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林野庁

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第1部 第1章 第4節 国際的な取組の推進(2)

(2)地球温暖化対策と森林

(気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見)

地球温暖化防止に向けて

地球温暖化は、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つとなっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC(*83))は、地球温暖化問題に関する研究成果についての評価を行い、1990年以降、それらの結果をまとめた報告書を公表している。2021年から第6次評価報告書として3つの作業部会報告書(*84)が順次公表され、2023年3月にはこれらの報告書及び関連する特別報告書(*85)の主要な知見を取りまとめた統合報告書が公表された。

統合報告書では、地球温暖化が人間活動の影響で起きていることは疑う余地がないこと、人為起源の気候変動は多くの気象と気候の極端現象を引き起こし、広範囲にわたる悪影響と関連した損失・損害を引き起こしていることなどを指摘し、この10年間に行う選択や実施する対策が現在から数千年先まで影響を持つとして、この間の大幅で急速かつ持続的な緩和と加速化された適応の行動は、予測される損失と損害を軽減し、多くの共便益をもたらすことを強調している。

森林・林業関連については、森林管理などの森林を活用した対策が緩和・適応の両面で有益であること、木材製品など持続可能な形で調達された農林産物を他の温室効果ガス排出量の多い製品の代わりに使用できることなどが紹介されている。


(*83)世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。気候変動に関する最新の科学的知見(出版された文献)について取りまとめた報告書を定期的に作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的とする。IPCC評価報告書は、気候変動対策に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられている。

(*84)「第1作業部会報告書(自然科学的根拠)」、「第2作業部会報告書(影響・適応・ぜい弱性)」、「第3作業部会報告書(気候変動の緩和)」

(*85)「1.5℃特別報告書」、「土地関係特別報告書」、「海洋・雪氷圏特別報告書」



(国連気候変動枠組条約の下での気候変動対策)

1992年に採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)」は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを目的としている。2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、2020年以降の国際的な気候変動対策の枠組みとして、先進国、開発途上国を問わず全ての国が参加する公平かつ実効的な法的枠組みであるパリ協定が採択された(*86)(資料1-33)。

資料1-33 パリ協定の概要

パリ協定では全ての参加国と地域に、2020年以降の温室効果ガス削減目標である「国が決定する貢献(NDC)」を定めること等を求めている。

2018年のCOP24で採択されたパリ協定の実施指針(ルールブック)において、京都議定書第二約束期間(2013~2020年)における方法と同じ方法により温室効果ガスの排出・吸収量を計上することが認められたため、パリ協定の下でも、我が国の森林が吸収源として排出削減目標の達成に貢献することが可能となった。

2021年のCOP26では、パリ協定の実施に必要なルールを網羅的に定めた「パリルールブック」が完成し、パリ協定の実施体制が整った。また、最新の科学的知見に依拠しつつ、今世紀半ばでの温室効果ガス実質排出ゼロ及びその通過点である2030年に向けて野心的な緩和策及び適応策を締約国に求める「グラスゴー気候合意」が全体決定として採択された。このほか、我が国を含む140か国以上が参加し、2030年までに森林の消失や土地劣化を食い止め、更にその状況を好転させることにコミットした「森林・土地利用に関するグラスゴー・リーダーズ宣言」が公表され、この目標の実現に向け、2021年から2025年までの5年間で、我が国を含む12の国・地域が森林分野の気候変動対策のために合計120億ドルの公的資金の確保を約束した。これに関連し、我が国は、世界の森林保全のため、約2.4億ドルの資金支援を行うことを表明した。

さらに、2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27では、これらの取組を加速化させるため、英国の主導により「森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP)」が新たに立ち上げられ、我が国を含む27の国・地域が参加した。また、「シャルム・エル・シェイク実施計画」が全体決定として採択され、森林分野については、温室効果ガスの吸収源及び貯蔵庫である森林等の自然及び生態系の保護や保全、回復が重要であることなどが盛り込まれた。


(*86)パリ協定の採択については、「平成27年度森林及び林業の動向」トピックス4(5ページ)を参照。



(地球温暖化対策計画と2030年度森林吸収量目標)

地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図る「地球温暖化対策計画」(令和3(2021)年10月閣議決定)では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、令和12(2030)年度の我が国の温室効果ガス排出削減目標を従来より引き上げ、平成25(2013)年度⽐46%削減を目指し、更に50%の高みに向けて挑戦を続けることとしている。森林吸収量についても、目標が従来の約2.0%から約2.7%に引き上げられた(資料1-34)。あわせて、我が国は、この新たな2030年度の目標を踏まえたNDC(令和3(2021)年10月地球温暖化対策推進本部決定)及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(令和3(2021)年10月閣議決定)を策定した。

資料1-34 我が国の温室効果ガス排出削減と森林吸収量の目標

この目標達成に向けては、森林・林業基本計画や「農林水産省地球温暖化対策計画」(令和3(2021)年10月改定)等に基づき、適切な間伐の実施等の取組に加え、森林資源の循環利用の確立を図り、炭素を貯蔵する木材の利用を拡大しつつ、エリートツリー等の再造林等により成長の旺盛な若い森林を確実に造成していくことが重要であり、地方公共団体、森林所有者、民間の事業者、国民など各主体の協力を得つつ、取組を進めていくこととしている。

令和3(2021)年度の森林吸収量は約4,260万CO2トン(*87)、このうち伐採木材製品(HWP(*88))に係る吸収量は約337万CO2トンであった。


(*87)二酸化炭素換算の吸収量(CO2トン)については、環境省プレスリリース「2021年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値)について」(令和5(2023)年4月21日付け)による。CO2トンは、炭素換算の吸収量(炭素トン)に44/12を乗じて換算したもの。

(*88)京都議定書第二約束期間以降、搬出後の木材による炭素貯蔵量全体の変化を温室効果ガス吸収量又は排出量として計上することができる。



(開発途上国の森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)への対応)

開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出量は、世界の総排出量の約1割を占めるとされていることから(*89)、パリ協定においては、開発途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減並びに森林保全、持続可能な森林経営及び森林炭素蓄積の強化(REDD+(レッドプラス))の実施及び支援が奨励されている。

我が国は、緑の気候基金(GCF)等への資金拠出を通じた支援や技術支援のほか、二国間クレジット制度(*90)(JCM)の下でのREDD+活動を推進しており、令和4(2022)年12月現在、カンボジア及びラオスとの間でガイドライン類が策定されている。

また、国立研究開発法人森林研究・整備機構に開設されたREDDプラス・海外森林防災研究開発センターでは、REDD+の実施に必要な技術解説書や独立行政法人国際協力機構(JICA)と共に立ち上げた「森から世界を変えるプラットフォーム」による情報提供等により、開発途上国や民間企業等のREDD+活動を支援している。


(*89)IPCC(2022)IPCC Sixth Assessment Report: Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change, the Working Group 3 contribution, Summary for Policymakers: 6.

(*90)開発途上国等への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の「国が決定する貢献(NDC)」の達成に活用する制度。



(気候変動への適応)

「気候変動適応計画」(令和3(2021)年10月閣議決定)及び「農林水産省気候変動適応計画」(令和3(2021)年10月改定)を踏まえ、森林・林業分野では、異常な豪雨による土石流等の災害の発生に備え、保安林等の計画的な配備や、治山施設の整備、路網の強靱(じん)化・長寿命化等のほか、渇水等に備えた森林の水源涵(かん)養機能の適切な発揮に向けた森林整備、高潮や海岸侵食に対応した海岸防災林の整備、気候変動による影響の継続的なモニタリング、病害虫対策、気候変動の影響に適応した品種開発等の調査・研究の推進等に取り組んでいる。

このほか、開発途上国における持続可能な森林経営や森林保全等の取組を支援するとともに、森林の防災・減災機能の強化に資する技術開発等を推進している。


お問合せ先

林政部企画課

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