日高山脈(ひだかさんみゃく)森林生態系保護地域
1.設定目的
北海道の中央南部に位置する日高山脈に見られるエゾマツ・トドマツの北方性常緑針葉樹やミズナラ・シナノキなどの北方性落葉広葉樹、高山植生等からなる多様でかつ原生的な天然林を保護・管理することにより、森林生態系からなる自然環境の維持、野生生物・遺伝資源の保護、森林施業・管理技術の発展、学術の研究等に資することを目的とする。
【上左】ペテガリ岳の遠望 【上右】植生の垂直分布が明瞭に見られる 【下左】日高山脈の主峰ペテガリ岳 |
2.設定の経緯
- 平成7(1995)年4月1日に、「日高山脈中央部森林生態系保護地域」として設定された。
- 平成23(2011)年4月1日に保護林の設定区域の拡充が行われ、区域の拡充に併せて、名称を「日高山脈森林生態系保護地域」に変更された。
- 平成25(2013)年4月1日に、日高山脈西部地域の針広混交林や露岩地植生、希少鳥類などの特徴的な森林生態系を一体的に保存し、構成する生物の遺伝資源の保存を目的として、「北海道エゾマツ23林木遺伝資源保存林(平成3(1991)年設定)」を組み入れて、「日高山脈西部森林生物遺伝資源保存林」が設定された。
- 同時に、日高山脈東部地域の冷温帯性広葉樹林等の特徴的な森林生態系を一体的に保存し、構成する生物の遺伝資源の保存を目的として、「日高山脈東部森林生物遺伝資源保存林」が設定された。
- 平成30(2018)年4月1日の保護林再編の中で、隣接する上記2個所の森林生物遺伝資源保存林、「北海道キタゴヨウ26林木遺伝資源保存林(平成3(1991)年設定)」、「幌尻原生林保護林(昭和46年(1971)4月1日設定)」及び日高北部森林管理署1132林班ろ小班を当該森林生態系保護地域に統合し、日高山脈に見られる多様な森林生態系の一体的な保護・管理を行うため「森林生態系保護地域」として設定された。
3.所在地 (関係森林管理署)
- 沙流郡 日高町、平取町 (日高北部森林管理署)
- 浦河郡 浦河町、日高郡 新ひだか町、新冠郡 新冠町 (日高南部森林管理署)
- 空知郡 南富良野町 (上川南部森林管理署)
- 河西郡 芽室町、広尾郡 広尾町、大樹町、中札内村 、帯広市(十勝西部森林管理署)
4.面積
森林生態系保護地域総面積:167,968.06 ha
地帯区分別内訳
保 存 地 区: 70,699.22 ha
保全利用地区: 97,268.84 ha
5.位置図
6.現況
【植生現況】
- 当該保護林の森林は、日高側と十勝側で異なった林相を呈しており、日高側は、エゾマツ、トドマツの針葉樹及び針広混交林、十勝側はミズナラ、ダケカンバ、ウダイカンバなど多くの樹種が混交する広葉樹林または広葉樹の割合が高い混交林が見られ、中腹以上は広大なダケカンバ帯からハイマツ帯に至る。
- 日高側では、千呂露川、静内川上流部を中心にトドマツ-エゾマツの針葉樹林を見ることができる。針葉樹の上限は山脈の北部と南部、あるいは山岳によって違いも見られるが、幌尻岳付近ではおおよそ1,200~1,400mまでであり、その上部はダケカンバ林へと移行している。
- 十勝側では、トドマツ-エゾマツ林は顕著な形で現れず、落葉広葉樹を多く含む針広混交林や落葉広葉樹林が多い。戸蔦別川、札内川流域は針広混交林が主体であるが、歴舟川流域より南はダケカンバやミズナラなどの樹種からなる落葉広葉樹林になっている。
- 針広混交林は、新冠川、静内川、元浦川の流域に分布し、シュンベツ川流域より南下すると面積のまとまりも小さくなり、ソエマツ沢流域より南は、おおむね落葉広葉樹林となっている。
- 日高山脈においては、標高800m 以下にはシナノキやエゾイタヤを混生する針広混交林が広がり、川沿いを中心に落葉広葉樹林も見られる。標高800~1,300m(南部に行くほど上限は低下)にはエゾマツ、アカエゾマツ、トドマツを優占種とする亜寒帯性の常緑針葉樹林が広がる。標高1,300~1,600m ではダケカンバ林が優占し、標高を増すにしたがって低木状、疎林状となる。森林帯の林床植生は、おおむねクマイザサとチシマザサで、日高側では標高1,200m付近までクマイザサが優占し、それより上部ではチシマザサが優占することが多いが、十勝側では600m付近からチシマザサが生育し主稜にまで及んでいる。
- 標高1,500~1,700m以上は高山帯で、ハイマツ群落、高山性低木群落、一部高山植物群落からなっている。
- 日高山脈における高山植物群落、いわゆるお花畑は、尾根の頂部、山頂、あるいはカール地形内に発達するのみで、ハイマツあるいは他の潅木林の間にモザイク状に発達している。
- 高山植生の分布域は狭いが、固有種や希少種が多い。ヒダカミネヤナギ、カムイビランジ、ヒダカゲンゲ、ヒダカミヤマノエンドウのような固有種やオヤマソバ、ミヤマシオガマなどの希少植物は特に風衝地域に見られる。現在、日高山脈で確認された固有種は9種、固有亜種は7種が見られる。
- 文献によれば、日高山脈脊梁部に生育する植物は約1,500 種にも上り、このうち国有林内に生育する種は1,221 種とされている。
【動物現況】
- 哺乳類は、ヒグマ、エゾシカ、キタキツネ、ムクゲネズミ、エゾオコジョ、エゾナキウサギなどで、日高山脈脊梁部では9科19種の生息が確認されている。
- 鳥類は、シマフクロウ、クマゲラ、エゾライチョウ、クマタカ、ヨタカなどで、日高山脈脊梁部では29科82種が確認されている。
- 昆虫類では、高山帯には国の天然記念物となっているカラフトルリシジミ、ダイセツタカネヒカゲの生息が認められており、甲虫類ではチビゴミムシ類など北海道の他では見られない固有種が多く確認され、日高山脈の昆虫類は 9 目 71 科 440 種が報告されている。
- 魚類では、オショロコマやアメマスなどが生息している。
7.法指定等
土砂流出防備保安林、水源かん養保安林、保健保安林、砂防指定地、史跡名勝天然記念物、鳥獣保護区特別保護地区、鳥獣保護区、すぐれた自然地域、国定公園特別保護地区、国定公園第1種特別地域、国定公園第2種特別地域、国定公園第3種特別地域(日高山脈襟裳国定公園)、史跡名勝天然記念物
8.取り扱い方針
(1) 天然林は、原則として人手を加えずに自然の推移に委ねることとする。
(2) 保全利用地区の人工林については、育成複層林施業等を行うことができるものとして、将来的には天然林への移行を図る
ものとする。
(3) 必要に応じて行うことができる行為
ア 学術の研究、自然観察教育、遺伝資源の利用その他公益上の事由により必要と認められる行為
イ 山火事の消火、大規模な林地崩壊・地すべり・噴火等の災害復旧及びこれらに係る予防的措置等、非常災害に際して必要
と認められる行為。
ウ 鳥獣・病害虫被害及び移入種対策として必要と認められる行為
エ 学術の研究、自然観察教育等のための軽微な施設の設置
オ 保全利用地区等における枯損木及び被害木の伐倒・搬出
カ 標識類の設置等
キ その他法令等の規定に基づき行うべき行為
(4) 保全利用地区のうち、旧日高山脈東部森林生物遺伝資源保存林及びその周辺区域においては、過去の希少猛禽類の生息情
報や、潜在的な生息可能性の高い地域があることから、渓流環境の保全や天然大径木の育成等に留意し、必要に応じて、希
少猛禽類の生息環境整備を目的とした森林施業を行う。
(5) 登山等の自然観察教育での利用が常態化している箇所については、関係機関・団体等と連携して、植生荒廃等の拡大防止
に努める。
お問合せ先
計画保全部計画課ダイヤルイン:050-3160-6283