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九州森林管理局

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    猪八重照葉樹林生物群集保護林

    1.猪八重照葉樹林生物群集保護林の概要

     当地域は、宮崎県日南市北郷町北東部に位置し、日南市を流れる広渡川支流、猪八重川の源流部にあたり、鵜戸山地の最高峰岩壷山(737m)の西側斜面に広がる照葉樹林で、標高約250mから700m付近まで連続している非常に発達した天然林で、標高や地形に応じてルリミノキ―イチイガシ群集(典型亜群集、ハナガガシ亜群集)、イスノキ―ウラジロガシ群集(アカガシ優占林)、コガクウツギ―モミ群集、ホソバタブ群集等が成立している。特に低標高部には胸高直径1m前後、樹高30m前後のイチイガシの巨木が優占する原生的照葉樹林であり、ここを生育の場とする希少な動植物も多数見られ、植物では巨木に着生する着生植物や林床にはシダ類、寄生生物、菌従属栄養植物などが生育し、大径木の樹洞をねぐらとするムササビ等哺乳類、クマタカ等鳥類、昆虫類などが生息し、生物多様性が高い我が国を代表する照葉樹林として極めて高い価値を有するため、厳正な保護を必要とする。 

    猪八重写真1(遠望) 猪八重写真2(近景)
    写真-1   猪八重照葉樹林生物群集保護林の遠景 写真-2   猪八重照葉樹林の森林景観
    猪八重写真3(近景) 猪八重写真4(近景)
    写真-3   猪八重照葉樹林の森林景観  写真-4   猪八重照葉樹林の森林景観 

     

    2.所在地及び関係森林管理署

    所在地
         宮崎県日南市北郷町   大荷田国有林143林班い小班外
                                      海一郷国有林1036林班る1小班外
    関係森林管理署
         宮崎南部森林管理署

    3.設定年月日

      平成30年9月5日

    4.面積

      総面積              480.79 ha 

         保存地区            402.38ha
         保全利用地区        78.41ha

    5.現況 

    林種:ほぼ全域が照葉樹林の天然林
    林齢:163年生以上
    標高:250~700m
    地質:新第三系に属する宮崎層群、西側で日南層群を傾斜不整合に覆い、全体は東に緩やかに傾斜する単斜構造を示す。
          岩相的には、砂岩泥岩相、泥岩相、砂岩泥岩互層からなる。
    土壌:褐色森林土
    :当該地域近傍の油津で、近年の気象観測結果から、年平均気温は17~19度、年間降水量は、2100mm~3700mm。暖かさの指数は、当地区最高峰岩壷山山頂700m付近の108度・月、低地部の300m付近で136度・月となっており、区域のほぼ全域が照葉樹林帯の範囲の上限域(85度・月)から、下限域(180度・月)の範囲に含まれている。

    6.法指定等

    保安林(水源涵養・保健)、わにつか県立自然公園(普通)、鳥獣保護区(普通)  

    7.管理及び取扱いに関する事項

      保護・管理及び利用に関する基本的な事項については、別途定められた保護林設定管理要領(PDF : 328KB)の保護林区分毎の取扱い方針に従うこととする。
    また、今般の猪八重地区保護林設定に当たり行った基礎調査結果を踏まえて以下のとおり対応する。
      当保護林内にシカ被害の発生の兆しはないが、北西側地域で生息が確認されているため、今後も侵入状況について監視を行う。また、近年、カシノナガキクイムシによるナラ類集団枯損被害の発生が見られるため、大径木の多い当保護林内の継続モニタリングを行う。
      保護林内の北側には、人工林が約10ha存在するが、育成複層林施業等により適切に取り扱うこととし、将来的には天然林への移行を図ることとする。保存地区内の小規模スギ林は、歴史的、文化的観点等から、基本的には残置し、現在の環境を維持する。
      さらに、当保護林内に生息・生育する希少野生動植物の盗採・密猟等への対応策として、監視活動の強化を含め、定期的なモニタリング調査による順応的管理による適時・適切な対応を行うこととし、地域固有の生物群集がまとまりを持って存在するこの地域を一体的に保全する。
      なお、研究者等が調査研究目的で入林しようとする場合や各種団体等が保護林内でイベント(森林環境教育等)を開催しようとする場合には、森林生態系への影響を考慮した慎重な対応を行う。

    8.特徴

    植 物 相

      当地域では、124科505種の維管束植物が確認され、原生的照葉樹林が残っている。当地域は、老齢大径木の存在、希少植物も含めた多様な植物の生育のほか、寄生植物や菌従属栄養植物の生育も認められ、渓流沿いの豊富な蘚苔類の生育も含めて当該地域の照葉樹林の自然性の高さを示している。
      植物群落としては、猪八重渓谷源流部から山頂部にかけてみると、「低標高地にはルリミノキ-イチイガシ群集が、高標高地には、イスノキ-ウラジロガシ群集が成立し、岩壷山西側斜面の尾根部や急斜面にコガクウツギ-モミ群集が、谷部や崖錐斜面にホソバタブ群落」が見られる。特に、ルリミノキ-イチイガシ群集は、高木層にイチイガシ、コジイ、スダジイ、タブノキ等が優占し、一部ハナガガシが混生し、胸高直径1m前後のものも多数見られ、斜面下部のイチイガシ個体の樹高は30mを超えるものもあるなど壮大な森林景観をなしている。低標高部は、非常に空中湿度が高い地域で大径木の残存と多様な着生植物が生育し、既述のように下流部の猪八重渓谷は、蘚苔類の宝庫であり、日南市の服部植物研究所の調査によれば、蘚類177種、苔類116種、ツノゴケ3種からなる豊富なコケ植物相があるとされる。

     

    動 物 相

       当地域の動物相については、総合的調査は行われていないが、既往の調査結果は以下のとおりである。
    【哺乳類】
      文献調査、現地調査の結果、9科13種の哺乳類が確認されている。平成29年度調査によると、コテングコウモリ、ムササビ、ニホンノウサギ、タヌキ、イタチ属の一種、ニホンテン、ニホンアナグマ、イノシシの8種であり、シカの生息記録はあるが、痕跡等の情報は得られていない。
    【鳥類】
      既往調査の結果、これまで33科74種の鳥類が確認されている。平成29年度の調査では、コシジロヤマドリ、ミゾゴイ、クマタカ、アオバズク、アカショウビン、サンコウチョウ、ソウシチョウ等34種であった。
    【両生類,爬虫類】
      既往調査の結果、7科8種の両生類、3科7種の爬虫類が確認された。29年度調査によると、トカゲ、ニホンカナヘビ、ジムグリ、アオダイショウ、シマヘビ、ヒバカリ、ヤマカガシの10種が確認された。
    【昆虫類】
      既往調査の結果、54科221種の昆虫類が確認されている。現地調査で確認された種は、ヤクシマトゲオトンボ、ミヤマトンボ、オニヤンマ、クチキコオロギ、ヒメハルゼミ、ミンミンゼミ、アオスジアゲハ、ムラサキツバメ、ルリシジミ、アサギマダラ、マイマイカブリ、センチコガネ、ムネアカオオアリ、キイロスズメバチ等63種が確認された。

    9.猪八重照葉樹林生物群集保護林の位置図

    猪八重照葉樹林生物群集保護林全体図

    お問合せ先

    計画保全部計画課
    担当者:生態系保全係
    ダイヤルイン:096-328-3612