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林野庁

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第1部 第4章 第2節 国有林野事業の具体的取組(2)

(2)林業の成長産業化への貢献

現在、施業の集約化等による低コスト化や担い手の育成を始め、林業の成長産業化に向けた取組の推進が課題となっている。このため、国有林野事業では、その組織、技術力及び資源を活用し、多様な森林整備を積極的に推進する中で、森林施業の低コスト化を進めるとともに、民有林関係者等と連携した施業の推進、施業集約化への支援、林業事業体や森林・林業技術者等の育成及び林産物の安定供給等に取り組んでいる。


(低コスト化等に向けた技術の開発・普及)

国有林野事業では、事業発注を通じた施策の推進や全国における多数の事業実績の統一的な分析等が可能であることから、その特性を活かし、植栽本数や下刈り回数・方法の見直し、情報通信技術(ICT)等を活用した効率的な森林管理、シカ防護対策の効率化、早生樹の導入等による林業の低コスト化等に向け、先駆的な技術等について各森林管理局が中心となり、地域の研究機関等と連携しつつ事業レベルでの試行を進めている(事例4-4)。さらに、現地検討会等の開催による地域の林業関係者との情報交換や、地域ごとの地形条件や資源状況の違いに応じた低コストで効率的な作業システムの提案及び検証を行うなど、民有林における普及と定着に努めている(資料4-8、事例4-5)。令和元(2019)年6月には、国有林において行う技術開発の成果を、体系的に整理しデータベース化した「国有林野事業技術開発総合ポータルサイト」を公開し、国有林野の管理経営に役立てるとともに、森林・林業・木材産業関係者等への情報発信に取り組んでいる。

事例4-4 IoTを活用した鳥獣被害対策

四国森林管理局は、平成29(2017)年度から高知県梼原町ゆすはらちょうにおいて、わな巡視作業の軽減と有害鳥獣のジビエ活用を推進するため、有害鳥獣がわなに捕獲されるとLPWA(低消費広域通信)とモバイルデータ通信を介して瞬時に狩猟者等の携帯端末等へ通知されるシステムを導入している。

当該システムの利用により、これまで携帯電話の受信範囲に限られていた捕獲通知情報を、中継機を通じて携帯圏外エリアに設置したわなからでも受信することが可能になった。その結果、狩猟者等によるわな巡視の負担軽減、及び捕獲の効率化に加え、行政担当者による狩猟・有害鳥獣駆除に係る事務の効率化にもつながった。

今後は、引き続き、鳥獣被害対策関係者を対象とした当該システムに関する勉強会等の開催を通じて地域との連携や信頼関係の構築に努めるとともに、若年狩猟者の不足や鳥獣被害に対する認識を深めるため、中学生や高校生に対する森林環境教育講座も継続して実施していくこととしている。


IoTを活用した捕獲通知システムのイメージ

事例4-5 コウヨウザン植栽現地検討会を実施

早生樹として注目されているコウヨウザン(注1)は、西日本では試験植栽や利用方法についての試験が進んでいるが、東日本では植栽事例が少なく、試験植栽もあまり進んでいなかった。

こうした中、関東森林管理局利根沼田とねぬまた森林管理署(群馬県沼田市)では、群馬県林業試験場との共同で、令和元(2019)年11月に、群馬県北部地域の気候や地理条件の中でコウヨウザンの育苗・造林技術の検証を行うこと、コウヨウザンを広く認知してもらうことを目的として、コウヨウザンの試験植栽及び現地検討会を開催した。

現地検討会では、実際に参加者がくわで地面に植穴を掘り、計30本の苗木(注2)を植栽した。比較的温暖な地域が生育適地とされているコウヨウザンであるが、利根沼田地域で成長調査や試験植栽等を継続し、寒冷地で成林する条件や可能性について検証していくこととしている。


注1:コウヨウザンについては、第2章第1節(4)137ページを参照。

2:広島県産1年生・2年生の普通苗・コンテナ苗、群馬県林業試験場育苗の挿し木普通苗を植栽。



特に近年は、施工性に優れたコンテナ苗の活用による効率的かつ効果的な再造林手法の導入・普及等を進めるとともに、植栽適期の長さ等のコンテナ苗の優位性を活かして伐採から造林までを一体的に行う「伐採と造林の一貫作業システム(*6)」の実証・普及に取り組んでいる。この結果、国有林野事業では、平成30(2018)年度には2,431haでコンテナ苗等を植栽し(資料4-9)、948haで伐採と造林の一貫作業を実施した(資料4-10)。

これらの植栽の実証を通じて、我が国でのコンテナ苗の普及に向け、技術的課題の把握、使用方法の改善等に取り組んでいる。

また、近年、森林・林業分野でも活用が期待されている、効率的に上空から森林の状況把握を行うことのできるドローンについて、山地災害の被害状況及び事業予定のある森林の概況の調査等への活用や実証に取り組んでいる。


(*6)伐採と造林の一貫作業システムとは、伐採から植栽までを一体的に行う作業システムのこと。詳細については、第2章第1節(4)134ページを参照。



(民有林と連携した施業)

国有林野事業では、地域における施業集約化の取組を支援し、森林施業の低コスト化に資するため、民有林と連携することで事業の効率化や低コスト化等を図ることのできる地域においては、「森林共同施業団地」を設定し、民有林と国有林を接続する路網の整備や相互利用、連携した施業の実施、民有林材と国有林材の協調出荷等に取り組んでいる。

平成31(2019)年3月末現在、森林共同施業団地の設定箇所数は168か所、設定面積は約42万ha(うち国有林野は約24万ha)となっている(資料4-11、12)。


(林業事業体及び森林・林業技術者等の育成)

国有林野事業は、国内最大の森林を管理する事業発注者であるという特性を活かし、林業事業体への事業の発注を通じてその経営能力の向上等を促すこととしている。

具体的には、総合評価落札方式や2か年又は3か年の複数年契約、事業成績評定制度の活用等により、林業事業体の創意工夫を促進している。このほか、作業システムや路網の作設に関する現地検討会の開催により(事例4-6)、林業事業体の能力向上や技術者の育成を支援するとともに、市町村単位での今後5年間の伐採量の公表や森林整備及び素材生産の発注情報を都道府県等と連携して公表することにより、林業事業体の事業展開に効果的な情報発信に取り組んでいる(事例4-7)。

事例4-6 高性能林業機械タワーヤーダ集材現地検討会

四国森林管理局香川森林管理事務所(香川県高松市)及び徳島森林管理署(徳島県徳島市)では、令和元(2019)年6月、美馬みま森林組合の協力を得て、香川県まんのうちょうの国有林において、タワーヤーダによる集材についての現地検討会を開催した。

同地域では急しゅんな地形が多いことから、森林作業道の作設が困難な森林に対応できる生産技術の開発と、技術者の育成が課題となっている。タワーヤーダは架線を利用する集材機械であり、集材距離が比較的長いことから森林作業道の作設が困難な急傾斜地での集材を可能にすること、また少人数での作業が可能であること等の利点があるとされ、同地域において活躍が期待されている。

現地検討会には香川県、徳島県、両県内の市町村、林業事業体、森林管理署等から65名が参加し、参加者からは「急傾斜地での作業道の作設が不要になることから、環境負荷が軽減され、森林保全につながる」等の意見が出された。同森林管理事務所及び同森林管理署では、今後も関係者と連携しながら、高性能林業機械の普及と林業技術者の育成に取り組むこととしている。



事例4-7 県と連携した林業の低コスト化の取組

青森県の民有林では、再造林の推進が課題となっており、また林業における人手不足は民有林、国有林を問わず深刻であり、再造林の推進や人材確保のため、林業全般におけるコスト低減を通じた収益性の向上が課題となっている。このため青森森林管理署(青森県青森市)は、青森県と連携して、伐採から育林まで各段階における低コスト化に向けたセミナー及び現地検討会を、林業事業体並びに県及び市町村職員を対象に行った。

同森林管理署が中心となって、令和元(2019)年7月に作業システムセミナー、同年9月に下刈り省略の現地検討会を開催する一方、青森県の主催により循環型林業を担う林業事業体育成のためのセミナーを同年9月に、一貫作業システムの現地研修会を同年11月に開催し、同森林管理署と青森県が相互に参加して幅広く情報提供を行うとともに、林業事業体同士の情報交換の機会を提供するなど、全体としての取組の効果を高めるよう工夫した。

今後もそれぞれの取組の効果を高めるため、取組の計画の初期段階から両者の情報交換や調整を緊密に行うこととしている。



また、近年、都道府県や市町村の林務担当職員の不在、森林・林業に関する専門知識の不足などの課題がある中、国有林野事業の職員は、森林・林業の専門家として、地域において指導的な役割を果たすことが期待されている。このため、国有林野事業では、専門的かつ高度な知識や技術と現場経験を有する「森林総合監理士(フォレスター)」等を系統的に育成し、森林管理署と都道府県の森林総合監理士等との連携による「技術的援助等チーム」の設置等により、市町村行政に対し「市町村森林整備計画」の策定とその達成に向けた支援等を行っている(事例4-8)。

さらに、国有林野の多種多様なフィールドの提供を通じた研修等の開催により民有林の人材育成を支援するとともに、大学や林業大学校など林業従事者等の育成機関と連携して、森林・林業に関する技術指導に取り組んでいる。

事例4-8 五島地域の林業活性化に向けた民有林と国有林の連携

九州森林管理局長崎森林管理署(長崎県諫早いさはや市)では、平成28(2016)年度に、同森林管理者、五島ごとう市、長崎県五島振興局及び五島森林組合の4者により「五島市 森林もりづくり推進チーム」を設立し、平成29(2017)年度が始期となる「五島市森林整備計画」の策定支援を行った。

この整備計画を達成するため、推進チームは、地域の課題である林業労働力不足の解消に向けて、新規参入も支援できるよう、平成30(2018)年度から継続して、他業種を対象に森林整備等の講習会を開催してきた。さらに、限られた労働力の下では、施業の効率化を図ることが重要であることから、令和元(2019)年度には、手入れが行き届いていない民有林の整備を進めるため、五島地域森林共同施業団地(平成29(2017)年度設定(941ha))の拡大による施業集約化に取り組むこととし、地域の林業経営体等に参加を促し、多くの賛同を得た。

今後は、拡大した施業団地における効率的な森林整備の推進と、他業種への講習会を継続していく。



(森林経営管理制度への貢献)

平成31(2019)年4月から運用を開始した森林経営管理制度が、効率的に機能するよう、国有林野事業においても積極的に貢献していく必要がある。このため、市町村が集積・集約した森林の経営管理を担うこととなる林業経営者に対する国有林野事業の受注機会の拡大へ配慮するほか、市町村林務行政に対する技術的支援や公的管理を行う森林の取扱手法の普及、地域の方々の森林・林業に対する理解の促進への寄与等に取り組むこととしている。また、国有林野事業で把握している林業経営者の情報を、市町村に提供することとしており、これらの取組を通じて地域の林業経営者の育成を支援することとしている。


(森林経営管理制度を円滑に進めるため、国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正)

森林経営管理制度を円滑に進めるためには、川上側の林業と川中・川下側の木材関連産業との連携強化を進め、木材需要の拡大を図りながら、森林経営管理制度の要となる林業経営者を育成することが重要となっている。このことを踏まえ、平成30(2018)年11月に「農林水産業・地域の活力創造本部」において改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン(農林水産業・地域の活力創造本部決定)」では、国有林野の一定の区域で、公益的機能を確保しつつ、意欲と能力のある林業経営者(森林組合、素材生産業者、自伐林家等)が、長期・安定的に立木の伐採を行うことができる仕組みや、意欲と能力を有する林業経営者と連携する川下事業者に対する資金供給の円滑化を図る仕組みを創設することが位置付けられた。これらの仕組みについては、林政審議会における審議を経て、「国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律(*7)」案として国会での審議が行われた。これらの審議の過程においては、国有林野の管理経営の在り方について幅広い議論がなされ、改めて国有林野の公共性が認識されることとなった。この法律は、令和元(2019)年6月5日に国会で成立し、令和2(2020)年4月から施行されることとなり、森林経営管理制度の要となる林業経営者を育成するため、国有林野の一定の区域において、一定期間、安定的に樹木を採取できる「樹木採取権制度」が創設された。

樹木採取権の設定を受けることにより、長期的な事業量の見通しが立ち、計画的な雇用や林業機械の導入が促進され、経営基盤の強化につながり、森林経営管理制度の要となる林業経営者の育成が図られることが期待される。


(*7)国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第31号)



(「樹木採取権制度」の概要)

同制度では、樹木採取区として指定した国有林野の一定の区域において、一定期間、安定的に樹木を伐採して取得(採取)する「樹木採取権」を公募によって選定された者に設定する(権利の存続期間10年程度、区域面積200~300haを基本に運用)。樹木採取権の設定を受ける者は、都道府県の公表する経営管理実施権の設定を受けることを希望する民間事業者又は同等の能力を有する者であること、川中・川下事業者と連携すること等を要件としており、樹木の対価である樹木料の額の多寡のほか、雇用の増大等の地域の産業の振興への寄与等を総合的に評価して選定することとしている。

樹木の採取に当たっては、一箇所当たりの伐採面積の上限や渓流沿いの保護樹帯の設置等、国有林の伐採ルールに則り、国が樹木採取区ごとに定める基準や国有林野の地域管理経営計画に適合しなければならないこととしており、公益的機能の確保に支障を及ぼさない仕組みとしている。また、樹木採取権者がこれらに違反した場合は樹木採取権を取り消すことも可能としている。

一方、樹木の採取跡地における植栽については従来どおり国が確実に実施することとしている。この場合、伐採と造林の一貫作業システムにより採取と植栽を一体的に行うことが効率的である。このため、樹木採取権者に植栽の作業を行わせることとし、樹木採取権の申請時に、設定を受けた際には国と委託契約を結び採取跡地に適切に植栽を行う旨の書面を国に提出させることで、採取と一体的な植栽の実施を進めていくこととしている(資料4-13)。

資料4-13 樹木採取権制度における事業実施の基本的な流れ

(林産物の安定供給)

国有林野事業では、公益重視の管理経営の下で行われる施業によって得られる木材について、持続的かつ計画的な供給に努めることとしている。

国有林野事業から供給される木材は、国産材供給量の約2割を占めており、平成30(2018)年度の木材供給量は、立木によるものが167万m3(丸太換算)、素材(丸太)によるものが261万m3となっている。

国有林野事業からの木材の供給に当たっては、集成材・合板工場や製材工場等と協定を締結し、林業事業体の計画的な実行体制の構築に資する国有林材を安定的に供給する「システム販売」を進めている(事例4-9)。システム販売による丸太の販売量は増加傾向で推移しており、平成30(2018)年度には丸太の販売量全体の70%に当たる184万m3となった(資料4-14)。また、システム販売の実施に当たっては、民有林所有者等との連携による協調出荷に取り組むとともに、新規需要の開拓に向けて、燃料用チップ等を用途とする未利用間伐材等の安定供給にも取り組んでいる。

事例4-9 丸太の高付加価値化に向けた取組

北海道では、生産されるトドマツやカラマツ等の丸太のうち約5割が製材用であるが、主な用途は、梱包材等の産業用資材や、建築用の間柱まばしら垂木たるきなどの羽柄材はがらざいが中心となっており、付加価値の高い構造用材(柱やはりなど)としての利用は少ない状況となっている。

北海道内の人工林は一般的な主伐期を超えた高齢級化が進んでおり、公益的機能の持続的発揮と森林資源の循環利用の観点からは、高齢級の大径木が付加価値の高い構造用材として利用されることによって、齢級構成を平準化していくことが必要であると考えられる。

そのため、北海道森林管理局では、令和元(2019)年度のシステム販売の一部において、一定の径級(24cm以上)及び品質を確保した良材のみを選別し、構造用材として使用することを条件とした販売を試行的に実施した。

このような取組は、国有林を起点としたサプライチェーンの確立と木材のトレーサビリティの強化にもつながると考えられることから、北海道森林管理局では、更なる高付加価値化を目指すとともに、民有林へも協調出荷を促していくこととしている。



さらに、国有林野事業については、全国的なネットワークを持ち、国産材供給量の約2割を供給し得るという特性を活かし、地域の木材需要が急激に変動した場合に、地域の需要に応える供給調整機能を発揮することが重要となっている。このため、平成25(2013)年度から、林野庁及び全国7つの森林管理局において、学識経験者のほか川上、川中及び川下関係者等から成る「国有林材供給調整検討委員会」を開催することにより、地域の木材需給を迅速かつ適確に把握し、需給に応じた国有林材の供給に取り組むこととしている。また、平成27(2015)年度から、全国7ブロックで開催されている「需給情報連絡協議会」に各森林管理局も参画するなど、地域の木材価格や需要動向の適確な把握に努めている。

このほか、ヒバや木曽ヒノキなど民有林からの供給が期待しにくい樹種や広葉樹の材を、多様な森林を有しているという国有林野の特性を活かして、供給している(事例4-10)。

事例4-10 里山広葉樹林活用・再生プロジェクト

かつては長くて20~30年間隔で伐採されていた里山の森林は、薪等として利用されなくなり、幹が太く樹高の高い森林に変化し、ナラ枯れ被害の増長も懸念されていることから、適切な管理が必要である。近畿中国森林管理局では、里山の森林を活用しつつ若返らせることによって林業の成長産業化や地域振興等に寄与することを目標として、岡山大学の協力を得ながら「里山広葉樹林活用・再生プロジェクト」に取り組んでおり、岡山県内のコナラやアベマキ等から成る里山林において丸太を生産し販売することによって事業としての採算性やニーズを把握するとともに、伐採跡地の天然更新に関する検証、里山広葉樹の需要拡大に向けた検討を進めている。

令和元(2019)年度には、平成29(2017)年度に続いて2度目の丸太生産を行い、伐採方法を抜き伐りから帯状の伐採に変更するとともに、造材方法をチェーンソーから高性能林業機械に変更することで、コストの削減と新たな需要の開拓による利益の向上等について検証を行った。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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