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第1部 第 II 章 第2節 森林整備の動向(2)

(2)社会全体に広がる森林(もり)づくり活動

(ア)国民参加の森林(もり)づくりと国民的理解の促進

(「全国植樹祭」・「全国育樹祭」を開催)

「全国植樹祭」は、国土緑化運動の中心的な行事であり、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、両陛下によるお手植えや参加者による記念植樹等を通じて、国民の森林に対する愛情を培うことを目的として毎年春に開催されている。第1回の全国植樹祭は昭和25(1950)年に山梨県で開催され、平成29(2017)年5月には、「第68回全国植樹祭」が富山県で、「かがやいて 水・空・緑のハーモニー」をテーマに開催された。同植樹祭では、天皇皇后両陛下がタテヤマスギ(優良無花粉スギ「立山 森の輝き」)やコシノフユザクラ等をお手植えされ、エドヒガンやヤマザクラ等をお手播(ま)きされた(資料 II -14)。また、式典や記念植樹には、県内外から約7,400人が参加した。平成30(2018)年6月には、「第69回全国植樹祭」が福島県で開催される。

「全国育樹祭」は、皇族殿下によるお手入れや参加者による育樹活動等を通じて、森を守り育てることの大切さについて国民の理解を深めることを目的として毎年秋に開催されている。第1回の全国育樹祭は、昭和52(1977)年9月に大分県で開催され、平成29(2017)年11月には、「第41回全国育樹祭」が香川県で、「森を育てる豊かな暮らし 森が育む確かな未来」をテーマに開催された。同育樹祭では、「第39回全国植樹祭」(昭和63(1988)年開催)で当時の天皇皇后両陛下の御名代として当時の皇太子同妃両殿下がお手植えされたヒノキとクロガネモチを皇太子同妃両殿下がお手入れされた。平成30(2018)年11月には、「第42回全国育樹祭」が東京都で開催される。

資料II-14 全国植樹祭での両陛下のお手植えの様子

(多様な主体による森林(もり)づくり活動が拡大)

環境問題等への関心の高まりから、NPOや企業等の多様な主体により森林(もり)づくり活動が行われている。

森林(もり)づくり活動を実施している団体の数は、平成27(2015)年度は3,005団体であり、平成24(2012)年度よりは減少したものの、平成12(2000)年度の約5倍となっている(資料 II -15)。各団体の活動目的としては、「里山林等身近な森林の整備・保全」や「森林環境教育」を挙げる団体が多い(*42)。チェーンソー等の機械を使用した活動を行っている団体も多く、森林(もり)づくり活動における安全の確保が重要となっている(事例 II -1)。

また、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として、企業による森林(もり)づくり活動も行われており、平成28(2016)年度の実施箇所数は1,554か所であった(資料 II -16)。具体的な活動としては、顧客、地域住民、NPO等との協働による森林(もり)づくり活動、基金や財団を通じた森林再生活動に対する支援、企業の所有森林を活用した地域貢献等が行われている。また、森林所有者との協定締結による森林整備の取組も行われている。

林野庁では、NPOや企業等の多様な主体による森林(もり)づくり活動を促進するための支援を行っている。

事例 II -1 ボランティア活動における安全確保の取組

森づくり安全技術・技能全国推進協議会は、「森づくり安全技術・技能習得制度」を運営し、森林ボランティア活動を行う者を対象として、森林での活動を安全に行うために必要な知識や技術の研修を行うとともに、知識等の習得状況の審査・認定を行っている。

平成29(2017)年10月に東京都八王子(はちおうじ)市で計7日間にわたり開催された研修会は、チェーンソーの安全な使用方法を理解し、伐木・造材の作業を安全に行うための知識・技能等を身に付けることを目的としたもので、森林整備や伐木作業についての座学や、チェーンソーの取扱いや点検整備、足場や伐倒する立木に見立てた丸太の傾きを調整することで実際の作業現場に近い状態での反復練習を可能にする伐倒練習機を使った受け口づくりや追い口の入れ方の実習等も行われた。

林業の現場における安全な労働環境の整備に向けた取組が進められている中、このような研修を実施することで、森づくり活動における安全を確保するための技術や技能は林業労働者と共通であるとの認識が広がり、ボランティア活動における安全の確保が図られることが期待される。

座学の様子
座学の様子
伐倒練習機を使用した実習
伐倒練習機を使用した実習

(*42)林野庁補助事業「森林づくり活動についての実態調査 平成27年調査集計結果」(平成28(2016)年3月)



(幅広い分野の関係者との連携)

幅広い分野の関係者の参画による森林(もり)づくり活動として、平成19(2007)年から「美しい森林づくり推進国民運動」が進められている。同運動は、「京都議定書目標達成計画」に定められた森林吸収量の目標達成や生物多様性保全等の国民のニーズに応えた森林の形成を目指して、政府と国民が協力しながら、森林の整備及び保全、国産材利用、担い手確保や地域づくり等に総合的に取り組むものである。

同運動では、経済団体、教育団体、環境団体、NPO等97団体により構成される「美しい森林(もり)づくり全国推進会議」が、里山整備、森林環境教育、生物多様性の保全の推進等に取り組んでいる。また、同運動の一環として平成20(2008)年12月に開始された「フォレスト・サポーターズ」制度は、個人や企業等が「フォレスト・サポーター」として運営事務局に登録を行い、日常の業務や生活の中で自発的に森林の整備や木材の利用に取り組む仕組みであり、登録数は平成29(2017)年10月末時点で約5.7万件となっている。

また、近年は、経済界において、林業の成長産業化を通じた地方創生への期待が高まっている。例えば、鉄鋼、金融、大手ゼネコン等我が国の主要な企業約200社が参加している「一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC(ジャピック))」は、平成29(2017)年4月に、「第4回林業復活・地域創生を推進する国民会議」を開催し、国産材の利活用の拡大の取組を発表した。また、平成30(2018)年3月には、「第5回林業復活・地域創生を推進する国民会議」を開催し、国産材の持続可能な活用に向けて、森林資源の価値を維持・向上させていく必要があることから、所有者不明森林や境界不明問題の解決、若い世代の林業就労促進や森林管理のための人材育成等について国を挙げて推進すべきであること、林業成長産業化の推進のため、各地の先行事例の横展開、ICT等の活用による生産効率向上、地域活性化の拠点となる建物の木造・木質化等の小さな積み重ねと実践を拡げていくべきであること等、産官学が連携して推進すべき取組について提言を発表した。そのほか、同月に、公益社団法人経済同友会においても、林業の革新と地方での雇用創出を目的に、中高層建築物を中心に国産材を積極的に利用する動きを起こすため、需要サイドからの提言として、(ア)企業(施主)は、木の良さを理解し、木造建築を積極的に採用する、(イ)設計者・施工者は、先端デジタル技術を用いた木造建築モデルを創造する、(ウ)地方公共団体及び供給者(加工業者、林業事業体、山林所有者)は、生産性向上と積極投資を図る、(エ)政府は、需要側からの構造改革に踏み込むといったそれぞれの者に求められる取組を発表した。


(森林環境教育を推進)

現代社会では、人々が日常生活の中で森林や林業に接する機会が少なくなっている。このため、森林内での様々な体験活動等を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める「森林環境教育」の取組が進められている。森林や林業の役割を理解し、社会全体で森林を持続的に保全しつつ利用していくことは持続可能な社会の構築に寄与し得るものであることから、「持続可能な開発のための教育(ESD(*43))」の考え方を取り入れながら森林環境教育に取り組む事例もみられる。

森林環境教育の例として、学校林(*44)の活用による活動が挙げられる。学校林を保有する小中高等学校は、全国の6.8%に相当する約2,500校で、学校林の合計面積は全国で約1万7千haとなっている。学校林は「総合的な学習の時間」等で利用されており、植栽、下刈り、枝打ち等の体験や、植物観察、森林の機能の学習等が行われている(*45)。

こうした学校林等の身近な森林を活用した森林環境教育の活動の輪を広げていくことを目的に「学校の森・子どもサミット(*46)」が開催されている。平成29(2017)年は、愛知県豊田市(とよたし)で児童による活動事例の発表等が行われるとともに、同市及び三重県大台町(おおだいちょう)で森を五感で体感し、人工林の健康状態を科学的に調べるプログラム「森の健康診断」の体験が行われた。

学校林以外の森林環境教育の取組としては、「緑の少年団」による活動がある。緑の少年団は、次代を担う子どもたちが、緑と親しみ、緑を愛し、緑を守り育てる活動を通じて、ふるさとを愛し、人を愛する心豊かな人間に育っていくことを目的とした団体である。平成30(2018)年1月現在、全国で3,333団体、約33万人が加入して森林の整備活動等を行っている(*47)。

また、「聞き書き甲子園(*48)」は、全国の高校生が、造林手(ぞうりんしゅ)、炭焼き職人、漆塗り職人、漁師等の「名手・名人」を訪ね、一対一の対話を「聞き書き(*49)」して、知恵、技術、考え方、生き方等を学ぶ活動である。森林・林業分野では、これまで16年間で約1,400人の高校生が参加し、高校生の作成した記録はホームページ上で公開され、森林・林業分野の伝統技術や山村の生活を伝達する役割も果たしている。


(*43)ESDとは、「Education for Sustainable Development」の略で、「持続可能な開発のための教育」と訳されている。 環境、貧困等の様々な地球規模の課題を自らの課題として捉え、自分にできることを考え、身近なところから取り組むことにより、課題解決につながる価値観や行動を生み出し、持続可能な社会の創造を目指す学習や活動のこと。

(*44)学校が保有する森林(契約等によるものを含む。)であり、児童及び生徒の教育や学校の基本財産造成等を目的に設置されたもの。

(*45)公益社団法人国土緑化推進機構「学校林現況調査報告書(平成28年調査)」(平成30(2018)年3月)

(*46)平成19(2007)年度から平成25(2013)年度まで学校林や「遊々の森」における活動を広げることを目的として開催されてきた「「学校林・遊々の森」全国子どもサミット」の後継行事であり、平成26(2014)年度から、林野庁、関係団体、NPO、地方公共団体及び地元教育委員会等で構成される実行委員会の主催により開催。

(*47)公益社団法人国土緑化推進機構ホームページ「緑の少年団」

(*48)林野庁、水産庁、文部科学省、環境省、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施されている取組。平成14(2002)年度から「森の聞き書き甲子園」として始められ、平成23(2011)年度からは「海・川の聞き書き甲子園」と統合し、「聞き書き甲子園」として実施。

(*49)話し手の言葉を録音し、一字一句全てを書き起こした後、一つの文章にまとめる手法。



(イ)森林整備等の社会的コスト負担

(「緑の募金」により森林(もり)づくり活動を支援)

「緑の募金」は、「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律(*50)」に基づき、森林整備等の推進に用いることを目的に行う寄附金の募集である。昭和25(1950)年に、戦後の荒廃した国土を緑化することを目的に「緑の羽根募金」として始まり、現在では、公益社団法人国土緑化推進機構と各都道府県の緑化推進委員会が実施主体となり、春と秋の年2回、各家庭に募金を呼びかける「家庭募金」、各職場の代表者等を通じた「職場募金」、企業が直接募金を行う「企業募金」、街頭で募金を呼びかける「街頭募金」等が行われている。平成28(2016)年には、総額約21億円の寄附金が寄せられた。

寄附金は、(ア)水源林の整備や里山林の手入れ等、市民生活にとって重要な森林の整備及び保全、(イ)苗木の配布や植樹祭の開催、森林ボランティアの指導者の育成等の緑化の推進、(ウ)熱帯林の再生や砂漠化の防止等の国際協力に活用されている。また、東日本大震災及び熊本地震からの復興のため、被災地において森林ボランティア等が行う緑化活動等に対する支援にも活用されている(*51)。


(*50)「緑の募金による森林整備等の推進に関する法律」(平成7年法律第88号)

(*51)緑の募金ホームページ「震災復興事業」



(地方公共団体による森林整備等を主な目的とした住民税の超過課税の取組)

現在、37の府県において、森林整備等を目的とした住民税の超過課税により、地域の実情に即した課題に対応するために必要な財源を確保する取組が行われている。

課税収入の使途としては、全37府県が森林整備・保全に活用していることに加え、その他、各府県の実情に即して木材の利用促進、普及啓発、人材育成等に活用するなど、その使途は広範にわたっている(資料 II -17)。

これら地域独自の取組と国の森林環境税(仮称)を活用した取組が推進されることにより、森林整備等が一層進んでいくことが期待される。


(森林関連分野のクレジット化の取組)

農林水産省、経済産業省及び環境省は、平成25(2013)年4月から、「J-クレジット制度」を運営している。同制度は、温室効果ガスの排出削減や吸収のプロジェクトを実施する者が、審査機関による審査と検証を受けて、実施したプロジェクトによる排出削減量や吸収量をクレジットとして国から認証を受けるものである。クレジットを購入する者は、入手したクレジットをカーボン・オフセット(*52)等に利用することができる(事例 II -2)。森林分野の対象事業としては、森林管理プロジェクトとして森林経営活動と植林活動が承認されており、平成29(2017)年11月現在で22件が登録されているほか、旧制度(*53)からのプロジェクト移行件数は48件となっている。また、木質バイオマス固形燃料により化石燃料又は系統電力を代替する活動も承認されており、42件が登録されているほか、旧制度からの移行件数は78件となっている。

J-クレジット制度のほかにも、地方公共団体や民間団体など多様な主体によって、森林の二酸化炭素吸収量を認証する取組が行われている(*54)。

事例 II -2 森林吸収系クレジットの地産地消によりカーボン・オフセットを普及啓発

秋田県横手(よこて)市と横手市森林組合は、同市内の森林経営により平成24(2012)年3月に約6千トンのオフセット・クレジット(J-VER)を取得したものの、平成27(2015)年度末時点での活用量は4トンにとどまっていた。この状況を改善するため、平成28(2016)年1月に、両者は「横手市・森林組合森林吸収共同プロジェクト推進協議会」を立ち上げ、活用事例等の情報収集を行いクレジットの活用の方法について検討した結果、従来想定していた大企業への大量販売から市内・県内の企業・団体への呼びかけによる小口販売に切り替えることとした。

現在は、同市内の森林経営により創出された森林吸収系クレジットは、同市の発効する住民票等に使われる偽造防止用紙の印刷製本、物産展の商品製造、各種イベントの運営等、地域の様々な活動で排出される二酸化炭素のオフセットに活用されており、住民票やイベントなど市民にとって身近なところでカーボン・オフセットが行われることで、カーボン・オフセットの普及啓発につながっている。

このようなクレジットの地産地消の取組は、地域の森林保全、林業振興に貢献していること、他の地域でも取り組むことは可能であり全国的に波及することが期待されることが高く評価され、「第7回カーボン・オフセット大賞(農林水産大臣賞)」を受賞した。

クレジットの地産地消の取組の仕組み
クレジットの地産地消の取組の仕組み

住民票の用紙がカーボン・オフセットされていることを明記
住民票の用紙がカーボン・オフセット
されていることを明記

(*52)温室効果ガスを排出する事業者等が、自らの排出量を認識して主体的に削減努力を行うとともに、削減が困難な排出量について、他の事業者等によって実現された排出削減・吸収量(クレジット)の購入等により相殺(オフセット)すること。

(*53)「国内クレジット制度」と「J-VER制度」であり、この2つを統合して「J-クレジット制度」が開始された。

(*54)「平成24年度森林及び林業の動向」74ページ及び「平成23年度森林及び林業の動向」60ページを参照。




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