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第1部 第3章 第2節 木材利用の動向(3)

(3)木質バイオマスの利用

木質バイオマスは、従来から、製紙、パーティクルボード等の木質系材料やエネルギー用として利用されてきた。平成28(2016)年9月に閣議決定された「バイオマス活用推進基本計画」においては、木質系を含む各種のバイオマスについて利用率の目標が設定されるとともに、効率的なエネルギー変換・利用やマテリアル(素材)利用に向けた開発等を推進するとされている。


(ア)木質バイオマスのエネルギー利用

木材は、昭和30年代後半の「エネルギー革命」以前は、木炭や薪の形態で日常的なエネルギー源として多用されていた。近年では、再生可能エネルギーの一つとして、燃料用の木材チップや木質ペレット等の木質バイオマスが再び注目されている(*103)。

平成28(2016)年5月に閣議決定された「森林・林業基本計画」では、令和7(2025)年における国内生産する燃料材(ペレット、薪、炭及び燃料用チップ)の利用目標を800万m3と見込んでいる。その上で、木質バイオマスのエネルギー利用に向けて、「カスケード利用(*104)」を基本としつつ、木質バイオマス発電施設における間伐材・林地残材等の利用、地域における熱電併給システムの構築等を推進していくこととしている。

「バイオマス活用推進基本計画」では、「林地残材(*105)」について、平成26(2014)年の年間発生量約800万トンに対し約9%となっている利用率を、令和7(2025)年に約30%以上とすることを目標として設定している(資料3-29)。

資料3-29 木質バイオマスの発生量と利用量の状況(推計)

(*103)林野庁が毎年取りまとめている「木材需給表」においても、平成26(2014)年からは、近年、木質バイオマス発電施設等での利用が増加している木材チップを加えて公表している。

(*104)木材を建材等の資材として利用した後、ボードや紙等としての再利用を経て、最終段階では燃料として利用すること。

(*105)「木質バイオマスエネルギー利用動向調査」における間伐材・林地残材等に該当する。



(間伐材・林地残材等の未利用材には供給余力)

近年では、木質バイオマス発電所の増加等により、エネルギーとして利用された木質バイオマスの量が年々増加している。平成30(2018)年には、木材チップ、薪、炭等を含めた燃料材の国内消費量は前年比16%増の902万m3となっており、うち国内生産量は624万m3(前年比4%増)、うち輸入量は277万m3(前年比57%増)となっている(*106)(資料3-30)。


「木質バイオマスエネルギー利用動向調査」によれば、平成30(2018)年にエネルギーとして利用された木材チップの量は、製材等残材(*107)由来が181万トン、建設資材廃棄物(*108)由来が411万トン、木材生産活動から発生する間伐材・林地残材等由来が274万トン等となっており、合計930万トン(前年比7%増)となっている(*109)。このほか、木質ペレットで73万トン(前年比95%増)、薪で5万トン(前年比14%減)、木粉(おが粉)で37万トン(前年比9%減)等がエネルギーとして利用されている(*110)。

このうち、製材等残材については、その大部分が、製紙等の原料、発電施設の燃料や、自工場内における木材乾燥用ボイラー等の燃料として利用されている。「平成30年木材流通構造調査」によれば、工場残材の販売先別出荷割合は、「畜産業者等へ」が21.2%、「自社のチップ工場へ」が19.9%、「自工場で消費等」が15.5%、「チップ等集荷業者・木材流通業者等」が13.0%、「発電施設等」が8.1%等となっている。

また、建設資材廃棄物については、平成12(2000)年の「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(*111)」により一定規模以上の建設工事で、分別解体・再資源化が義務付けられたことから再利用が進み、木質ボードの原料、木質資源利用ボイラーや木質バイオマス発電用の燃料等として再利用されている。

これに対して、間伐材・林地残材等については、近年、年間発生量に対する利用量の割合が上昇傾向にあるものの、全体では依然として低いことから、今後のエネルギー利用拡大に向けた余地がある(資料3-29)。


(*106)林野庁「平成30年木材需給表」

(*107)製材工場等で発生する端材。

(*108)建築物の解体等で発生する解体材・廃材。

(*109)ここでの重量は、絶乾重量。

(*110)林野庁プレスリリース「「平成30年木質バイオマスエネルギー利用動向調査」の結果(確報)について」(令和元(2019)年12月25日付け)

(*111)「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(平成12年法律第104号)



(木質ペレットが徐々に普及)

木質ペレットは、木材加工時に発生するおが粉等を圧縮成形した燃料であり、形状が一定で取扱いやすい、エネルギー密度が高い、含水率が低く燃焼しやすい、運搬や貯蔵も容易であるなどの利点がある。

地球温暖化等の環境問題への関心の高まり等もあり、木質ペレットの国内生産量は増加傾向で推移してきた。平成30(2018)年については前年比4%増の13.1万トン、工場数は前年から7工場増の154工場となっている(*112)(資料3-31)。これに対して、平成30(2018)年の木質ペレットの輸入量は、前年比109%増の106万トンであった(*113)。


(*112)林野庁「平成30年特用林産基礎資料」

(*113)財務省「貿易統計」における「木質ペレット」(統計番号:4401.31-000)の輸入量。



(木質バイオマスによる発電の動き)

平成24(2012)年7月から、電気事業者に対して、木質バイオマスを含む再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を一定の期間・価格で買い取ることを義務付ける「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(*114)(FIT制度)」が導入された。

木質バイオマスにより発電された電気の平成30(2018)年4月以降にFIT認定された発電施設に関する買取価格(税抜き)は、「間伐材等由来の木質バイオマス」を用いる場合は40円/kWh(出力2,000kW未満)、32円/kWh(出力2,000kW以上)、「一般木質バイオマス」は24円/kWh(出力10,000kW未満)、入札制度により決定する価格(出力10,000kW以上)、「建設資材廃棄物」は13円/kWhと、それぞれの区分ごとに定められている。また、買取期間はいずれも20年間とされている(*115)。

これらの区分の下では、「間伐材等由来の木質バイオマス」及び「一般木質バイオマス」について適切な分別・証明が行われなければ、買取価格が適正に適用されない事態も懸念される。また、製材、合板、木質ボード、製紙用等の既存利用に影響を及ぼさないよう適切に配慮していく必要がある。このようなことを踏まえ、林野庁は、平成24(2012)年6月に、木質バイオマスが発電用燃料として適切に供給されるよう、留意すべき事項を「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」として取りまとめた。本ガイドラインでは、伐採又は加工・流通を行う者が、次の流通過程の関係事業者に対して、納入する木質バイオマスが「間伐材等由来の木質バイオマス」又は「一般木質バイオマス」であることを証明することとしている。また、上記の証明を行う木質バイオマス供給の関係事業者が適切な取組ができることについては、当該事業者が構成員となる業界の団体等が、木質バイオマスの分別管理や書類管理の方針に関する「自主行動規範」を策定した上で、審査を行い認定することとしている(*116)。

また、FIT認定取得後の発電施設で用いられる間伐材等由来の木質バイオマスや一般木質バイオマス等の各区分の比率の変更については、これまで制度上の制約がなかったが、令和元(2019)年度以降は、FIT認定時の比率を基準として、調達価格の変更を含め、変更に一定の制約が設けられることとなった(*117)。

FIT制度の導入を受けて、各地で木質バイオマスによる発電施設が新たに整備されている。主に間伐材等由来のバイオマスを活用した発電施設については、令和元(2019)年6月末現在、出力2,000kW以上の施設42か所、出力2,000kW未満の施設32か所が同制度により売電を行っており、合計発電容量は390,062kWとなっている(*118)。これによる年間の発電量は、一般家庭約86万世帯分の電力使用量に相当する試算になる(*119)。さらに、全国で合計45か所の発電設備の新設計画が同制度の認定を受けている。


(*114)平成23(2011)年8月に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成23年法律第108号)に基づき導入されたもの。

(*115)「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法の規定に基づき調達価格等を定める件」(平成29年経済産業省告示第35号)

(*116)林野庁「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」(平成24(2012)年6月)

(*117)資源エネルギー庁「既認定案件による国民負担の抑制に向けた対応(バイオマス比率の変更への対応)」(平成30(2018)年12月21日)

(*118)「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(平成14年法律第62号)に基づくRPS制度からの移行分を含む。発電容量については、バイオマス比率を考慮した数値。

(*119)発電施設は1日当たり24時間、1年当たり330日間稼働し、一般家庭は1年当たり3,600kWhの電力量を使用するという仮定のもと試算。



(木質バイオマスの熱利用)

木質バイオマス発電におけるエネルギー変換効率は、蒸気タービンの場合、通常は20%程度にすぎず、高くても30%程度となっている。エネルギー変換効率を上げるためには、発電施設の大規模化が必要だが、大規模な施設を運転するには、広い範囲から木質バイオマスを収集することが必要になる。これに対して、熱利用・熱電併給は、初期投資の比較的少ない小規模な施設であっても、80%以上のエネルギー変換効率を実現することが可能である。

一方で、熱利用・熱電併給の取組の開始に当たっては、(ア)事業者自らが熱の需要先を開拓する必要があること、(イ)熱の販売価格が固定されていないこと等から、関係者による十分な検討が必要となる。林野庁では、これらの課題を乗り越えて熱利用・熱電併給の普及を促進するため、平成29(2017)年10月に「木質バイオマス熱利用・熱電併給事例集」を取りまとめ、各地の取組における実施体制や燃料、熱利用施設、収支等の情報を紹介している。

近年では、公共施設や一般家庭等において、木質バイオマスを燃料とするボイラーやストーブの導入が進んでいる。平成30(2018)年における木質バイオマスを燃料とするボイラーの導入数は、全国で2,064基となっている(資料3-32)。業種別では、農業が410基、製材業・木製品製造業が287基、公衆浴場業が168基、種類別では、ペレットボイラーが964基、木くず焚きボイラーが797基、薪ボイラーが166基等となっている(*120)。


また、欧州諸国においては、燃焼プラントから複数の建物に配管を通し、蒸気や温水を送って暖房等を行う「地域熱供給」に、木質バイオマスが多用されている(*121)。例えば、オーストリアでは、2017年における総エネルギー消費量1,442PJ(ペタジュール(*122))のうち、13%が木質バイオマスに由来するものとなっている。同国では1990年代後半以降、小規模なものを中心に木質バイオマスボイラーの導入が増加した(*123)。エネルギー変換効率が高く、排気中の有害物質が少ない高性能なボイラーの技術開発が進み、2017年には全世帯数の19%で戸別の木質バイオマスボイラーによる暖房等が導入されているほか、28%で地域熱供給が行われている(*124)。

我が国においても、一部の地域では木質バイオマスを利用した地域熱供給等の取組がみられる(*125)(資料3-33)。

今後は、小規模分散型の熱供給システムとして、このような取組を推進していくことが重要である。


(*120)林野庁プレスリリース「「平成30年木質バイオマスエネルギー利用動向調査」の結果(確報)について」(令和元(2019)年12月25日付け)

(*121)欧州での地域熱供給については、「平成23年度森林及び林業の動向」第1章第3節(2)37ページを参照。

(*122)1PJ=約2.8億kWh=約7.7万世帯の年間電力使用量に相当。

(*123)Woodheat solutions(2010)Sustainable wood energy supply

(*124)Austrian Energy Agency「Basisdaten 2017 Bioenergie」

(*125)「平成25年度森林及び林業の動向」第5章第3節(4)の事例5-8(181ページ)、「平成27年度森林及び林業の動向」第4章第3節(4)の事例4-11(163ページ)も参照。



(「地域内エコシステム」の構築)

今後の木質バイオマスの利用推進に当たっては、地域の森林資源を再びエネルギー供給源として見直し、地域の活性化につながる低コストなエネルギー利用をどのように進めていくかということが課題となっている。

このため、農林水産省及び経済産業省は、森林資源をエネルギーやマテリアルとして地域内で持続的に活用するための担い手確保から、発電・熱利用に至るまでの「地域内エコシステム」の構築に向けた検討を行い、平成29(2017)年7月に報告書「「地域内エコシステム」の構築に向けて」を取りまとめた(*126)。

同報告書では、同システムの在るべき方向として、(ア)地産地消型の持続可能なシステムが成り立つ規模である集落を主たる対象とすること、(イ)地域関係者の協力体制を構築すること、(ウ)薪等の低加工度の燃料の活用等コストの低減により地域への還元利益を最大限確保すること、(エ)系統接続をしない小電力の供給システムを開発することや行政が中心となり熱利用の安定的な需要先を確保すること等が整理されている。

これを踏まえ、農林水産省では、平成29(2017)年度から「地域内エコシステム」のモデル構築に向けて、全国の21地域で事業の実現可能性調査(F/S調査)を行い、9地域でより詳細かつ具体的に検討するための地域協議会の運営を支援する取組などを実施し、その成果や課題を検証している(*127)。


(*126)「地域内エコシステム」の構築に向けた取組については、「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス3(6-7ページ)も参照。

(*127)一般社団法人日本森林技術協会「ゼロからはじめる「地域内エコシステム」~木質バイオマスエネルギーの小規模利用導入に向けて~」(平成31(2019)年3月)



(効率的なエネルギー利用に向けた取組)

木質バイオマスの効率的なエネルギー変換・利用に向けては、木質バイオマスのエネルギー利用量が増加する中、ガス化炉による小規模で高効率な熱電併給システム、竹の燃料としての利用、熱効率の高い固形燃料の製造や利用等に関する技術開発が行われている(*128)。


(*128)一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会ホームページ



(イ)木質バイオマスのマテリアル利用

化石資源由来の既存製品等からバイオマス由来の製品等への代替を進めるため、木質バイオマスから新素材等を製造する技術やこれらの物質を原料とした具体的な製品の開発が進められている。マテリアル利用が促進されれば、未利用木材等の高付加価値化につながることが期待される。

令和元(2019)年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」において、セルロースナノファイバー(以下「CNF(*129)」という。)、改質リグニン等の木材由来の新素材の製造プロセス及び新素材を用いた製品の研究開発・実装等を進めることとされた。さらに、令和元(2019)年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に基づき策定された「革新的環境イノベーション戦略」(令和2(2020)年1月21日統合イノベーション戦略推進会議決定)において、バイオマスによる原料転換技術の開発として、改質リグニン、CNF等の用途拡大に向けた量産・低コスト製造技術の開発を進めることとされた。また、令和元(2019)年12月に林野庁より「林業イノベーション現場実装推進プログラム」において、新素材の技術開発の現状や課題及びタイムラインを整理したロードマップが公表された。

CNFは、木材の主要成分の一つであるセルロースの繊維をナノ(10億分の1)メートルレベルまでほぐしたもので、樹脂やゴム等との複合材料等は軽量ながら高強度、膨張・収縮しにくい、ガスバリア性が高いなどの特性を持つ素材である。プラスチックの補強材料、電子基板、食品包装用フィルム等への利用が期待されており、一部で実用化も進んでいる(*130)。林野庁では、国産材のスギを原料とし、中山間地域に適応した小規模・低環境負荷な製法でパルプ化からナノ化までを行い木材チップからCNFを一貫製造する技術開発や、この製法で生産されたCNFの用途開発を支援している。農林水産省においても、CNF等の農林水産・食品産業の現場での活用に向けた研究開発を推進している。CNFの実用化・利用拡大に向け、関係する農林水産省、経済産業省、環境省及び文部科学省が連携しつつ、施策を進めている(*131)。

リグニンは、木材の主要成分の一つであり、高強度、耐熱性、耐薬品性等の特性を有する高付加価値材料への展開が期待される樹脂素材である。これまでも木材パルプを製造する際に抽出されていたものの、その化学構造が非常に多様であるため、工業材料としての利用が困難だった。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所等を代表とする研究コンソーシアム「SIPリグニン」(*132)では、化学構造が比較的均質なスギリグニンを原料に、安全性の高い薬剤を使用するなど地域への導入を見据えた改質リグニンの製造システムの開発に成功した。平成31(2019)年4月には、SIPリグニンの活動を引き継ぐ新たなコンソーシアム「地域リグニン資源開発ネットワーク(リグニンネットワーク)」が設立され、林業や木材産業に加え、化学産業や電気機器産業など幅広い業種が参画している(*133)。自動車の内外装部品、電子基板やタッチセンサーへの展開が可能なハイブリッド膜、防水性能が高い排水管用シーリング材など改質リグニンの実用化に向けた製品開発が進んでおり、令和2(2020)年2月には実証プラント建設が開始され、運転の連続性、効率性、安全性等に関する試験など、商用生産に向けた取組を進めていくこととしている。


(*129)「Cellulose Nano Fiber」の略。

(*130)数百トンの生産能力を持つ量産施設を含むCNF製造設備が各地で稼動しているほか、紙おむつ、筆記用インク、運動靴、化粧品、食品、建築資材等一部で社会実装されてきている。

(*131)CNFに関する研究開発について詳しくは、「平成27年度森林及び林業の動向」第4章第2節(8)148ページも参照。

(*132)SIPリグニンとは、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題のうち、「次世代農林水産業創造技術」の「地域のリグニン資源が先導するバイオマス利用システムの技術革新」の課題を担当する産学官連携による研究コンソーシアム(研究実施期間は平成26(2014)~平成30(2018)年度)。

(*133)令和2(2020)年1月現在、民間企業80社、大学等50名、公的機関12機関がリグニンネットワークに参画。令和元(2019)年度はセミナーや公開シンポジウムを開催。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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