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第1部 第 II 章 第3節 森林保全の動向(4)

(4)森林被害対策の推進

(野生鳥獣による被害が深刻化)

近年、野生鳥獣の生息域の拡大等を背景として、シカやクマ等の野生鳥獣による森林被害が深刻化している。平成27(2015)年度の野生鳥獣による森林被害の面積は、全国で約8千haとなっており、このうち、シカによる被害が約8割を占めている(資料 II -28)。

シカによる被害として、造林地の植栽木の枝葉や樹皮が被食されることにより、生長の阻害や枯死等が発生しているほか、立木の樹皮が剥がされることにより、立木の枯損(こそん)や木材としての価値の低下等が発生している(資料 II -29)。

シカによる被害が深刻化している背景として、個体数の増加や分布域の拡大が挙げられる。平成28(2016)年3月に公表された環境省によるシカの個体数の推定結果によると、北海道を除くシカの個体数(*90)の推定値(中央値)は約305万頭(平成25(2013)年度末)となっており(*91)、平成25(2013)年度の捕獲率を維持した場合、平成35(2023)年度の個体数(中央値)は約453万頭まで増加すると予測されている(*92)。また、シカの分布域は、昭和53(1978)年度から平成26(2014)年度までの36年間で約2.5倍に、直近の平成23(2011)年度から平成26(2014)年度までの3年間では約1.2倍に拡大しており、全国的に分布域の拡大傾向が続いている。特に北海道・東北地方や北陸地方において急速に拡大している(*93)(資料 II -30)。また、環境省が作成した密度分布図によると、関東山地から八ヶ岳、南アルプスにかけての地域や近畿北部、九州で生息密度が高い状態であると推定されている(*94)。

シカの密度が著しく高い地域の森林では、シカの食害によって、シカの口が届く高さ約2m以下の枝葉や下層植生がほとんど消失している場合や、シカの食害を受けにくい植物のみが生育している場合があり(*95)、このような被害箇所では、下層植生の消失や単一化、踏み付けによる土壌流出等により、森林の有する多面的機能への影響が懸念されている。

その他の野生鳥獣による被害としては、ノネズミは、植栽木の樹皮及び地下の根の食害により、植栽木を枯死させることがあり、特に北海道におけるエゾヤチネズミは、数年おきに大発生し、大きな被害を引き起こしている。クマは、立木の樹皮を剥ぐことにより、立木の枯損(こそん)や木材としての価値の低下等の被害を引き起こしている。

シカによる森林被害の様子
ニホンジカ分布域

(*90)北海道については、北海道庁が独自に個体数を推定しており、平成25(2013)年度において約54万頭と推定。

(*91)推定値には、247~396万頭(50%信用区間)、194~646万頭(90%信用区間)といった幅がある。信用区間とは、それぞれの確率で真の値が含まれる範囲を指す。

(*92)環境省プレスリリース「全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について(平成27年度)」(平成28(2016)年3月11日付け)

(*93)環境省プレスリリース「改正鳥獣法に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業の推進に向けたニホンジカ及びイノシシの生息状況等緊急調査事業の結果について」(平成27(2015)年4月28日付け)

(*94)環境省プレスリリース「改正鳥獣法に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業の推進に向けた全国のニホンジカの密度分布図の作成について」(平成27(2015)年10月9日付け)

(*95)農林水産省(2007)野生鳥獣被害防止マニュアル -イノシシ、シカ、サル(実践編)-:40-41.



(野生鳥獣被害対策を実施)

野生鳥獣による森林被害対策として、森林へのシカ等の野生鳥獣の侵入を防ぐ防護柵や、立木を剥皮被害から守る防護テープ、苗木を食害から守る食害防止チューブ(*96)等の設置が行われているほか、新たな防除技術の開発等が行われている(*97)。

また、被害をもたらす野生鳥獣を適正な頭数に管理する個体数管理のため、各地域の国有林、地方公共団体、鳥獣被害対策協議会等によりシカ等の計画的な捕獲や捕獲技術者の養成等が行われているほか、わなや銃器による捕獲等についての技術開発も進められている(事例 II -9)。なお、最近では、捕獲鳥獣の肉を食材として利活用する取組や、鹿革を利用した革製品の開発及び販売も、全国に広がりつつある。

さらに、野生鳥獣の生息環境管理の取組として、例えば、農業被害がある地域においては、イノシシ等が出没しにくい環境(緩衝帯)をつくるため、林縁部の藪(やぶ)の刈り払い、農地に隣接した森林の間伐等が行われている。また、地域や野生鳥獣の特性に応じて針広混交林や広葉樹林を育成し生息環境を整備するなど、野生鳥獣との棲(す)み分けを図る取組が行われている。

このような中で、平成25(2013)年12月には、環境省と農林水産省が「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、捕獲目標の設定(ニホンジカ、イノシシについて、平成35(2023)年度までに個体数を半減(*98))とその達成に向けた捕獲事業の強化、捕獲事業従事者の育成・確保等を推進することとした。

また、林野庁では、森林整備事業により、森林所有者等による間伐等の施業と一体となった防護柵等の被害防止施設の整備や、スギ等の人工林の針広混交林化や広葉樹林化に対して支援を行っており、さらに平成26(2014)年からは、野生鳥獣の食害等により被害を受けている森林を対象に、鳥獣の誘引捕獲とそれに必要な施設の整備に対して支援を行っている。

また、平成28(2016)年5月の「森林法」の改正により、森林資源の再造成の確保等を図るため、「市町村森林整備計画」等において、鳥獣害を防止するための措置を実施すべき森林の区域(鳥獣害防止森林区域)を設定し、区域を明確にした上で鳥獣害防止対策を推進することとされた。

平成28(2016)年11月には、鳥獣による農林水産業等に係る被害防止対策を効果的に推進するため、「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(*99)」が一部改正された。同法の改正により、鳥獣被害対策実施隊の設置促進や体制強化、捕獲した鳥獣の食品等としての利活用推進等に係る規定が追加された。

事例 II -9 継続的なシカ捕獲による生息密度の低下に向けた取組

給餌により誘引されたシカ
給餌により誘引されたシカ
シカ捕獲頭数と生息密度の推移
シカ捕獲頭数と生息密度の推移

関東森林管理局静岡森林管理署(静岡県静岡市)では、地方公共団体等により構成されている富士宮市(ふじのみやし)鳥獣被害防止対策協議会等と連携し、管内の富士山国有林に約15km2の捕獲地域を設定して、平成23(2011)年度から誘引捕獲や忍び猟、くくりわな等による計画的なシカの捕獲に取り組んできた。

その結果、3年間(平成24(2012)年度~平成26(2014)年度)で569頭が捕獲され、同地域におけるセンサーカメラを用いたシカの生息状況調査によると、シカの生息密度が5分の1程度まで低下した区域もあることが分かった。同森林管理署や地元猟友会、研究者、捕獲技術者等は、密な連携や役割分担によって、効率的かつ効果的な捕獲を行っており、これらが生息密度の低下につながっていると推測されている。

今後、国有林野事業では、地方公共団体等と連携しながら、低密度におけるシカの個体数管理の手法の検討や、シカの生息密度と森林被害発生との関係についてのデータ収集等を行うとともに、得られた知見を関係者等に共有し、活用していくこととしている。

資料:「富士山におけるこれからのニホンジカ管理に関する報告会」(平成28(2016)年3月静岡森林管理署)


(*96)植栽木をポリエチレン製等のチューブで囲い込むことにより食害を防止する方法。

(*97)野生鳥獣被害対策のための新たな技術については、第 I 章(18-19ページ)を参照。

(*98)環境省プレスリリース「改正鳥獣法に基づく指定管理鳥獣捕獲等事業の推進に向けたニホンジカ及びイノシシの生息状況等緊急調査事業の結果について」(平成27(2015)年4月28日付け)によると、ニホンジカについて、平成35(2023)年度に平成23(2011)年度の中央値で半数以下にするためには、平成27(2015)年度以降に平成23(2011)年度の捕獲率の約2.2倍の捕獲を続ける必要があると推測されている。

(*99)「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」(平成19年法律第134号)



(「松くい虫」は我が国最大の森林病害虫被害)

「松くい虫被害」は、体長約1mmの「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」がマツノマダラカミキリ等に運ばれてマツ類の樹体内に侵入することにより、マツ類を枯死させる現象(マツ材線虫病)である(*100)。

我が国の松くい虫被害は、明治38(1905)年頃に長崎県で初めて発生し(*101)、その後、全国的に広がった。これまでに、北海道を除く46都府県で被害が確認されている。

松くい虫被害量(材積)は、昭和54(1979)年度の243万m3をピークに減少傾向にあり、平成27(2015)年度はピーク時の5分の1程度の約48万m3となったが、依然として我が国最大の森林病害虫被害となっている(*102)(資料 II -31)。

松くい虫被害の拡大を防止するため、林野庁では都府県と連携しながら、公益的機能の高いマツ林等を対象として、薬剤散布や樹幹注入等の予防対策と被害木の伐倒くん蒸等の駆除対策を併せて実施している。また、その周辺のマツ林等を対象として、公益的機能の高いマツ林への感染源を除去するなどの観点から、広葉樹等への樹種転換による保護樹林帯の造成等を実施している(*103)。近年は東北や北陸甲信越地方等で被害が拡大しているほか、地域によっては必要な予防対策を実施できなかったため急激に被害が拡大した例もあり、引き続き被害拡大防止対策が重要となっている(事例 II -10)。

全国に松くい虫被害が広がる中、マツノザイセンチュウに対して抵抗性を有する品種の開発も進められてきた。国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センターは、昭和53(1978)年度から、松くい虫被害の激害地で生き残ったマツの中から抵抗性候補木を選木して抵抗性を検定することにより、平成27(2015)年度までに396種の抵抗性品種を開発してきた(*104)。各府県では、これらの品種を用いた採種園が造成されており、平成26(2014)年度には、これら採種園から採取された種子から約125万本の抵抗性マツの苗木が生産された(*105)。

松くい虫被害木の処理については、伐倒木をチップ化する方法等もあり、被害木の有効活用の観点から、製紙用やバイオマス燃料用として利用されている例もみられる。

事例 II -10 松くい虫被害に対応した多様な森林への転換

協定位置図
協定位置図

岩手県における松くい虫被害は、平成11(1999)年から急増し、その後も北上を続けており、平成21(2009)年には盛岡市、平成25(2013)年には内陸部の八幡平市(はちまんたいし)や岩手町(いわてまち)において被害が確認されるようになった。

松くい虫被害を媒介するマツノマダラカミキリの年間の移動距離は最大2km程度と考えられている。このため、保全すべきマツ林の周辺において、森林の所有形態を超えて国有林と民有林が連携してアカマツやクロマツからの樹種転換を図りマツ空白地帯(防除帯)を造成し、マツノマダラカミキリの移動を阻むことが、被害防除を図る上で有効である。

これらのことも踏まえつつ、盛岡森林管理署(岩手県盛岡市)では、民有林の関係5団体とともに、平成28(2016)年7月に「岩手町横断松くい虫防除帯森林整備推進協定」を締結した。同協定においては、南北2km、東西14kmの範囲を防除帯として設定し、平成32(2020)年までに防除帯における森林1,873ha(国有林860ha、民有林1,013ha)のうちアカマツの生育する約600haにおいて、伐採を通じた樹種転換を実施する計画を掲げている。また、伐採後においては、クリ、コナラ等の広葉樹やカラマツ等の針葉樹から成る多様な森林に誘導していくこととしている。


(*100)「松くい虫」は、「森林病害虫等防除法」(昭和25年法律第53号)により、「森林病害虫等」に指定されている。

(*101)矢野宗幹 (1913) 長崎県下松樹枯死原因調査. 山林公報, (4):付録1-14.

(*102)林野庁プレスリリース「「平成27年度森林病害虫被害量」について」(平成28(2016)年9月7日付け)

(*103)林野庁ホームページ「松くい虫被害」

(*104)林野庁研究指導課調べ。

(*105)林野庁整備課調べ。



(ナラ枯れ被害の状況)

「ナラ枯れ」は、体長5mm程度の甲虫である「カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)」がナラやカシ類等の幹に侵入して、「ナラ菌(Raffaelea quercivora)」を樹体内に持ち込むことにより、ナラやカシ類の樹木を集団的に枯死させる現象(ブナ科樹木萎凋(いちょう)病)である(*106)。文献で確認できる最古のナラ枯れ被害は、昭和初期(1930年代)に発生した宮崎県と鹿児島県での被害である(*107)。ナラ枯れの被害量は、平成22(2010)年度の約33万m3をピークに減少しているが、平成27(2015)年度は前年の約2倍の約8万m3となった。被害量が増加した要因は、カシノナガキクイムシがせん孔する時期(6月から8月まで)の直前の雨量等の気候状況により、ナラ・カシ類の樹勢が弱まったためであると推測されている。また、新たに徳島県と高知県で被害が確認され、平成27(2015)年度に被害が確認されたのは30府県となった(*108)(資料 II -32)。

ナラ枯れ被害の拡大を防止するためには、被害の発生を迅速に把握して、初期段階でカシノナガキクイムシの防除を行うことが重要である。このため林野庁では、被害木のくん蒸及び焼却による駆除、健全木への粘着剤の塗布やビニールシート被覆による侵入予防等を推進している。


(*106)カシノナガキクイムシを含むせん孔虫類は、「森林病害虫等防除法」により、「森林病害虫等」に指定されている。

(*107)伊藤進一郎, 山田利博 (1998) ナラ類集団枯損被害の分布と拡大(表-1). 日本林学会誌, Vol.80: 229-232.

(*108)林野庁プレスリリース「「平成27年度森林病害虫被害量」について」(平成28(2016)年9月7日付け)



(林野火災は減少傾向)

林野火災の発生件数は、短期的な増減はあるものの、長期的には減少傾向で推移している。平成27(2015)年における林野火災の発生件数は1,106件、焼損面積は約538haであった(資料 II -33)。

一般に、林野火災は、冬から春までに集中して発生しており、ほとんどは不注意な火の取扱い等の人為的な原因によるものである。林野庁は、昭和44(1969)年度から、入山者が増加する春を中心に、消防庁と連携して「全国山火事予防運動」を行っている。同運動では、入山者や森林所有者等の防火意識を高めるため、都道府県や市町村等へ、全国から募集し選定された山火事予防運動ポスターの配布等を通じ、普及啓発活動が行われている(*109)。


(*109)林野庁プレスリリース「平成29年全国山火事予防運動の実施について」(平成29(2017)年2月22日付け)



(森林保険制度)

森林保険は、森林所有者を被保険者として、火災、気象災及び噴火災により森林に発生した損害を塡補する総合的な保険である。森林所有者自らが災害に備える唯一のセーフティネットであるとともに、林業経営の安定と被災後の再造林の促進に必要不可欠な制度である。

本制度は、平成26(2014)年度までは「森林国営保険」として国自らが森林保険特別会計を設置して運営してきたが、平成27(2015)年の「森林国営保険法等の一部を改正する法律(*110)」の施行を受け、根拠法が「森林保険法(*111)」に改められるとともに、その業務は国立研究開発法人森林総合研究所に移管された(*112)。

森林保険制度に基づく保険金支払総額は、平成27(2015)年度には6億円であった(資料 II -34)。


(*110)「森林国営保険法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第21号)

(*111)「森林保険法」(昭和12年法律第25号)

(*112)森林国営保険の移管について詳しくは、「平成26年度森林及び林業の動向」の80ページを参照。


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