する国有林材を安定的に供給する「システム販売」を進めている(事例5-11)。システム販売による丸太の販売量は増加傾向で推移しており、平成29(2017)年度には丸太の販売量全体の72%に当たる193万m3となった(資料5-13)。また、システム販売の実施に当たっては、民有林所有者等との連携による協調出荷に取り組むとともに、新規需要の開拓に向けて、燃料用チップ等を用途とする未利用間伐材等の安定供給にも取り組んでいる。

事例5-11 広葉樹単独のシステム販売

山土場に搬出された広葉樹材

スギ、ヒノキ等針葉樹の主伐、間伐の際に同時に搬出される広葉樹は、針葉樹の低質材と併せて、従来から低質材としてシステム販売し、主に製紙用または木質バイオマス発電所での燃料用チップとして利用されている。

近年、人工林の高齢級化が進む中で混在する広葉樹も成長し、製材用材として利用可能なものも増えており、需要サイドからも、家具やフローリング用として国産広葉樹を使いたいとの要望が高まっている。

関東森林管理局福島森林管理署(福島県福島市)では、平成30(2018)年度から、これまでチップ用とされてきた広葉樹の長さ2mの短尺材の中から、より単価の高い製材用材として利用可能なものを選別して、広葉樹単独のシステム販売を実施している。

広葉樹単独のシステム販売では、広葉樹だけを求める事業者が意欲的に応募するなどして単価が上昇する結果となり、人工林内の広葉樹材の付加価値向上へとつながっている。


さらに、国有林野事業については、全国的なネットワークを持ち、国産材供給量の約2割を供給し得るという特性を活かし、地域の木材需要が急激に変動した場合に、地域の需要に応える供給調整機能を発揮することが重要となっている。このため、平成25(2013)年度から、林野庁及び全国7つの森林管理局において、学識経験者のほか川上、川中及び川下関係者等から成る「国有林材供給調整検討委員会」を設置することにより、地域の木材需給を迅速かつ適確に把握し、需給に応じた国有林材の供給に取り組むこととしている。また、平成27(2015)年度から、全国7ブロックで開催されている「需給情報連絡協議会(*8)」に各森林管理局も参画するなど、地域の木材価格や需要動向の適確な把握に努めている。

このほか、ヒバや木曽ヒノキなど民有林からの供給が期待しにくい樹種を、多様な森林を有しているという国有林野の特性を活かし、計画的に供給している(事例5-12)。

事例5-12 「あきたの極上品」適用材の供給

秋田県と東北森林管理局は、平成26(2014)年度から県内の林業・木材産業関係者をメンバーとする秋田スギのブランド化に向けた意見交換会を開催し、平成27(2015)年度に林齢80年生以上の高齢級秋田スギで末口直径が36cm以上の4m材、日本農林規格1~3等に該当するものを「あきたの極上品」と位置付け、販売と普及の促進に取り組んでいる。

現在、「あきたの極上品」として秋田スギを供給できる認定事業者は東北森林管理局のみであり、国有林において先行して供給しているが、供給中止となった天然スギの代替品として市場のニーズも高まっている。

「あきたの極上品」については、森林所有者や事業者への周知を図りながら民有林材へ適用していくこととしており、今後は、高齢級秋田スギの「丸太のブランド化」から「ブランド製材品」へと展開していくための取組を進めている。


(*8)需給情報連絡協議会については、第4章(173ページ)を参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader