第1部 第2章 第2節 特用林産物の動向(2)
(2)薪炭・竹材・漆の動向
(薪炭の動向)
木炭は、家庭用の燃料としては使用する機会が少なくなっているが、飲食店、茶道等では根強い需要があるほか、電力なしで使用できる等の利点から災害時の燃料としても活用されている。また、多孔質(*60)の木炭について、浄水施設のろ過材や消臭剤としての利用も進められている。さらに、近年、土壌改良材として農地に施用する「バイオ炭(*61)」が注目されている。バイオ炭の農地施用は、難分解性の炭素を土壌に貯留する効果があり、気候変動緩和効果も期待できることから、J-クレジット制度(*62)において、温室効果ガスの排出削減活動としてクレジット化が可能となっている。
木炭(黒炭、白炭、粉炭、竹炭及びオガ炭)の国内生産量は、⾧期的に減少傾向にあり、令和4(2022)年は前年とほぼ同量の1.7万トンとなっている(資料2-23)。国産木炭は、和食文化の拡がりに加え、その品質の高さによる海外の需要が期待されることから、海外市場への参入を目指す動きもみられる(事例2-7)。輸出の拡大は、需要の維持・拡大を通じて、伝統的な木炭生産技術の継承や大径化が進む薪炭林の若返りにもつながることが期待される。
販売向け薪の生産量についても、石油やガスへの燃料転換等により減少傾向が続いていたが、平成19(2007)年以降は、ピザ窯やパン窯用等としての利用、薪ストーブの販売台数の増加(*63)等を背景に増加傾向に転じ、近年は5万m3程度で推移している。令和4(2022)年の生産量は、前年にみられたアウトドア需要の高まりが継続したこと等から、前年とほぼ同量の5.7万m3となっている(資料2-24)。
事例2-7 フランスへの木炭の海上輸出に向けた取組
木炭の製造等を手掛ける有限会社谷地林業(岩手県久慈(くじ)市)は、令和2(2020)年から独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)の「新輸出大国コンソーシアム事業のハンズオン支援」を活用しながら海外市場の開拓に取り組んでおり、国際輸送に必要な危険性評価証明書の取得といった様々な課題を解決しながら、令和5(2023)年6月から自社ブランド「黒炭(KUROSUMI)」のフランス向け輸出を開始した。フランスでは飲食店やアウトドアだけでなく家庭の伝統料理での木炭需要が見込まれることから、火力が強く⾧持ちする高品質性をアピールすることで販路拡大を目指している。
(*60)木炭は表面に無数の微細な孔を持つ。孔のサイズ分布や化学構造によって、水分子やにおい物質等の吸着機能や、孔内に棲息した微生物による分解機能を有し、湿度調整や消臭、水の浄化等の効果を発揮する。これらの効果は、木炭の原材料や炭化温度により異なる。
(*61)燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物。
(*62)J-クレジット制度については、第1章第2節(5)58-60ページを参照。
(*63)一般社団法人日本暖炉ストーブ協会ホームページ「公表販売台数」
(竹材の動向)
竹材は従来、身近な資源として、日用雑貨、建築・造園用資材、工芸品等様々な用途に利用されてきた。このような利用を通じて整備された竹林は、里山の景観を形作ってきたのみならず、食材としてのたけのこを供給する役割を果たしてきた。しかし、プラスチックなどの代替材の普及や住宅様式の変化、安価な輸入たけのこの増加等により、国内における竹材やたけのこの生産は減退してきた。このため、管理が行き届かない竹林の増加や、周辺森林への竹の侵入等の問題も生じている。
竹材の生産量は、製紙原料としての利用の本格化等を背景に、平成22(2010)年から増加に転じたものの、平成29(2017)年以降再び減少し、令和4(2022)年は前年比9.6%減の83万束(*64)となっている(資料2-25)。
このため、竹資源の有効利用に向けて、家畜飼料・土壌改良材等の農業用資材や、竹材の抽出成分を原料にした洗剤等の日用品、舗装材等の土木資材等の新需要の開発が進められている。また、たけのことしての収穫適期を過ぎて成⾧した若い竹をメンマに加工・販売することで竹林整備につなげる取組も全国各地で行われている。
(*64)2.5万トン(1束当たり30㎏として換算)。
(漆の動向)
漆は、樹木であるウルシから採取された樹液と樹脂の混合物を精製した塗料で、食器、工芸品、建造物等の塗装や接着に用いられてきた。化学塗料の発達や生活様式の変化等を背景に、漆の消費量は⾧期的に減少しており、令和4(2022)年の国内消費量は25.6トンと、半世紀前と比較しおおよそ5%(*65)となっている。令和4(2022)年の国内生産量は消費量の6.9%に相当する1.8トンとなっており、多雨により漆掻(か)きが進まなかったことから前年比13.2%減となった(資料2-26)。
平成26(2014)年度に文化庁が国宝・重要文化財建造物の保存修理に原則として国産漆を使用する方針としたことを背景に、各産地では漆の生産振興に力を入れるとともに、生産者からの生漆の買取価格の引上げを図ったことから、国産漆の生産量は平成27(2015)年以降増加に転じた。しかし、国産漆の生産量は、国宝・重要文化財建造物の理想的な修理周期での保存修理における漆の年平均使用量である約2.2トン(*66)に満たない上、工芸品等向けの国産漆の需要もあることから、国産漆の生産量を増やしていくことが重要となっている。そうした中、近年は岩手県などの各産地においてウルシ林の造成・整備、漆掻(か)き職人の育成等の取組が進められており(*67)、令和4(2022)年のウルシの植栽本数は前年の1.8万本から3.4万本に増加した。
(*65)農林水産省「特用林産基礎資料」
(*66)文化庁プレスリリース「文化財保存修理用資材の⾧期需要予測調査の結果について」(平成29(2017)年4月28日付け)
(*67)例えば、「令和3年度森林及び林業の動向」第2章第2節(2)の事例2-4(120ページ)を参照。

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