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林野庁

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第1部 特集 第4節 今後の課題と関係者の役割(2)

(2)森林・林業・木材産業を支える関係者の役割

林業・木材産業関係者に加え、様々な企業や個人が森林に関わることで、林業・木材産業の課題の解決にもつながり、森林の様々な機能が発揮され、SDGsに貢献していくこととなる。

また、地方公共団体や国は、行政の立場から林業・木材産業を含め、企業や個人の取組が活性化するように後押ししていくことが重要である。


(ア)企業・個人の役割

(企業の関わり方)

一般社団法人日本経済団体連合会は、平成29(2017)年に企業行動憲章を改定して会員企業にSDGsの達成に向けた行動を促しており、経営理念にSDGsの考え方を取り入れる企業が増えている。一方で、中小企業においては、そのような動きはまだ途上にあると言われている(*87)。まずはSDGsを知り、SDGsの観点から事業のあり方を見直してみることが大切である。

日本全体の人口が減少していく中、どのように地域を維持していくかが大きな課題となっているが、森林が重要な地域資源となっている地域では、森林を活用することで、環境・経済・社会の各方面での好ましい流れに目に見える形でつながっていくことも期待される。

例えば、地域で連携して住宅や店舗、家具等に木材を使うことで、林業、木材産業、工務店を始めとする様々な地元企業に経済的な好影響の連鎖が生まれ、ひいては地域社会にも貢献する(*88)。様々な森林サービス産業も、地域の企業や団体、関係者が都市とのつながりも活かしながら協力して実行している例が多い。

コラム 企業向けのSDGsの導入指南書「SDG Compassコンパス

平成27(2015)年に、GRI(Global Reporting Initiative)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の3団体が共同で作成した、企業向けのSDGsの導入指南書である「SDG Compass」が公表された。

この中では、企業がSDGsに取り組みやすいように、具体的に5つのステップを提示している。

(1)SDGsを理解する:第1ステップは、SDGsを理解することである。

(2)優先課題を決定する:バリューチェーン全体を通して、SDGsに関する正と負の影響を評価し、これに基づき、優先的に取り組む課題を決定する。

(3)目標を設定する:具体的な目標を設定することで、企業全体で優先的事項の共有を促進し、対外的にも持続可能な開発に関わる明確な情報発信が可能となる。

(4)経営へ統合する:目標への取組に向けて、中核的な事業等に持続可能性を統合し、企業内の全ての機能にSDGsを組み込む。

(5)報告とコミュニケーション:国際的に認識された基準や(2)で整理された優先課題を活用し、持続可能な開発に関する情報開示を行うことができる。効果的な報告は、ステークホルダー(関係者)とのコミュニケーションに加え、信頼を醸成し価値創造を促進する。

資料:GRIほか「SDG Compass:SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」(平成27(2015)年(日本語版平成28(2016)年))


(*87)関東経済産業局、一般財団法人日本立地センター「中小企業のSDGs認知度・実態等調査」(平成30(2018)年10月)

(*88)例えば、樋熊らは、埼玉県の幼稚園・保育園が地域材で建設された例で県内での生産誘発額を35,101千円(加工・流通が全て県内で完結した場合は44,900千円)と試算している(樋熊悠宇至ほか (2019) 公共建築物への地域材利用による経済波及効果. 日林誌, 101: 115-121.)。



(個人の関わり方)

SDGsでは、私たち一人一人の行動が社会に与える影響を重要視している。SDGsに関わる第一歩として「知る」ことが重要であり、森林に関しても「知る、体験する」という中で、様々な関わり方へと広がっていく。

例えば、観光やレジャーで森林地域に行く、木製の食器や家具を使うなど、楽しみながらできることから始めていくことで、森林及び木材の良さを体感することもできる。また、森林・林業・木材利用に関連するイベントに参加してみる、又は地域の一員としてボランティア活動で森林整備をしてみるといった関わり方もある。

さらに、仕事として森林・林業・木材産業に関わることで、その期待される役割を果たす側に回ることもありうる。今回取り上げた中でも、都市部の職場での木材利用もあれば、緑の雇用や地域おこし協力隊(*89)等の制度を活用し、移住し新しい働き方を見つけている例もある。

それぞれの方法で、より多くの人が森林・林業・木材産業や木材利用に関わっていくことが、我が国の森林や社会の持続性を高めることにつながっていく。

このような様々な関わり方を後押しし広めていくためにも、森林・木材利用の意義、SDGsとの関係性等の普及を図ることが重要であり、林野庁を始めとする森林・林業・木材産業関係者は情報発信に努める必要がある。


(*89)過疎地域等の条件不利地域で、地方公共団体が都市住民を受け入れ、「地域おこし協力隊員」として委嘱し、地域おこしの支援等の「地域協力活動」に従事してもらいながら、その地域への定住・定着を図る取組。



(イ)大学等の教育研究機関の役割

教育研究機関は、これまでも森林の多面的機能の発揮や林業・木材産業の発展に向けて試験研究を行うとともに、人材育成や産学連携を含む活動を実施して社会に貢献してきた。本章で述べてきたようなSDGsに関わる新たな動きを促進する際にも、教育研究機関の役割が重要であり、産官との連携を強めながら試験研究と教育の双方においてその役割を果たすことが期待されている。

森林を活用した地域活性化の取組が様々な地域で行われているが、地域の木材の使用や森林サービス産業による経済的及び社会的貢献を明らかにするには、教育研究機関の有する分析能力や人材育成の力が欠かせない。大学等で更に試験研究を進めるとともに、定性的・定量的な手法を駆使して社会ニーズに応えていくことが期待される。その中では、例えば地方公共団体レベルで経済波及効果を簡易に分析する手法の開発等が求められている。

森林空間及び木材の利用を進める際には、人間の健康及び活動に及ぼす効果を定量的に示すことが有利となることがある。これに関しては、森林レクリエーションや住空間における木質材料の利用が生理・心理面に及ぼす効果について研究が進められており、今後、更に健康面の効果を明確にするための研究が期待される。

また、木造建築について知見のある設計者が不足していると言われており、こうした人材の育成も期待される。東京大学大学院農学生命科学研究科では、建築や木材産業に携わる社会人を対象とした修士課程として木造建築コースを開設している。本コースでは、木造建築の設計・施工に関する講義が充実しており、木材の特性を活かした木造建築物を設計できる建築家や木材技術者の育成を目指している。このような取組を含め、教育研究機関には、企業・地方公共団体等にSDGsへの意識向上やその実践を企画提案できる人材の育成が期待される。


(ウ)地方公共団体の役割

SDGsでは経済、社会、環境の諸課題に統合的に取り組むことが重要となるが、森林が重要な資源である地域も多い中、森林・林業・木材産業を中心とした取組を進める地域も多い。SDGsではパートナーシップが重要視されているが、森林・林業・木材産業に関わる取組においても、地域の様々な関係者が協力して取り組む体制の構築が大切な要素となる。その際、市町村や都道府県がまちづくりの計画や補助事業、地域内外でのつながりづくり等を通し、その動きを上手く先導、支援している例も多い。移住者や企業の受入れにも地域での受け皿づくりが重要であり、こうした面を含め、地方公共団体が多様な主体の結節点としての役割をこれまで以上に果たすことが期待される。

例えば、北海道下川町しもかわちょうは、森林を中心とした町づくりに取り組むことを通じ、環境、経済、社会の課題を統合的に解決しようとしている。具体的には、ICTを用い、伐採・造林から木材加工・流通までの連携、森林バイオマスによる地域熱供給といった森林総合産業の構築、高齢化した集落の再生等に取り組んでいる。これらの取組の結果、移住者が増え、近年は転入者が転出者を上回る年も出ている。

また、岡山県西粟倉村にしあわくらそんは、「百年の森林構想」として森林を中心とした地域づくりを行っており、その結果、若者が移住し、幾つものベンチャー企業が生まれ、転入者が転出者を上回るようになっている(*90)。村では、森林所有者から森林を預かり、森林の長期施業管理を行う一方、この森林から生まれた木材を家具や内装材として加工する第三セクターを設立した。村民が立ち上げた企業に加え、村の理念に共感した移住者が集まり、森林関連以外の起業も増えている(事例 特-10)。

事例 特-10 森林を中心とした村づくりにより、起業・移住者が増加する西粟倉村にしあわくらそん

西粟倉村内のベンチャー企業による木工品

岡山県西粟倉村は、村の面積の約93%を森林が占める山村である。西粟倉村では、平成18(2006)年以降、村内に35のベンチャー企業が生まれており、令和2(2020)年3月現在、1,443名の人口に対し、移住者とその子供がその1割を占めるまでになっている。

ベンチャー企業の第一号は、平成18(2006)年に村の若者が設立した、素材生産と木工品を手がける株式会社木の里工房木薫である。こうした動きも受け、村では「百年の森林構想」を平成20(2008)年に打ち出し、村全体で森林の整備や間伐材の利用を進め、手入れされた美しい森を作ることに力を入れ始めた。

そのための森林整備については、村が森林所有者と長期施業管理契約を締結し、所有者から森林を預かった上で、百年の森林事業の専門組織である株式会社百森へ管理・経営を再委託することで実施している。間伐に用いる林業機械の購入には、1口5万円から出資を募った「共有の森ファンド」が活用されている。このファンドの出資者に対しては、村の応援団になってもらうよう、村へのツアー等も行われた。

間伐材の利用に向けては、平成21(2009)年に、家具や内装材として加工する株式会社西粟倉・森の学校を第三セクターとして設立した。森の学校は、一般消費者が気軽に日本の森で育った木材を暮らしに取り入れられるように商品開発に力を入れており、女性でも簡単に敷き詰めることができる床板(ユカハリ・タイル)等をこれまでに開発・販売している。

このような森林を中心とした村づくりという理念に共感した移住者により、木工品製造等の起業が続いているほか、平成27(2015)年には起業支援等の事業を行うエーゼロ株式会社が設立される等、森林関連以外の起業も増えている。今後も森林を中心に様々な取組が続くことが期待される。


(*90)平成22(2010)年~平成27(2015)年の社会増減率は1.17%。



(エ)政府の役割

(政府全体の取組)

我が国においては、SDGsを推進するため、平成28(2016)年5月、内閣総理大臣を本部長とする「SDGs推進本部」を設置し、同年12月に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」(以下「実施指針」という。)を決定した。これ以降、この実施指針に基づき国内外の施策を推進することとされ、平成29(2017)年12月に具体的な施策を記載した「SDGsアクションプラン」を策定し、森林関係についても、林業の成長産業化と森林の多面的機能の発揮に向け、森林・林業・木材産業に関わる様々な施策が記載された。その後、SDGsアクションプランは定期的に更新されるとともに、実施指針についても令和元(2019)年12月に見直しが行われ、今後も4年ごとに見直しを行うこととしている。

SDGsでは各ステークホルダーの取組が重要であり、広報・啓発を重視している。そのため、平成29(2017)年12月から「ジャパンSDGsアワード」を、また、平成30(2018)年6月から「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」をそれぞれ選定し、SDGsの具体的な活動の「見える化」及び後押しに努めてきた。「ジャパンSDGsアワード」の第1回「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)表彰」には北海道下川町しもかわちょうが選定され、「SDGs未来都市」としては平成30(2018)年と令和元(2019)年に合わせて60都市が選定されており、その中には、本章で紹介した下川町しもかわちょうや岡山県真庭まにわ市、西粟倉村にしあわくらそんのほか、未利用の間伐材等を活用して熱や発電利用に取り組む熊本県小国町おぐにまち等の森林を活用する市町村も含まれている。

また、経済産業省や環境省など各省において、企業がSDGsに取り組むためのガイドを作成しているほか(*91)、国土交通省においても、地方公共団体向けのガイドラインを作成している(*92)。


(*91)経済産業省「SDGs経営ガイド」、環境省「すべての企業が持続的に発展するために-持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」

(*92)国土交通省「私たちのまちにとってのSDGs(持続可能な開発目標)-導入のためのガイドライン-」



(森林・林業・木材産業分野における施策)

林野庁は、森林の多面的機能を持続的に発揮させ、循環型資源である木材を将来にわたって供給するため、SDGsアクションプラン等も踏まえ、SDGsの様々な目標に関わる施策を実行している(資料 特-25)。

資料 特-25 SDGsに貢献する森林・林業施策

民有林については、森林整備を支援するとともに、適切な森林の整備・保全を進め、過度の伐採が行われないよう、森林計画制度や保安林制度を整備しており、森林の伐採や開発についても規制している(詳細については、第1章(56-60、78-79ページ)参照)。

また、令和元(2019)年度から森林経営管理制度が始まったところであり、森林環境譲与税も活用しつつ市町村が主体となった森林整備等を推進している(詳細については、トピックス1(44-45ページ)、第1章(60-67ページ)参照)。

頻発する豪雨等に対しては、森林整備に加え、治山施設の設置等の治山対策により、森林の持つ山地災害防止機能が発揮されるよう努めている(詳細については、第1章(79-83ページ)参照)。

持続可能な森林の経営を確立するためには森林整備の低コスト化が重要であり、林道や作業道等の路網の整備等を進めている。また、新技術も活用したイノベーションの取組が重要であり、ICTを活用したスマート林業、早生樹等の利用拡大、自動化機械や木質系新素材の開発も推進している(詳細については、トピックス4(48-49ページ)、第2章(124-140ページ)参照)。

林業労働力の確保に向けては、「緑の雇用」等による新規就業者の確保・育成を支援していることに加えて、女性の参入支援を実施している(詳細については、第2章(117-124ページ)参照)。

木材の利用の拡大に向けては、需要を喚起するとともに、これまで木材が使われていなかった分野で木材を利用していくための技術開発も必要であることから、例えば、中高層建築物における木材利用拡大を目的としたCLT(直交集成板)や木質耐火部材の技術開発や、様々な製品への展開が期待されている改質リグニン等への技術開発を支援している(詳細については、第3章(169-213ページ)参照)。

また、世界自然遺産等の森林の保護・管理も推進している。さらに、気候変動対策については、森林整備の推進やバイオマスエネルギーの利用に加え、森林吸収量の算定に必要なデータの収集・分析(*93)等を行っている(詳細については、第1章(83-85、99-102ページ)参照)。

我が国の森林面積の約3割を占める国有林においても森林の公益的機能が発揮されることを重視し、森林の整備・保全に努めている。また、民有林とも連携した効率的な施業や、低コスト化に向けた技術の実証・普及、木材の安定供給など、林業・木材産業の成長産業化に貢献する取組も推進している(詳細については第4章(215-237ページ)参照)。

また、森林の多面的機能は広く国民が享受しており、この機能を維持するための森林整備には、木材の販売費用等に加え、国及び地方公共団体の予算や寄附等を通じ、社会全体で負担されている。今後も森林整備を続けていくためには、国民全体の理解が重要であり、民間の様々な関係者と連携し、国民参加による森林もりづくりや木材利用の促進、森林・木材利用への理解の促進に努めている(詳細については、第1章(73-77ページ)、第3章(174-197ページ)参照)。

さらに、世界における持続可能な森林経営の推進及びSDGsの実現を図るため、海外の森林に対しても、我が国は技術協力や資金協力を通じた二国間協力、ITTOやFAO等国際専門機関への資金拠出や人材の派遣、国際対話等の多国間協力、持続可能な森林経営の実現に向けた研究・調査等、我が国の知見や人材を活用した開発途上地域への森林分野での協力を実施している(詳細については、第1章(92-105ページ)参照)。


(*93)森林吸収源インベントリ情報整備事業


挿絵2

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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