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林野庁

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第1部 特集2 第3節 木材産業の競争力強化(2)

(2)木材流通業の動向

(原木の安定供給体制の構築)

住宅メーカー等の需要に対し、製材工場等が安定的に製品を供給するためには、原木を大ロットで安定的に調達することが必要となる。大規模の工場を整備するには巨額の投資が必要になるが、原木を安定的に調達し工場の稼働率を高めなければ投資を回収できず、工場を維持できない。原木消費量が年間70万m3の製材工場も建設されているが、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前の令和元(2019)年において、原木生産量が70万m3以下の都道府県は38都府県、30万m3以下でも27都府県ある。大規模工場では近隣の複数県からの調達や内航船を使った遠方からの調達もあるが、原木の伐採箇所が工場から遠くなれば運搬コストや労力が大きくなるため、立地や森林蓄積量等に応じた規模を考え、川上側と連携し安定供給体制の構築を図りながら、大規模工場の建設が進められている。

原木の安定供給体制の構築に向けて、製材・合板工場等は、森林組合連合会や素材生産事業者等との間で協定を締結し、一定の規格及び数量の原木を、年間を通じて安定的に調達する取組も行われている(事例 特-5)。取引価格についても、数か月など一定期間は固定し、急激な価格変動が生じないようにしている例もある。これらは、原木の取扱量と価格が安定し、直送により流通コストを低減できるなど、工場と林業経営体の双方でメリットがある取組となっている。また、このような取組の中で、原木供給側の価格交渉力が高まるケースもある。

このような安定供給体制構築に向けた取組の取りまとめ役としては、川上側が中心となる場合だけでなく、川中の木材市売市場(*62)等の流通事業者や製材工場等の木材加工業者が中心となる場合もある。

木材市売市場が中心となる場合は、市場のコーディネートにより山土場等から製材工場等に直送することに加え、従来の市場機能を活用し、優良材の競り売りや小口製材工場等へのきめ細かな供給も可能としている例も見られる。

製材工場等が中心となる場合は、個々の林業事業体から安定的な価格で原木を買い取るなどして集荷・選別し、用途に応じて自社又は提携工場等に供給している例もある。集荷は森林組合等が担い、選別を製材工場が行うというような連携も見られる。

事例 特-5 素材生産業者との結びつきによる原木の安定調達

平角の乾燥済在庫

二宮木材株式会社(栃木県那須塩原(なすしおばら)市)は、年間で約10万m3の原木を使用し、羽目板を主力商品として、平角だけで百数十種類と、地元の工務店等のニーズに合わせた多種類多品目の商品を加工している。また、製品の在庫を持ち、常に商品を出せる状態にしていることも一つの強みとなっている。

同社では、安定した製品加工のためには、安定した原木の調達が欠かせず、集荷の7割を占める素材生産業者との取引において信頼関係が非常に重要と考えている。その事業者の大半と安定供給に係る協定を締結しており、同協定では一定の期間を設けて価格を設定し、市場において原木価格が振るわない場合でも買い支える等の対応を取っている。また、中間土場を整備し原木の受入能力を上げることで、受入制限をすることがほぼない状況となっている。一方で、特殊なサイズの材が必要な場合は、素材生産業者への依頼により確保するなどの対応を可能としている。

また、自社でトラックやトレーラーを保有し、安定的に原木を輸送できる体制を構築している。


(*62)木材市売市場については、第3章第3節(2)155-156ページを参照。



(素材生産者から工場への直送量の増加)

原木の安定供給体制が構築される中で、山土場や中間土場等から製材・合板工場等への直送が増加しており、平成30(2018)年の直送量は全体で、平成28(2016)年比7%増の1,134万m3となっている。このうち、原木市売市場のコーディネートにより、市場の土場を経由せず、伐採現場や中間土場から直接製材工場等に出荷する直送は、85万m3から175万m3まで2.1倍に増加している(資料 特2-23)。平成30(2018)年の国産材の流通全体に占める直送率は40%であるが、林野庁は、この直送率を令和5(2023)年度までに51%とすることを目標としている。


(林産複合型経営の拡大)

川中の木材市場や製材工場等が原木を安定的に確保するため林業へ参入するなど、林産複合型経営の動きが広がりつつある。このような動きは、事業を安定的に展開していくためには、我が国の森林資源を適切に保続していくことが欠かせないという意識の高まりによるものと考えられ、林業経営体が減少する中、長期にわたり持続的な林業経営を担う主体の一つとして期待される。また、木材加工やその先のマーケットを見据えた計画的な伐採や効率的な流通にもつながっている。

例えば、秋田プライウッド株式会社(秋田県秋田市)は、持続可能な森林経営を目指し、素材生産から国産材合板の製造までを一貫して行っている。平成15(2003)年に秋田県鳥海(ちょうかい)山麓に約280haの森林を取得し、その後も県内の森林を取得し、令和3(2021)年12月現在、約730haの森林を所有している。また、平成24(2012)年には森林事業部を創設し、社有林管理に加え、立木の買受けや長期森林経営の受託等、山林の管理に関する様々な業務を請け負っている。さらに、令和3(2021)年には14万本のコンテナ苗を生産している(資料 特2-24)。


また、ヒノキの製材やプレカット加工を行う院庄林業株式会社(岡山県津山(つやま)市)は、平成26(2014)年に原木価格が高騰したことをきっかけに、自社で安定して原木を調達するため立木購入を開始した。平成28(2016)年には素材生産を行う作業班を設け、令和3(2021)年にはヒノキの原木消費量9万m3弱の約2割に当たる1.7万m3の生産を行っている。立木伐採から製造まで一貫して行うことで、工程の無駄を省き、品質の向上と安定供給に取り組んでいる。

川上側の森林組合が製材事業等に取り組む例もみられる。佐伯(さいき)広域森林組合(大分県佐伯市)は、年間原木消費量10万m3を超える製材工場を保有し、平成29(2017)年度からは木造軸組住宅の大型パネルの生産にも取り組んでいる。地域の工務店から直接受注し、設計段階から建築に必要な部材の明細を把握することができるメリットを活用し、今後、更に需要に基づく計画的な素材生産につなげることを目指している。


(木材製品の流通におけるプレカット工場の役割の拡大)

製材工場からの木材製品の出荷先としては、約半数は木材市売市場や木材販売業者等となっており、平成13(2001)年から、この割合に大きな変化はない。一方で、プレカット率の上昇に伴い、建築業者の割合が減少し、プレカット工場の割合が増加傾向にある。また、集成材工場等の他の工場への出荷割合も増加している(資料 特2-25)。


一方、合板工場からの出荷先としては、統計年によりばらつきが大きいが、木材販売業者等の割合が6~8割と大きい(*63)。

大工技能者が減少する中、工期短縮、コスト削減の要求等から、木造軸組構法におけるプレカット率は年々上昇し、令和2(2020)年には約93%となっている(資料 特2-26)。構造部材以外の羽柄材等の部材をプレカットした割合も向上しており(資料 特2-27)、プレカット工場を経由して、建築現場に届けられる木材製品の割合が高くなっている。

プレカット工場が設計の一部や木材の調達・品質管理を担う場面も多く、木材製品の流通における役割が拡大している。


(*63)農林水産省「木材流通構造調査報告書」



木材流通業者等の規模の変化

木材流通業者等の事業所数と取扱量の推移を見ると(*64)、木材市売市場は、事業所数が減少する一方で原木入荷量が増加しており、製材・合板工場等と同様に大規模化・集約化が進んでいる。素材生産者等が生産した原木の出荷先の41%は木材市売市場であり(*65)、優良材も含め様々な木材を扱っており、集荷・仕分け機能を持つ市場の役割は、依然として大きい。木材販売業者は事業所数が減少傾向にあるが、1事業所当たりの原木取扱量や製材取扱量は、ほぼ横ばいである。プレカット工場については、工場数に増減はあるものの、1工場当たりの材料入荷量は増加傾向にあり、規模拡大・集約化が進展している(資料 特2-28)。


(*64)農林水産省「木材流通構造調査報告書」

(*65)農林水産省「平成30年木材流通構造調査報告書」


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