令和6年度 森林及び林業施策 4 国有林野の管理及び経営に関する施策
1 公益重視の管理経営の一層の推進
国有林野は、国土保全上重要な奥地脊梁(せきりょう)山地や水源地域に広く分布し、公益的機能の発揮など国民生活に大きな役割を果たすとともに、民有林行政に対する技術支援などを通じて森林・林業の再生への貢献が求められている。
このため、公益重視の管理経営を一層推進する中で、組織・技術力・資源を活用して民有林に係る施策を支え、森林・林業施策全体の推進に貢献するよう、森林・林業基本計画等に基づき、次の施策を推進する。
(1)多様な森林整備の推進
国有林野の管理経営に関する法律(昭和26年法律第246号)等に基づき、31森林計画区において、地域管理経営計画、国有林野施業実施計画及び国有林の地域別の森林計画を策定する。
この中で、国民のニーズに応えるため、個々の国有林野を、重視すべき機能に応じ、山地災害防止タイプ、自然維持タイプ、森林空間利用タイプ、快適環境形成タイプ及び水源涵(かん)養タイプに区分し、これらの機能類型区分ごとの管理経営の考え方に即して適切な森林の整備を推進する。その際、地球温暖化防止や生物多様性の保全に貢献するほか、地域経済や山村社会の持続的な発展に寄与するよう努める。
具体的には、人工林の半数以上が50年生を超えて本格的な利用期を迎えていることを踏まえ、複層林、針広混交林へ導くための施業、⾧伐期施業等により、一定の広がりにおいて様々な育成段階や樹種から構成される森林のモザイク的配置への誘導等を推進するとともに、育成段階にあるものは、引き続き適切な間伐等の施業を推進する。なお、主伐の実施に際しては、自然条件や社会的条件を考慮して実施箇所を選定するとともに、公益的機能の持続的な発揮と森林資源の循環利用の観点から確実な更新を図る。
また、林道及び主として林業機械が走行する森林作業道がそれぞれの役割等に応じて適切に組み合わされた路網の整備を、自然条件や社会的条件の良い森林において重点的に推進する。
(2)生物多様性の保全
生物多様性の保全の観点から、渓流沿い等の森林を保全するなど施業上の配慮を行うほか、原生的な天然林や、希少な野生生物の生育・生息の場となる森林である「保護林」や、これらを中心としたネットワークを形成して野生生物の移動経路となる「緑の回廊」のモニタリング調査等を行いながら適切な保護・管理を推進する。
また、世界自然遺産登録地における森林の保全対策を推進するとともに、世界文化遺産登録地等に所在する国有林野において、森林景観等に配慮した管理経営を行う。
森林における野生鳥獣被害防止のため、シカの生息・分布調査、広域的かつ計画的な捕獲、捕獲個体の処理体制の構築、効果的な防除等とともに、地域の実情に応じた野生鳥獣が警戒する見通しの良い空間(緩衝帯)づくりや、地域の関係者が連携して取り組む捕獲のためのわなの貸出し等を実施する。
さらに、野生生物や森林生態系等の状況を適確に把握し、自然再生の推進や希少な野生生物の保護を図る事業等を実施する。
登山利用等による来訪者の集中により植生の荒廃等が懸念される国有林野において、グリーン・サポート・スタッフ(森林保護員)による巡視や入林者へのマナーの啓発を行うなど、きめ細やかな森林の保全・管理活動を実施する。
(3)治山事業の推進
国有林野の9割が保安林に指定されていることを踏まえ、保安林の機能の維持・向上に向けた森林整備を計画的に進める。
国有林野内の治山事業においては、近年頻発する集中豪雨や地震・火山等による大規模災害の発生のおそれが高まっていることを踏まえ、山地災害による被害を防止・軽減するため、民有林野における国土保全施策との一層の連携により、効果的かつ効率的な治山対策を推進し、地域の安全と安心の確保を図る。
具体的には、山地災害等が激甚化・頻発化する傾向を踏まえ、山地災害の復旧整備を図りつつ、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づき山地災害危険地区等における治山対策を推進する。くわえて、尾根部からの崩壊等による土砂流出量の増大、流木災害の激甚化、広域にわたる河川氾濫等、災害の発生形態の変化等に対応して、流域治水と連携しつつ、土砂流出の抑制、森林土壌の保全強化、流木対策、海岸防災林の整備・保全、大規模災害発生時における体制整備等の取組を推進する。さらに、山地災害が発生する危険性の高い地区のより的確な把握に向け、災害の発生状況を踏まえ、リモートセンシング技術も活用した山地災害危険地区の再調査を推進する。
このほか、治山施設の機能強化を含む⾧寿命化対策、他の国土保全に関する施策と連携した取組、工事実施に当たっての木材の積極的な利用、生物多様性の保全等に配慮した治山対策の実施を推進する。
2 森林・林業施策全体の推進への貢献
(1)国産材の安定供給体制の構築への貢献
適切な施業の結果得られる木材の持続的かつ計画的な供給に努めることで、地域における木材の安定供給体制の構築に貢献する。また、その推進に当たっては、製材工場等の需要者と協定を締結して山元から直送する安定供給システムによる販売に取り組み、この中で公募・選定時の評価等を通じて国産材の需要拡大や加工・流通の合理化等に貢献する。また、民有林と国有林が協調して需要先へ直送することで木材供給の大ロット化等を実現する取組の普及及び拡大なども推進する。このほか、民有林からの供給が期待しにくい大径⾧尺材等の計画的な供給に取り組むとともに、根株・枝条を含む未利用間伐材等の供給に取り組む。
さらに、国産材供給量の1割強を安定的に供給している国有林野事業の特性を活かし、地域の木材需要が急激に増減した場合に、必要に応じて供給時期の調整等を行うため、地域の需給動向、関係者の意見等を迅速かつ適確に把握する取組を推進する。
(2)効率的な施業の推進と技術の普及
伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」の実現等に向けて、民有林への普及を念頭に置き、産学官連携の下、林業の省力化や低コスト化等に資する技術開発・実証を推進するとともに、事業での実用化を図り効率的な施業を推進する。
特に、造林の省力化や低コスト化に向けてエリートツリー等の新たな手法の事業での活用を進めるとともに、レーザ計測やドローン等を活用した効率的な森林管理・木材生産手法の実証等に積極的に取り組む。
また、こうした成果については、現地検討会や森林管理局等のホームページでの結果の公表等を通じて、民有林関係者等への普及・定着に取り組む。
(3)林業事業体・林業経営体の育成
林業従事者の確保等に資する観点から、事業発注者という国有林野事業の特性を活かし、年間の発注見通しの公表等を行いつつ、安定的な事業発注に努めるとともに、技術力向上等の取組を評価する発注方式の活用、複数年契約によるまとまった面積の事業実施、労働安全対策に配慮した事業実行の指導等により林業事業体の育成を推進する。
効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、樹木採取権制度を適切に運用する。また、新たな樹木採取権の設定に向けて、地域における具体的な木材需要増加の確実性を確認する新規需要創出動向調査を行う。さらに、分収造林制度を活用した経営規模拡大の支援に取り組む。
(4)民有林との連携等
「森林共同施業団地」を設定し、民有林と国有林が連携した事業計画の策定に取り組むとともに、民有林と国有林を接続する効率的な路網の整備や連携した木材の供給等、施業集約に向けた取組を推進する。
森林総合監理士等の人材を活用し、都道府県と連携した市町村の森林・林業行政等に対する技術支援を行う。
また、大学の研究・実習等へのフィールドの提供等を通じ、森林・林業技術者の育成を支援するとともに、林業従事者の育成に向けた林業大学校等への講師派遣等に努める。
国有林野及びこれに隣接・介在する民有林野の公益的機能の維持増進を図るため、公益的機能維持増進協定制度を活用した民有林野との一体的な整備及び保全の取組を推進する。
相続土地国庫帰属制度については、主に森林として利用されている申請土地について、法務局が行う要件審査に協力するとともに、帰属した森林の適切な維持管理に努める。
3 「国民の森林(もり)」としての管理経営と国有林野の活用
(1)「国民の森林(もり)」としての管理経営
国民の期待や要請に適切に対応していくため、国有林野の取組について多様な情報受発信に努め、情報の開示や広報の充実を進めるとともに、森林計画の策定等の機会を通じて国民の要請の適確な把握とそれを反映した管理経営の推進に努める。
体験活動及び学習活動の場としての「遊々(ゆうゆう)の森」の設定及び活用を図るとともに、農山漁村における体験活動と連携し、森林・林業に関する体験学習のためのプログラムの作成及び学習コース等のフィールドの整備を行い、それらの情報を提供するなど、学校、NPO、企業等の多様な主体と連携して、都市や農山漁村等の立地や地域の要請に応じた森林環境教育を推進する。
また、NPO等による森林(もり)づくり活動の場としての「ふれあいの森」、伝統文化の継承や文化財の保存等に貢献する「木の文化を支える森」、企業等の社会貢献活動の場としての「法人の森林(もり)」や「社会貢献の森」等、国民参加の森林(もり)づくりを推進する。
(2)国有林野の活用
国有林野の所在する地域の社会経済状況、住民の意向等を考慮して、地域における産業の振興及び住民の福祉の向上に資するよう、貸付け、売払い等による国有林野の活用を積極的に推進する。
その際、再生可能エネルギー発電事業の用に供する場合には、国土の保全や生物多様性の保全等に配慮するとともに地域の意向を踏まえつつ、適切な活用を図る。
さらに、「レクリエーションの森」について、民間活力を活かしつつ、利用者のニーズに対応した施設の整備や自然観察会等を実施するとともに、特に「日本美(にっぽんうつく)しの森 お薦め国有林」において重点的に、観光資源としての魅力の向上のための環境整備やワーケーション環境の整備、外国人も含む旅行者に向けた情報発信等に取り組み、更なる活用を推進する。
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