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特集 生物多様性を高める林業経営と木材利用

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1.生物多様性の重要性と関心の高まり

(1)生物多様性とその意義

森林の生物多様性の確保は、木材等の生産や水源の涵養等の機能の維持・向上に関わっており、将来にわたる暮らしの基盤

生物多様性とは

➢ 生物多様性とは、全ての生物の間に違いがあることであり、生物多様性基本法において、「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」と定義

➢ 生態系、種(種間)、遺伝子(種内)の3つのレベルの多様性は相互に関連し、生態系の多様性が確保されていることで、異なる生物の種や集団に生育・生息場所を提供し、種や遺伝子の多様性に貢献

➢ 生物多様性を考える上では、生態系レベルでみた場合の面的な広がりにおける多様性から、種や遺伝子レベルでみた場合の個別の多様性まで複数の視点が必要

➢ 現在の生物多様性は、生物の⾧い進化の歴史の中で形成。生物多様性は、損なわれると回復に極めて⾧い期間が必要


森林の有する多面的機能と生態系サービス

➢ 森林・林業基本法においては、国土の保全、水源の涵養、地球温暖化の防止、林産物の供給等の森林の有する多面的機能の持続的な発揮が国民生活及び国民経済の安定に欠くことができないものと位置付け。こうした多面的機能は、国際的には生態系サービスと呼ばれている

➢ 森林の生物多様性の確保は、木材等の生産や水源の涵養等の機能の維持・向上に関わっており、生物多様性が損なわれることは、生態系サービスのレベルの低下や、将来にわたる暮らしの基盤の喪失につながることに


(2)生物多様性をめぐる近年の動き

2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、ネイチャーポジティブの考え方、30by30目標が位置付け。企業にも生物多様性に関する情報開示が求められる動き

自然共生サイトの認定を受けた森林
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生物多様性に関する国際的な動き

➢ 生物多様性の確保は、気候変動の問題と並ぶ地球規模の課題。生物多様性と気候変動への国際的な取組は、1992年の地球サミットに合わせて採択された生物多様性条約と国連気候変動枠組条約の下で推進

➢ 2022年12月の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択。2030年までに、生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとるとの目標(ネイチャーポジティブ)

➢ また、陸と海のそれぞれ少なくとも30%を保護地域及びOECM(保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域)により保全する「30by30目標」等が位置付け

生物多様性に関する国内の動き

➢ 我が国においては、2023年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定。農林水産省においても「農林水産省生物多様性戦略」を改定し、生物多様性保全を重視した農林水産業を推進

➢ 30by30目標を契機として、2023年4月から「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を「自然共生サイト」として認定し、OECMとして国際データベースに登録する仕組みが開始。2025年3月時点で、企業の社有林や水源林など328か所が認定

民間企業が主体となった動き

➢ 民間企業においても、2017年6月の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言に続く、2023年9月の「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」提言等により、森林を始めとする自然資本への依存度等の評価や、生物多様性保全を含む多面的機能の発揮に向けた取組が重要な課題と認識


2.我が国の森林における生物多様性とこれまでの保全の取組

(1)高い生物多様性を誇る我が国の森林

我が国の森林は、国土の約3分の2を占め、原生的な天然林から人工林まで、多様な生育段階や樹種の森林が存在し、豊かな生物多様性を形成

➢ 我が国は、南北に⾧く、海岸から山岳までの標高差があって多様な気候帯に属するとともに、独特の地史を有する琉球列島、小笠原諸島があることなどを背景に、多様な生物の生育・生息環境が広がり

➢ 国土の約3分の2を占める森林は、70年以上にわたってその割合が維持され、OECD加盟国の中で3番目に高い森林率。生物相が豊かな我が国にあって、森林は陸域で最大の生物種の宝庫

➢ 森林では植物以外にも、昆虫類、鳥類、哺乳類等のほか、土壌動物・土壌微生物など多様な生物群が生育・生息

我が国の森林植生の分布

世界自然遺産に登録されている原生的な天然林
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➢ 気候条件や立地条件、自然災害、天然更新、人為によって森林は変化しており、原生的な天然林、里山林、人工林など様々なタイプの森林が存在し、それぞれ異なる生物相。原生的な天然林の厳格な保護・管理に加えて林業等による持続的な利用を通じて、空間的・時間的に多様な森林が形成され、生物の生育・生息環境が創出(生態系レベルの多様性)

➢ また、様々な動植物等の種が存在するためには、多様な森林環境が必要。数十年以上という⾧期間にわたる森林の発達段階は、林分成立段階、若齢段階、成熟段階、老齢段階に区分。その過程において草本、中低木から高木までの階層構造ができ、多様な環境が形成され、時間と共に変化することにより、様々な動植物等が生育・生息(種レベルの多様性)

➢ 例えば、欧州と比べると、我が国の森林を構成する樹種は多様であるなど、高い種の多様性。また、森林に限った比較ではないが、我が国の植物種数は5,565種とされ、同程度の面積で同じ島国であるイギリスの1,623種やニュージーランドの2,382種よりも多い

➢ さらに、同じ種であっても個体ごとに異なる遺伝子を持ち、その性質には個体差。我が国では気候条件等に応じて多様な遺伝的特性が存在しており、スギやヒノキを中心に、古くから地域ごとに品種を選抜し育成することで林業用に利用(遺伝子レベルの多様性)

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事例 「林業立村」100年の村がつくる多様なモザイク林相


➢ 宮崎県諸塚村では、森林率が9割を超える土地柄から、「林業立村」をスローガンに、林業やしいたけ栽培、畜産等を組み合わせる複合経営を行いながら、森林と共生。2015年には世界農業遺産にも認定

➢ 戦後の拡大造林期には、針葉樹一斉林ではなく、適地適木を旨として、針葉樹と広葉樹を混植する施策をとり、用材生産のための針葉樹林、しいたけ栽培用原木の生産のための落葉広葉樹林、天然生林として保全管理される常緑の照葉樹林がモザイク状に配置

➢ 美しい景観を形成するとともに、生物多様性にも優れた森林に


(2)我が国の森林における生物多様性保全の取組の経過

明治時代以降、森林の荒廃に対する伐採等の行為規制から始まった森林の保護に関する施策は、生物多様性の概念も取り込みながら、保全管理・利用までを含む施策へと深化

➢ 我が国では、過剰な利用によって生じた森林の荒廃に対して、明治時代に森林法が制定され、保安林制度創設等により、伐採を規制。また、昭和時代に入ってからも戦中・戦後の伐採が進む中、森林法改正により伐採規制が強化

➢ 奥地脊梁山地等に広く分布する国有林野においては、1915年に「保護林」制度を設け、我が国の自然保護に先駆的な役割。2000年には、野生生物の移動経路を確保するため、保護林を中心にネットワークを形成する「緑の回廊」の設定を開始

➢ 2001年に策定された森林・林業基本計画には、貴重な生物の生育・生息の場として重要な森林の保護のみならず、里山林等の保全・整備に対する要請が高まっていること、全ての森林は、多様な生物の生育・生息の場として生物多様性の保全に寄与していることなどが明記

➢ 現在、戦後造成された人工林が森林面積の約4割を占める我が国では、原生的な天然林について厳格な保護・管理を行うとともに、人手を加えることによって利用しながら管理していく人工林等において、森林資源の循環利用を図ることが重要

➢ 行為規制から始まった森林の保護施策は、生物多様性の概念も取り込みながら、単純な保護にとどまらず、保全管理・利用までを含む施策へと深化

初代保護林(天然ヒノキ林)
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緑の回廊
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(3)生物多様性保全に関する具体的な施策

様々な生育段階や樹種から構成される森林が、モザイク状に配置されている状態を目指して、多様な森林整備を推進。生態系・種レベルを中心として多様性保全に貢献

(ア)流域レベルの視点での生物多様性

〈面的な広がりにおける生物多様性保全〉

➢ 全ての森林は、多様な生物の生育・生息の場として生物多様性の保全に寄与していることも踏まえ、様々な生育段階や樹種から構成される森林が、モザイク状に配置されている状態を目指して、針広混交林化、広葉樹林化、⾧伐期化等を含め多様な森林整備を推進。原生的な天然林は自然の推移に委ねることなどを基本

➢ 多様な森林への誘導を図るためには、⾧期的な視点に立った森林の取扱いが必要であり、一定の地理的まとまりである流域を単位として森林計画制度を運用。市町村森林整備計画や国有林の地域別の森林計画等において、水源涵養や山地災害防止・土壌保全、生物多様性保全など発揮が期待される機能に応じた区分を行う「ゾーニング」を定め、機能の維持増進を図るための伐期の延⾧や伐区の縮小等の施業方法を記載

➢ 1999年度から25年間にわたり実施している森林生態系多様性基礎調査により、森林の状態と変化をモニタリングしながら、「鳥獣害を防止するための措置を実施すべき森林の区域」の設定といった順応的管理を推進。これらを通じて、生態系・種レベルを中心として生物多様性保全に貢献

流域レベルでの多様な森林の配置のイメージ

(イ)森林施業のまとまりである林分レベルの視点での生物多様性

〈原生的な天然林〉

➢ 奥地脊梁山地等に分布する原生的な天然林は、⾧期間にわたって人手が加わっておらず、一般に階層構造が発達し、老齢木から幼齢木まで様々な樹齢、大きさの樹木により構成

➢ 鳥類等の生物の採餌や営巣の場となる枯死木や倒木等も存在するなど複雑な構造であり、希少種を含む多様な野生生物の生育・生息の場となるなど、生物多様性に富む

➢ 原生的な天然林や、希少種が生育・生息する森林は、国有林野に広く分布しており、保護林に設定するなど自然の推移に委ねることを基本として、森林生態系の保存及び復元、点在する希少な森林生態系の保護・管理等を実施

➢ 希少種の保護に向けては、種の保存法に基づく保護増殖事業等を実施。生育・生息状況の把握、生育・生息環境の維持・改善等を推進

〈里山林〉

➢ 集落周辺に広がり、薪炭材や落葉等の生活資材・農業用資材を供給してきた里山林は、継続的に利用されることで、明るい環境が維持され、特有の生態系を形成。これは生物多様性の保全と森林資源の持続可能な利用の調和が図られた一つの形

➢ 燃料革命や化学肥料の使用など産業構造等の変化による薪炭利用等の縮小に伴い、遷移が進行し、林内が明るい環境から暗い環境へと変化。里山林の生物の生育・生息環境の質の低下や喪失、生態系による負の影響も顕在化。管理放棄された里山林はシカ等の大型野生動物の生息地やナラ枯れ被害発生地にも

➢ 多様な主体による里山林への働き掛けを促していくため、地域住民、NPO、企業等の連携による森林づくり活動への支援の実施等を通じて、里山林の多面的・継続的な利用を促進

里山林の整備・活用を通じた生物多様性の確保
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〈人工林〉

➢ 人工林は、主にスギ、ヒノキ、カラマツ等の単一の樹種の植栽により、針葉樹一斉林を造成。一般に、(ア)樹種や構造が単純、(イ)枯死木や倒木等がみられない、(ウ)主伐、植栽、下刈り、間伐等の人為的な攪乱がある、といった特徴

➢ 成⾧段階に応じた間伐等の森林整備により、下層植生が発達するほか、伐採・更新による伐採跡地や幼齢林には、草原性の生物の生育・生息地としての機能やイヌワシ等の猛禽類の狩場としての機能

➢ また、⾧短多様な伐期による伐採と植栽等を通じた生育段階の異なる林分のモザイク状の配置や、侵入広葉樹を残すことなどにより生物多様性確保に貢献

➢ 地域森林計画や市町村森林整備計画で、地域ごとの森林施業の指針を示すとともに、伐採造林届出制度の運用、森林整備事業等による支援を通じて、森林所有者等による造林、間伐等を推進。国有林野においても、適切な間伐の実施、⾧伐期化や複層林化等を推進

「赤谷プロジェクト」におけるイヌワシの狩場創出
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(ウ)野生鳥獣等による森林被害と生物多様性

➢ 野生鳥獣、特にシカは植栽木だけでなく、下層植生も食害するなど生物多様性への影響が大きい

➢ これまでも被害防止対策を講じてきたが、シカの分布域は拡大し、森林被害は深刻化。コストや労力を削減するICTの導入等による捕獲等を推進

➢ また、松くい虫被害やナラ枯れ被害等の森林病害虫による被害は、適時適切に制御しなければ拡大し、森林生態系に多大な影響を及ぼすおそれがあるため、予防対策や駆除対策を推進

森林におけるシカの分布域の拡大

(エ)気候変動と生物多様性

➢ 国際的な議論において、気候変動と生物多様性は特に深い関連があるとされ、気候変動による生物多様性の劣化は生態系サービスの損失につながるリスク。両者は互いに影響し合っており、一体的な取組が重要だが、それぞれの対策間にはトレードオフや相乗効果

➢ 気候変動対策として行う歴史的に森林でなかった生態系への植林、特に外来の単一樹種の再植林は、生物多様性に悪影響を及ぼすなどトレードオフの関係にある一方で、持続的な林業の実践は、生物多様性と気候変動に有益と指摘されており相乗効果

➢ 我が国においては、固有種であるスギ、ヒノキ等を中心に人工林を造成してきており、持続的な林業に向けた主伐後の再造林や間伐等の適切な森林整備により、中⾧期的な森林吸収量確保や生物多様性保全に貢献


(オ)防災・減災対策と生物多様性

➢ 「生物多様性国家戦略2023-2030」では、「自然を活用した社会課題の解決」(NbS)における推進施策として、生態系を基盤として災害リスクを低減する「Eco-DRR(生態系を活用した防災・減災)」や、自然環境が有する機能を課題解決に活用する「グリーンインフラ」の考え方が位置付け

➢ これらの考え方に符合して、我が国では、森林の維持・造成を通じて山地災害から国民の生命・財産を守ることに寄与する治山事業を実施。山地災害防止機能・土壌保全機能を維持・向上

➢ 現地の実情に応じて、郷土種による緑化や治山施設の改良等により生物多様性保全の取組を実施

治山事業による荒廃地の緑の復元
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3.生物多様性を高める林業経営と木材利用に向けて

(1)生物多様性への林業経営の貢献

「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を取りまとめ。林業事業体等が取り組むべきことは持続的な経営であり、多面的機能の発揮や生態系に配慮した施業等の実践

森林と生物多様性

➢ 林野庁では2024年3月に、これまでの生物多様性保全の実践例も参考にしつつ、生物多様性を高めるための林業経営の在り方を示すことを目的として、「森林の生物多様性を高めるための林業経営の指針」を取りまとめ

➢ 指針は「生物多様性への負の影響を回避し、機能の低下した森林の再生を通じた生物多様性の回復を図ることも含め、生物多様性の保全に一層配慮した森林管理を実践することにより、多様な動植物の生育・生息空間としての森林の質を現状より高めること」を強調

➢ 生物多様性への林業経営の貢献については、個々の森林施業のまとまりである林分単位だけでなく、地域の森林全体としての生物多様性に貢献するという視点が重要

➢ 林業事業体等が取り組むべきことは持続的な経営であり、多面的機能の発揮や生態系に配慮した施業等を実践すること。また、その結果として供給される木材の利用は社会経済に貢献

林業を通じて多様な林齢・樹種からなる森林配置へ誘導
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里山広葉樹林の適切な更新の確保と利用
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(2)生物多様性の面からみた今後の林業経営

林業事業体等には、ゾーニング等を踏まえ、多様な森林の配置に貢献すること、個々の森林施業を通じて生物多様性を確保することが期待。生物多様性は新たな収益機会となる可能性も

(ア)多様な森林の配置への貢献

➢ 地域の森林管理の主体である林業事業体等が、市町村森林整備計画のゾーニング等を踏まえ、目指すべき森林の姿を設定した上で、その実現に向けた森林施業等を計画し実行することが重要

➢ 人工林のうち、自然的・社会的条件から林業に適した森林は、主伐と確実な再造林によりそれを維持。林業を継続するための条件が厳しい森林は、森林整備事業や森林環境譲与税等を活用しつつ、間伐等の段階から侵入広葉樹を残し、針広混交林等への誘導を図るほか、帯状や群状の伐採と更新によるモザイク状の森林配置へ誘導。林業事業体等はこれらを実践する主体として、面的な広がりにおける多様な森林の配置に貢献


(イ)個々の森林施業における生物多様性の確保

➢ 森林施業の実施は、生物の生育・生息環境を確保・創出することなどにより、生物多様性を高めることに貢献。一方で、生育・生息環境への配慮を欠く場合や、現地の地形や自然条件に反した施業は悪影響を及ぼし得ることに留意

➢ 指針では、森林施業上の配慮事項等を整理。共通事項として市町村森林整備計画に基づく森林施業の実施や渓畔林の保全等を、自然条件等に応じた任意事項として、地拵え、植栽、間伐等において侵入広葉樹を残すことや、保護樹帯の設定等を提示

➢ 林業事業体等において自然条件等に応じた適切な手法を選択することで、生物多様性を確保することが可能であり、現場での工夫により実践している例も

➢ 国有林野事業においても、生物多様性への配慮の取組の一部を事例集として公表



(ウ)生物多様性を高める林業経営の新たな収益機会

➢ 林業事業体等においては、生物多様性に貢献していることを対外的に訴求することで自らの価値を高められるとともに、生物多様性の確保に取り組む他業種の企業等との連携も含め、新たな収益機会を得られる可能性

➢ 森林由来のJ-クレジットの創出の取組において、生物多様性の確保にも配慮し、付加価値の最大化を図る例もみられ、このような取組が広がることも期待

➢ また、里山林の整備に取り組み、二次的な自然を維持しつつ、多様な広葉樹資源を持続的に利用していくことで、スギ、ヒノキ等を中心とした用材生産とは異なる林業の可能性

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事例 民間企業と協業した森づくり


➢ 造林・育林専門の会社GREEN FORESTERSは、ENEOSやKDDIなど民間企業と連携して造林未済地を含む伐採跡地の森林再生に取り組み

➢ 民間企業の資金提供を受け、渓畔域に落葉広葉樹を植栽するなどの生物多様性に配慮した森づくり。これを通じたクレジット創出等により、カーボンオフセットと生物多様性への貢献等を目指す

事例 ナラ枯れ被害対策を契機とした広葉樹材活用の取組


➢ 香川県は、高齢級の広葉樹林を対象に、ナラ枯れ被害予防のための伐採の実施と、広葉樹材の有効活用に取り組み

➢ 伐採予定の広葉樹林の「立木リスト」を作成し、川下の事業者に提供するなど、川上から川下までの事業者をつなぐ取組を実施し、広葉樹材が商品として流通


(エ)モニタリングと評価

➢ 生物多様性に貢献する林業経営の水準の向上を図るためには、森林施業等に関する活動目標を設定するとともに、モニタリングにより進捗を評価し、改善していくPDCAサイクルを回していくことも重要

➢ 評価結果を対外的に情報開示することで、外部資金の獲得や、木材の需要者とサプライチェーンで結び付くことも期待


(3)持続的な経営から生産される木材の利用に向けて

民間企業に持続可能な木材利用への配慮を求める動き。生物多様性の観点も含めて持続的な経営から生産される木材の利用が拡大することは、森林の生物多様性を更に高めることに貢献

民間企業に持続可能な木材利用への配慮を求める動き

➢ 民間企業においては、TNFD提言等の動きを受けて、自らの自然資本への依存度を評価した上で、企業活動に必要な原材料調達の際に生物多様性の保全や持続可能な木材利用への配慮が必要に

➢ 建築物等に木材を利用する事業者等においては、「気候変動」や「生物多様性」の課題への対応として、建築物の木質化や国産材の活用に取り組み、企業が情報開示する例もあり。企業における建築物等への木材利用の拡大により、木材利用への関心がさらに広がることも期待

➢ 林野庁では、2024年3月に「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」を作成・公表し、建築物に木材を利用する企業等が情報開示において木材利用の効果を評価し訴求する際の参考となる評価項目・評価方法を提示

➢ ガイダンスでは、評価項目としてデュー・デリジェンスの実施による「持続可能な木材の調達」を挙げており、評価方法として、合法性とともに森林の伐採後の更新の担保を確認できるものであることなどを提示

企業の「建物の木質化」等に関する情報開示例

持続可能な木材利用に向けて

➢ サプライチェーンの中で、生物多様性の観点も含めて持続的な経営が行われている森林から生産される木材を選択的に利用できることは、林業経営側・木材利用側の双方からみて重要

➢ 木材関連事業者が木材を調達する際に合法性を確認するための書類として、伐採造林届出書や森林経営計画の認定書等が位置付け。森林経営計画において生物多様性に関連する取組事項を示すことにより、流通過程でその情報を伝達していくことも木材の選択的利用を促す有効な手段

➢ 生物多様性の観点も含めて持続的な経営が行われている森林から生産される木材が、需要者に評価され、その利用が拡大していくことは、山元の利益の確保や伐採後の再造林等につながり得るものであり、我が国の森林の生物多様性を更に高めることに貢献


(4)森林・林業施策全体を通じた生物多様性の確保

生物多様性を高める林業経営と木材利用を通じて、我が国の森林を将来にわたり受け継いでいく

➢ 森林生態系から生み出される多岐にわたる恩恵が、絶えずもたらされてきたのは、森林資源を利用すると同時に造成してきた林業経営の営みがあったからこそ

➢ これらの恩恵を将来にわたり享受していくには、原生的な天然林などは引き続き保護・管理を行いつつ、生物多様性を確保する形で持続的な林業経営が行われること、そこから生産される木材を利用することが社会的にも評価され、木材を介した経済的な循環が促進されることで、更なる木材利用につながることが不可欠

➢ 今後も、森林・林業・木材産業関係者、木材需要者、消費者等の関係者が、森林の保続と生物多様性の重要性、林業経営の貢献について理解を深めることが重要。また、それに対する相互の責任を認識しながら、生物多様性を高める林業経営と、持続可能な木材利用の実践を通じて、我が国の森林を将来にわたり受け継いでいくことが必要



お問合せ先

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ダイヤルイン:03-6744-2219