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林野庁

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第1部 第1章 第4節 国際的な取組の推進(2)

(2)地球温暖化対策と森林

(気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見)

地球温暖化防止に向けて

地球温暖化は、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つとなっている。気候変動に関する政府間パネル(*74)(IPCC)は、地球温暖化問題に関する研究成果についての評価を行い、1990年以降、それらの結果をまとめた報告書を公表しており、2023年3月に第6次評価報告書統合報告書が公表された。

統合報告書では、地球温暖化が人間活動の影響で起きていることは疑う余地がないこと、人為起源の気候変動は多くの気象と気候の極端現象を引き起こし、広範囲にわたる悪影響と関連した損失・損害を引き起こしていることなどを指摘し、この10年間に行う選択や実施する対策が現在から数千年先まで影響を持つとして、この間の大幅で急速かつ持続的な緩和と加速化された適応の行動は、予測される損失と損害を軽減し、多くの共便益をもたらすことを強調している。

森林・林業関連については、森林経営の向上などの森林を活用した対策が緩和・適応の両面で有益であること、木材製品など持続可能な形で調達された農林産物を他の温室効果ガス排出量の多い製品の代わりに使用できることなどが紹介されている。


(*74)世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)について取りまとめた報告書を定期的に作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とする。IPCC評価報告書は、気候変動対策に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられている。



(国連気候変動枠組条約の下での気候変動対策)

気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)は地球温暖化防止のため1992年に採択された国際的な枠組みであり、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目的としている。2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、2020年以降の国際的な気候変動対策の枠組みとしてパリ協定が採択された(*75)(資料1-32)。これは先進国、開発途上国を問わず全ての国が参加する公平かつ実効的な法的枠組みであり、全ての参加国と地域に、2020年以降の温室効果ガス削減目標である「国が決定する貢献(NDC)」を定めること等を求めている。

2018年のCOP24ではパリ協定の本格運用に向けて実施指針(ルールブック)が採択され、これまでと同様、我が国の森林が吸収源として排出削減目標の達成に貢献することとなった。

2021年のCOP26では、我が国を含む140か国以上が参加し、2030年までに森林の消失や土地劣化の状況を好転させることにコミットした「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が公表され、この目標の実現に向け、我が国を含む12の国・地域が森林分野の気候変動対策のために合計120億ドルの公的資金の確保を約束した。これに関連して我が国は約2.4億ドルの資金支援を行うことを表明した。これらの取組を加速するため、2022年のCOP27では、英国の主導により「森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP)」が新たに立ち上げられ、我が国を含む27の国・地域(*76)が参加した。

2023年11月から12月にかけてアラブ首⾧国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28では、パリ協定の実施状況を検討し、⾧期目標の達成に向けた全体としての進捗を評価する仕組みであるグローバル・ストックテイクに係る決定文書が採択され、2050年ネットゼロ達成に向け、この決定的な10年における、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の加速が合意された。森林関係では、2030年までに森林減少と森林劣化を食い止め、好転させる取組の強化や、吸収源及び貯蔵庫として機能する陸域・海洋生態系及び生物多様性の保全の重要性等が盛り込まれた。また、FCLPの下、建築分野における持続可能な木材利用の促進を目指す「持続可能な木材によるグリーン建築」イニシアティブの声明が、我が国を含む17か国の賛同を得て発表された。

資料1-33 パリ協定の概要

(*75)パリ協定の採択については、「平成27年度森林及び林業の動向」トピックス4(5ページ)を参照。

(*76)令和5(2023)年12月現在、32の国・地域が参加。



(地球温暖化対策計画と2030年度森林吸収量目標)

地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図る地球温暖化対策計画(令和3(2021)年10月閣議決定)では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、令和12(2030)年度の我が国の温室効果ガス排出削減目標を従来より引き上げ、平成25(2013)年度比46%削減を目指し、更に50%の高みに向けて挑戦を続けることとしている。森林吸収量についても、目標が従来の約2.0%から約2.7%に引き上げられた(資料1-33)。あわせて、我が国は、この2030年度の目標を踏まえたNDC(令和3(2021)年10月地球温暖化対策推進本部決定)及び「パリ協定に基づく成⾧戦略としての⾧期戦略」(令和3(2021)年10月閣議決定)を策定した。

この目標達成に向けては、森林・林業基本計画や農林水産省地球温暖化対策計画(令和3(2021)年10月改定)等に基づき、適切な間伐の実施等の取組に加え、森林資源の循環利用の確立を図り、炭素を貯蔵する木材の利用を拡大しつつ、エリートツリー等の再造林等により成⾧の旺盛な若い森林を確実に造成していくことが重要であり、地方公共団体、森林所有者、民間事業者、国民など各主体の協力を得つつ、取組を進めていくこととしている。

令和4(2022)年度の森林吸収量は4,568万CO2トン、このうち伐採木材製品(HWP(*77))に係る吸収量は358万CO2トンであった(*78)。

資料1-33 我が国の温室効果ガス排出削減と森林吸収量の目標

(*77)京都議定書第二約束期間以降、搬出後の木材による炭素貯蔵量全体の変化を温室効果ガス吸収量又は排出量として計上することができる。

(*78)二酸化炭素換算の吸収量については、国立研究開発法人国立環境研究所「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量」による。



(開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)への対応)

開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の約1割を占めるとされていることから(*79)、パリ協定においては、開発途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減並びに森林保全、持続可能な森林経営及び森林炭素蓄積の強化(REDD+(レッドプラス))の実施及び支援が奨励されている。

我が国は、緑の気候基金(GCF)等への資金拠出を通じた支援や技術支援のほか、二国間クレジット制度(*80)(JCM)の下でのREDD+活動を推進しており、令和5(2023)年12月現在、カンボジア及びラオスとの間でガイドライン類が策定されている。

また、国立研究開発法人森林研究・整備機構に開設されたREDDプラス・海外森林防災研究開発センターでは、REDD+の実施に必要な技術解説書や独立行政法人国際協力機構(JICA)と共に立ち上げた「森から世界を変えるプラットフォーム」による情報提供等により、開発途上国や民間企業等のREDD+活動を支援している。


(*79)IPCC(2022)IPCC Sixth Assessment Report: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change, the Working Group 3 contribution, Summary for Policymakers: 6.

(*80)開発途上国等への優れた低炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の「国が決定する貢献(NDC)」の達成に活用する制度。



(気候変動への適応)

気候変動の悪影響を最小限に抑える気候変動適応は、気候変動緩和と並ぶパリ協定の目的であり、我が国の気候変動対策として緩和策と適応策は車の両輪と位置付けられている。気候変動適応計画(令和5(2023)年5月閣議決定)及び農林水産省気候変動適応計画(令和5(2023)年8月改定)を踏まえ、森林・林業分野では、異常な豪雨による土石流等の災害の発生に備え、保安林等の計画的な配備や、治山施設の整備、路網の強靱(じん)化・⾧寿命化等のほか、渇水等に備えた森林の水源涵(かん)養機能の適切な発揮に向けた森林整備、高潮や海岸侵食に対応した海岸防災林の整備、気候変動による影響の継続的なモニタリング、病害虫対策、気候変動の影響に適応した品種開発等の調査・研究の推進等に取り組んでいる。


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