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九州森林管理局

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    綾(あや)森林生態系保護地域

    1.概要

       九州森林管理局管内国有林においては、比較的規模の大きな照葉樹林が何カ所か残されており、このうち宮崎県小林市及び東諸県郡綾町に存する一帯は、日本を代表する照葉樹林地帯で、綾森林生態系保護地域として保護林に設定され、宮崎森林管理署が管理しています。
    本保護林は、綾北川、綾南川の上流に位置する国有林で、ほぼ全域が起伏量600m以上の大起伏山地で、低い所で100m、最も標高の高い所で867m、比高差は概ね700mになるため、植生の垂直分布の変化も見られるなど極めて貴重な照葉樹林となっています。
      斜面下部にはイチイガシ、ツブラジイ、ハナガガシ、タブノキ等が優占し、中腹部からはイスノキ、ウラジロガシ、アカガシなどが優占しています。本地域の照葉樹林構成種の高木種数は、25種~30種程度とされています。(動植物の詳細は、下記の10.特徴で改めて記載します。)
      また、本保護林を含め、周辺の掃部岳生物群集保護林、大森岳生物群集保護林を核にして保護林の連続性を確保するため、延長5km、面積2,270haの「綾川上流緑の回廊」が設定されています。
    さらに、国有林外の民有林にも同様に豊かな生物多様性の高い照葉樹林があることから、周辺の人工林を照葉樹林へ復元することなどを目的に、九州森林管理局、綾町、宮崎県、(公財)日本自然保護協会、(一社)てるはの森の会の5者が、周辺国有林・民有林を対象に、「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画(綾の照葉樹林プロジェクト)」の協定を結び、照葉樹林の保護・復元の取組が進められています。
       この中で、本保護林は照葉樹林の保護を図るエリアに位置付けられています。
       また、本保護林は、最近の動植物調査で新たな希少動植物が確認されたことや平成27年の保護林制度の改正を受け、隣接する「てるは郷土の森」を編入統合し、区域が拡大されています(平成30年3月)。

    →綾の照葉樹林について

     

     

    低標高地の林相 大吊橋からの林相
    低標高域の林相 照葉大吊橋と保護地域の林相

     

     

    2.目的

       日本最大級の照葉樹林が広がる貴重な森林生態系であり、その原生的な天然林(イチイガシ・コジイ・イスノキ等)を保存することにより、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、学術研究などに役立てるとともに、これらの森林を後世に引き継ぐこととしています。

    3.所在地

    宮崎県 東諸県郡 綾町
    宮崎県 小林市 

     

    4.設定年月日

    平成20年3月25日

    5.面積

    綾森林生態系保護地域総面積   1,485.30 ha
       内、保存地区    800.45ha
       保全利用地区   684.85ha

    綾森林生態系保護地域区域図(平成29年度区域拡充及び、てるは郷土の森の一部編入後)
    綾森林生態系保護地域区域図

       

    6.関係森林管理署等

    宮崎森林管理署

    7.現況

    標高:約100~867m

    傾斜:急

    地質:古第三紀の付加帯日向層群や加久藤火砕流堆積物などが分布し、岩相分布の大半は、成層砂岩及び砂岩優勢砂岩泥岩互層からなり、南西部尾根上付近に小規模に溶結凝灰岩がわずかに分布。

    土壌型:大部分は、乾性褐色森林土や褐色森林土で覆われ、一部霧島火山由来の黒ボク土が小規模に分布。

    林齢:80年生~300年生以上

    8.法指定等

    保安林(水源涵養、土砂流出防備、保健)、九州中央山地国定公園(特2、特3)

    9.森林生態系保護地域の保護・管理及び利用 

       保護・管理及び利用については、基本的には保護林設定管理要領(平成27年9月28日付け27林国経第49号)に定められた森林生態系保護地域の取扱方針並びに「綾森林生態系保護地域計画」に従い、併せて、平成23、28年度の直近の保護林モニタリング調査や今後の調査結果を踏まえて取り扱うこととしています。
       本保護林を含めた周辺の国有林と一部民有林を含めた地域(周辺エリア)は、平成24年7月、核心地域682ha、緩衝地域8,982ha、移行地域4,916haからなる総面積14,580haの「綾ユネスコエコパーク」に登録されています。
       また、一部地域(約10,000ha)については、九州森林管理局及び綾町、宮崎県、(公財)日本自然保護協会、(一社)てるはの森の会の5者からなる「綾川流域照葉樹林帯保護・復元計画(綾の照葉樹林プロジェクト=通称、綾プロ)」の推進協定が結ばれています。綾プロエリアの森林は取扱別に4グループ、18エリアにゾーニングされ、林野庁等関係行政機関、地域関係者等が協議のもとで策定している同地域の保全管理計画があります。
       この中では、ニホンジカによる食害の影響、人工林の自然林への復元、森林環境学習への利用、持続的森林経営を行うこと、地球温暖化防止、生物多様性保全、人と自然が共生する持続可能な地域作りに貢献することなど様々な課題や目的が設定され、今後100年をかけた壮大な理念実現のため、各行動計画が実践されており、全国的にも先進的取組として注目されています。
       また、綾町では、既存の各取組と連携させ、地域住民自ら取り組んでいくための指針となる綾町生物多様性地域戦略を策定しています。

       本保護林は、林野庁で定めた保護林設定管理要領等により取り扱うことを基本としていますが、上記のように、既にユネスコエコパークの枠組みや綾プロの対象地域に係る協定書や行動計画等が策定されているため、これら取組との整合性を保ちながら進めていくことが重要と考えています。今後の森林のモニタリング調査結果なども参酌し、保護林管理委員会の意見を聞きながら、必要に応じて修正を加えるなど保護・管理及び利用について柔軟に対応していくこととしています。

    10.特徴

    森林及び動植物等の概要

    森林及び植物相

      本地域は、温量指数の上からも照葉樹林帯地域にあり、標高差や起伏量が大きい特徴があります。このため、標高に沿って種多様性の高い植生の変化がみられます。
       標高別に植生を見ると、本地域の標高は100m から870m の範囲にあり、標高450m以下では、スダジイ、イチイガシ、タブノキ、地理的分布が限られるハナガガシなどで優占されるルリミノキ-イチイガシ群集が生育し、標高450~650m 付近ではアカガシ、イスノキ、ウラジロガシが優占するイスノキ-ウラジロガシ群集が見られ、標高500m 付近の岩角地や標高約650m から上部の稜線部にかけてはコガクウツギ-モミ群集(シキミ-モミ群集)がそれぞれ成立しています。山地渓谷部にはサワグルミやカツラが優占する林分が成立するなど、これら多様な植生の中には着生植物、菌従属栄養植物、寄生植物の生育も見られます。
       本保護林の 林内の植物種は着生植物、菌従属栄養植物、寄生植物を含め約850種が生育するとされ、このうち、希少植物は、環境省レッドリスト(2017)掲載種で53種、宮崎県レッドリスト(2015)掲載種で82種が確認されており、豊かな照葉樹林が残された所以でもあります。
       また、最近、綾町などで行われた本地域の生物相の基礎的調査によれば、動物相については、哺乳類で13科23種(うち環境省レッドリスト、宮崎県レッドリスト掲載種が10種)、鳥類では32科66種(うち前記レッドリスト掲載種が24種)が確認されているほか、両生・爬虫類、昆虫類、陸産貝類等にも希少種を含めた多様な生物が確認されています。これまで実施された森林調査データから、当該地域においては、124科521種の維管束植物が確認され、このうち環境省レッドリスト2017の掲載種53種、宮崎県レッドリスト掲載種82種が確認されています。このように、本地域は低標高から高標高まで連続する広大で多様な植生分布があり、我が国を代表する照葉樹林帯として貴重な天然林となっています。
       

     

    ルリミノキ-イチイガシ群集 イスノキ-ウラジロガシ群集 スダジイ板根
    ルリミノキ-イチイガシ群集 イスノキ-ウラジロガシ群集 イチイガシ板根

     

     

     菌類

       菌類については、地元研究者による調査などによって、これまで、288種の菌類が確認されています。南九州とアメリカテキサス州のみに発生するとされる希少な菌類であるキリノミタケが発見されているほか、九州では確認例が少ないタマチョレイタケ、昆虫に胞子を散布させるウスキキヌガサタケ、希産種として発光性のあるアミヒカリタケが報告されています。

     

      哺乳類

       哺乳類については、これまでの調査結果から7目13科23種が確認されており、このうち中・大型哺乳類ではイノシシ、ニホンジカ、ニホンカモシカなど8科11種が、外来種にシベリアイタチが確認されているようです。小型哺乳類は、コウベモグラ、モモジロコウモリ、ヒメネズミ類など5科12種が報告されています。

      鳥類

       鳥類については、これまでの調査結果から11目32科66種の鳥類が確認されています。このうち環境省レッドリスト2017または宮崎県レッドリスト2015掲載種は、コシジロヤマドリ、オシドリ、ツツドリ、ミサゴ、ツミ、ハイタカ、オオタカ、クマタカ、コノハズク、フクロウ、アオバズク、アカショウビン、オオアカゲラ、ヤイロチョウ、サンショウクイ、サンコウチョウ、センダイムシクイ、キバシリ、トラツグミ、コマドリ、ルリビタキ、エゾビタキ、キビタキ、オオルリの24種、2006年以降調査のモニタリングサイト1000の調査結果から、繁殖期に多くが確認された種は、ウグイス、ヒヨドリ、アオバト、ヤマガラ、ヤブサメ、アオゲラ、ホトトギス等が、越冬期に確認が多いのは、ハシブトガラス、ヒヨドリ、メジロ、キジバト、アオバト、カケス、シジュウカラ、カケス、シジュウカラ、ヤマガラ等となっています。

     

      両生類・爬虫類

       両生爬虫類については、5科7種の両生類、5科8種の爬虫類が確認されています。環境省レッドリスト2017、宮崎県レッドリスト2015掲載種コガタブチサンショウウオはじめ5種が掲載されています。


      昆虫類

       昆虫類については、15目135科841種の生息が確認されています。環境省レッドリスト2017,宮崎県レッドリスト2015掲載種は、ヒラタミミズク、コツバメ、スギタニルリシジミなど15種が掲載されています。
     

      陸産貝類

       陸産貝類については、13科52種の生息が確認されています。


    お問合せ先

    計画保全部計画課
    担当者:生態系保全係
    ダイヤルイン:096-328-3612