第2部 令和3年度 森林及び林業施策
概説
1 施策の重点(基本的事項)
「森林・林業基本計画」(平成28(2016)年5月24日及び令和3(2021)年6月15日閣議決定)に沿って、以下の森林・林業施策を積極的に展開した。
また、民間建築物を含む建築物一般で木材利用を促進することにより、森林の二酸化炭素吸収作用を強化し、脱炭素社会の実現に貢献するため、令和3(2021)年6月11日に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(*1)が、第204回国会(常会)で可決・成立し、令和3(2021)年10月1日に施行された。
(*1)この改正により、法律名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改められた。
(1)森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
森林の有する多面的機能を将来にわたって持続的に発揮させていくため、(ア)面的なまとまりを持った森林経営の確立、(イ)再造林等による適切な更新の確保、(ウ)適切な間伐等の実施、(エ)路網整備の推進、(オ)多様で健全な森林への誘導、(カ)地球温暖化防止策及び適応策の推進、(キ)国土の保全等の推進、(ク)研究・技術開発及びその普及、(ケ)山村の振興及び地方創生への寄与、(コ)国民参加の森林(もり)づくりと森林の多様な利用の推進、(サ)国際的な協調及び貢献に関する施策を実施した。
特に、市町村が森林環境譲与税も活用して実施する、「森林経営管理法」(平成30年法律第35号)に基づく森林整備等の取組を支援した。また、森林空間を健康、観光、教育等の多様な分野で活用して、新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進の取組を支援した。
また、森林の防災・保水機能を発揮させるため、「防災・減災、国土強靱(じん)化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月11日閣議決定)により、土石流の発生のおそれがある山地災害危険地区や流域治水の取組と連携した上流域等における治山対策、荒廃森林の整備等の取組を推進した。
(2)林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
林業の持続的かつ健全な発展を図るため、(ア)望ましい林業構造の確立、(イ)人材の育成・確保等、(ウ)林業災害による損失の補塡に関する施策を推進した。
特に、情報通信技術(ICT)等を活用し資源管理や生産管理を行うスマート林業をはじめ、林業の特性を踏まえた新技術を活用し、林業の生産性や安全性を飛躍的に向上させる「林業イノベーション」を推進した。
(3)林産物の供給及び利用の確保に関する施策
林産物の供給及び利用を確保するため、(ア)原木の安定供給体制の構築、(イ)木材産業の競争力強化、(ウ)林産物の輸出を含む新たな木材需要の創出、(エ)消費者等の理解の醸成、(オ)林産物の輸入に関する措置に関する施策を推進した。
特に、国産材の安定供給体制の構築に向けた需給情報連絡協議会を開催し、木材不足・価格高騰(いわゆるウッドショック)への対応も含め、川上から川下までの関係者が木材等の需給情報の収集・共有を図った。
(4)東日本大震災からの復旧・復興に関する施策
東日本大震災によって被災した海岸防災林の復旧及び再生に取り組んだ。
また、被災地の森林・林業の再生のため、森林の放射性物質による汚染実態の把握、円滑な林業の再生に資する実証等を実施するとともに、関連する情報の収集、整理、情報発信等を実施した。
(5)国有林野の管理及び経営に関する施策
国土保全等の公益的機能の高度発揮に重要な役割を果たしている国有林野の特性を踏まえ、公益重視の管理経営を一層推進した。
また、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林野の一定区域において、公益的機能を確保しつつ、一定期間、安定的に樹木を採取できる権利を設定する「樹木採取権制度」のパイロット的な取組を推進した。
さらに、木材不足・価格高騰(いわゆるウッドショック)に伴う国産材への代替需要に対応するため、素材生産事業の早期発注や立木販売物件の前倒し販売など地域の状況に応じて対策を講じた。
(6)団体の再編整備に関する施策
森林組合が、国民や組合員の信頼を受け、地域の森林施業や経営の担い手の中心として、「森林経営管理制度」においても重要な役割を果たすよう、事業・業務執行体制の強化及び体質の改善に向けた指導を行った。
2 財政措置
(1)財政措置
令和3(2021)年度林野庁関係当初予算においては、一般会計に非公共事業費約1,063億円、公共事業費約1,970億円を計上した。具体的には、
1)間伐や主伐後の再造林、幹線となる林道の開設・改良等を推進する「森林整備事業」
2)激甚な山地災害からの復旧や国土強靱(じん)化のための荒廃山地の予防対策等を実施・支援する「治山事業」
3)「林業成長産業化総合対策」として、
(ア)木材生産を通じた持続的な林業経営を確立するための取組を総合的に支援する「林業・木材産業成長産業化促進対策」
(イ)新技術の開発・実証や実装を支援する「林業イノベーション推進総合対策」
(ウ)木材産業・木造建築の活性化や木材需要の創出・輸出力強化を支援する「木材の需要拡大・流通改革」
(エ)これからの林業経営を担う人材の育成、林業労働安全を推進するための取組等を支援する「現場技能者キャリアアップ・林業労働安全対策」
4)新規就業者の確保・育成に向けた取組を支援する「「緑の人づくり」総合支援対策」
5)健康・観光・教育といった分野での森林空間の活用を図る「新たな森林空間利用創出対策」
6)森林・山村の多面的機能の発揮や山村地域の活性化を図る取組を支援する「森林・山村多面的機能発揮対策」
7)総合的に花粉発生源対策を進める「花粉発生源対策推進事業」
8)シカ被害の甚大化等を防止するための「シカ等による森林被害緊急対策事業」
等に取り組んだ。
また、東日本大震災復興特別会計に非公共事業費約45億円、公共事業費約53億円を盛り込んだ。
くわえて、令和3(2021)年度林野庁関係補正予算に非公共事業費約223億円、公共事業費約1,019億円を計上し、
1)林業への新規就業者の確保・定着化や育成に向けた取組を支援する「「緑の雇用」新規就業者育成推進事業」
2)生産性向上に取り組む農林漁業者等に対し、必要な機械・施設の導入を支援する「スマート農林水産業の全国展開に向けた導入支援事業」
3)合板・製材・構造用集成材等の国際競争力の強化や、今般の木材不足・価格高騰(いわゆるウッドショック)に対応し製品の供給力増大を図る取組を支援する「木材産業国際競争力・製品供給力強化緊急対策」
4)山地災害危険地区や氾濫した河川の上流域等での治山施設の整備等を実施・支援する「治山施設の設置等による防災・減災対策」
5)山地災害危険地区や氾濫した河川の上流域等での間伐等や、林道の開設・改良等の対策を実施・支援する「森林整備による防災・減災対策」
6)被災した治山施設、林道施設等の速やかな復旧等を実施・支援する「災害復旧等事業」
等に取り組んだ。
(2)森林・山村に係る地方財政措置
「森林・山村対策」、「国土保全対策」等を引き続き実施し、地方公共団体の取組を促進した。
「森林・山村対策」としては、
1)公有林等における間伐等の促進
2)国が実施する「森林整備地域活動支援交付金」と連携した施業の集約化に必要な活動
3)国が実施する「緑の雇用」新規就業者育成推進事業等と連携した林業の担い手育成及び確保に必要な研修
4)民有林における長伐期化及び複層林化と林業公社がこれを行う場合の経営の安定化の推進
5)地域で流通する木材の利用のための普及啓発及び木質バイオマスエネルギー利用促進対策
6)市町村による森林所有者情報の整備
等に要する経費等に対して、地方交付税措置を講じた。
「国土保全対策」としては、ソフト事業として、U・Iターン受入対策、森林管理対策等に必要な経費に対する普通交付税措置及び上流域の水源維持等のための事業に必要な経費を下流域の団体が負担した場合の特別交付税措置を講じた。また、公の施設として保全及び活用を図る森林の取得及び施設の整備、農山村の景観保全施設の整備等に要する経費を地方債の対象とした。
さらに、森林吸収源対策等の推進を図るため、林地台帳の運用、森林所有者の確定等、森林整備の実施に必要となる地域の主体的な取組に要する経費について、引き続き地方交付税措置を講じた。
3 税制上の措置
林業に関する税制について、令和3(2021)年度税制改正において、
1)軽油引取税の課税免除の特例措置(林業、木材加工業、木材市場業、堆肥製造業)について、木材加工業のうち、木材注薬業を適用対象から除外した上、その適用期限を3年延長すること(軽油引取税)
2)独立行政法人農林漁業信用基金が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置を2年延長すること(登録免許税)
3)森林組合等が株式会社日本政策金融公庫資金等の貸付けを受けて共同利用施設を取得した場合の課税標準の特例措置を2年延長すること(不動産取得税)
4)中小企業投資促進税制について、対象事業の追加等の見直しを行った上、その適用期限を2年延長すること(所得税・法人税)
5)中小企業経営強化税制について、関係法令の改正を前提に、特定経営力向上設備等の対象に経営資源集約化後の生産性向上に必要不可欠な設備を加えた上、その適用期限を2年延長すること(所得税・法人税)
等の措置を講じた。
4 金融措置
(1)株式会社日本政策金融公庫資金制度
株式会社日本政策金融公庫の林業関係資金については、造林等に必要な長期低利資金について貸付計画額を356億円とした。沖縄県については、沖縄振興開発金融公庫の農林漁業関係貸付計画額を119億円とした。
森林の取得、木材の加工・流通施設等の整備、災害からの復旧を行う林業者等に対する利子助成を実施した。
東日本大震災により被災した林業者等に対する利子助成を実施するとともに、無担保・無保証人貸付けを実施した。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた林業者等に対し、実質無利子・無担保等貸付けを実施した。
(2)林業・木材産業改善資金制度
経営改善等を行う林業者・木材産業事業者に対する都道府県からの無利子資金である林業・木材産業改善資金について貸付計画額を38億円とした。
(3)木材産業等高度化推進資金制度
林業経営の基盤強化並びに木材の生産及び流通の合理化又は木材の安定供給を推進するための木材産業等高度化推進資金について貸付枠を600億円とした。
(4)独立行政法人農林漁業信用基金による債務保証制度
林業経営の改善等に必要な資金の融通を円滑にするため、独立行政法人農林漁業信用基金による債務保証や林業経営者に対する経営支援等の活用を促進した。
債務保証を通じ、重大な災害からの復旧、「木材の安定供給の確保に関する特別措置法」(平成8年法律第47号)に係る取組及び事業承継を支援するための措置を講じた。
東日本大震災により被災した林業者等に対する保証料の助成等を実施した。
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた林業者等に対し、実質無担保等により債務保証を行うとともに、保証料を実質免除した。
(5)林業就業促進資金制度
新たに林業に就業しようとする者の円滑な就業を促進するため、新規就業者や認定事業主に対する研修受講や就業準備に必要な資金の林業労働力確保支援センターによる貸付制度を通じた支援を行った。
5 政策評価
効果的かつ効率的な行政の推進、行政の説明責任の徹底を図る観点から、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき、5年ごとに定める「農林水産省政策評価基本計画」及び毎年度定める「農林水産省政策評価実施計画」により、事前評価(政策を決定する前に行う政策評価)や事後評価(政策を決定した後に行う政策評価)を実施した。
お問合せ先
林政部企画課
担当者:年次報告班
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