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林野庁

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第1部 第5章 第2節 国有林野事業の具体的取組(3)


(3)「国民の森林(もり)」としての管理経営等

国有林野事業では、国有林野を「国民の森林」として位置付け、国民に対する情報の公開、フィールドの提供、森林・林業に関する普及啓発等により、国民に開かれた管理経営に努めている。

また、国有林野が、国民共通の財産であるとともに、それぞれの地域における資源でもあることを踏まえ、地域振興へ寄与する国有林野の活用にも取り組んでいる。

さらに、東日本大震災からの復旧及び復興へ貢献するため、国有林野等における被害の復旧に取り組むとともに、被災地のニーズに応じて、海岸防災林の再生や原子力災害からの復旧等に取り組んでいる。


(ア)「国民の森林(もり)」としての管理経営

(双方向の情報受発信)

国有林野事業では、「国民の森林(もり)」としての管理経営の推進と、その透明性の確保を図るため、事業の実施に係る情報の発信や森林環境教育の活動支援等を通じて、森林・林業に関する情報提供や普及・啓発に取り組んでいる。

また、各森林管理局の「地域管理経営計画」等の策定に当たっては、計画案についてパブリックコメント制度を活用するとともに、計画案の作成前の段階から広く国民の意見を集めるなど、対話型の取組による双方向の情報受発信を推進している。

さらに、国有林野における活動全般について国民の意見を聴取するため、一般公募により「国有林モニター」を選定し、「国有林モニター会議」や現地見学会、アンケート調査等を行っている。国有林モニターには、平成30(2018)年4月現在、全国で346名が登録している(事例5-13)。

このほか、ホームページの内容の充実に努めるとともに、森林管理局の新たな取組や年間の業務予定等を公表するなど、国民への情報発信に積極的に取り組んでいる。

事例5-13 国有林モニター制度を活用した情報受発信の取組

中部森林管理局では、毎年国有林モニターを対象に国有林野事業についてのアンケート調査を実施している。平成30(2018)の回答では、捕獲したシカのジビエ利用の促進等についての意見があった。また、10月に愛知森林管理事務所管内で開催した国有林モニター現地視察において、シカ被害対策について説明を行ったところ、モニターからは、「シカ被害からの防護だけでなく、シカの頭数削減対策も推進してほしい」といった意見が出された。

このような中、中部森林管理局では、ジビエ利用の促進を図るため、シカ等がわなに掛かったことを速やかに知らせる「わな捕獲通信システム」の実証により、捕獲したシカの迅速な搬出に貢献し、食肉への加工が円滑に進むよう協力している。また、頭数削減を図るため、国有林内で土木工事等を行う請負事業体等が、通勤経路沿いや作業現場周辺に猟友会等の設置したくくりわなを見回り通報する「ついで見回り・通報」の取組等を推進している。

今後も、国有林モニター制度等を活用して、広く国民からの意見を集めるとともに、特に関心が高い取組については、適切に対応するだけでなく広報誌で取り上げるなど、積極的な情報発信に取り組むこととしている。

「ついで見回り・通報」及び「ついで捕獲」の取組状況

(森林環境教育の推進)

国有林野事業では、森林環境教育の場としての国有林野の利用を進めるため、森林環境教育のプログラムの整備やフィールドの提供等に取り組んでいる(事例5-14)。

この一環として、学校等と森林管理署等が協定を結び、国有林野の豊かな森林環境を子供たちに提供する「遊々(ゆうゆう)の森」を設定している。平成29(2017)年度末現在、154か所で協定が締結されており、地域の地方公共団体やNPO等の主催により、森林教室や自然観察、体験林業等の様々な活動が行われている。

また、国有林野事業では、環境教育に取り組む教育関係者の活動に対して支援するため、教職員やボランティアのリーダー等に対する技術指導、森林環境教育のプログラムや教材の提供等に取り組んでいる。

事例5-14 木のおもちゃ美術館との協同イベント

平成30(2018)年7月に秋田県由利本荘(ゆりほんじょう)市にオープンした「鳥海山(ちょうかいさん)木のおもちゃ美術館」は、国登録有形文化財である旧鮎川小学校の木造校舎をリニューアルしたものであり、木を使った国内外のたくさんのおもちゃで子供から大人まで楽しめる「多世代交流・木育美術館」となっている。

東北森林管理局と鳥海山木のおもちゃ美術館は、親子で木に触れ一緒に遊ぶことを通して、木材に親しみを持ち木の良さを感じていただけるよう、協同イベント「親子で遊ぼう!木と遊ぼう!」を平成30(2018)年12月に開催した。イベントでは、局職員による木と森林についての寸劇や、木のクイズラリー、手作りおもちゃの製作体験等が行われ、9組23名の親子が参加した。


(地域やNPO等との連携)

地域の森林の特色を活かした効果的な森林管理が期待される地域においては、各森林管理局が、地方公共団体、NPO、自然保護団体等と連携して森林整備・保全活動を行う「モデルプロジェクト」を実施している。

例えば、群馬県みなかみ町(まち)に広がる国有林野約1万haを対象にした「赤谷(あかや)プロジェクト」は、平成15(2003)年度から、関東森林管理局、地域住民で組織する「赤谷プロジェクト地域協議会」及び公益財団法人日本自然保護協会の3者の協働により、生物多様性の復元と持続可能な地域づくりを目指した森林管理を実施している。

また、国有林野事業では、自ら森林(もり)づくりを行いたいという国民からの要望に応えるため、NPO等と協定を締結して森林(もり)づくりのフィールドを提供する「ふれあいの森」を設定している。

「ふれあいの森」では、NPO等が、植栽、下刈りのほか、森林浴、自然観察会、森林教室等の活動を行うことができる。平成29(2017)年度末現在、全国で131か所の「ふれあいの森」が設定されており、同年度には、年間延べ約2.6万人が森林(もり)づくり活動に参加した。

なお、森林管理署等では、NPO等に継続的に森林(もり)づくり活動に参加してもらえるよう、技術指導や助言及び講師の派遣等の支援も行っている。

さらに、国有林野事業では、歴史的に重要な木造建造物や各地の祭礼行事、伝統工芸等の次代に引き継ぐべき木の文化を守るため、「木の文化を支える森」を設定している(資料5-14)。「木の文化を支える森」には、歴史的木造建造物の修復等に必要となる木材を安定的に供給することを目的とする「古事の森」、木造建築物の屋根に用いる檜皮(ひわだ)の供給を目的とする「檜皮(ひわだ)の森」、神社の祭礼で用いる資材の供給を目的とする「御柱(おんばしら)の森」等がある。


「木の文化を支える森」を設定した箇所では、地元の地方公共団体等から成る協議会が、作業見学会の開催や下刈り作業の実施等に継続的に取り組むなど、国民参加による森林(もり)づくり活動が進められており、平成29(2017)年度末現在、全国で合計25か所が設定されている(事例5-15)。

事例5-15 太鼓の材料となるケヤキ等の植栽

関東森林管理局下越(かえつ)森林管理署(新潟県新発田(しばた)市)は、平成19(2007)年度に木の文化を支える森づくりとして「鬼太鼓(おんでこ)の森」を設定する協定を「鬼太鼓の森づくり」協議会と締結し、佐渡島(さどがしま)の国有林において、佐渡の伝統芸能である鬼太鼓の材料となるケヤキ等の植栽、下刈りや獣害対策等の森林整備活動を行っている。

協定締結から、10年近くが経過し、市民の関心の低下が懸念されたことから、平成28(2016)年に署職員による再生プロジェクトを立ち上げ、様々な活動を行ってきた。

平成30(2018)年度においては、市民と協議会関係者による下刈りイベント、植栽地の光環境改善のため周辺のスギの伐採を実施したほか、佐渡島内の緑の少年団が集まるイベントと連携して林内に設置する樹名板(じゅめいばん)を作成した。


(分収林制度による森林(もり)づくり)

国有林野事業では、将来の木材販売による収益を分け合うことを前提に、契約者が苗木を植えて育てる「分収造林」や、契約者が費用の一部を負担して国が森林を育てる「分収育林」を通じて、国民参加の森林(もり)づくりを進めている。平成29(2017)年度末現在の設定面積は、分収造林で約10.9万ha、分収育林で約1.4万haとなっている(*9)。

分収育林の契約者である「緑のオーナー」に対しては、契約対象森林への案内や植樹祭等のイベントへの招待等を行うことにより、森林と触れ合う機会の提供等に努めるとともに、契約者からの多様な意向に応えるため、契約期間をおおむね10年から20年延長することも可能としている。

また、分収林制度を活用し、企業等が契約者となって社会貢献、社員教育及び顧客との触れ合いの場として森林(もり)づくりを行う「法人の森林(もり)」も設定している。平成29(2017)年度末時点で、「法人の森林(もり)」の設定箇所数は492か所、設定面積は約2.4千haとなっている。


(*9)個人等を対象とした分収育林の一般公募は、平成11(1999)年度から休止している。



(イ)地域振興への寄与

(国有林野の貸付け・売払い)

国有林野事業では、農林業を始めとする地域産業の振興や住民の福祉の向上等に貢献するため、地方公共団体や地元住民等に対して、国有林野の貸付けを行っている。平成29(2017)年度末現在の貸付面積は約7.2万haで、道路、電気・通信、ダム等の公用、公共用又は公益事業用の施設用地が49%、農地や採草放牧地が15%を占めている。

このうち、公益事業用の施設用地については、「FIT制度(*10)」に基づき経済産業省から発電設備の認定を受けた事業者も貸付対象としており、平成29(2017)年度末現在で約157haの貸付けを行っている。

また、国有林野の一部に、地元住民を対象として、薪炭材等の自家用林産物採取等を目的とした共同利用を認める「共用林野」を設定している。共用林野は、自家用の落葉や落枝の採取や、地域住民の共同のエネルギー源としての立木の伐採、山菜やきのこ類の採取等を行う「普通共用林野」、自家用薪炭のための原木採取を行う「薪炭共用林野」及び家畜の放牧を行う「放牧共用林野」の3つに区分される。共用林野の設定面積は、平成29(2017)年度末現在で、119万haとなっている。

これらに加えて、アイヌ文化の振興等に必要な林産物の採取を行う新たな共用林野の設定を可能とする「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案」が平成31(2019)年2月に国会に提出された。

さらに、国有林野のうち、地域産業の振興や住民福祉の向上等に必要な森林、苗畑及び貯木場の跡地等については、地方公共団体等への売払いを行っている。平成29(2017)年度には、ダム用地や道路用地等として、計95haの売払い等を行った。


(*10)同制度について詳しくは、第4章(208-209ページ)を参照。



(公衆の保健のための活用)

国有林野事業では、優れた自然景観を有し、森林浴、自然観察、野外スポーツ等に適した国有林野について、平成30(2018)年4月現在、全国で881か所、約34万haを、「自然休養林」や「自然観察教育林」等の「レクリエーションの森」に設定している(資料5-15)。平成29(2017)年度には、「レクリエーションの森」において、延べ約1.4億人の利用があった。


「レクリエーションの森」では、地元の地方公共団体を核とする「「レクリエーションの森」管理運営協議会」を始めとした地域の関係者と森林管理署等が連携しながら、利用者のニーズに即した管理運営を行っている(事例5-16)。

事例5-16 「ストリートビュー」を活用したレクリエーションの森の利用の推進

中部森林管理局木曽森林管理署(長野県上松町(あげまつまち))では、インターネット上で世界中の道路沿いの風景をパノラマ画像で一般公開することが可能な「ストリートビュー(注)」を活用し、管内の国有林を撮影・公開した。職員が撮影機材を背負って遊歩道沿いを歩くことで、撮影を行った。

この取組は「レクリエーションの森」を観光資源として活用し、観光需要の拡大を図るため、木曽ヒノキの美林等の当地域の優れた自然景観や魅力を発信し、インバウンドを含む旅行者へのPRを目的としている。

さらに、同森林管理署のホームページでも「ストリートビュー」で当地域の見所を紹介するとともに、管内の森林・林業について、昔の写真や歴史、逸話等も交えながら紹介するなどの工夫を行っており、多くの旅行者が当地域に足を運ぶきっかけとなることが期待される。


注:Google社が提供する「Googleマップ」の機能の1つで、道路や街中を360度のパノラマ写真で公開することが可能なインターネットサービス。


管理運営に当たっては、利用者からの「森林環境整備推進協力金」による収入や、「サポーター制度」に基づく企業等からの資金も活用している。このうち、サポーター制度は、企業等がCSR活動の一環として、「「レクリエーションの森」管理運営協議会」との協定に基づき、「レクリエーションの森」の整備に必要な資金や労務を提供する制度であり、平成29(2017)年度末現在、全国11か所の「レクリエーションの森」において、延べ16の企業等がサポーターとなっている。


(観光資源としての活用の推進)

林野庁は、平成28(2016)年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」を踏まえ、平成29(2017)年4月、観光資源としての潜在的魅力がある「レクリエーションの森」を「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」として全国で93か所選定した(*11)(資料5-16)。これらについては、標識類やホームページの情報の多言語化や、景観を確保するための伐採、施設整備など、重点的な情報発信や環境整備等を実施しているほか(事例5-17)、地元の方々による様々なイベント開催等も通じて魅力の磨き上げを図っている(*12)。

資料5-16 「日本美しの森 お薦め国有林」選定箇所の例

事例5-17 「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」における情報発信の強化

平成30(2018)年5月、林野庁では、「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」の新たなウェブサイトを開設した。このサイトは日本語と英語の2か国語に対応しており、各レクリエ-ションの森の見所や楽しみ方のほか、地域のイベント等の最新情報も掲載しており、ウェブサイトの閲覧数増加につながっている。

また、一部の「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」では、通信環境を選ばないアプリを利用した多言語看板を導入したことにより、スマートフォンで、日本語だけでなく多言語の文字、音声での情報収集が可能となり、特に外国人利用者にとっての利便性が向上した。

これらの更なる情報発信強化の取組が、旅行者の増加に貢献することが期待される。


(*11)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定について詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」の8-9ページを参照。

(*12)民有林を含めた森林を観光資源として活用する取組については、第3章(145-147ページ)を参照。



(ウ)東日本大震災からの復旧・復興

(応急復旧と海岸防災林の再生)

平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災からの復旧・復興に当たって、森林管理局や森林管理署等では、地域に密着した国の出先機関として、地域の期待に応えるため、震災直後には、ヘリコプターによる現地調査や、担当官の派遣、支援物資の搬送などの様々な取組を行ってきた。

中でも海岸防災林の再生については、国有林における海岸防災林の復旧工事を行うとともに、民有林においても民有林直轄治山事業等により復旧に取り組んでいるほか、海岸防災林の復旧工事に必要な資材として使用される木材について、国有林野からの供給も行っている。


(原子力災害からの復旧への貢献)

東京電力福島第一原子力発電所の事故による原子力災害への対応については、平成23(2011)年度から福島県内の国有林野において環境放射線モニタリングを実施し、その結果を市町村等に提供しているほか、森林除染に関する知見の集積や林業再生等のための実証事業、国有林野からの安全なきのこ原木の供給等の支援を行った。さらに、環境省や市町村等に対して、汚染土壌等の仮置場用地として国有林野の無償貸付け等を実施しており、平成30(2018)年12月末現在、福島県、茨城県、群馬県及び宮城県の4県23か所で計約71haの国有林野が仮置場用地として利用されている。

コラム 福島県相双(そうそう)地域の森林整備事業の本格的な再開

関東森林管理局では、平成29(2017)年度に、福島県相双地域の避難指示が解除された区域の国有林において、震災発生以降行われていなかった森林整備や木材生産を一部再開しており、平成29(2017)年度は広野町(ひろのまち)、楢葉町(ならはまち)、川内村(かわうちむら)、葛尾村(かつらおむら)等において間伐や除伐等を実施した。

さらに、平成30(2018)年度には、福島県相双地域の各地区の国有林において、本格的に事業を再開し、事業量は平成29(2017)年度に比べ、除伐で約3倍、素材生産量で約6倍になるなど大幅に増加した。

また、震災後閉鎖していた福島県相双地域の7つの森林事務所について、平成29(2017)年度までに2つの森林事務所(原町(はらまち)、川内)が再開し、平成30(2018)年度には、森林整備や木材生産の本格的な再開に伴う事業量の大幅な増加に対応するため、残る5つの森林事務所(富岡(とみおか)、木戸(きど)、浪江(なみえ)、葛尾、草野(くさの))を順次再開した。

今後も、避難指示解除区域における森林整備や木材生産を着実に実施し、福島県における森林・林業の復興・再生に更に貢献していくこととしている。

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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