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林野庁

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第1部 第 II 章 第2節 森林整備の動向(1)

我が国の森林整備は、森林所有者や林業関係者に加え、国、地方公共団体、NPO(民間非営利組織)や企業等の幅広い関係者が連携して、間伐や伐採後の再造林等を適正に進める必要がある。

以下では、森林整備の推進状況、社会全体に広がる森林(もり)づくり活動、研究・技術開発及び普及の推進について記述する。


(1)森林整備の推進状況

(森林整備の実施状況)

国土の保全、水源の涵(かん)養、地球温暖化の防止、木材をはじめとする林産物の供給等の森林の有する多面的機能が将来にわたって十分に発揮されるようにするためには、森林資源の適切な利用を進めつつ、主伐後の再造林や間伐等を着実に行う必要がある。また、自然条件等に応じて、複層林化(*13)、長伐期化(*14)、針広混交林化や広葉樹林化(*15)を推進するなど、多様で健全な森林へ誘導することも必要である。このため、我が国では、「森林法」に基づく森林計画制度等により計画的かつ適切な森林整備を推進している(*16)。

また、地球温暖化対策として、我が国は、2020年度における温室効果ガス削減目標を平成17(2005)年度総排出量比3.8%減以上としており、森林吸収源対策では約3,800万CO2トン(2.7%)以上を確保することとしている。この森林吸収量の目標を達成するため、「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法(*17)」(以下「間伐等特措法」という。)に基づき農林水産大臣が定める「特定間伐等及び特定母樹の増殖の実施の促進に関する基本指針」では、平成25(2013)年度から2020年度までの8年間において、年平均52万haの間伐を実施することとしている(*18)。

このような中、林野庁では、森林所有者等による間伐等の森林施業や路網整備に対して、「森林整備事業」により支援を行っている。このうち、「森林環境保全直接支援事業」では、「森林経営計画(*19)」の作成者等が施業の集約化や路網整備等を通じて低コスト化を図りつつ計画的に実施する施業に対し、支援を行っている。また、「環境林整備事業」では、所有者の自助努力によっては適正な整備が期待できない急傾斜地等の条件不利地において、市町村等が森林所有者と協定を締結して実施する施業に対し支援を行っている。さらに、「美しい森林づくり基盤整備交付金」では、「間伐等特措法」に基づき行う間伐等に対して支援を行っている。

また、国有林野事業では、間伐の適切な実施や針広混交林化、モザイク状に配置された森林への誘導等、多様な森林整備を推進している(*20)。

平成28(2016)年度の主な森林整備の実施状況は、人工造林の面積が2.7万haであり、このうち複層林の造成を目的として樹下に苗木を植栽する樹下植栽は0.5万haであった。また、保育等の森林施業を行った面積は59万haであり、このうち間伐の面積は44万haであった(資料 II -10)。主伐と人工造林については、近年の主伐面積は推計値で年約7万haであり、人工造林の実績は年2~3万ha程度となっている(*21)。


(*13)針葉樹一斉人工林を帯状、群状等に択伐し、その跡地に人工更新等により複数の樹冠層を有する森林を造成すること。

(*14)従来の単層林施業が40~50年程度で主伐(皆伐)することを目的としているのに対し、おおむね2倍に相当する林齢まで森林を育成し主伐を行うこと。

(*15)針葉樹一斉人工林を帯状、群状等に択伐し、その跡地に広葉樹を天然更新等により生育させることにより、針葉樹と広葉樹が混在する針広混交林や広葉樹林にすること。

(*16)森林計画制度については、40-43ページを参照。

(*17)「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」(平成20年法律第32号)

(*18)地球温暖化対策については、77-80ページを参照。

(*19)森林経営計画については、第 III 章(95ページ)を参照。

(*20)国有林野事業の具体的取組については、第 V 章(185-206ページ)を参照。

(*21)林野庁「森林・林業統計要覧」



(公的な関与による森林整備の状況)

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センターが実施する「水源林造成事業」では、ダムの上流域等の水源地域に所在する水源涵(かん)養上重要な保安林のうち、水源涵(かん)養機能等が低下している箇所について、水源を涵(かん)養するための森林の造成を行っている。同事業は、土地所有者、造林者及び国立研究開発法人森林研究・整備機構の3者が分収造林契約(*22)を締結して、土地所有者が土地の提供を、造林者が植栽、植栽木の保育及び造林地の管理を、同機構が植栽や保育に要する費用の負担と技術の指導を行うものである。同事業により、これまで全国で約48万haの森林が造成され、管理されている(*23)。

また、林業公社は、森林所有者による整備が進みにくい地域において、分収方式によって造林を推進するため、都道府県によって設立された法人である。林業公社はこれまで、全国で約40万haの森林を造成し、森林の有する多面的機能の発揮や、地域の森林整備水準の確保、雇用の創出等に重要な役割を果たしてきた。平成29(2017)年3月末現在、24都県に26の林業公社が設置されており、これらの公社が管理する分収林は、全国で約31万ha(民有林の約2%)となっている。林業公社の経営は、個々の林業公社により差はあるものの、木材価格の低下等の社会情勢の変化や森林造成に要した借入金の累増等により、総じて厳しい状況にあり、経営健全化が必要となっている。

このため、林業公社に対しては、成長が悪い森林や木材の搬出が困難な森林等の契約解除に向けた取組や、間伐等と森林作業道の一体的な整備について、林野庁が補助事業により支援を行っているほか、金融措置による支援や地方財政措置も講じられている。各林業公社では、このような支援等も活用しつつ、経営改善に取り組んでいる。

このほか、「治山事業」により、森林所有者等の責に帰することができない原因により荒廃し、機能が低下した保安林の整備が行われている(*24)。


(*22)一定の割合による収益の分収を条件として、「分収林特別措置法」に基づき、造林地所有者、造林者及び造林費負担者のうちの3者又はいずれか2者が当事者となって締結する契約。

(*23)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センターホームページ「水源林造成事業」

(*24)治山事業については、58-60ページを参照。



(適正な森林施業の確保等のための措置)

我が国では、適切な森林整備の実施を確保するため、「森林法」に基づき、「市町村森林整備計画」で伐採、造林、保育等の森林整備の標準的な方法を示しており、森林所有者等が森林を伐採する場合には、市町村長にあらかじめ伐採及び伐採後の造林の計画を提出することとされている(*25)。また、市町村が伐採後の森林の状況を把握しやすくし、指導・監督を通じた再造林を確保するため、平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、森林所有者等は、市町村長へ伐採後の造林の状況を報告することとされた(*26)。

さらに、林野庁では、平成22(2010)年度から、外国人及び外国資本による森林買収について調査を行っており、平成29(2017)年4月には、平成28(2016)年1月から12月までの期間における、居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収の事例(29件、計202ha)等を公表した(*27)。林野庁では、引き続き、森林の所有者情報の把握に取り組むこととしている(*28)。

なお、一部の道県等では、水資源保全の観点から、水源周辺における土地取引行為に事前届出を求める条例を定める動きもみられる(*29)。


(*25)「森林法」第10条の8第1項

(*26)「森林法」第10条の8第2項

(*27)林野庁プレスリリース「外国資本による森林買収に関する調査の結果について」(平成29(2017)年4月28日付け)

(*28)森林所有者情報の把握については、第 I 章(28-29ページ)を参照。

(*29)平成30(2018)年3月現在、北海道、秋田県、山形県、茨城県、群馬県、埼玉県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、三重県、滋賀県、京都府、徳島県及び宮崎県の18道県が関連する条例を制定済み。



(優良種苗の安定供給)

我が国における山行(やまゆき)苗木の生産量は、平成27(2015)年度で約6,100万本であり、ピーク時の1割以下となっている(資料 II -11)。このうち、針葉樹ではスギが約1,945万本、ヒノキが約940万本、カラマツが約1,190万本、マツ類が約238万本となっており、広葉樹ではクヌギが約156万本、ケヤキが約26万本となっている。また、苗木生産事業者数は、全国で約880事業体となっている(*30)。苗木の需給については、地域ごとに過不足が生ずる場合もあることから、必要量の確保のため、地域間での需給調整等が行われている。

現在、戦後造林された人工林を中心に本格的な利用期を迎えており、今後、主伐の増加が見込まれる中、主伐後の再造林に必要な苗木の安定的な供給を図ることが一層重要になっている。


(*30)林野庁整備課調べ。



(コンテナ苗の普及)

再造林が円滑に行われるようにするためには、再造林に要する経費の縮減が必要となっている。このため、再造林経費の縮減に向けて、近年、国有林野事業をはじめとして、伐採と並行又は連続して地拵(ごしら)えを行った後、植栽を行う「伐採と造林の一貫作業システム」(*31)が新たに導入されつつある。同システムにより年間を通じて再造林を実施していくためには、植栽適期を拡大していくことが必要となっている。

このような中で、植栽適期を拡大できる可能性がある「コンテナ苗」の普及が必要となっている。コンテナ苗は、裸苗(はだかなえ)と異なり、根鉢があることで、植栽のダメージが少なく、乾燥ストレスの影響を受けにくいと考えられ、寒冷地の冬季や極端に乾燥が続く時期を除き、通常の植栽適期(春や秋)以外でも高い活着率が見込めることが研究成果により示されている(*32)。

林野庁では、コンテナ苗の生産拡大に取り組んでおり、その生産量は、平成20(2008)年度の約6千本から平成27(2015)年度の約470万本に大幅に増加し、前年度からも約2倍に増加している(資料 II -12)。

コンテナ苗は、従来から生産されている裸苗(はだかなえ)に比べて育苗期間が短く、床替(とこが)え作業が不要で、育苗作業の効率化が可能となっている一方で、コンテナ苗の生産には、裸苗(はだかなえ)と異なる生産技術やノウハウが必要とされることから、全国各地で現地検討会や講習会等が開催され、生産技術の習得や向上に向けた取組が進められている。


(*31)「伐採と造林の一貫作業システム」については、第 III 章(99-100ページ)を参照。

(*32)研究成果については、「平成28年度森林及び林業の動向」の14ページを参照。



(成長等に優れた優良品種の開発)

低密度での植栽等の低コスト造林を進めるとともに、将来にわたって二酸化炭素の吸収作用の強化を図るため、初期成長や材質、通直性に優れた品種の開発が必要となっている。

このような中、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターでは、収量の増大と造林・保育の効率化に向けて、平成24(2012)年から林木育種による第二世代精英樹(エリートツリー)(*33)の開発を行っており、現在は、第二世代精英樹同士を交配させ、第三世代以降の精英樹の開発に着手している。

第二世代精英樹等のうち成長や雄花着生性等に関する基準(*34)を満たすものは、間伐等特措法に基づき、農林水産大臣が特定母樹として指定しており、平成30(2018)年3月末現在、特定母樹として274種類が指定されており、そのうち232種類が第二世代精英樹から選ばれている。

林野庁では、特定母樹から生産される種苗が今後の再造林に広く利用されるよう、その体制整備を推進しているところであり、都道府県等においても、特定母樹による採種園や採穂園の整備が進められている。


(*33)成長や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等により得られた次世代の個体の中から選抜される、成長等がより優れた精英樹のこと。

(*34)成長量が同様の環境下の対照個体と比較しておおむね1.5倍以上、雄花着生性が一般的なスギ・ヒノキのおおむね半分以下等の基準が定められている。



(早生樹の利用に向けた取組)

近年、強度のある針葉樹早生樹種としてコウヨウザン(*35)の活用が注目されている。コウヨウザンは、成長が早い上に、萌芽更新が可能であることから、苗木の植栽を省くことによって再造林に要する経費を縮減できる可能性もある。また、材質については、スギよりも強くヒノキに近い強度が示されている(*36)。今後は、未解明な部分も多い育種技術や育苗、萌芽更新等の造林技術の確立に取り組むことが必要となっている。

また、家具等に利用される広葉樹材について、その大半が輸入材で占められているが、国外では資源量の減少や生物多様性保全への意識の高まりに伴う伐採規制等の動きがみられることから、近年、国内における広葉樹材の生産への関心が高まってきている。広葉樹は、一般にスギやヒノキ等と比較して単位面積当たりの成長量が小さく、家具材生産のためには、おおむね80年以上の育成期間を要することや、針葉樹と比較して幹の曲がりや枝分かれが発生しやすく、通直な用材の生産が難しいことが課題となっている。このような中、地域レベルでセンダンやチャンチンモドキといった早生樹種の広葉樹の施業技術の開発に向けた実証的な取組が増加してきているほか、国有林野事業においてもセンダンの試験植栽等の早生樹種の施業技術開発(*37)が進められている。


(*35)中国大陸や台湾を原産とし、学名は、Cunninghamia lanceolateである。我が国では外来生物に当たるが、江戸時代より前に導入されたものであり、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(平成16年法律第78号)に基づく特定外来生物や未判定外来生物には指定されていない。

(*36)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターホームページ「コウヨウザンのそもそもと研究の現状」

(*37)国有林野事業におけるセンダンの試験植栽の取組については、「平成27年度森林及び林業の動向」179ページを参照。



(花粉発生源対策)

近年では、国民の3割が罹(り)患し(*38)国民病とも言われる花粉症(*39)への対策が課題となっている。このため、関係省庁が連携して、発症や症状悪化の原因究明、予防方法や治療方法の研究、花粉飛散量の予測、花粉の発生源対策等により、総合的な花粉症対策を進めている。

林野庁では、花粉発生源対策として、スギ人工林等を花粉の少ない森林へ転換する取組を推進するため、花粉発生源となっているスギ人工林等の伐倒と花粉症対策苗木(*40)の植栽や、スギ人工林を花粉症対策苗木へ植え替えるため、スギの加工業者等が行う森林所有者への働きかけ等に対する支援を行っている。

スギの花粉症対策苗木については、平成29(2017)年度までにスギ苗木の年間供給量の過半程度(約1,000万本)とすることを目標に、少花粉スギ等の種子を短期間で効率的に生産する「ミニチュア採種園」の整備を進めるとともに、苗木生産の施設整備やコンテナ苗生産技術の普及等により、花粉症対策苗木の供給拡大に取り組んでいる。その結果、スギの花粉症対策苗木の生産量は、平成17(2005)年度の約9万本から平成28(2016)年度には約533万本へと約59倍に増加した(資料 II -13)。しかしながら、スギ苗木生産量全体に占めるスギの花粉症対策苗木の割合は約3割となっていることから、引き続き、花粉症対策苗木の需要及び生産の拡大を推進することとしている。

また、ヒノキの花粉生産量の予測に必要なヒノキ雄花の観測技術の開発、菌類を用いたスギ花粉飛散防止剤の実用化に向けた林地実証試験等を推進している(*41)。


(*38)馬場廣太郎、中江公裕(2008)鼻アレルギーの全国疫学調査 2008(1998年との比較)―耳鼻咽喉科およびその家族を対象として―,Progress in Medicine, 28(8): 145-156

(*39)花粉に対して起こるアレルギー反応で、体の免疫反応が花粉に対して過剰に作用して、くしゃみや鼻水等を引き起こす疾患であるが、その発症メカニズムについては、大気汚染や食生活等の生活習慣の変化による影響も指摘されており、十分には解明されていない。

(*40)ほとんど、又は、全く花粉をつくらない品種の苗木。

(*41)菌類を用いたスギ花粉飛散防止剤の開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」の30ページを参照。




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