種子島(たねがしま)ヤクタネゴヨウ等希少個体群保護林
1.概要
本保護林は、西之表市の南部、種子島のほぼ中央部に位置する、安城地区を流れる大川田川上流の中割国有林地区内の林齢160年生以上の常緑広葉樹林及び立山港に注ぐ早稲田川上流の木成国有林地区内の林齢50年生程の常緑広葉樹二次林の2地域にあり、中割国有林内と木成国有林内 のヤクタネゴヨウ生育地にそれぞれ設定されていた保護林を統合したものである。
保護・管理の対象個体群は、ヤクタネゴヨウのほか、イヌマキ、ナギ等の針葉樹が混生する常緑広葉樹林を構成する種のうち、希少化している個体群、分布限界域等に位置する個体群、遺伝資源の保護を目的とする個体群を対象とする。
林相は、シイ類、イスノキ、タブノキ等の老齢天然生林で広葉樹を主体とした林分であり、斜面上部に希少種「ヤクタネゴヨウ」の中大径木が点在している。また、イヌマキ、ナギ等があり、暖帯南部の多雨林的林相を呈している。
地質は中生層硬砂岩で、傾斜は中。
ヤクタネゴヨウは、日本固有のゴヨウマツの一種で屋久島と種子島のみに自生する希少樹木である。レッドデータブックでは絶滅危惧1B類※に区分され、屋久島で約2,000本程度が確認され、種子島にはこれまで300本程度が生育するとされている。
しかし、かつては丸木舟生産、建築資材に大いに利用され、1755(宝暦5)年に幹回り1.5m以上の400個体以上が利用されているとの記録がある。また、明治時代以降、丸木舟生産に利用され、大正時代には400隻を越えたとの報告もあり、過去には相当数の大径個体の利用があったと推測される。
(※絶滅危惧1B類の1は本来ローマ数字表記を用いるべきであるが、機種依存文字のため便宜上アラビア数字の1とした)
ヤクタネゴヨウ自生地の更新には、自然現象による地殻の隆起や自然災害等で発生する大きなイベント(斜面崩壊等)が重要な要素とされ、種子島ではこのようなギャップ発生の跡地(表土が剥がされ裸地化した跡地など)を使って持続的に更新してきたとも言われているが、種子島で生産されるヤクタネゴヨウの種子は稔性(結実した種子が発芽し定着する能力)の低下等により天然更新が阻害されているとして、天然更新を目的とする更新サイトの設定と他家系交配種子を用いた育成(遺伝的多様性の確保)を検討する必要があるとの意見もある。
具体的には、中割国有林地区内のヤクタネゴヨウは個体数が少なく、生育する個体間の距離も非常に離れていることから自生地の充実種子が少なく近交弱性によるシイナが多いことから、ヤクタネゴヨウについては種の存続を危ぶまれる懸念があると評価されている。
これらのことから、種子島の国有林内に種子島の個体家系を使って、ヤクタネゴヨウの生息域外保存箇所として2004(平成16)年2月に採種林が造成されているほか、九州育種場にヤクタネゴヨウの複数の系統が生体保存されており、林木育種センターにはその種子が冷凍保存されている。
木成国有林地区内に生育するヤクタネゴヨウについては、2004(平成16)年度に実施した「種子島ヤクタネゴヨウ保護林調査報告書」によれば、中種子町犬城海岸付近の民有林に生育する比較的若いヤクタネゴヨウ個体群は、他の集団よりも遺伝的多様性が高い集団として残されているとの報告があった。このことから、上流域にある近傍の木成国有林地区1114へ林小班に生育するヤクタネゴヨウ群落についても同様に遺伝的多様性が高い可能性があると示唆された。
これらのことから、近傍の類似保護林の統合は、より大きな個体群として扱うこととなるため、メタ個体群としての利用、遺伝的多様性の維持やそれに伴う個体群の存続への寄与、更新適地の造成の検討など個体群の効果的保全管理に繋がるものと考えられる。
種子島ヤクタネゴヨウ等希少個体群保護林の遠景
(円内は、ヤクタネゴヨウ生育個体)
保護林内に生育する個体
2.目的
保護対象種のヤクタネゴヨウ及びその他種子島の代表的天然生林の保存と森林施業、管理技術の発展、学術研究等に資することを目的とする。
3.所在地
鹿児島県 西之表市
4.設定、再編の経緯
1948(昭和23)年3月31日(種子島学術参考保護林)設定
2006(平成18)年3月23日(早稲田川植物群落保護林)設定
1991(平成3)年3月31日再編 (種子島ヤクタネゴヨウ等植物群落保護林)設定
2018(平成30)年4月1日 保護林制度改正に伴い、両保護林を希少個体群保護林へ再編
2020(令和2)年4月1日 種子島ヤクタネゴヨウ等希少個体群保護林へ統合再編
5.面積
20.04 ha
6.所管森林管理署
屋久島森林管理署
7.現況
標高:50~200m
傾斜:中
地質:中生層硬砂岩(ちゅうせいそうこうさがん)
※硬砂岩は、石英や長石などのほかに、相当量の岩石細片や有色鉱物粒を含む砂岩、古生層や中生層に見られる
土壌型:BC、BD(d)
林齢:約50年生~160年生以上
8.取り扱い方針
本保護林では、ヤクタネゴヨウのほか、イヌマキ、ナギ等の針葉樹が混生する常緑広葉樹林を構成する種の各個体数の確保及びこれらの持続に必要な生育環境の維持を目標とし、保護・管理及び利用に関する基本的な事項については、保護林設定管理要領(PDF : 328KB)(平成27年9月28日付け27林国経第49号)に定められた希少個体群保護林の取扱い方針に従い、これまでの保護林モニタリング調査結果を踏まえて取り扱うものとする。
種子島島内では、ほぼ全域で、以前からクロマツを中心にマツ類のマツ材線虫病による枯損が継続して発生しており、同様の感受性のある本種も感染罹病が続いており、生息個体が減少し絶滅が危惧されている。2019(令和元)年度のモニタリング調査でも、本保護林と周辺地域のヤクタネゴヨウは従前よりマツノザイセンチュウによる枯損が確認され現在も被害は終息していない。
九州森林管理局では、地域自治体等関係団体とも連携し、民国ともに松枯れ対策を講じるとともに、国有林内の枯損木については、伐倒駆除、予防的措置として、ヤクタネゴヨウ成木への薬剤樹幹注入による保全に取り組んでいる。
これらの取組の結果、保護対象種のヤクタネゴヨウの調査プロット内での枯損は、令和元年度のモニリング調査では確認されずに健全性を保たれるか、罹病個体もわずかに留まっていると分かったが、これは樹幹注入処置の継続効果によるものと思われた。
国有林周辺においては、令和3年2月にも枯損木が確認され、クロマツの枯損と合わせて、マツ類の枯損は散発的に続いていると思われる。同じく、令和3年2月には、署職員、地域ボランティア等により、伐倒後の被害材の運び出し作業も行われた。
本保護林については、今後も、モニタリング調査の継続、周辺マツ林のマツクイムシ対策と併せて、当面は、薬剤の樹幹注入処置を継続して行うこととしている。
さらに、生息域外保存の役割を担う採種林が島内国有林に設置されているが、その生残個体数が減少しているため、健全化を図ることや、更新サイトの設定等、更新への取組についても検討を進める必要がある。
また、近年急激に広がりつつあるシカ被害については、ヤクタネゴヨウの保全にも関わることから関係機関と連携したシカ捕獲の他、稚樹等発生又は播種箇所での新たな植生保護柵の設置を検討する必要がある。
なお、先に触れたように種子島には従前より民間ボランティア団体(種子島ヤクタネゴヨウ保全の会)も設立されており、ヤクタネゴヨウ保護のための活動実績がある。引き続きこれら地域の関係者と連携して取り組むことが重要である。
モニタリング調査間隔は、5年とする。
マツ材線虫病で枯損した個体
マツ材線虫病予防のための薬剤樹幹注入作業
保護林内の中径木
種子島ヤクタネゴヨウ採種林内の選抜個体
9.保護林位置図
お問合せ先
計画保全部計画課
担当者:生態系保全係
ダイヤルイン:096-328-3612