1.概要
本保護林は、三郡山地の北方に宗像盆地を挟んで北西から南東方向に並ぶ丘陵性の孔大寺山地の南に位置する、宗像市と岡垣町界の城山(369m)を中心とした低山地にあって、稜線の両側市町域の頂部を含む中腹部(標高200m~360m)にかけて分布する。主にシイ類、タブノキなどからなる林分構造の発達した常緑広葉樹の天然林であり、当保護林で保護対象とする個体群は、これらの常緑広葉樹を構成する種を対象としている。地質は安山岩類で、傾斜は急。
城山は、古くは正治二年(1200年)の鎌倉時代には城が築かれた記録があり、激しい領土争いがあった戦国時代を経て豊臣秀吉の九州統治まで、宗像氏の居城であった(歴史説明看板写真参照)。山頂周辺一帯には本丸、二の丸、周囲に曲輪、堀、石垣跡など往時を偲ばせる痕跡が残る。保護林区域(城跡区域)は、宗像市陵厳寺、三郎丸、石丸、遠賀郡岡垣町上畑などが含まれ、統合後の保護林(後述)は遠賀川計画区と福岡計画区の2森林計画区にまたがる。城山の現在は、山域一帯に登山道が整備され、周辺住民や福岡都市圏の住民などによる憩いの場、散策等森林レクリエーション的利用が多い。
このように本保護林は、人為の影響を強く受け続けてきた歴史があるが、現在は登山道以外の保護林内では人為的圧は殆ど受けておらず、林齢はおよそ150年生以上の高齢級の天然林となっている。直径階別本数分布は、天然生異齢林の特徴であるL型を示し、山陰型気候の影響を受ける発達した林分構造を有するに至り、北部九州の低標高地にあって、希少化した個体群として貴重な保護林となっている。
なお、2021年度(令和2年4月施行)には、旧狩倉スダジイ等希少個体群保護林及び旧上畑タブノキ等希少個体群保護林が隣接していること及び林分構成がスダジイ、タブノキ等の常緑広葉樹林で類似した林相を呈することを考慮して、両保護林を統合した。
このため、今後、生物多様性保全や保護対象個体群の保全について、各種調査等を一体的に取り扱えるようになり、効果的保全に資すると考えている。
本保護林のモニタリング開始当時の森林の状況は以下のとおり。保護林モニタリング調査着手時、2008(平成20)年度モニタリング調査〔旧狩倉スダジイ等希少個体群保護林が対象〕では、スダジイ、ウラジロガシ、タブノキ等が優占し、亜高層タブノキ、カゴノキ、ヤブツバキ等が見られ、低木ではヒサカキ、アオキ等の生育が目立った。草本層にはイズセンリョウ、アリドオシ、ヤブコウジ、ミヤマシキミ等が見られ、シカ被害はなかった。2010(平成22)年度のモニタリング調査〔旧上畑タブノキ等希少個体群保護林が対象〕では、イスノキ、カゴノキ等が多く生育し、ヒサカキ、ヤブツバキ等の中小径木が比較的多くみられたほか、タブノキが比較的多く見られた箇所もあった。低木層の植生は林冠うっ閉のためほとんど生育していなかったが、同じくシカ被害は見られない。
なお、2013(平成25)年の旧狩倉スダジイ等希少個体群保護林でのモニタリング調査及び2020(令和2)年の統合後のモニタリング調査では、林冠構成種の維持及び後継個体の発生等に大きな変化はなく、シカの侵入も引き続き確認されていない。
旧 上畑タブノキ等希少個体群保護林 全景
城山の歴史を記した説明看板
旧 上畑タブノキ等希少個体群保護林 遠景
旧 狩倉スダジイ等希少個体群保護林の遠景
シイ類を中心とした保護林内の林相景観 1
保護林内の林相景観 2
保護林内の林相景観 3
2.目的
本保護林では、この地域の自然植生の常緑広葉樹林を構成する種の各個体群の維持及びこのために必要な生息環境の保全を図るとともに、森林施業、管理技術の発展、森林空間利用や試験研究場の提供等に資するものとする。
3.所在地
福岡県 遠賀郡 岡垣町
福岡県 宗像市
4.設定年月日
設定当初は、旧狩倉風致保護林(1966(昭和41)年4月1日)、旧上畑風致保護林(1978(昭和53)年4月1日)設定され、これまで幾度かの再編変更を経て、2020(令和2)年4月1日に両保護林を統合再編した。
5.面積
37.15 ha
6.関係森林管理署等
福岡森林管理署
7.現況
標高:200m~(城山)369m
傾斜:急
地質:安山岩類
土壌型:BC
林齢:およそ150年生以上
8.法指定等
水源かん養保安林、都市計画区域(公園)
9.保護・管理及び利用に関する事項
保護・管理及び利用に関する基本的な事項については、保護林設定管理要領(PDF : 572KB)に定められた希少個体群保護林の取扱い方針に従うとともに、これまでの保護林モニタリング調査結果を踏まえて取り扱うものとする。
モニタリング調査開始当時以降の森林の状況を見ると、シカ被害は確認されておらず、高木層を含め病害虫の発生や、顕著な枯損や風倒害の被害も見られず、層別の構成種に大きな変化はなく林分構造が良く発達した林分と確認されている。希少な植物として、シタキソウ、カラタチバナ、エビネ属などが確認されている。
統合後の調査では、保護対象種のタブノキ、ウラジロガシ、イスノキほかその他広葉樹は健全であり、林冠構成種の後継個体も確認された。低木層にアオキ、草本層にもアオキ、タブノキが優占し、過年度から変化は見られない。
成熟から老齢段階の林相を呈し、気象害、病虫害及びシカ被害は見られないなどから健全な林分と評価された。
また、下層木にタブノキが多く生育する箇所では、将来的にはタブノキが優占種になると思われた。遊歩道の利用はされているが、保護林森林内への立ち入り及びその影響は林内植生の状況から見て殆どないとみられる。
以上から、本保護林については、原則として人手を加えず、自然の遷移に委ねた管理を行うこととする。シカの侵入状況については、今後とも注視し、侵入の痕跡、定着の兆しがある場合には必要に応じてシカ被害対策を検討する。
10.備考
モニタリング間隔は10年とするが、その間は簡素な巡視等現況調査を行う。
<保護林位置図>
お問合せ先
計画保全部計画課
担当者:生態系保全係
ダイヤルイン:096-328-3612