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第1部 第4章 第2節 国有林野事業の具体的取組(3)

(3)「国民の森林もり」としての管理経営等

国有林野事業では、国有林野を「国民の森林もり」として位置付け、国民に対する情報の公開、フィールドの提供、森林・林業に関する普及啓発等により、国民に開かれた管理経営に努めている。

また、国有林野が、国民共通の財産であるとともに、それぞれの地域における資源でもあることを踏まえ、地域振興へ寄与する国有林野の活用にも取り組んでいる。

さらに、東日本大震災からの復旧及び復興へ貢献するため、国有林野等における被害の復旧に取り組むとともに、被災地のニーズに応じて、海岸防災林の再生や原子力災害からの復旧等に取り組んでいる。


(ア)「国民の森林もり」としての管理経営

(国有林野事業への理解と支援に向けた多様な情報受発信)

国有林野事業では、「国民の森林もり」としての管理経営の推進と、その透明性の確保を図るため、事業の実施に係る情報の発信や森林環境教育の活動支援等を通じて、森林・林業に関する情報提供や普及・啓発に取り組んでいる。

また、各森林管理局の「地域管理経営計画」等の策定に当たっては、計画案についてパブリックコメント制度を活用するとともに、計画案の作成前の段階から広く国民の意見を集めるなど、対話型の取組による双方向の情報受発信を推進している。

さらに、国有林野における活動全般について国民の意見を聴取するため、一般公募により「国有林モニター」を選定し、「国有林モニター会議」や現地見学会、アンケート調査等を行っている。国有林モニターには、平成31(2019)年4月現在、全国で337名が登録している(事例4-11)。

このほか、ホームページの内容の充実に努めるとともに、森林管理局の新たな取組や年間の業務予定等を公表するなど、国民への情報発信に積極的に取り組んでいる。

事例4-11 国有林モニター制度を活用した情報受発信の取組

北海道森林管理局では、令和元(2019)年7月、空知そらち森林管理署管内の国有林(北海道沢岩見いわみざわ市)において、令和元年度国有林モニター現地見学会を開催した。

現地見学会には、24名のモニターが出席し、管内の採種園や防風林、列状間伐の実施箇所、自然休養林を見学した。このうち、防風林では、農耕地を気象害から守るために戦前から造成されてきた歴史と、老齢化に伴う倒木、落枝や防風機能の低下などへの課題に対応するための更新・保育といった取組について、職員が作成したパネルを用いて説明したほか、防風林の手入れの1つとして実施している下刈り作業を見学した。

参加したモニターからは、「防風林の施業など、なかなか知ることのない国有林の仕事について勉強になった」といった意見が出された。


(森林環境教育の推進)

国有林野事業では、森林環境教育の場としての国有林野の利用を進めるため、森林環境教育のプログラムの整備、フィールドの提供等に取り組んでいる。

この一環として、学校等と森林管理署等が協定を結び、国有林野の豊かな森林環境を子供たちに提供する「遊々ゆうゆうの森」を設定している。平成30(2018)年度末現在、153か所で協定が締結されており、地域の地方公共団体、NPO等の主催により、森林教室や自然観察、体験林業等の様々な活動が行われている(事例4-12)。

また、環境教育に取り組む教育関係者の活動を支援するため、教職員やボランティアのリーダー等に対する技術指導、森林環境教育のプログラムや教材の提供等に取り組んでいる。

事例4-12 「UWC ISAK JAPAN 大日向遊々おおひなたゆうゆうの森」協定の締結

平成31(2019)年3月6日、中部森林管理局東信とうしん森林管理署(長野県佐久さく市)は、軽井沢町かるいざわまち浅間山あさまやま国有林に隣接する、UWC ISAK JAPAN(注)と「遊々ゆうゆうの森」の協定を締結した。

この協定は、同校の生徒から出された「隣接する国有林で林業体験や森林レクリエーションを行いたい」との要望を受けて、森林管理署職員と生徒が一年以上かけて現地の踏査や検討を行い、校舎西隣の国有林約30haを「UWC ISAK JAPAN 大日向遊々の森」として設定し、締結することとなった。

調印式典は生徒集会で開催され、生徒200人が見守る中、森林管理署長と学校長が協定書に署名し、全校生徒で記念撮影を行った。

また、協定締結後は、同校生徒がやぶ刈り作業を行うなど林業体験の場として活用している。

注:学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジ・ISAK(アイザック)ジャパン(インターナショナルスクール)



(地域やNPO等との連携)

国有林野事業では、国民参加の森林もりづくりの推進のため、NPO等が行う自主的な森林整備等へのフィールド提供のほか、NPO等に継続的に森林もりづくり活動に参加してもらえるよう、技術指導や助言及び講師の派遣等の支援に取り組んでいる。

地域の森林の特色を活かした効果的な森林管理が期待される地域においては、各森林管理局が、地方公共団体、NPO、自然保護団体等と連携して森林整備・保全活動を行う「モデルプロジェクト」を実施している。

例えば、群馬県みなかみまちに広がる国有林野約1万haを対象にした「赤谷あかやプロジェクト」は、平成15(2003)年度から、関東森林管理局、地域住民で組織する「赤谷あかやプロジェクト地域協議会」及び公益財団法人日本自然保護協会の協働により、生物多様性の復元と持続可能な地域づくりを目指した森林管理を実施している。

また、自ら森林もりづくりを行うことを希望するNPO等と協定を締結して森林もりづくりのフィールドを提供する「ふれあいの森」を設定しており、平成30(2018)年度末現在、全国で126か所が設定されている。

このほか、企業の社会的責任(CSR)活動等を目的とした森林もりづくり活動へのフィールドを提供する「社会貢献の森」、森林保全を目的とした森林パトロール、美化活動等のフィールドを提供する「多様な活動の森」を設定しており、平成30(2018)年度末現在、全国でそれぞれ168か所、70か所が設定されている。さらに、国有林野事業では、歴史的に重要な木造建造物や各地の祭礼行事、伝統工芸等の次代に引き継ぐべき木の文化を守るため、「木の文化を支える森」を設定している(資料4-15)。「木の文化を支える森」には、歴史的木造建造物の修復等に必要となる木材を安定的に供給することを目的とする「古事の森」、神社の祭礼で用いる資材の供給を目的とする「御柱おんばしらの森」等がある。

「木の文化を支える森」は、平成30(2018)年度末現在、全国で合計24か所が設定されており、地元の地方公共団体等から成る協議会が、作業見学会の開催や下刈り作業の実施等に継続的に取り組むなど、国民参加による森林もりづくり活動が進められている。


(分収林制度による森林もりづくり)

国有林野事業では、将来の木材販売による収益を分け合うことを前提に、契約者が苗木を植えて育てる「分収造林」や、契約者が費用の一部を負担して国が森林を育てる「分収育林」を通じて、国民参加の森林もりづくりを進めている。平成30(2018)年度末現在の設定面積は、分収造林で約10.6万ha、分収育林で約1.3万haとなっている(*8)。

分収育林の契約者である「緑のオーナー」に対しては、契約対象森林への案内や植樹祭等のイベントへの招待等を行うことにより、森林と触れ合う機会の提供等に努めるとともに、契約者からの多様な意向に応えるため、契約期間をおおむね10年から20年延長することも可能としている。

また、分収林制度を活用し、企業等が契約者となって社会貢献、社員教育及び顧客との触れ合いの場として森林もりづくりを行う「法人の森林もり」も設定している。平成30(2018)年度末時点で、「法人の森林もり」の設定箇所数は471か所、設定面積は約2.3千haとなっている。


(*8)個人等を対象とした分収育林の一般公募は、平成11(1999)年度から休止している。



(イ)地域振興への寄与

(国有林野の貸付け・売払い)

国有林野事業では、農林業を始めとする地域産業の振興、住民の福祉の向上等に貢献するため、地方公共団体、地元住民等に対して、国有林野の貸付けを行っている。平成30(2018)年度末現在の貸付面積は約7.1万haで、道路、電気・通信、ダム等の公用、公共用又は公益事業用の施設用地が49%、農地や採草放牧地が14%を占めている。

このうち、公益事業用の施設用地については、「FIT制度(*9)」に基づき経済産業省から発電事業の認定を受けた事業者も貸付対象としており、平成30(2018)年度末現在で約242haの貸付けを行っている。

また、国有林野の一部に、地元住民を対象として、薪炭材等の自家用林産物採取等を目的とした共同利用を認める「共用林野」を設定している。共用林野は、自家用の落葉や落枝の採取、地域住民の共同のエネルギー源としての立木の伐採、山菜やきのこ類の採取等を行う「普通共用林野」、自家用薪炭のための原木採取を行う「薪炭共用林野」及び家畜の放牧を行う「放牧共用林野」の3つに区分される。これらに加えて、平成31(2019)年4月に成立した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(*10)」に基づき、アイヌ文化の振興等に必要な林産物の採取を行う新たな共用林野の設定が可能となった。共用林野の設定面積は、平成30(2018)年度末現在で、119万haとなっている。

さらに、国有林野のうち、地域産業の振興や住民福祉の向上等に必要な森林、苗畑及び貯木場の跡地等については、地方公共団体等への売払いを行っている。平成30(2018)年度には、ダム用地や道路用地等として、計178haの売払い等を行った。


(*9)同制度について詳しくは、第3章第2節(3)191-192ページを参照。

(*10)アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(平成31年法律第16号)



(公衆の保健のための活用)

国有林野事業では、優れた自然景観を有し、森林浴、自然観察、野外スポーツ等に適した国有林野について、平成31(2019)年4月現在、全国で727か所、約29万haを「自然休養林」、「自然観察教育林」等の「レクリエーションの森」に設定している(資料4-16)。平成30(2018)年度には、「レクリエーションの森」において、延べ約1.4億人の利用があった。


「レクリエーションの森」では、地元の地方公共団体を核とする「「レクリエーションの森」管理運営協議会」を始めとした地域の関係者と森林管理署等が連携しながら、利用者のニーズに即した管理運営を行っている。

管理運営に当たっては、利用者からの「森林環境整備推進協力金」による収入や、「サポーター制度」に基づく企業等からの資金も活用している。このうち、サポーター制度は、企業等がCSR活動の一環として、「「レクリエーションの森」管理運営協議会」との協定に基づき、「レクリエーションの森」の整備に必要な資金や労務を提供する制度であり、平成30(2018)年度末現在、全国10か所の「レクリエーションの森」において、延べ14の企業等がサポーターとなっている(事例4-13)。

事例4-13 「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」で初のオフィシャルサポーター協定を締結

中部森林管理局北信ほくしん森林管理署(長野県飯山いいやま市)管内の「戸隠とがくし大峰おおみね自然休養林」では、令和元(2019)年6月に「日本美しの森 お薦め国有林」に選定された「レクリエーションの森」としては全国で初めて、資金や資材等について、民間企業等から支援を受ける「サポーター制度」を導入した。

具体的には、一般財団法人日本森林林業振興会長野支部(長野県長野市)、株式会社コシイプレザービング(大阪府大阪市)から木道改修資材、株式会社八十二銀行(長野県長野市)から資金、長野林業土木協会北信分会(長野県長野市)から労力の提供を受けることとなった。

これらの支援を受け、地域関係者で構成される戸隠大峰自然休養林保護管理協議会と北信森林管理署が連携し、「戸隠・大峰自然休養林」の中でも野鳥観察スポットとして人気の高い「戸隠森林植物園」内の老朽化した木道について、令和2(2020)年4月から、地元ボランティアの協力も交えた改修作業を実施することとしている。



(観光資源としての活用の推進)

平成29(2017)年4月、観光資源としての潜在的魅力がある「レクリエーションの森」を「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」として全国で93か所選定した(*11)(資料4-17)。これらについては、外国人観光客も含めた利用者の増加を目的に、標識類等の多言語化、施設整備等の重点的な環境整備やウェブサイト等による情報発信の強化に取り組んでいる。特に、令和元(2019)年9月には全国4か所の「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」について、ドローンで撮影した動画をホームページで公開したほか、それぞれの「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」における四季折々の姿や地元のイベント等を最新情報として紹介するなど魅力の発信に取り組んでいる(*12)。

資料4-17 「日本美しの森 お薦め国有林」の例

(*11)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定について詳しくは、「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス4(8-9ページ)を参照。

(*12)民有林を含めた森林を観光資源として活用する取組については、第2章第3節(2)151-152ページを参照。



(ウ)東日本大震災からの復旧・復興

(応急復旧と海岸防災林の再生)

平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災からの復旧・復興に当たって、森林管理局や森林管理署等では、地域に密着した国の出先機関として地域の期待に応えるため、震災直後には、ヘリコプターによる現地調査、担当官の派遣、支援物資の搬送などの様々な取組を行ってきた。

中でも海岸防災林の再生については、国有林における海岸防災林の復旧工事を行うとともに、民有林においても民有林直轄治山事業等により復旧に取り組んでいるほか、海岸防災林の復旧工事に必要な資材として使用される木材について、国有林野からの供給も行っている(事例4-14)。

事例4-14 松川浦まつかわうらの再生に向けた取組

福島県相馬そうま市にある松川浦まつかわうらは、海岸に沿った松林が美しい景勝地であったが、東日本大震災の津波により甚大な被害を受けたところである。関東森林管理局磐城いわき森林管理署(福島県いわき市)では、失われた松林の再生に向け居住地等に対する風景・潮害防備や生活環境の保全に加え、津波の被害軽減効果も考慮した海岸防災林の再生に取り組んでおり、令和元(2019)年12月末時点で要復旧延長約4kmのうち約3kmの植栽を完了している。

また、平成26(2014)年に一部区域において「社会貢献の森」を設定し、協定を締結した民間団体が、ボランティア活動として植栽から下刈りまでの森林整備活動等を実施している。令和元(2019)年度までに15団体がボランティア活動として約6haにおいて植栽等を行った。

復興・創生期間の最終年である令和2(2020)年度までに復旧事業による植栽の完了を目指すとともに、それ以降については、松川浦の再生に向け、ボランティア活動と連携しつつ、適切に保育を実施していくこととしている。



(原子力災害からの復旧への貢献)

東京電力福島第一原子力発電所の事故による原子力災害への対応については、平成23(2011)年度から福島県内の国有林野において環境放射線モニタリングを実施し、その結果を市町村等に提供しているほか、森林除染に関する知見の集積、林業再生等のための実証事業、国有林野からの安全なきのこ原木の供給等の支援を行った。さらに、環境省や市町村等に対して、除去土壌等の仮置場用地として国有林野の無償貸付け等を実施しており、令和元(2019)年12月末現在、福島県、茨城県、群馬県及び宮城県の4県22か所で計約70haの国有林野が仮置場用地として利用されている。

なお、避難指示解除区域における森林整備事業の再開が可能な地域については、森林事務所を再開し、事業に本格的に着手した。今後も、避難指示解除区域における森林整備や木材生産を着実に実施していくこととしている(*13)。


(*13)詳しくは、「平成30年度森林及び林業の動向」第5章第2節(3)のコラム(238ページ)を参照。


挿絵8

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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