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九州森林管理局

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    英彦山モミ等遺伝資源希少個体群保護林

    1.概要

       本保護林は、英彦山火山岩山地の主峰英彦山(1,199m)の英彦山神社(上宮)等とその所有地を挟む両脇と奉幣殿の下に位置し、英彦山の北、急な傾斜となっている主に北斜面(標高800m~1,150m)、英彦山から南へ連なる稜線の西斜面(標高860m~1,070m)及び東斜面(標高900m~1,070m)、奉幣殿の西側斜面(標高800m~950m)に分布する。当保護林の保護・管理の対象個体群は、スギ、モミ、ツガ、カヤ、ケヤキの他、温帯植生及び冷温帯植生を構成する種で、希少化している個体群及びこれら遺伝資源の保護を目的とする。
       地質は安山岩で、浸食により複雑な地形をなし、傾斜は中~急。
       本保護林内には「森の巨人たち100選」に選ばれた鬼スギ(樹齢推定1,200 年、幹周12.40m、樹高38m(2000(平成12)年選定当時))があり、福岡県下最大のスギとも言われ、国の天然記念物にも指定されている。しかし、最近は台風による枝の折損被害や高樹齢等のため樹勢の衰退が見られたことから、樹勢回復を図るため平成22年に樹木医による診断・治療が行われている。
       英彦山周辺は、この鬼スギを通るルートなど複数の登山コースがあり、多くの観光客や登山者の利用が見られる。
       林相は、モミ、ツガ、ケヤキなどからなる林齢280 年生以上の温帯林に、樹齢の高いスギが混生し、高標高地ではブナの天然林がある。これらの森林は、北部九州地域における温帯植生及び冷温帯植生の代表的な林相を呈し貴重である。
       なお、本保護林は、隣接し、かつ類似する温帯植生の林相を持つ2 箇所の旧保護林(英彦山スギ等遺伝資源希少個体群保護林と英彦山・鶯モミ等希少個体群保護林)を統合した(令和2 年4 月施行)ものであり、一体的に取り扱えることとしたものである。これにより、生物多様性保全や保護対象個体群保全について、効果的な保全に寄与できるものと考えている。

       本保護林のモニタリング開始当時の森林の状況については、以下の通りである。
       保護林モニタリング基礎調査着手時の2008(平成20)年度及び2010(平成22)年度の調査時は、
     英彦山の北、急な北斜面の区域では高木層にケヤキ、モミ、ミズメなどがみられ、亜高木層から下層植生ではコハウチワカエデ、アブラチャン等中小径木が多かった。低木層が乏しく、シカ食害がスズタケにも及んでいた。
     英彦山から南へ連なる稜線の西斜面では高木層にイヌシデ、コナラ、モミ、ケヤキ等が多くみられ、下層ではアブラチャン、シキミ等の中小径木が多く、モミやイヌシデの幼木も比較的多く確認された。一方、下層植生は多くがシカ食害を受けており、スズタケにも及んでいた。
     その稜線の東斜面では高木層にモミ、ケヤキが優占し、下層ではモミ、アブラチャン、シキミ等の中小径木が多く、モミやイヌシデの幼木も比較的多く確認された。亜高木層のチドリノキにシカ食害(樹皮剥ぎ)が確認され、奉幣殿の西側斜面では高木層にモミが確認できず、スギ、シデ類が生育していた。
       なお、近年のモニタリング調査(2015(平成27)年、2018(平成30)年及び2020(令和2)年の調査)により、上記モニタリング結果にもあるように、下層植生について、嗜好種スズタケの食害、不嗜好種アブラチャン、シキミ等の増加するなど徐々にシカ被害が進行し、保護林全体の林相に変化が起こりつつあることがわかってきた。現状では林床植生の被害や、後継樹が育ちにくい環境にあると考えられ、今後も木本実生や萌芽への採食圧がかかり続けると、将来の森林の更新に支障が出ることも予想される。 

     

    英彦山・鶯植物群落_遠景 英彦山・鶯植物群落_ブナ 英彦山・鶯植物群落_スギ
    旧英彦山・鶯モミ等希少個体群保護林  遠景 林内のブナ林相 林内のスギ林相1
    旧英彦山スギ等遺伝資源希少個体群保護林遠景 英彦山スギ等遺伝資源希少個体群保護林のスギ林相
    旧英彦山スギ等遺伝資源希少個体群保護林の遠景 スギ林相2
    天然記念物鬼スギ 英彦山モミ群落
    国指定天然記念物   鬼スギ モミ群落の近景

    2.目的

       本保護林では、保護対象種のスギ、モミ、ツガ、カヤ、ケヤキなどの温帯植生及び冷温帯植生を構成する種の各個体群の維持及び遺伝資源の保護、これに必要な生育環境を保全することと併せて、森林施業、管理技術の発展、森林空間利用や試験研究の場提供等に資するものとする。

    3.所在地

    福岡県 田川郡 添田町

    4.設定年月日

       英彦山モミ等遺伝資源希少個体群保護林   2020年(令和2)年4月1日設定。
    英彦山学術参考及び風致保護林(1928年(昭和3年)4月1日)及び鶯風致保護林(1937年(昭和12年)4月1日)がそれぞれ設定された後、幾度かの再編を経て、旧英彦山スギ等遺伝資源希少個体群保護林及び旧英彦山・鶯モミ等希少個体群保護林を、2020年(令和2年)4月1日、統合再編し、現在に至る。

    5.面積

    183.4 ha

    6.関係森林管理署等

    福岡森林管理署

    7.現況

    標高:700~1,100m

    傾斜:中~急

    地質:安山岩

    土壌型:BD(d)

    林齢:80~280年生以上

    8.法指定等

    水源かん養保安林、保健保安林、鳥獣保護区(特保・普)、耶馬日田英彦山国定公園(特保・特1・特2)

    9.保護・管理及び利用に関する事項(含モニタリング調査結果)

       保護・管理及び利用に関する基本的な事項については、保護林設定管理要領(PDF : 421KB)に定められた希少個体群保護林の取扱い方針に従うとともに、これまでの保護林モニタリング調査結果を踏まえて取り扱うものとする。

       2015(平成27)年度のモニタリング調査時の森林状況は、英彦山の北、急な北斜面の区域では、高木層にケヤキ、モミが優占し、亜高木層にコハウチワカエデ、アブラチャン、アワブキなどがわずかに生育、低木層ではクロモジやアブラチャンが優占。草本層は植被率が低下していた。英彦山から南へ連なる稜線の東斜面の区域では、高木層にモミ、ケヤキが優占し、亜高木層は少なく、低木層ではアブラチャンが優占しコハウチワカエデなどが生育し、草本層で優占種はなく、モミ、カジカエデ、ミヤマシキミなどの生育が確認された。下層植生はモミ、アブラチャン、シキミ等の中小径木やモミやイヌシデの幼木も比較的多く確認された。シカ被害はかなり大きい。

       2018(平成30)年度調査では、英彦山から南へ連なる稜線西斜面(一部ガレ場有)は、高木層にモミ、ミズキ、コハウチワカエデなどが生育、亜高木層にコハウチワカエデが優占、低木層はシロモジとアブラチャンが優占。草本層に優占種はなく、クロモジ、イワガラミ、モミの他、ノキシノブ、シノブ、オシャグジデンダなどのシダ植物も確認された。下層植生は概ね貧弱でシカ被害が大きい。

       2020(令和2)年度調査では、英彦山の北斜面及び英彦山の南稜線の東斜面の両方の区域とも2015 年度調査と同様な状況。高木層の衰退は見られない。英彦山北の北斜面のプロット内では高木へのシカ害が見られた。
       一方、後継実生はわずかで、低木層の種構成の変化は顕著。低木以上に進展しないと推定された。
       また、高標高地のブナ林は過去の台風などの自然災害やシカ食害に起因する森林の疎林化や草原化、林床植生の貧弱化等が生じており、保護対象種の個体数の確保及びその持続に支障が生じていると思われた。

       このような中、福岡県では福岡県第二種特定鳥獣(シカ)管理計画や耶馬日田英彦山国定公園内の高標高地の絶滅危惧植物やブナ林等のシカ害による生態系への影響を考慮し、英彦山及び犬ヶ岳生態系維持回復事業計画が策定され(平成30 年3 月)、これに基づく指定管理鳥獣捕獲等実施計画によるシカ捕獲や植生防護柵の設置など、集中的シカ対策が進められている。
       これらを踏まえ、本保護林では、引き続きモニタリング調査の実施と併せ、シカ被害拡大の防止と下層植生の回復を図るため、2019(令和元)年度に重点的に対策を実施する保護林に選定し、福岡県や大分県等の関係機関が行う各事業とも連携を図り、保護林周辺でのシカ捕獲継続や植生保護柵設置による下層植生の回復等のほか、母樹の単木防護柵設置等貴重な森林生態系の保全に必要な対策を講じていくこととしている。        

    10.モニタリング調査間隔及び保護林位置図)

     モニタリング調査間隔は、5年。



    <保護林統合後の位置図>


    英彦山モミ等遺伝資源希少個体群保護林統合位置図

    お問合せ先

    計画保全部計画課
    担当者:生態系保全係
    ダイヤルイン:096-328-3612