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林野庁

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第1部 第 III 章 第1節 林業の動向(2)

(2)林業経営の動向

(ア)森林保有の現状

(森林所有者の保有山林面積は増加傾向)

農林水産省では、我が国の農林業の生産構造や就業構造、農山村地域における土地資源など農林業・農山村の基本構造の実態とその変化を明らかにするため、5年ごとに「農林業センサス」調査を行っている。

平成28(2016)年に公表された「2015年農林業センサス」では、林業構造の基礎数値として、「林家」と「林業経営体」の2つを把握している。このうち「林家」とは、保有山林面積(*2)が1ha以上の世帯であり、「林業経営体」とは、(ア)保有山林面積が3ha以上かつ過去5年間に林業作業を行うか森林経営計画又は森林施業計画(*3)を作成している、(イ)委託を受けて育林を行っている、(ウ)委託や立木の購入により過去1年間に200m3以上の素材生産を行っている、のいずれかに該当する者である(*4)。

同調査によると、林家の数は、5年前の前回調査(「2010年世界農林業センサス」)比で9%減の約83万戸、保有山林面積の合計は前回比で1%減の約517万haとなっている。保有山林面積規模別にみると、保有山林面積が10ha未満の林家が88%を占めており、小規模・零細な所有構造となっている。一方で、保有山林面積が10ha以上の林家は、全林家数の12%にすぎないものの、林家による保有山林面積の61%に当たる316万haを保有している(資料 III -7)。なお「1990年世界農林業センサス」によると、保有山林面積が0.1~1ha未満の世帯の数は145万戸であったことから、現在も保有山林面積が1ha未満の世帯の数は相当数に上るものと考えられる(*5)。

また、林業経営体の数は、前回比で38%減の約8.7万経営体、保有山林面積の合計は前回比で16%減の約437万haとなっている(資料 III -7)。このうち、1世帯(雇用者の有無を問わない。)で事業を行う「家族経営体(*6)」の数は約7.8万経営体で、林業経営体の9割を占めている(資料 III -8)。保有山林面積規模別にみると、保有山林面積が10ha未満の林業経営体が56%を占めている一方で、保有山林面積が100ha以上の林業経営体は、全林業経営体数の4%にすぎないものの、林業経営体による保有山林面積全体の76%に当たる331万haを保有している(資料 III -7)。


(*2)所有山林面積から貸付山林面積を差し引いた後、借入山林面積を加えたもの。

(*3)30ha以上のまとまりを持った森林について、造林や伐採等の森林施業に関する5か年の計画で、平成24(2012)年度から森林経営計画に移行。

(*4)製林業経営体のうち1世帯(雇用の有無を問わない。)で事業を行う「家族経営体」については、(ア)に該当する者は全て林家に含まれるが、(イ)又は(ウ)に該当する者は保有山林が1ha未満又は山林を保有していない場合もあるため、林家に含まれるとは限らない。

(*5)「1990年世界農林業センサス」での調査を最後にこの統計項目は削除された。

(*6)家族経営体78,080経営体のうち、山林(3ha以上)を保有する経営体は76,969経営体(99%)であることから、家族経営体(定義上は山林を保有する世帯に限らない。)のほとんどが林家(山林(1ha以上)を保有する世帯)に含まれる。



(イ)林業経営体の動向

(a)全体の動向

(森林施業の主体は林家・森林組合・民間事業体)

我が国の私有林における森林施業は、主に林家、森林組合及び民間事業体によって行われている。このうち、森林組合と民間事業体(「林業事業体」)は、主に森林所有者等からの受託若しくは立木買いによって、造林や伐採等の作業を担っている。

「2015年農林業センサス」によると、林業経営体が期間を定めて一連の作業・管理を一括して任されている山林の面積は98万haであり、その約9割を森林組合又は民間事業体が担っている(*7)。

また、林業作業の受託のうち植林、下刈り等及び間伐については、森林組合が全国の受託面積の56%を占めており、保育等の森林整備の中心的な担い手となっている。主伐については、民間事業体が55%を占めており、素材生産の中心的な担い手となっている(資料 III -9)。


(*7)森林組合が約48万ha、民間事業体が約41万haを担っている(「2015年農林業センサス」)。



(林業経営体による素材生産量は増加)

「2015年農林業センサス」によると、調査期間(*8)の1年間に素材生産を行った林業経営体は、全体の約12%に当たる10,490経営体(前回比19%減)となっている。林業経営体数が減少した一方で、素材生産量の合計は増加し、1,989万m3(前回比27%増)となっている。組織形態別にみると、民間事業体と森林組合による素材生産量の合計は増加し、1,367万m3(前回比41%増)となっており、素材生産量全体に占める割合は、前回の62%から69%に上昇している(資料 III -10)。

素材生産を行った林業経営体のうち、受託若しくは立木買いにより素材生産を行った林業経営体は、3,712経営体(前回比9%増)で、素材生産量の合計は1,555万m3(前回比42%増)となっている。受託若しくは立木買いによる素材生産量の割合は、前回の70%から78%に上昇している。


(*8)平成26(2014)年2月から平成27(2015)年1月までの間。



(素材生産量の多い林業経営体の割合が上昇)

受託若しくは立木買いにより素材生産を行った林業経営体について素材生産量規模別にみてみると、素材生産規模が大きい林業経営体の割合は増加している。1林業経営体当たりの素材生産量についても大幅に増加し、4,188m3(前回比30%増)となっており、林業経営体の規模拡大が進んでいる傾向にある。

一方で、年間素材生産量が1,000m3未満の林業経営体は、前回調査から減少しているものの全体の46%を占めており、素材生産規模の小さい林業経営体が多い状況にある(資料 III -11)。


(林業経営体の生産性は上昇傾向)

「2015年農林業センサス」によると、受託若しくは立木買いにより素材生産を行った林業経営体の素材生産の労働生産性は、前回から18%上昇して2.7m3/人・日となっている(*9)。しかしながら、欧米諸国と比べると低水準である(*10)。

素材生産量規模別にみると、規模が大きい林業経営体ほど労働生産性が高くなっている(資料 III -12)。この要因としては、規模が大きい林業経営体では機械化が進んでいることなどが考えられる。

更なる生産性の向上のため、施業の集約化や効率的な作業システムの普及に取り組んでいく必要がある(*11)。


(*9)素材生産量の合計15,545,439m3を投下労働量の合計5,858,650人・日で除して算出(農林水産省「2015年農林業センサス」)。

(*10)我が国と欧州との比較については、「平成21年度森林及び林業の動向」(10-11ページ)を参照。

(*11)森林経営の集積・集約化等の新たな森林管理システムの構築については、第 I 章(25-32ページ)参照。林業の生産性の向上に向けた取組については、93-101ページ参照。



(木材販売収入に対して育林経費は高い)

我が国の林業は、販売収入に対して育林経費が高くなっている。50年生のスギ人工林の主伐を行った場合の木材収入は、平成29(2017)年の山元立木価格に基づいて試算すると、90万円/haとなる(*12)。これに対して、スギ人工林において、50年生(10齢級(*13))までの造林及び保育にかかる経費は、「平成25年度林業経営統計調査報告」によると、114万円/haから245万円/haまでとなっている(*14)。このうち約9割が植栽から10年間に必要となっており、初期段階での育林経費の占める割合が高い(資料 III -13)。

このため、植栽から保育、伐採までの長期にわたる林業経営を行うには、生産性の更なる向上とともに、育林経費の低コスト化、木材の販売収入の拡大等が重要な課題となっている。


(*12)スギ山元立木価格2,881円/m3(86-87ページ参照。)に、スギ10齢級の平均材積311m3/ha(林野庁「森林資源の現況(平成24(2012)年3月31日現在)」における10齢級の総林分材積を同齢級の総森林面積で除した平均材積414m3/haに利用率0.75を乗じた値)を乗じて算出。

(*13)齢級は、林齢を5年の幅でくくった単位。苗木を植栽した年を1年生として、1~5年生を「1齢級」と数える。

(*14)地域によりばらつきがある。また、林齢によって標本数が少ないものがあることから、集計結果の利用に当たっては注意が必要とされている。



(b)林家の動向

(林家による施業は保育作業が中心)

林家による施業は、保育作業が中心であり、主伐を行う者は少なくなっている。

「2015年農林業センサス」によると、家族経営体のうち、過去5年間に保有山林において植林、下刈り、間伐、主伐等の何らかの林業作業を行った者は、全体の84%であった。作業別の実施割合をみると、下刈りを実施した者、間伐を実施した者はそれぞれ5割前後である一方、主伐を実施した者は8%、植林を実施した者は14%であった(資料 III -14)。これは、保育の必要な人工林が多く存在する一方で、木材販売収入に対して育林経費が高いことなどにより、主伐・再造林が進んでいないことによるものと考えられる。


(林業所得は低く、林業で生計を立てる林家は少ない)

「2015年農林業センサス」によると、家族経営体約7.8万経営体のうち、調査期間の1年間に何らかの林産物(*15)を販売したものの数は、全体の14%にあたる約1.1万経営体となっている。

また、平成25(2013)年度の1林業経営体当たりの年間林業粗収益は248万円で、林業粗収益から林業経営費を差し引いた林業所得は11万円であった(資料 III -15)。「2005年農林業センサス」によると、山林を保有する家族経営体約18万戸のうち、林業が世帯で最も多い収入となっている家族経営体数は1.7%の3千戸であったことから、現在も林業による収入を主体に生計を立てている林家は少数であると考えられる(*16)。


(*15)用材(立木又は素材)、ほだ木用原木、特用林産物(薪、炭、山菜等(栽培きのこ類、林業用苗木は除く))。

(*16)「2010年世界農林業センサス」以降この統計項目は削除された。



(山林に係る相続税の特例措置等)

大規模に森林を所有する林家では、相続を契機として、所有する森林の細分化、経営規模の縮小、後継者による林業経営自体の放棄等の例がみられる。林家を対象として、林業経営を次世代にわたって継続するために求める支援や対策について聞いたところ、保有山林面積規模が500ha以上の林家では、「相続税、贈与税の税負担の軽減」と回答した林家が53%で最も多かった(*17)。

このような中で、山林に係る相続税については、これまで、評価方法の適正化、評価額の軽減、「山林に係る相続税の納税猶予制度(*18)」等の措置が講じられてきた。

平成29(2017)年度の税制改正では、相続時の財産評価の適正化のため、実態を踏まえて、相続税に係る立木評価額が見直され、スギ及びヒノキについて、(ア)幼齢立木の標準価額の引下げ、(イ)切替樹齢(市場価値が生じる林齢)の修正と切替樹齢の立木の標準価額の引下げ、(ウ)標準伐期年数の後倒し、(エ)標準伐期以降の利率の引下げを行い、評価額が全体的に引き下げられるとともに、マツについて原則として標準価額を定めず個別に評価することとされ、相続税の負担が軽減されることとなった。また、山林に係る相続税の納税猶予制度については、一つの小流域内に存する5ha未満の山林のうち、一定の要件を満たす山林を納税猶予の対象に加えるなどの拡充が行われた。


(*17)農林水産省「林業経営に関する意向調査」(平成23(2011)年3月)

(*18)一定面積以上の森林を自ら経営する森林所有者を対象に、経営の規模拡大、作業路網の整備等の目標を記載した森林経営計画が定められている区域内にある山林(林地・立木)を、その相続人が相続又は遺贈により一括して取得し、引き続き計画に基づいて経営を継続する場合は、相続税額のうち対象となる山林に係る部分の課税価格の80%に対応する相続税の納税猶予の適用を受けることができる制度。



(c)林業事業体の動向

(森林組合)

森林組合は、「森林組合法(*19)」に基づく森林所有者の協同組織で、組合員である森林所有者に対する経営指導、森林施業の受託、林産物の生産、販売、加工等を行っている(資料 III -16)。

森林組合の数は、最も多かった昭和29(1954)年度には5,289あったが、経営基盤を強化する観点から合併が進められ、平成27(2015)年度末には629となっている。また、全国の組合員数は、平成27(2015)年度末現在で約153万人(法人含む。)となっており、組合員が所有する私有林面積は約932万ha(*20)で、私有林面積全体の約3分の2を占めている(*21)。

森林組合が実施する事業のうち、新植や保育の事業量は、長期的には減少傾向で推移している。これに対して、素材生産の事業量は、平成14(2002)年度を底に増加傾向にあり、平成27(2015)年度の素材生産量は前年比10%増の543万m3となった。素材生産量の内訳については、間伐によるものが314万m3で約6割を占め、主伐によるものは229万m3で約4割となっている(資料 III -17)。

新植及び保育の依頼者別面積割合は、約6割が組合員を含む個人等であり、公社等と地方公共団体が4割弱を占めている。また、素材生産量のうち、84%が組合員を含む私有林からの出材となっている(資料 III -18)。

現在、森林組合系統では、施業の集約化等に取り組むことで持続的かつ効率的な事業展開を図るとともに、国産材の安定供給体制の構築に向け、系統のスケールメリットを活かした事業量の拡大や県域を越えた安定供給に取り組んでいる(*22)。

平成28(2016)年5月の「森林組合法」の改正では、適切な管理がなされていない森林等について、森林組合系統が森林所有者に代わって森林経営を行いやすくし、森林組合等による施業の集約化等を促進する観点から、森林組合が自ら森林を保有・経営する「森林経営事業」の要件を見直した。これにより、平成29(2017)年度から、森林組合は森林の保続培養等の目的に加え、林業を行う組合員の利益増進を目的とする森林経営事業を実施できるようになるとともに、森林組合連合会による森林経営事業が可能となっている。


(*19)「森林組合法」(昭和53年法律第36号)

(*20)市町村有林、財産区有林も含めた民有林全体においては、組合員(市町村等を含む。)が所有する森林面積は、約1,066万haとなっている。

(*21)林野庁「平成27年度森林組合統計」(平成29(2017)年4月)

(*22)全国森林組合連合会「JForest 森林・林業・山村未来創造運動~次代へ森を活かして地域を創る~」(平成27(2015)年10月)



(民間事業体)

素材生産や森林整備等の施業を請け負う民間事業体は、平成27(2015)年には1,305経営体(*23)となっている。このうち植林を行った林業経営体は31%(*24)、下刈り等を行った林業経営体は47%(*25)、間伐を行った林業経営体は71%(*26)である。

また、受託若しくは立木買いにより素材生産を行った民間事業体は、1,098経営体となっている。これらの林業経営体の事業規模をみると、59%が年間の素材生産量5,000m3未満の林業経営体(*27)となっており、小規模な林業経営体が多い。素材生産の労働生産性は事業規模が大きい林業経営体ほど高いことから(*28)、効率的な素材生産を行うためには安定的に事業量を確保することが求められる。このような中で、民間事業体においても、森林所有者等に働き掛け、施業の集約化や経営の受託等を行う取組(*29)が進められている。

また、林業者と建設業者が連携して路網整備や間伐等の森林整備を実施する「林建協働」の取組が、建設業者による「建設トップランナー倶楽部(くらぶ)(*30)」等により推進されている。建設業者は既存の人材、機材、ノウハウ等を有効活用して、林業の生産基盤である路網の開設等を実施できることから、林業者との連携によって林業再生に寄与することが期待される。


(*23)「2015年農林業センサス」による調査結果で、調査期間の1年間に林業作業の受託を行った林業経営体のうち、株式会社、合名・合資会社、合同会社、相互会社の合計。

(*24)409経営体(農林水産省「2015年農林業センサス」)。

(*25)610経営体(農林水産省「2015年農林業センサス」)。

(*26)929経営体(農林水産省「2015年農林業センサス」)。

(*27)652経営体(農林水産省「2015年農林業センサス」)。

(*28)素材生産量規模別の労働生産性については、89-90ページ参照。

(*29)例えば、「平成24年度森林及び林業の動向」の136ページを参照。

(*30)複業化や農林水産業への参入に取り組む建設業者の会。



(林業事業体育成のための環境整備)

林業事業体には、地域の森林管理の主体として、造林や保育等の作業の受託から森林経営計画等の作成に至るまで、幅広い役割を担うことが期待されることから、施業の集約化等に取り組むための事業環境を整備する必要がある。

このため、各都道府県では、林野庁が発出した森林関連情報の提供等に関する通知(*31)に基づき、林業事業体に対して森林簿、森林基本図、森林計画図等の閲覧、交付及び使用を認めるように、当該情報の取扱いに関する要領等の見直しを進めている。

また、森林所有者、事業発注者等が森林経営の委託先や森林施業の事業実行者を適切に選択できるよう、林野庁では、林業経営体に関する技術者・技能者の数、林業機械の種類及び保有台数、事業量等の情報を登録し、公表する仕組みの例を示した。平成29(2017)年度までに、8道県がこの仕組みを活用している。

さらに、林業事業体の計画的な事業実行体制等の構築を促進するため、地域における森林整備や素材生産の年間事業量を取りまとめて公表する取組も開始されている(*32)。


(*31)「森林の経営の受委託、森林施業の集約化等の促進に関する森林関連情報の提供及び整備について」(平成24(2012)年3月30日付け23林整計第339号林野庁長官通知)

(*32)例えば、「平成26年度森林及び林業の動向」の182ページを参照。




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