このページの本文へ移動

林野庁

メニュー

第1部 特集 第4節 今後の課題と関係者の役割(1)


ここまで見てきたとおり、様々な主体による森林・木材の利用に係る取組が広がってきている。このことは、森林の多面的機能の発揮や地域活性化を始め、SDGsにつながるものである。今後、こうした流れを拡充し、SDGsの達成に向けた動きを後押ししていくためには、森林に関わる様々な関係者がより一層の努力と連携を重ね、それぞれの役割を果たしていく必要がある。

以下では、本章のまとめとして、林業・木材産業の課題と、教育研究機関、地方公共団体、政府を含む関係者の役割を整理する。

(1)SDGsからみた林業・木材産業の役割と課題

様々な企業・団体又は個人が森林整備、森林資源、森林空間に関わる取組に関心を持つに至ったとしても、これを実行に移し、森林の多面的機能を十全に発揮させるためには、森林整備や木材生産を担う林業・木材産業関係者の行動が不可欠である。

根幹となる持続可能な森林経営では、経済面に加え、環境面及び社会面からも持続可能であることが求められる。逆に言えば、SDGsの観点から経営を見直すことは、林業・木材産業の持続性にもつながるものである。


(ア)持続可能な森林経営

(ア)持続可能な森林経営

森林に関連するSDGsの達成に向けて森林の機能を十全に発揮していくためには、適切な整備が行われ、健全な森林として維持されていくことが前提となる。すなわち、先人たちの多大な努力により充実してきた我が国の森林資源が、将来にわたり、国民各層から期待される機能を発揮できるよう、取り組んでいかねばならない。

このため、計画的な間伐、主伐後の再造林等の森林整備を進めるとともに、森林整備に当たっては渓畔林の保全等の環境面に配慮していくことが重要である。

森林を管理する権限と責務は、一義的にはその所有者にあり、これまで森林所有者自ら、又は森林組合等の民間事業者への委託により、森林整備等が進められてきたところである。一方で、森林所有者自らが経営管理を行うことができない場合もあり、平成31(2019)年4月に施行された森林経営管理法(*77)では、森林所有者に適切な経営管理を促すために、その責務を明確化するとともに、自ら経営管理を行えない場合は、所有者の意向を踏まえて、市町村が経営管理の委託を受けることや林業経営者に再委託を行うことができるよう措置した(*78)。

林業経営体には、森林の経営管理の受託や木材の販売等で収入を得ながら、適切な森林整備を行うことが求められる。

しかしながら、近年主伐が増加傾向で推移する中、伐採後に再造林されていない箇所が発生している。この要因の一つとして、現在の山元立木価格が伐採後の造林・育林コストを賄える水準になく、森林所有者が再造林の意欲を失っているということが挙げられる。山元への利益還元に向け、これまでも森林施業や流通の合理化、木材の需要拡大に向けた様々な取組が行われてきたが、さらに施業の集約化、主伐と造林を一体的な工程で行ういわゆる一貫作業の拡大、初期成長が早いエリートツリーの普及を通じた育林コストの低減、流通構造改革等の取組を加速していく必要がある。

また、再造林に関心のない森林所有者への働き掛けも大切となる。これに関し、和歌山県田辺市にある株式会社中川は、主伐を行う業者と森林所有者の仲介も行いつつ、再造林に積極的に取り組んでおり、時間をかけて森林所有者との関係性を築き、再造林に同意してもらうという取組を続けている(事例 特-7)。

事例 特-7 造林事業体による森林づくりのコーディネート

下刈りの状況確認等にドローンを活用

造林事業体である株式会社中川(和歌山県田辺たなべ市)は、植栽・下刈り等の作業を単に請け負うだけでなく、伐採する区域や残材の処理方法等について連携する素材生産業者とあらかじめ取り決め、また、伐採後の造林方法について所有者に提案して合意を得るなど森林づくりのコーディネートに力を入れている。

造林について関心を示さない森林所有者もいるが、例えばドングリ拾いに誘い、ドングリが苗木に育った時点で「トトロの森を作りましょう」という形で植栽を勧めるなど、ストーリー性をもった説明で造林につなげている。

現場職員の1日の現場作業は6時間で、超過勤務は一切させないこととしており、効率的な作業ができるよう、苗木運搬用の袋を特注する、様々な植栽器具を試すなどの工夫をしている。また、給与や休日、福利厚生の充実に努めており、平成28(2016)年の創業以降、正社員の退職者は1人も出ておらず、移住者も6名雇用するなど、地元にも貢献している。

資料:林野庁「林野」令和元(2019)年11月号: 4.


木材産業や木材を利用する側が、再造林が行われていない箇所が発生している現状への危機感を共有し、自らの問題として認識した上で、森林所有者や林業経営体等と連携した取組を進めていく事例もみられるようになってきている。佐賀県伊万里いまり市の株式会社伊万里いまり木材市場は、平成20(2008)年から、立木購入の際に、主伐後の植林・下刈りを5年間請け負う取組を行っており、平成29(2017)年からは、間伐も含め40~50年にわたって山づくりを引き受けていく仕組みも構築している(*79)。また、大分県玖珠町くすまちに合板工場を新設した新栄合板工業株式会社は、令和元(2019)年11月に大分県森林再生機構及び県と協定を締結し、ヒノキの造林や苗木生産への助成体制を構築した(*80)。また、東京都世田谷区を本社とする伊佐ホームズ株式会社は、埼玉県の秩父ちちぶ地域の林業経営体や製造工場等と連携して流通の効率化を図り、植栽費用を考慮した価格で丸太を購入する仕組みを構築し、この仕組みを管理、普及する森林パートナーズ株式会社を設立し、福岡県を始め他地域にも取組を広げている(*81)。


(*77)「森林経営管理法」(平成30年法律第35号)

(*78)森林経営管理制度について詳しくは、第1章第1節(3)60-64ページを参照。

(*79)平成29(2017)年8月23日付け林政ニュース: 11-14.

(*80)令和元(2019)年12月4日付け林政ニュース: 17-18.

(*81)令和元(2019)年8月28日付け林政ニュース: 11-14.



(イ)合法性や持続可能性に配慮した木材の調達

(イ)合法性や持続可能性に配慮した木材の調達

SDGsへの関心の高まりは、製品やサービスを利用する側において、それが持続可能性に配慮した方法で自分の手元に届いたものであるか、環境収奪的に生産されたものではないかとの問題意識の高まりにもつながっている。建築物を例にとると、建築物に利用された木材を含む原材料が合法的なものであるかどうかについて、施工業者のみならず、建築物の発注者側でも問う動きが生じ始めている。

木材の合法性を担保するに当たっては、平成29(2017)年5月に施行された「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(*82)」(「クリーンウッド法」)に基づく合法性の確認や木材関連事業者の登録を推進することが重要である(登録を受けた木材関連事業者は、「登録木材関連事業者」の名称を用いることができる。)。

本章第2節(*83)で紹介した仙台市の10階建ての集合住宅の建築に当たっては、顔の見える形で、合法的に生産された産地の確かな木材を使用するため、大分県の田島山業株式会社等の木材から、登録木材関連事業者である山佐木材株式会社がCLTへ加工し、床材や強度の求められる耐震壁として活用した。

同じく登録木材関連事業者である家具メーカーの株式会社ワイス・ワイスは、合法性を確認し、トレーサビリティにこだわった家具を販売している。この会社は、従来、海外産の木材を使用した家具を製作・販売していたが、海外産木材に係る合法性の現地確認に手間もコストも必要となるため、国産材の使用へと切替えを行った。現在では、林業経営体及び木材加工業者とも信頼関係を構築し、宮崎県諸塚村もろつかそんのFSC認証を取得した森林から生産された木材など、産地の分かる国産材を中心とした家具ブランドを展開している。

また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の会場等については、それぞれの整備主体が定めている調達基準により森林認証材等の合法性や持続可能性に配慮した木材が使用されている。

SDGsの考え方が浸透するに従い、このような合法伐採木材や森林認証材等を求める傾向は今後も更に強くなっていくものと考えられ、適切な供給体制の構築が求められている。


(*82)「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(平成28年法律第48号)

(*83)特集第2節(2)18ページ参照。



(ウ)林業従事者の安全確保

(ウ)林業従事者の安全確保

林業従事者は長期にわたって減少を続けており、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少が見込まれる中で、必要な森林整備を担う人材を確保していくためには、林業経営者が収益力を向上させることに加え、労働安全を始めとした労働環境の改善を進めていくことが更に重要となっている。

特に安全面については、林業は労働災害の発生率が全産業の中で最も高く、災害の発生度合いを表す死傷年千人率も全産業2.3に対し22.4となっていることから、災害が多い伐倒作業を中心として、安全確保に向けた対応が急務である。

このため、国においても、平成31(2019)年2月の労働安全衛生規則等関連法令の見直しにより、かかり木処理作業における危険防止など、安全対策の充実強化を図っている。また、チェーンソーでの伐倒を避けることができる高性能林業機械の導入も進めてきた。

林業の現場においては、これまでも現場作業に従事する者に対して各種の研修を行ってきたほか、林業経営者に対して労働安全の専門家による安全診断が行われてきた。近年は、伐倒作業を反復練習する研修や、現場の環境を再現する機材を用いた研修等により技術向上が図られている。例えば、東京大学農学生命科学研究科農学特定研究員(*84)の飛田京子氏は、チェーンソーによる伐倒作業について、数値による明示的・客観的な評価手法を用いて反復練習を行う研修を全国各地で実施している(事例 特-8)。また、北海道札幌市の株式会社森林環境リアライズは、チェーンソーの伐倒作業での災害をバーチャルリアリティの仮想空間で体験できるシミュレーターを開発し、安全に関する研修で活用されている。

また、秋田県由利本荘ゆりほんじょう市の株式会社藤興業は、重大な事故の原因となる「かかり木」を発生させないため、伐倒方向をレーザ光線で表示し、伐倒方向を確認しながら正確な受け口を作る装置を開発した。

今後とも、研修や機材の開発・活用により、労働安全対策の充実や強化が進んでいくことが期待される。

事例 特-8 チェーンソーの伐倒作業の研修

東京大学農学生命科学研究科農学特定研究員(令和2(2020)年2月から一般社団法人林業技能教育研究所所長)の飛田京子氏は、数値による明示的・客観的な評価手法を導入した「チェーンソーワーク研修」を全国各地で実施している。

例えば、垂直に立てた丸太に受け口と追い口を作り伐倒方向や受け口等を計測する、回転計や水平器を活用してチェーンソーの構え方や一定の回転数を保ちながら丸太を切るなど、作業に欠かせない正しい感覚を身につける練習が行われている。研修の最後には受け口等の精度を競うコンテストを行い、研修の成果を確認することも行われている。

研修生からは、測定し記録することで、具体的に何が悪いか分かりやすく改善できると好評である。

林業従事者がこのような反復練習を行うことにより、技能を向上させていくことが期待される。


(*84)令和2(2020)年2月から一般社団法人林業技能教育研究所所長。



(エ)女性参画

(エ)女性参画

性別にかかわらず、それぞれの意欲に応じて働きやすい社会の構築が求められている中、林業の女性従事者については、かつて植付け等の育林作業に多く従事していたものの、平成27(2015)年には2,750人となり、女性比率は6.1%となっている。こうした中においても、機械化の進展等を背景に、伐木・造材・集材に携わる女性従事者数は近年増加してきており(*85)、女性が従事する環境の整備も進められている。

林業分野においては、事務、管理者を含む林業就業者全体での女性比率が14.3%と、全産業における女性労働者比率43.9%や、第一次産業全体の38.9%と比較すると低位にあることからしても、林業分野において女性が活躍する余地はまだまだあるものと考えられる。多様な人材が活躍することで、経済活動の創造性が増し、生産性の向上へとつながることが期待されるほか、女性従事者を迎え入れることが男性を含めた林業従事者全体の作業環境改善の契機となる面もあり、ひいては、定着率の向上にもつながることも期待される。

植林から間伐までの作業を行う北海道浦幌町うらほろちょうの北村林業株式会社では、女性を含め若い従業員が多く、現在、4名の女性職員が働いている。軽トラックに乗せた移動トイレも導入しているほか、作業の効率化及び労働災害防止を目的として高性能林業機械の導入も積極的に進めるなど、女性を含む従業員全体を大切にする姿勢がうかがえる(事例 特-9)。

全国に621ある森林組合において女性理事は33名と少ないが、この中でも代表理事となっている例もあり、今後、更に女性の参画が増えることが期待される(*86)。

事例 特-9 女性や若者に配慮し、女性の雇用を促進した林業会社

太陽光パネルを付けた移動用トイレ

北村林業株式会社(北海道浦幌町うらほろちょう)は、若者が大切にしている仕事観や働き方を積極的に取り入れることに努め、例えば、林業機械の導入や土曜日の休業日の増加等を行っている。

北村社長は、「女性が働けない産業に未来はない」と語り、軽トラックに載せた移動トイレを導入するなど女性にも配慮した職場環境の充実に努め、女性雇用を積極的に進めている。この結果、従業員26名のうち4名が女性となっており、ハーベスタ等の重機を使用し現場で働いている。また、北村林業では、兼業・副業を許可しており、従業員は月給制と日給制の選択が可能となっている。従業員の中には、いずれ自分でカフェをもって兼業したいと考えている人もいる。

北村社長は、若者の定着率を高めるため、新人教育の際、なぜ木を伐るのか、林業がなぜ必要なのか時間をかけて説明している。このように、地域にとって林業が欠かせない仕事であるという意義を伝えるようにしてから数年、離職者はいない。

今後も従業員の声を聞きながら時代に合わせた機材や働き方を導入し、女性を含めた若手従業員が定着していく好循環が期待される。

資料:くらしごとホームページ「林業の新しいカタチを見つめる若き社長。北村林業(株)」(平成31(2019)年3月15日)


(*85)総務省「平成27年国勢調査」

(*86)林野庁「平成29年度森林組合統計」



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader