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林野庁

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第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(2)

(2)治山対策の展開

(山地災害等への迅速な対応)

我が国の国土は、地形が急峻かつ地質がぜい弱であることに加え、前線や台風に伴う豪雨や地震等の自然現象が頻発することから、毎年、各地で多くの山地災害が発生している。

令和元(2019)年9月には「令和元年房総半島台風(台風第15号)(*70)」により、千葉県を始めとした関東地方で倒木による森林被害や山地災害が発生し、その被害額は4県で約26億円の被害をもたらした。

また、同年10月には「令和元年東日本台風(台風第19号)(*70)」等により、東北、関東甲信越地域を中心に広域で記録的な豪雨が観測され、宮城県を始め各地で山崩れが多発し、山地災害により19都県で約451億円と甚大な被害が発生した。

これらの台風や豪雨等により、令和元(2019)年の山地災害による被害は約644億円に及んだ(資料1-26)。なお、近年では平成30(2018)年に「平成30年7月豪雨」を始めとする約2,068億円、平成29(2017)年には「平成29年7月九州北部豪雨」を始めとする約634億円の山地災害による被害が発生するなど、日本各地で甚大な被害が引き起こされた。

林野庁では、山地災害が発生した場合には、初動時の迅速な対応に努めるとともに、二次災害の防止や早期復旧に向けた災害復旧事業等の実施等に取り組んでいる。特に、大規模な災害が発生した場合には、地方公共団体への職員派遣や、被災都道府県等と連携したヘリコプターによる上空からの被害状況調査等の支援も行っている(*71)。

なお、令和元年房総半島台風により千葉県で発生した倒木による森林被害、令和元年東日本台風により宮城県、神奈川県で発生した山地災害については、それぞれ学識経験者による緊急調査を実施し、調査結果を公表した。

コラム 令和元(2019)年度の山地災害等に対する学識経験者による緊急調査結果の概要

日本国内で観測される短時間の大雨の発生回数は長期的に増加傾向にあり、毎年のように各地で甚大な山地災害をもたらしている。令和元(2019)年には、令和元年房総半島台風(台風第15号)や令和元年東日本台風(台風第19号)に際して、倒木による森林被害や山腹崩壊等の山地災害が発生したことから、林野庁ではこれらの災害の発生原因や特徴、今後の対策等を検討するため、学識経験者による緊急調査をそれぞれ実施した。

同年9月の「令和元年房総半島台風」については、千葉県内の多くの地点で観測史上1位の最大瞬間風速を観測する記録的な暴風となったことから、県内各地で大規模な倒木が発生した。森林被害の状況を調査したところ、人工林や天然林、樹種等にかかわらず風倒被害が発生していることや、比較的平坦な地形に小規模な被害地が広範囲に散在するという被害の特徴を確認した。また、中長期的には、リモートセンシング技術も活用して被害地分布等の状況を広域的に明らかにすること等が必要との結果が示された。

また、同年10月の「令和元年東日本台風」については、山腹崩壊等が多発した宮城県及び神奈川県で山地災害の調査を実施したところ、短時間の記録的な豪雨により斜面上部の火山灰土などで地下水位が上昇したことにより、立木の根系の及ぶ範囲より深いところで崩壊が発生したことが推定された。今後、人家、道路等に近接して不安定土砂が堆積している箇所では、優先的な治山対策の実施の検討等が必要との結果が報告された。


資料:台風第15号の森林被害等の学識経験者による緊急調査(令和元(2019)年10月11日)、令和元年台風第19号に伴い丸森町及び相模原市で発生した山地災害の学識経験者による現地調査結果(令和元(2019)年12月10日)


1時間降水量50mm以上の年間発生回数

(*70)気象庁プレスリリース「令和元年に顕著な災害をもたらした台風の名称について」(令和2(2020)年2月19日付け)

(*71)山地災害の対応について、トピックス5(50ページ)も参照。



(近年の山地災害を踏まえた治山対策)

また、「平成30年7月豪雨」の被災箇所では、特にマサ土等のぜい弱な地質地帯における土石流、山腹崩壊や、花崗岩地帯におけるコアストーン等の巨石の流下等により、下流域に甚大な被害が発生した(*72)。これらの被災箇所では、令和元(2019)年12月末時点で、94地区で工事が完了し、181地区で災害復旧事業等を実施中である。

さらに、過去に例のないような大規模かつ集中的な山地災害が発生した「平成30年北海道胆振いぶり東部地震」の被災箇所については、令和元(2019)年12月末時点で、5地区で工事が完了し、48地区で災害復旧事業等を実施中である(資料1-27)。


(*72)林野庁プレスリリース「「平成30年7月豪雨を踏まえた治山対策検討チーム」中間取りまとめについて」(平成30(2018)年11月13日付け)及び「平成30年度森林及び林業の動向」第2章第3節(2)のコラム(82ページ)を参照。



(治山事業の実施)

国及び都道府県は、安全で安心して暮らせる国土づくり、豊かな水を育む森林づくりを推進するため、「森林整備保全事業計画」に基づき、山地災害の防止、水源のかん養、生活環境の保全等の森林の持つ公益的機能の確保が特に必要な保安林等において、治山施設の設置や機能の低下した森林の整備等を行う治山事業を実施している。

治山事業は、「森林法」で規定される保安施設事業と、「地すべり等防止法(*73)」で規定される地すべり防止工事に関する事業に大別される。保安施設事業では、山腹斜面の安定化や荒廃した渓流の復旧整備等のため、治山施設の設置や治山ダムの嵩上げ等の機能強化、森林の整備等を行っている。例えば、治山ダムを設置して荒廃した渓流を復旧する「渓間工」、崩壊した斜面の安定を図り森林を再生する「山腹工」等を実施しているほか、火山地域においても荒廃地の復旧整備等を実施している(事例1-5)。また、地すべり防止工事では、地すべりの発生因子を除去・軽減する「抑制工」や地すべりを直接抑える「抑止工」を実施している。

これらに加え、地域における避難体制の整備等のソフト対策と連携した取組として、山地災害危険地区(*74)に関する情報を地域住民に提供するとともに、土石流、泥流、地すべり等の発生を監視・観測する機器や雨量計等の整備を行っている。

近年、短時間の大雨が増加傾向にあることに加え、気候変動により大雨の発生頻度が更に増加するおそれが高いことが指摘されており(*75)、今後、山地災害の発生リスクが一層高まることが懸念されている。また、近年の災害では、山腹崩壊等に伴う流木災害が顕在化しているなど、山地災害の発生形態も多様化している。

このような中、平成26(2014)年に策定され、平成30(2018)年に改定された「国土強じん化基本計画」では、国土強じん化の推進方針として、山地災害対策の強化等が位置付けられており、内閣府の中央防災会議の下に設置された「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ」が平成27(2015)年に取りまとめた報告では、山地災害による被害を未然に防止・軽減する事前防災・減災対策に向けた治山対策を推進していく必要があるとされている。これらの状況を踏まえて、山地災害危険地区の的確な把握、土砂流出防備保安林等の配備、ぜい弱な地質地帯における山腹崩壊等対策や巨石・流木対策、荒廃森林の整備、海岸防災林の整備等を推進するなど、総合的な治山対策により地域の安全・安心の確保を図ることとしている。

事例1-5 令和元(2019)年10月の三重県の豪雨における治山施設の効果

令和元(2019)年10月18日から19日にかけて、低気圧や前線の影響等により、三重県南部を中心に記録的な大雨となった。

この大雨により、三重県南部では、床上浸水や土砂崩れが発生するなどの大きな被害が発生した。

三重県紀北町矢口浦きほくちょうやぐちうら地区でも、山腹崩壊が発生したが、三重県が整備した治山ダム(昭和62(1987)年度施工)が、渓流の荒廃を防止し、渓床や山脚(注1)を固定するとともに、渓床勾配を緩和(注2)していたことにより崩壊土砂や流木が堆積し、下流への土砂や流木の流出が抑制された。これらの結果、当該地区を山地災害から保全することができた。

注1:山の斜面の裾。

2:治山ダムの上流側に土砂が堆積し、渓流の傾斜が緩やかになること。



(*73)「地すべり等防止法」(昭和33年法律第30号)

(*74)平成29(2017)年3月末現在、全国で合計19.4万か所が調査・把握され、市町村へ周知されている。

(*75)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書(2014年11月)による。



(海岸防災林の整備)

我が国の海岸線の全長は約3.5万kmに及んでおり、潮害、季節風等による飛砂や風害等の被害を防ぐため、先人たちは、潮風等に耐性があり、根張りが良く、高く成長するマツ類を主体とする海岸防災林を造成してきた。これらの海岸防災林は、地域の暮らしと産業の保全に重要な役割を果たしているほか、白砂青松はくしゃせいしょうの美しい景観を提供するなど人々の憩いの場ともなっている。

このような中、東日本大震災で海岸防災林が一定の津波被害の軽減効果を発揮したことが確認されたことを踏まえ、平成24(2012)年に中央防災会議が決定した報告等の中で、海岸防災林の整備は、津波に対するハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の一つとして位置付けられた(*76)。

これらの報告や「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」が示した方針(*77)を踏まえ、林野庁では都道府県等と連携しつつ、地域の実情、生態系保全の必要性等を考慮しながら、東日本大震災により被災した海岸防災林の復旧・再生を進めてきた。これらの事業における生育基盤盛土造成により得られた知見等も活かしつつ、津波で根返りしにくい海岸防災林の造成や、飛砂害、風害及び潮害の防備等を目的とした海岸防災林の整備・保全を全国で進めている(*78)。


(*76)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議最終報告」(平成24(2012)年7月31日)、中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)

(*77)林野庁プレスリリース「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月1日付け)

(*78)東日本大震災により被災した海岸防災林の再生については、第5章第1節(2)241-243ページも参照。



(防災・減災、国土強じん化に向けた取組)

平成30(2018)年に改定された「国土強靱化基本計画」では、事前防災・減災のための山地災害対策を強化すると位置付けられている。

また、平成30(2018)年に発生した一連の激甚な災害を受けて、各省庁により重要インフラの緊急点検が実施され、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30(2018)年12月14日閣議決定)が取りまとめられた。

林野庁では、治山分野及び森林分野において、山腹の崩壊状況、森林の荒廃状況、林道法面の状況等の緊急点検を実施し、3年以内に早急な対策が必要と判明した地区において、治山施設の設置、海岸防災林の整備、森林造成、間伐、林道改良等を実施するとともに、平成29(2017)年の九州北部豪雨災害を踏まえ、平成29(2017)年から着手している「流木災害防止緊急治山対策プロジェクト」の加速化を含めた緊急対策を実施している。

さらに、令和元(2019)年に発生した、令和元年房総半島台風及び令和元年東日本台風等による山地災害や送配電線等の重要インフラ周辺の風倒木被害等も踏まえた治山対策、森林整備対策も進めており、今後もこうした「災害に強い森林づくり」を通じた国土強靭化の取組を推進することとしている。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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