第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(5)
(5)社会全体で支える森林(もり)づくり
(全国植樹祭と全国育樹祭)
「全国植樹祭」は、国土緑化運動の中心的な行事であり、天皇皇后両陛下の御臨席を仰いで毎年春に開催されている。令和5(2023)年6月には、「第73回全国植樹祭」が岩手県で開催された。新型コロナウイルス感染症の影響により4年ぶりの現地御臨席となった天皇皇后両陛下は、アカマツ、カシワ等をお手植えになり、オオヤマザクラ、ケヤキ等をお手播(ま)きになった。令和6(2024)年には、「第74回全国植樹祭」が岡山県で開催される予定である。また、「全国育樹祭」は、皇族殿下の御臨席を仰いで毎年秋に開催されている。令和5(2023)年11月には、「第46回全国育樹祭」が秋篠宮皇嗣同妃両殿下の御臨席の下、茨城県で開催された。令和6(2024)年には、「第47回全国育樹祭」が福井県で開催される予定である。
(多様な主体による森林(もり)づくり活動が拡大)
NPOや企業等の多様な主体により、森林(もり)づくり活動が行われている。例えば、ボランティア団体等の森林(もり)づくり活動を実施している団体数は、令和3(2021)年度で3,671団体となっている(資料1-18)。
SDGsの機運の高まりや、ESG投資(*26)の流れが拡大する中、企業の社会的責任(CSR)活動として、森林(もり)づくりに関わろうとする企業が増加しており、顧客、地域住民、NPO等との協働、募金等を通じた支援、企業の所有森林を活用した地域貢献など多様な取組が行われている(事例1-5)。企業による森林(もり)づくり活動の実施箇所数は増加しており、令和4(2022)年度は1,890か所であった(資料1-19)。
林野庁では、森林(もり)づくり活動を行いたい企業等と森林ボランティア団体等とのマッチングや植栽場所のコーディネート等の取組を支援している。
このほか、平成20(2008)年に開始された「フォレスト・サポーターズ」登録制度は、個人や企業などが日常の生活や業務の中で自発的に森林整備や木材利用に取り組む仕組みとなっており、その登録数は令和6(2024)年3月末時点で7.2万件となっている。
さらに、SDGsや2050年カーボンニュートラルの実現に貢献する森林(もり)づくりを推進することを目的として、令和4(2022)年10月に「森林(もり)づくり全国推進会議」が発足した。経済、地方公共団体、教育、消費者、観光等各界の企業・団体が会員となり、森林(もり)づくりに向けた国民運動を展開している。令和5(2023)年10月には第2回森林(もり)づくり全国推進会議が開催され、林業や森林教育を通じた町づくりの取組や、森林資源と地域経済の好循環を目指した取組など先駆的な森林(もり)づくりに取り組んでいる会員による事例発表等が行われた。今後も、企業等による森林(もり)づくり活動の普及啓発に引き続き取り組むこととしている。
事例1-5 企業版ふるさと納税の活用によるネイチャーポジティブを目指した活動
令和5(2023)年2月、三菱地所株式会社、群馬県みなかみ町(まち)、公益財団法人日本自然保護協会の3者が、生物多様性の損失に歯止めをかけ自然を回復させるネイチャーポジティブの実現を目指して、10年間の連携協定を締結した。管理の行き届いていない人工林の自然林への転換活動、里地里山の保全再生活動、ニホンジカの低密度管理の実現などについて、3者それぞれの知見を活かしながら取組が行われる。
みなかみ町内の国有林野では約20年間、住民による協議会、日本自然保護協会、関東森林管理局が協働して生物多様性の復元や持続的な地域づくりを目指す「赤谷プロジェクト」を継続しており、自然再生のための知見が蓄積されていたことから、その取組とも連携した活動を行うこととしている。
なお、本取組では企業版ふるさと納税制度(地方創生応援税制)を活用し、三菱地所からみなかみ町へ協定期間内に6億円の寄付が予定されており、同制度を活用した国内初の大規模な取組となる。
(*26)従来の財務情報に加え、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を判断材料とする投資手法。
(森林のカーボンニュートラル貢献価値等の見える化)
企業等が実施する森林整備の取組について、その成果を二酸化炭素吸収量として認証する取組が34都府県で実施されている(*27)。
林野庁では、このような企業等の取組の意義や効果を消費者やステークホルダーに訴求することの一助となるよう、森林による二酸化炭素吸収量等を自ら算定・公表しようとする場合における標準的な計算方法の周知を行っている(*28)。
さらに、企業等が実施した森林整備の認知度を高めるとともに、更なる取組の拡大・促進を図るため、この算定方法等を活用した顕彰制度「森林×脱炭素チャレンジ」を令和4(2022)年に創設した。令和5(2023)年には、適切に管理された森林から創出されたJ-クレジットの購入量とその活用内容について顕彰する新たな部門も設け、13件(グランプリ1件、優秀賞12件)を表彰した(*29)。
また、「農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法」において林業分野も投資対象となっているほか、令和4(2022)年10月に設立された官民ファンドである株式会社脱炭素化支援機構からの資金供給の対象に、森林保全、木材利用等による吸収源対策や木質バイオマスのエネルギー利用に関する事業活動も含まれるなど、森林の整備や利用をテーマとした投資の可能性が広がっている。さらに、企業の事業の持続性確保の点から、気候変動対策のほか、生物多様性・自然資本を企業経営に組み込んでいくため、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)といった企業情報の開示等に関する仕組みづくりが国際的に進められている。
(*27)林野庁森林利用課調べ。
(*28)「森林による二酸化炭素吸収量の算定方法について」(令和3(2021)年12月27日付け3林政企第60号林野庁⾧官通知)
(*29)「森林×脱炭素チャレンジ」受賞者の紹介は35ページを参照。令和6(2024)年からは、名称を「森林×ACT(アクト)チャレンジ」に変更。
(森林関連分野の環境価値のクレジット化等の取組)
農林水産省、経済産業省及び環境省は、平成25(2013)年から省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの活用等による温室効果ガスの排出削減量や森林管理による温室効果ガス吸収量をクレジットとして国が認証する仕組み(J-クレジット制度)を運営している。森林整備を実施するプロジェクト実施者が森林吸収量の認証を受けてクレジットを発行し、それを企業や団体等が購入することにより、更なる森林整備等の推進のための資金が還流するため、地球温暖化対策と地域振興を一体的に後押しすることができる。企業等のクレジット購入者は、入手したクレジットを「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく報告やカーボン・オフセット等に利用することができ、このような取組により、経済と環境の好循環が図られることが期待される。
J-クレジット制度のうち、森林吸収分野において、令和3(2021)年には吸収量算定に係る現地調査に代えて航空レーザ計測データの活用を可能とするとともに、令和4(2022)年8月には、主伐後の再造林実施による吸収源の確保に取り組むプロジェクト実施者等を後押しできるよう吸収量の算定方法を見直すなど、クレジットの創出を行いやすくする形で制度改正が行われた(事例1-6)。現在、森林吸収分野として承認されている森林経営活動、植林活動及び再造林活動の3つの方法論に基づき、平成25(2013)年度の制度開始から令和5(2023)年度末までの累計で183件のプロジェクトが登録されており、このうち令和5(2023)年度の新規登録件数は57件で過去最大となっている(*30)。
クレジット認証量は、同期間の累計で62.6万CO2トンであり、このうち44.8万CO2トンが令和5(2023)年度に認証された(資料1-20)。認証量が大幅に伸びた主な要因は、認証見込量10万CO2トン超の大規模プロジェクトの認証が始まったことによるものであり、大規模プロジェクトの新規登録が近年増加していることから、今後も認証量の増加傾向が続くことが見込まれている。
再生可能エネルギーの分野では、木質バイオマス固形燃料の方法論が承認されており、令和6(2024)年3月現在、89件のプロジェクトが登録されている。
令和5(2023)年度には、J-クレジットを扱う取引プラットフォーム開設の動きが活発化した。東京証券取引所は、令和4(2022)年度に経済産業省から受託して実施した取引実証の経験と知見を活かし、令和5(2023)年10月にカーボン・クレジット市場を開設し取引所取引を開始した。同市場における令和6(2024)年3月末時点での森林由来クレジットの取引実績は、累計116CO2トン、取引平均価格は1CO2トン当たり8,254円(J-クレジットとJ-VERの加重平均)となっている(*31)。その他にも民間主導によるオンラインプラットフォーム上でのカーボン・クレジットの取引が複数開始されている。今後は、それぞれの特性を踏まえた取引が進むことにより、森林関連分野を含むJ-クレジット全体の取引が更に活性化することが期待される。
林野庁では、プロジェクト実施者となる森林・林業関係者の裾野拡大やJ-クレジットの創出拡大を後押しするため、「森林由来J-クレジット創出者向けハンドブック」を作成し制度の普及に取り組むとともに、森林由来J-クレジットの取引拡大に向けたクレジットの創出者と購入企業等とのマッチング支援に取り組んでいる。
事例1-6 航空レーザ計測を活用したJ-クレジット認証が拡大
令和4(2022)年9月、日本製紙株式会社(東京都千代田区)は、静岡県により実施・公開された航空レーザ測量等による3次元点群データを活用して樹高等の情報を解析することで、静岡県内の社有林における二酸化炭素の吸収量を申請し、航空レーザ計測データを活用したものとしては国内で初めて認証を取得した。本取組は自治体がオープン化したデジタル点群データを活用することで山林の現場での実作業を簡素化し、民間企業による新たな事業モデルにつながった事例であり、同社はこのようなオープンデータの活用促進に貢献できるよう、県主催の勉強会等で今回の取組を公開、共有している。
その後、航空レーザ計測を活用したクレジット認証がその他の複数の企業等によるプロジェクトにおいて申請・取得されたほか、現在も多数のプロジェクトにおいて航空レーザ計測でのモニタリングが計画されており、森林分野におけるJ-クレジットの拡大に向けた後押しとなることが期待されている。
(*30)J-クレジット制度の見直しについては、「令和4年度森林及び林業の動向」トピックス4(32-33ページ)を参照。
(*31)森林吸収分野以外の主なJ-クレジットである省エネルギー分野と再生可能エネルギー分野の取引実績はそれぞれ74,145CO2トン、139,109CO2トン、1CO2トン当たりの取引平均価格はそれぞれ1,655円、3,019円(電力と熱の加重平均)となっている。
(森林環境教育の推進)
現在、森林内での様々な体験活動等を通じて、森林と人々の生活や環境との関係についての理解と関心を深める森林環境教育の取組が進められている。
その取組の一例として、学校林(*32)を活用し、植栽、下刈り、枝打ち等の体験や、植物観察、森林の機能の学習等が総合的な学習の時間等で行われている。学校林を保有する小中高等学校は、全国で2,200校あり、その保有面積は1.6万haである(*33)。
また、子供たちが心豊かな人間に育つことを目的として、「緑の少年団」による森林(もり)づくり体験・学習活動、緑の募金等の奉仕活動等が行われている(*34)(令和6(2024)年1月現在、全国で3,071団体、32万名が加入。)。
さらに、高校生が造林手や木工職人等の名人を訪ね、一対一で聞き書きし技術や生き方を学び、その成果を発信する「聞き書き甲子園(*35)」については、令和5(2023)年度、88名の高校生が13市町村を訪れ聞き書きをするとともに、その成果発表の場となるフォーラムが令和6(2024)年3月に開催された。
くわえて、身近な森林を活用した森林環境教育に取り組む保育所・幼稚園・認定こども園が増えてきている(事例1-7)。令和5(2023)年7月には、幼児期からの森林とのふれあいを一層推進するため、行政機関、専門家等による発表や意見交換等を行う「こどもの森づくりフォーラム(*36)」が埼玉県で開催された。
このほか、林野庁においては、林野図書資料館が、森林の魅力や役割、林業の大切さについて分かりやすく表現した漫画やイラストを作成・配布しており、地方公共団体の図書館等と連携した企画展示等や地域の小中学校等の森林環境教育に活用されている(資料1-21)。

事例1-7 幼児期から森林とふれあえる「森のようちえん」の取組
埼玉県秩父(ちちぶ)市の認定NPO法人森のECHICAは、秩父を中心とした各地区の幼児・児童を対象に、秩父の里山の自然を活かした教育を実践するため、自然体験活動を軸として子育てや幼児教育を進める「森のようちえん」である「花の森こども園」を運営している。同園は、幼少期から自然とふれあい、自ら気づき学んでいく力を伸ばすことを教育方針としており、秩父産材を多用した園舎や自然豊かな園庭で、子どもたちを自由に遊ばせている。
さらに、同園では定期的に、保護者、園児、地域住民と森の保全活動を実施している。森林整備活動で伐採した木を使った遊歩道づくりや焚(た)き火体験などの活動を通して、保護者と園が教育方針について相互理解を深めるとともに、保護者と園児が自然への接し方を互いに学んでいる。
(*32)学校が保有する森林(契約等によるものを含む。)であり、児童及び生徒の教育や学校の基本財産造成等を目的に設置されたもの。
(*33)公益社団法人国土緑化推進機構「学校林現況調査報告書(令和3年調査)」
(*34)公益社団法人国土緑化推進機構ホームページ「緑の少年団」
(*35)農林水産省、文部科学省、環境省、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施されている取組。平成14(2002)年度から「森の聞き書き甲子園」として始められ、平成23(2011)年度からは「海・川の聞き書き甲子園」と統合し、「聞き書き甲子園」として実施。
(*36)林野庁、関係団体及びNPOで構成される実行委員会の主催により実施。令和5(2023)年度から全国植樹祭の関連事業として、埼玉県(令和7(2025)年第75回全国植樹祭開催予定)において初開催。
(「緑の募金」による森林(もり)づくり活動の支援)
「緑の募金(*37)」には、令和4(2022)年に総額約20億円の寄附金が寄せられた。寄附金は、(ア)水源林の整備や里山林の手入れ等、市民生活にとって重要な森林の整備及び保全、(イ)苗木の配布や植樹祭の開催、森林ボランティア指導者の育成等の緑化推進活動、(ウ)熱帯林の再生や砂漠化の防止等の国際協力に活用されているほか、東日本大震災等の地震や、台風、豪雨等の被災地における緑化活動や木製品提供等に対する支援にも活用されている(*38)。
(*37)森林整備等の推進に用いることを目的に行う寄附金の募集。昭和25(1950)年に、戦後の荒廃した国土を緑化することを目的に「緑の羽根募金」として始まり、現在では、公益社団法人国土緑化推進機構と各都道府県の緑化推進委員会が実施主体として実施。
(*38)緑の募金ホームページ「災害復旧支援」
お問合せ先
林政部企画課
担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219