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九州森林管理局

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    霧島山(きりしまやま)生物群集保護林

    1.概要

    霧島山周辺は、東の高千穂峰(標高1,574m)と西の韓国岳(標高1,700m)の両主峰を中心に20余の大小円錐火口が群立する一大火山巣を形成し、その東西にのびる稜線には、新燃岳(標高1,421m)、中岳(標高1,345m)、栗野岳(標高1,094m)等があり、これに分岐して夷守岳(標高1,344m)、大幡山(標高1,353m)、甑岳(標高1,301m)等が連なり主要な分水嶺生)、標高500mと標高1,100mの地域にはモミ、ツガ、アカマツ、カシ類、イスノキ群系(霧島山暖帯性上位植生)、標高1,100m以上の高地にはハリモミ、アカマツ、ブナ、ミズナラ、スズタケ群系(霧島山温帯性植生)がみられ、アカガシ群落、ブナ、スズタケ群落など暖温帯から冷温帯までの垂直分布を有し、自然状態が良好に保たれ、南九州としては霧島山固有種をはじめ貴重な種が保存されている。

     

    霧島山森林生物遺伝資源保存林_霧島アカマツの樹形 霧島山森林生物遺伝資源保存林_照葉樹の林相
    霧島アカマツの樹形 照葉樹の林相
    霧島山森林生物遺伝資源保存林_林内の下層 霧島山森林生物遺伝資源保存林_ミヤマキリシマの群落
    林内の下層 ミヤマキリシマの群落
    霧島山森林生物遺伝資源保存林_モミ 霧島山森林生物遺伝資源保存林_オオヤマレンゲ
    モミ オオヤマレンゲ
    霧島山森林生物遺伝資源保存林_ヤマボウシ 霧島山森林生物遺伝資源保存林_ノカイドウ
    ヤマボウシ ノカイドウ

     

     

    2.目的

    (ア)低地から高地への植物の垂直分布がみられ、多様性に富んでいる。
    (イ)霧島山塊は、数十万年前に形成されたものから数千年前の火山活動によってできたものまでと誕生時期に幅があるため、形成される植生、火山活動後の経過時間によって違いがあり、森林・草原・荒原状等といった植生遷移の各段階に応じた多様な植生の分布がみられる。
    (ウ)火山活動による厳しい生育環境や森林に囲まれて隔離受ける等の要因により、「キリシマ」を冠する植物が数多く、キリシマミツバツツジやキリシマタヌキノショクダイ等の霧島山固有種が生み出され、また、ミヤマキリシマの大群落、ノカイドウアカマツの巨木林、甑岳の照葉樹林など、日本の重要な植物群落がある。
    (エ)以上のとおり、霧島山は、霧島山固有種をはじめ、生物相の多様性に富み、豊かな森林生物遺伝資源を有しているため、恒久的保存を図る。

    3.所在地

    宮崎県と鹿児島県の県境に位置し、霧島山の最高峰の韓国岳(標高1,700m)や高千穂峰(標高1,574m)を中心に20余の火山群からなっている。えびの高原は標高1,200m、高千穂河原は標高約970mの標高に位置している。関係市町村は、宮崎県都城市、 小林市、えびの市、高原町、鹿児島県牧園町、霧島町の2県3市、3町である。

     

    4.設定年月日

    平成13年4月1日

    5.面積

    6,354.22 ha 都城(支)4,449.39 ha

    鹿児島      1,904.83 ha

    6.関係森林管理署等

    宮崎森林管理署都城支署
    鹿児島森林管理署

    7.現況

    林 種:天然林
    林 齢:150年生以上
    標 高:1,000~1,700m
    地 質:西南日本外帯に属し、古生代~古第三紀四万十帯が基盤四万十帯の上に洪積世以後の火山活動に伴う安山岩類及び火山採屑が堆積
    土 壌:各峰の頂上付近等は岩石地・未熟土。未熟土を取り巻くように褐色森林土及び黒ボク土壌が分布
    気候帯:南海型

    8.法指定等

    霧島錦江湾国立公園、水源かん養保安林、土砂流出防備保安林、土砂崩壊防備保安林、保健保安林、鳥獣保護区、天然記念物

    9.取り扱い方針

    植 物 相


    霧島山は、日本列島の南端に位置しているが、最高峰の韓国岳は標高1,700mにもおよび低地から高地の植物が生育するなど、多様性に富んでいる。さらに、霧島山塊は数十万年前に形成されたものから数千年前の火山活動でできたものまでと幅があることから、その上に形成される植生は、火山活動後の経過時間によって、森林が成立した所から草原・高原状の所といろいろな段階がみられ植生は多様である。また、火山活動による厳しい生育環境や発達した森林に囲まれて隔離を受けたといった要因が、霧島山固有種を作り出したとされている。
    霧島山は、年降水量4,600mmに達する多雨地であることから、森林の成立は容易であると思われるが、極相林が成立しているのは比較的古い時代に形成された矢岳、丸岡山、大幡山、夷守山、大浪池、白鳥山や栗野岳等とされている。これらの山での垂直分布は、下位よりイチイガシ群集(~500m)、イスノキ-ウラジロガシ群集(500~800m)、シキミ-モミ群集(800~1,200m)、シラキ-ブナ群集(1,200m以上)とされている。
    一方、比較的新しい高千穂峰、新燃岳、韓国岳や、最近火山活動をした御鉢や硫黄山周辺は遷移途上の群落と考えられる。

    1重要な植物群落
    (ア)霧島山系御地・小池の照葉樹林、(イ)東霧島山の自然林、(ウ)霧島山のミヤマキリシマ群落、(エ)霧島山系の湿原植生、(オ)甑岳の針葉樹林、(カ)えびの高原のノカイドウ、(キ)満谷国有林の針葉樹林、(ク)満谷国有林モミ・ツガ林、(ケ)白鳥山の夏緑広葉樹林、(コ)えびの高原のアカマツ林、(サ)えびの高原の硫気孔原植生、(シ)高千穂峰・御鉢の火山高原植生、(ス)霧島山のミヤマキリシマ-マイヅルソウ群集、(セ)霧島山のミズナラ林、(ソ)霧島山のブナ-スズタケ群集、(タ)韓国岳のハリモミ林、(チ)大浪池斜面のツガ林、(ツ)霧島林田付近のモミ林

    2固有種
    (ア)ノカイドウ-バラ科の夏緑性小高木

    高さ3~4mになり、5月上旬に白花を開く。自生地は、えびの高原の長江川の渓流沿いが中心で約340株がある。
    (イ)キリシマタヌキノショクダイ-ヒナノシヤクジョウ科の腐生草本

    イチイガシ群集の林床に自生する。夏に高さ3cm前後の花茎を伸ばす。
    (ウ)クモイコゴメグサ

    ゴマノハグサ科の草本で、茎は分枝して直立し、白色の短毛が生える。9~10月に白色の花をつける。

    3南限植物
    霧島山の植物には、氷河期に南下しそのまま遺存した北の地方の植物が多く、霧島山を南限とする種が比較的多いという特徴がある。霧島山を南限とする植物は、裸子植物2種、単子葉類29種、双子葉類75種、シダ類10種、計116種となっている。
    反対に、北限とする種は少なく、ツクシチドリとツクシヒメアリドウシランの2種があげられる。

    4貴重種
    貴重種として、種子植物及びシダ植物について、植物版レッドリスト(環境庁1997)、南九州地方の貴重植物(「第1回自然環境保全基礎調査」(環境庁1976))に該当するものは、種子植物21科36種、シダ植物8科10種となっている。

     

    5特筆すべき植物等
    霧島山は、希少な植物や群落に恵まれており、霧島山の特筆すべき植物として次のものがあげられる。
    (ア)ミヤマキリシマ
    霧島山を代表する花であり、九州の火山性の高山である九重・阿蘇・天山・万年・祖母・雲仙などに自生する。ヤマツツジが九州の火山性高山で種分化したものと考えられている。霧島山では、800m以上に多く、それより低標高域ではヤマツツジとなる。両者が混交する箇所では雑種もみられる。
    霧島山での大群落は、えびの高原のつつじ丘、中岳、新燃岳、高千穂峰、韓国岳などでみられる。
    (イ)ノカイドウ
    ノカイドウは、霧島山の固有種であり、比較的日当たりの良い箇所に約340株が生育しており、国の天然記念物に指定されている。
    (ウ)赤松千本原
    アカマツは、霧島山の代表的樹種であり、えびの市の「市木」となっている。えびの高原の、北東部、韓国岳の北斜面に広がる老齢のアカマツ天然林は、他に類をみない巨木が林立し、赤松千本原と呼ばれている。平均樹高20m、胸高直径が1mを超えるものもみられ、樹齢は250年を超すともいわれている。
    (エ)甑岳のモミ・ツガ原生林
    甑岳の南斜面にモミ・ツガを優占種とするコガクウツギ-モミ群集の森林が発達する。九州南部の代表的な針葉樹林として国の天然記念物に指定されている。

    6「キリシマ」等の名がつく植物
    霧島山は,日本における最南最高峰の山として古くから植物研究がなされてきたこともあり,霧島(キリシマ)等の名がつく植物が多い。
    「植物目録」(環境庁自然保護局編1988)等によると次のものがある。
    (ア)キリシマイワへゴ、(イ)キリシマヘビノネゴザ、(ウ)キリシマミズキ、(エ)キリシマグミ、(オ)ミヤマキリシマ、(カ)シロバナミヤマキリシマ、(キ)キリシマミツバツツジ、(ク)キリシマツツジ、(ケ)キリシマヒゴタイ、(コ)キリシマシヤクジョウ、(シ)キリシマタヌキノショクダイ、(シ)キリシマノガリヤス、(ツ)キリシマザサ、(セ)キリシマテンナンショウ、(ソ)キリシマエビネ、(タ)オオキリシマエビネ、(チ)キバナキリシマエビネ、(ツ)キリシマワカナシダ、(コ)タカチホイワへゴ、(ト)ミイケイワへゴ

     

    動 物 相

    【哺乳類】
    霧島山で生息が確認されている種は、7目13科27種である。
    準絶滅危惧(NT)としては、ヤマネが近隣地域で確認されている。

    【鳥類】
    霧島山で生息が確認された鳥類は、15目36科111種である。
    なお、クマタカ、ハイタカ、ハヤブサといった猛禽類が霧島山周辺で確認されており、霧島山にも生息の可能性がある。
    絶滅危惧A.B類(EN)としてクマタカ、絶滅危惧B.類(VU)としてブッポウソウ、サンショウクイ、準絶滅危惧(NT)としてハイタカ、ハヤブサ、コシジロヤマドリ、ノジコがあげられる。
    (注)ハイタカ、クマタカ、ハヤブサは、近隣地域における確認である。

    【爬虫類,両生類】
    爬虫類では、スッポン、ニホントカゲ、ニホンカナヘビ、シマヘビ、ジムグリ、アオダイショウ、ヤマカガシ、タカチホヘビ、ニホンマムシの2目5科9種である。
    両生類では、ブチサンショウウオ、イモリ、ニホンヒキガエル、ニホンアマガエル、ニホンアカガエル、ヤマアカガエル、トノサマガエル、ツチガエル、ヌマガエル、カジカガエルの、2目6科10種である。
    貴重種は、第2回自然環境保全基礎調査(環境庁1983年)対象種のブチサンシヨウウオがあげられる。

    【昆虫類】
    「霧島山総合調査報告書」(宮崎県1969)では,霧島山で生息が確認された昆虫類として,17目217科1,464種があげられている。
    貴重種として第2回自然環境保全基礎調査(環境庁1983年)における指標昆虫類及び特定昆虫類に該当するものをあげると次のとおりである。
    蜻蛉目は、オオルリボシヤンマ、タカネトンボ
    総翅目は、ツノオオクダアザミウマ
    鱗翅目は、ミカドアゲハ、オオウラギンヒョウモン(EN)、オオチャイロハナムグリ(NT)

     

    【管理に関する事項】
    (1)森林管理局長は、保存林を巡回するなどにより、保存林の的確な状況把握に努めることとする。
    (2)保存林内においては原則として自然の推移に委ねることとするが、保存林内の一部人工林については、間伐等を繰り返しながら将来的には天然林へ移行させる育成複層林施業を行うことができることとし、その設定の趣旨を損なわないよう適切に取り扱うこととする。
    ただし、利用に関する事項に記した調査・研究のほか、次に掲げる行為については、必要に応じ行うことができることとする。この場合、森林管理局長は、必要に応じ林学・生態学等について学術的見識を有する者、独立行政法人森林総合研究所九州支所、独立行政法人林木育種センター九州育種場等の意見を求めることとする。

    ア 保存林の機能の維持確保を図る観点からの森林施業及び病虫獣害対策
    イ 非常災害のため応急措置として行う次の行為
    (ア)山火事の消火等
    (イ)林地の崩壊,地すべり等の災害の復旧措置
    ウ 保存林の機能の維持に配慮した治山事業
    工 歩道整備、標識類の設置等
    オ 道路、歩道等に倒れるおそれのある被害木、枯損木等の伐採、搬出
    カ その他法令等の規定に基づき行う行為
    また、貴重な遺伝資源を保存する必要があることから、標識の設置やパトロール等を通じて入林者への協力要請に努める。

    (3)保存林の周辺森林の取り扱い
    保存林に対する外部の環境変化の影響を緩和するために、保存林周辺を主体に適切な機能類型区分及び施業を実施する。

     【利用に関する事項】
    保存林における遺伝、育種に係る調査・研究のほか、森林生態学等広範な分野の学術的な調査・研究のため、保存林の機能を損なわない範囲内で保存林を開放することとする。また、一般登山者等の利用に当たっては、優れた自然の体験、観察、学習等の適正な利用を促すこととする。なお、利用に当たっての手続き等は、次によることとする。
    (1)研究者等が調査・試料の採取を行おうとする場合、あらかじめ森林管理局長に許可を得ることとする。
    (2)森林管理局長は、研究者等から利用の申請があった場合には、その内容を審査し,特段の問題がない場合にはこれを許可することとする。審査に当たっては、必要に応じ、林学・生態学等について学術的見識を有する者、独立行政法人森林総合研究所九州支所、独立行政法人林木育種センター九州育種場等の意見を求めることとする。

    (3)次に該当する場合は、許可しないこととする。
    ア 堅固な施設の設置等原状回復が困難な行為が予想されている場合
    イ その他、調査・研究の計画からみて、森林生物遺伝資源の保存に支障を及ぼすおそれが見込まれる場合
    (4)調査・研究を目的としない一般登山者等については、歩道以外の林地には立ち入らないようにすることとする。

    【管理・利用に関して調査・研究すべき事項】
    森林管理局長は、保存林の適切な管理・利用を図るため、独立行政法人森林総合研究所九州支所、独立行政法人林木育種センター九州育種場等と連携を図りつつ、保存林の状況把握に関する調査・研究及び情報の整備に努めることとする。
    具体的には、前述したような地域的及び個体数的に、貴重で特色ある生物の生態メカニズム及び人為が加わっていない状態での豊富な樹種特性の遺伝変異の解明並びに利用の観点から、当該保存林をフィールドとして次の調査・研究に努めることとする。
    (1)繁殖様式の解明(DNA分析等による類縁関係(遺伝的分化)、天然更新方法、有性繁殖方法等の調査・研究)
    (2)高海抜地域における広葉樹類の種子生産と稚樹の発生並びに樹木病原菌・森林昆虫・野生動物・野生きのこ類に係る試験調査
    (3)樹木について,他地域との遺伝変異の比較・把握等(葉,樹幹等の形態変異,アイソザイム等生化学手法を用いた変異の確認等)
    (4)保存林内の植物及び林木における成分変異の把握(特用樹等の成分変異の調査)
    (5)遷移に伴う森林構成の変化、保全のためのゾーニング等に関する調査・研究

    10.備考

    区域内旧保護林
    夷守林木遺伝資源保存林(H元.3.31)
    霧島林木遺伝資源保存林(H元.3.31)
    新床林木遺伝資源保存林(H 3.3.31)
    南霧島植物群落保護林(H 3.3.31)
    北霧島植物群落保護林(H 5.3.31)
    東霧島植物群落保護林(H 5.3.31)
    御池植物群落保護林(H 5.3.31)

    お問合せ先

    計画保全部計画課
    担当者:生態系保全係
    ダイヤルイン:096-328-3612