第5章 東日本大震災からの復興



1.復興に向けた森林・林業・木材産業の取組
(1)東日本大震災からの復興に向けて
➢ 2011年に発生した東日本大震災では、強い揺れや大規模な津波による被害に加え、東京電力福島第一原子力発電所の事故被害が発生
➢ 2011年から復興期間を10年間として取組を推進。2021年3月に「「第2期復興・創生期間」以降における東日本大震災からの復興の基本方針」を閣議決定
(2)森林等の被害と復旧・復興
➢ 東日本大震災により、15県で林地荒廃(458か所)、治山施設被害(275か所)、林道施設被害(2,632か所)、森林被害(1,065ha)等が発生
➢ 林地荒廃等の被害箇所については、これまで国が災害復旧事業等を採択した591か所について、2021年度までに事業が完了
➢ 津波により被災した海岸防災林については、 2023年3月末時点で要復旧延長約164kmのうち、約160kmで植栽等の工事が完了し、健全な生育を促す保育作業を継続的に実施
福島県における植栽未完了部分については、関係機関と調整しつつ、早期完了に向けて計画的に事業を実施

事例 ボランティアによる海岸林の整備
➢ 津波により被災した岩手県陸前高田(りくぜんたかた)市高田松原(たかたまつばら)では、岩手県、地元のNPO法人を主体としたボランティアによる植樹が2021年5月に完了
➢ 管理は、県及びNPO法人が担い、NPO法人はメンバーのほか、ボランティアを募って実施
➢ 2022年は、県内の中学・高校生等約1,800名がボランティアとして参加し、成長したマツの周囲の草刈りを実施
(3)林業・木材産業の被害と復旧状況
➢ 東日本大震災により、木材加工流通施設115か所や特用林産施設等476か所が被災。太平洋沿岸地域の大規模な合板工場・製紙工場が被災し、合板用材や木材チップの流通が停滞
➢ 岩手、宮城、福島の3県における素材生産は、震災前の水準以上に回復
➢ 被害を受けた木材加工流通施設のうち復旧する方針となった98か所については、2014年までに復旧が完了し操業を再開
(4)復興への木材の活用と森林・林業・木材産業の貢献
➢ 応急仮設住宅のうち4分の1以上(約1万5千戸)が木造
➢ 復興に当たって、木質バイオマスを含む再生可能エネルギーの導入を促進。各県で木質バイオマス関連施設が稼働
➢ 福島再生加速化交付金を活用し整備した福島高度集成材製造センターでは、2022年7月より本格稼働が始まり、県産材を活用した集成材を製造
2.原子力災害からの復興
(1)森林の放射性物質対策

➢ 福島県の森林内の空間線量率は年月の経過とともに低下し、帰還困難区域やその周辺の一部を除き、おおむね素材生産が可能
➢ 森林内の放射性物質の分布状況の推移等について継続的に調査・研究を実施し、得られた知見に基づき情報提供や普及啓発活動を実施
➢ 復興庁、農林水産省及び環境省で取りまとめた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」(2016年3月)等に基づき、間伐等の森林整備と放射性物質対策を一体的に実施する事業や住居周辺の里山の再生に向けた事業を実施
➢ 林内作業者の放射線安全・安心対策の取組として、作業時の留意事項等をまとめた林内作業者向けのガイドブック等を作成
➢ 消費者に安全な木材製品等を供給するため、木材製品や作業環境等に係る放射性物質の調査・分析、木材製品等の安全証明体制の構築等に対して支援
➢ 燃料や堆肥等に利用されていた樹皮(バーク)は、放射性物質の影響により製材工場等に一時滞留したが、廃棄物処理場での処理等の支援により、保管量は減少
➢ 放射性物質の影響等により、しいたけ等原木の生産量が大幅に減少し、原木となる広葉樹の伐採・更新が進んでいないことから、2021年度に「里山・広葉樹林再生プロジェクト」を立ち上げ、原木林の計画的な再生に向けた取組を推進。市町村が、再生すべき原木林の面積や実行体制等を定めたほだ木等原木林再生のための計画(再生プラン)を作成し、2022年度から広葉樹の伐採を本格的に実施
(2)安全な特用林産物の供給
➢ 2023年3月30日現在、特用林産物22品目に出荷制限
➢ 菌床しいたけの生産はおおむね震災前の水準を上回る一方、原木しいたけの生産は現在も低位にとどまる
➢ きのこ原木産地である福島県等の生産量が減少し、多くの県で原木調達に影響が出たことから、需給情報の収集・分析・提供を実施
➢ 2013年に「放射性物質低減のための原木きのこ栽培管理に関するガイドライン」を策定。これに沿った栽培管理を行い、基準値を超えるきのこが生産されないと判断された場合、ほだ木のロット単位できのこの出荷が可能。また、安全なきのこ等の生産に必要な簡易ハウス、放射性物質測定機器の整備等を支援
➢ 2021年3月に、きのこ・山菜類等を適切に管理・検査する体制が整備された場合は、非破壊検査により基準値を下回ったものが出荷可能となり、一部区域において、2021年3月にはまつたけ、2022年3月には皮付きたけのこ、2023年3月にはなめこ、ならたけ、むきたけに適用
➢ 風評の払拭に向け、放射性物質の検査結果等を発信
(3)損害の賠償
➢ 林業関係では、避難指示等に伴い事業に支障が生じたことによる減収、原木しいたけの栽培管理に必要な追加的経費等について、東京電力が賠償。また、避難指示区域内の森林(山林の土地及び立木)に加えて、2015年3月からは避難指示区域外の福島県内の立木についても財物賠償請求を受付
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