国民の期待に応えられる国有林を目指して

空知森林管理署北空知支署
森林技術指導官 北野 公一
空知森林管理署北空知支署管内の概要
空知森林管理署北空知支署(以下、北空知支署)は、空知総合振興局管内で空知平野の北部に位置している深川市、沼田町、北竜町、雨竜町と、上川総合振興局管内にある幌加内町の併せて1市4町の国有林野、約67,000haを管理経営しています。
森林の面積割合は、トドマツ、アカエゾマツ等の人工林(※1)が全体の16%に対し、ミズナラやカンバ類を中心とした天然林(※2)は76%となっており、天然林が主体となっています。管内の森林は、北空知地域の水がめとして重要であるほか、雨竜沼湿原等の貴重な自然環境、朱鞠内湖等のレクリエーションエリアがあり、公益的機能の発揮が期待されています。
※1「人工林」…人が苗木を植えて育てることで形成された森林
※2「天然林」…自然に木から落ちた種が発芽して育ち、形成された森林
ラムサール条約登録湿地「雨竜沼湿原」 日本最大の人造湖「朱鞠内湖」
管内の林業の現状と課題
北空知支署の所在する幌加内町は、明治30年(1897年)の開拓開始から127年が経ち、もともとはアカエゾマツやミズナラ、イタヤカエデなどを中心とした森林で覆われ、開拓者の住居や生活に利用されたほか、丸太としての価値が高かったアカエゾマツなどを伐採するために林業が営まれ、当時は主要な産業として地域の発展に貢献してきました。
しかし、冬には気温がマイナス30度以下、平均積雪深195 cm (多い年は324cm‼)という厳しい自然環境に加え、日本海側から山越しに吹き下ろす真冬の寒風や、栄養が乏しい強酸性の土壌(ポドゾル土壌)の影響により、伐採した後に植えた多くの苗木は成長できずに枯れるなど、結果としてササ地や草地化する傾向にあります。
このため、今まで通りの植栽による更新や、通常の地拵(じごしらえ)(※3)による天然更新だけではなく、地域の自然環境に合った造林・保育の方法を確立し、実践していく必要があります。
※3「地拵」…伐採後に取り残された木の根や枝などを整理して、新たな苗木を植栽できるように地面を整える作業
課題解決に向けた取り組みの内容
樹木は地面に落ちた種から発芽し、光合成をしながら成長し、やがて大きな木へと育ちます。ところがササや大型の草本類が繁茂しているところでは、地面に木の種が落ちても光が当たらず、自然に木が育つことが難しくなります。特にササが難敵で、地表一面に生えるだけでなく、その高さはチシマザサ(根曲竹ともいう)では3m近くにもなります。
大型機械を使ってササなどの根を切ると再生を遅らせることができ、その周りにある樹木の種が光を受けて、天然の力で発芽・成長(天然更新)し、自然に森林が形成されます。この天然更新を補助する作業の一つに、「大型機械地拵」があります。
しかし、この地拵では、栄養分豊富な土や埋土種子(※4)ごと地面を削るため、自然に生えてくる木の本数が少なくなったり、発芽できても栄養分が少ないことで成長が遅くなったりすることが考えられます。
※4「埋土種子」…土の中に混ざっている発芽する前の木などの種
大型機械(重機)を使った地拵作業の様子
このような中、幌加内町にある北海道大学雨龍研究林との現場・技術交流の中で、「表土戻し地拵」という地拵の方法を教えていただき、令和2年と令和3年に伐採を行った箇所の跡地にこの方法を取り入れ、検証することとしました。
ササは根を空気に触れた状態にしておくと枯れるのですが、実際には地下40cmほどの深さに広く根を張っているため、表面だけ取り除いても根が残っているとすぐに復活します。このササの復活をいかに遅らせるか、というのが天然更新を成功させるポイントになります。
表土戻し地拵はササの根を掘り起こした後に、土だけをその場で振い落し、その上にむき出しになったササの根を乗せるという作業です。こうすることで、少し時間が経つと空気に触れたササの根が枯れるという仕組みです。
これは、以前の「フォレスター活動便り」(令和3年11月)でも紹介していますので併せてご参照ください。
また、雨龍研究林の皆さんにもご協力をいただき、表土戻し地拵を実施した場所の天然更新調査や、同時に植えた苗木の成長量調査を続け、表土戻し地拵の効果を調べています。
毎年、雨龍研究林との合同調査を実施しています。 カンバ類などの広葉樹に加え、カラマツ造林木
からも種が落ちて発芽しています。
その結果、通常の大型機械地拵をした場所よりも2~3倍の天然更新した稚幼樹が発生し、高さも120cmを超えるなどの結果になっています。すでに周りのササや草より高くなっていますので、このまま推移すれば下刈(※5)などを行わなくても天然更新は確実と考えられます。
※5「下刈」…稚幼樹の成長を助けるために周囲の雑草等を刈り払う作業
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左)通常の大型機械地拵を実施した箇所では天然更新した稚幼樹が少ない。 右)表土戻し地拵を実施した箇所では天然更新したカンバ類が1m以上まで成長。横にあるササの背丈も超えています。 |
課題解決に向けた取り組みの成果・課題
保安林では、伐採後の必要更新本数が樹種や地域によって2~3千本程度の間で厳格に定められており、いったい何が何本生えてくるのか分からない天然更新は「絶対に必要更新本数を満たす」という確証はありません。そのため、保安林の多い国有林においては、「一定数の苗木の植栽+天然更新」という方法でこれをクリアできないか模索しており、保安林内での適用を可能とするためには、確実な更新に係る実証データの積み上げが必要と考えていることから、現在も更新調査を継続して実施しています。
一方で、私有林や社有林は保安林が少ないため、表土戻し地拵による天然更新ができれば、苗木代がかからない、苗木を植える手間もいらない、下刈も無くしたり減らしたりできる=低コストで森林を造成できる、という可能性が大いにあります。
北空知支署では試験的にしかできなかったこの方法を、民有林の皆さんに知ってもらい、使ってもらえるように、若手職員が作成した作業マニュアル『「表土戻し」について』を北海道森林管理局のホームページに掲載しています。
令和5年度には道内数か所の民有林において、表土戻し地拵が実施されており、少しずつ導入が増えつつあります。また、直接当支署へ問い合わせをいただいた事業体の方には、少しでも的確な作業を行っていただけるよう、当支署において実施した表土戻し地拵作業中の動画を提供させていただきました。これは小さな一歩ですが、この一歩が無ければ前には進めないと思っています。
以上紹介した北空知支署の取り組みは、北海道大学雨龍研究林のご協力と、15年以上に渡り、多くの歴代関係職員が地道に取り組んできた成果です。
毎年、雨龍研究林とお互いの現場見学会を実施しています。
国有林フォレスターとしての思い
私は、民国連携業務に携わって今年で2年目になります。これまで自分が担当してきた業務は、国有林野内で行う造林事業や生産事業など内向きの仕事ばかりでしたから、民有林での取り組みやご苦労、課題や成功事例など知る機会が少なく、今更ながら様々な勉強をさせていただいています。
業務の中でも林政連絡会議や日常的に市町林務担当者の方と話す機会が増え、今、市町村でどんな取り組みをしていて、どんな制度やサポートを必要としているのか、地域林業の課題は何なのか、少しずつですがようやく理解が進みましたので、民有林に対して出来る限りの関わりをもちたいと考えるようになりました。
そして、以前の自分と同じ様に、民有林連携について知る機会の少ない国有林野職員が多くいると思いますので、そういった職員が興味を持って地域の森林・林業・木材産業に関わりを持ち、国有林の取り組みを発信してもらえるよう、組織の中では民国連携業務の必要性・重要性を伝えながら、国民の期待に応えられる国有林を目指していきたいと思います。
お問合せ先
空知森林管理署北空知支署ダイヤルイン:050-3160-5720