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九州森林管理局

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    高隈山(たかくまやま)生物群集保護林

    1.概要

     当高隅山生物群集保護林は、鹿屋市・垂水市の2市にまたがり、鹿児島県大隅半島の中部に位置し、北西側に活火山桜島がある。冬季の偏西風によって、桜島の火山灰が降り、生物環境としては特殊な位置にある。地形としては、数個の山頂を重ね南北に主稜線を走らせる壮年期的急峻地形。主稜線は、北から七岳(標高881m)・大箆柄岳(標高1,237m)・御岳(標高1,182m)とほぼ南北に並び途中、妻岳から西方へ分岐し、平岳(標高1,102m)、横岳(標高1,094m)等の高隅山の主座が連なる稜線部一帯である。地質・岩質は高隅山花崗岩からなっている。植物相は、標高600m以上はアカガシ、スダジイ、ヤブツバキ、標高1, 000m前後は落葉広葉樹が多く、稜線部には、ノリウツギ、コバノクロヅル、ミズナラ等が見られる。動物相については、哺乳類、鳥類は九州本土と変わらないが、昆虫類は、ブナ帯、アカガシ帯、アラカシ帯、河川源流部などから構成されそれぞれ特異な生息環境にある。

    高隈山森林生物遺伝資源保存林_高隈山を東側(鹿屋市)方面から遠望

    高隈山を東側(鹿屋市)方面から遠望

    高隈山森林生物遺伝資源保存林_ブナの林相 高隈山森林生物遺伝資源保存林_ブ ナ
    ブナの林相 ブナ

     

    2.目的

    (ア)高隅山は、一万年前のウュルム氷期の温帯植物が、アカガシ等の暖温帯植生の中に隔離・遺存されていて、ブナ、ミズナラ等の冷温帯落葉広葉樹やゴヨウマツ、イチイ等、冷温帯植物の南限になっている。
    (イ)標高700m以上は、雲帯と呼ばれ気温が低く日射量も少ないため冷温帯のシベリヤ型昆虫が、山麓部には南方系の昆虫が豊富に生息している。
    (ウ)一万年も他の地域と隔離された状態で生息する動植物は遺伝的な多様性を保存する上では貴重な地域である。

    3.所在地

    鹿児島県 鹿屋市 
    鹿児島県 垂水市

    4.設定年月日

    平成9年3月7日

    5.面積

    1,176.31ha

    6.関係森林管理署等

    大隅森林管理署

    7.現況

    林種:天然林
    林齢:約130年生以上
    標高:約300~1,237m

    地形
    :高隈山系は、数個の山頂を連ね南北に主稜線を走らせる壮年期的な急峻地形である。主稜線は、北から七岳(881m)、大箆柄岳(1,237m)、御岳(1,182m)とほぼ南北に並び途中、妻岳から西方へ分岐し、平岳(1,102m)、横岳(1,094m)などの山岳をようする稜線と御岳南側から東北に向かう稜線を派出している。このように地形的には主稜線より4個の斜面に分断され、地質の異なる地形区に分かれている。主稜線部の地形は、そのまま東南部で断層崖となり、200m前後の標高で広がる準平原状の鹿屋台地に連なっている。一方、西部一帯は、主稜線近くで急峻な懸崖地を多く含む地形を示すが、山麓部は火山噴出物の堆積の影響を受けて緩傾斜で鹿児島湾に至っている。このように周囲の地形からみれば、大隅半島の付け根部に孤立した山塊を形成している。河川の主なものは、西流する垂水川、本城川、高須川が鹿児島湾に注いでおり、東流するものは、この団地最大の高隈川とその支流である鹿屋川が合流して肝属川となつて志布志湾に注いでいる。

    地質
    :地質・岩質は、高隈山花崗岩からなり、九州外帯南部四万十黒帯構成岩類に貫入した深成岩類で、下部四万十累層群の白亜系の構造に斜交して貫入し、接触変成作用を与えている。鮮新~完新世の火砕流堆積物などに覆われている。高隈山花崗岩は、大隅半島高隈山地にあり、東西7km、南北7kmの岩株状岩体で南西方の鳴之尾牧場付近に狭く分布する。岩相は、花崗閃緑岩~アプライト質花崗岩で、中心相の新光寺型岩類と薄い周縁相の猿ケ城型岩類に区分される。両者は漸位移関係、新光寺型岩類から猿ケ城型岩類に向かってより酸性になり、後者は一種の昌出相と考えられる。新光寺型岩類は、岩体の北半部の大篦柄岳西部~七岳~新光寺に分布する。中粒~粗粒の黒雲母花崗閃緑岩~黒雲母花崗岩で、主に斜長石・カリ長石・石英・黒雲母からなり、まれにザクロ石・白雲母・電気石などをともなう。猿ケ城岩類は、岩体の中央~南部の内ノ野東方に分布する。細粒~中粒のザクロ石を含む白雲母黒雲母アプライト質花崗岩で、主に斜長石・カリ長石・石英・黒雲母・ザクロ石・白雲母・電気石からなる。直径数cmで暗緑色の球状クロケットを含むのが特徴である。接触変成帯は、みかけの幅が岩体の北西部が1,000m、岩体の南東部が2,300m、変成度が最も高い泥質岩源ホルフェンスは、ザクロ石・紅柱石又はカリ長石の出現で特徴づけられる。以上の基岩の上に、火山噴出物の堆積があり、灰石、シラス層が厚く堆積し、更にボラ層や火山灰等の厚い層で覆われる。特に新しい噴出物として大正3年の桜島噴火による火山灰が層をなす箇所もある。また現在も桜島の火山灰が冬季の偏西風によって降ることがある。(日本の地質編集委員会:「日本の地質9九州地方」181~182p共立出版、1992)

    土壌
    :調査地域の山麓部は湿潤性の土壌分布は狭く、局部的に黒色土又はそれが褪色したとおもわれる土壌が分布するが、大部分は褐色森林土でいずれも乾燥気味のものが多い。山麓部から次第に標高が上がると、土壌は、大部分が褐色森林土となり、黒色土は殆ど分布しない。全休的にみると高隈山の東側の土壌は、より標準的で南部にやや黒色土の拡がりが大きく、北西部の花崗岩地帯では表層が厚いか又は比較的固結した土壌がみられ、北部は火山灰を主としたやや竪密な土壌が多い傾向がある。高隈山系の主稜線部では、急峻な地形、寒冷多湿、強風下の気象、わい性の植生などと相関達して、亜高山的な褐色森林土が分布する。

    気候帯:太平洋岸気候区-南海型

    8.法指定等

    水源かん養保安林、保健保安林、高隈山県立自然公園

    9.取り扱い方針

    【管理に関する事項】
    (1)森林管理局長は、保存林を巡回するなどにより、保存林の的確な状況把握につとめることとする。

    (2)保存林内においては,原則として自然の推移に委ねることとするが、保存林内の一部人工林については間伐等を繰返しながら将来的には天然林へ移行させる育成天然林施業を行うことができることとし、その設定の趣旨を損なわないよう適切に取扱うこととする。ただし、利用に関する事項に記した調査・研究のほか、次に掲げる行為については、必要に応じ行うことができることとする。この場合、森林管理局長は、必要に応じ関係する独立行政法人森林総合研究(支)所、独立行政法人林木育種センター等の意見を求めることとする。
    ア 保存林の機能の維持確保を図る観点からの森林施業及び病虫獣害対策
    イ 非常災害のため応急措置として行う次の行為
    (ア)山火事の消火等
    (イ)林地の崩壊、地すべり等の災害の復旧措置
    ウ 保存林の機能の維持に配慮した治山事業
    エ 歩道整備、標識類の設置等
    オ その他法令等の規定に基づき行うべき行為

    また、貴重な遺伝資源を保存する必要があることから、標識の設置やパトロール等を通じて入林者への協力要請に努める。
    (3)保存林の周辺森林の取り扱い
    保存林に対する外部の環境変化の影響を緩和するために、保存林周辺を主体に適切な機能類型区分及び施業を実施する。


    【利用に関する事項】
    保存林における遺伝、育種に係る調査・研究のほか、森林生態学等広範な分野の学術的な調査・研究のため、保存林の機能を損なわない範囲内で保存林を開放することとする。
    なお、利用に当たっての手続き等は、次によることとする。
    ア 研究者等が調査・試料の採取を行おうとする場合、あらかじめ森林管理局長に許可を得ることとする。
    イ 森林管理局長は、研究者等から利用の申請があった場合には、その内容を審査し、特段の問題がない場合にはこれを許可することとする。審査に当たって、必要に応じ関係する独立行政法人森林総合研究(支)所、独立行政法人林木育種センター等の意見を求めることとする。
    ウ 次に該当する場合は、許可しないこととする。
    (ア)堅固な施設の設置等現状回復が困難な行為が予想されている場合。
    (イ)その他、調査・研究の計画からみて、森林生物遺伝資源の保存に支障を及ぼす恐れが見込まれる場合。

     

    【管理・利用に関して調査・研究すべき事項】
    森林管理局長は、保存林の適切な管理・利用を図るため、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人林木育種センター等と連携を図りつつ、保存林の状況把握に関する調査・研究及び情報の整備に努めることとする。具体的には、前述したような地域的及び個体数的に貴重で特色ある生物の生態メカニズム、及び、人為が加わっていない状態での豊富な樹種特性の遺伝変異の解明並びに利用の観点から、当該保存林をフィールドとして次の調査・研究に努めることとする。
    (ア)繁殖様式の解明(DNA分析等による類縁関係(遺伝的分化)、天然更新方法、有性繁殖方法等の調査・研究)
    (イ)高海抜地域における広葉樹類の種子生産と稚樹の発生、並びに、樹木病原菌・森林昆虫・野生動物・野生きのこ類に係る試験調査
    (ウ)樹木について、他地域との遺伝変異の比較・把握等(葉,樹幹等の形態変異、アイソザイム等生化学手法を用いた変異の確認等)
    (エ)保存林内の植物及び林木における成分変異の把握(特用樹等の成分変異の調査)

    お問合せ先

    計画保全部計画課
    担当者:生態系保全係
    ダイヤルイン:096-328-3612