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第1部 第1章 第2節 森林整備の動向(1)


国土の保全、水源のかん養、地球温暖化の防止、木材を始めとする林産物の供給等の森林の有する多面的機能が将来にわたって十分に発揮されるようにするためには、森林所有者や林業関係者に加え、国、地方公共団体、NPO(民間非営利組織)や企業等の幅広い関係者が連携して、森林資源の適切な利用を進めつつ、主伐後の再造林や間伐等の森林整備を適正に進める必要がある。

以下では、森林整備の推進状況、社会全体で支える森林もりづくり活動について記述する。

(1)森林整備の推進状況

(森林整備による健全な森林づくりの必要性)

森林の有する多面的機能の持続的発揮に向け、森林資源の適切な利用を進めつつ、主伐後の再造林や間伐等を着実に行う必要がある。また、自然条件等に応じて、複層林化(*23)、長伐期化(*24)、針広混交林化や広葉樹林化(*25)を推進するなど、多様で健全な森林へ誘導することも必要となっている。

特に山地災害防止機能や土壌保全機能が発揮されるためには、樹木の樹冠や下層植生が発達するとともに、樹木の根系が深く広く発達した森林である必要がある(資料1-16)。このような機能を持つ森林は、人工林の場合、植栽、保育、間伐等の森林整備を適切に行うことによって形成され、維持される。間伐による森林の多面的機能向上については、これまで研究により明らかにされてきたが、近年の研究成果においても、間伐を適切に行った林分は、無間伐の場合と比べて立木の間隔が広がることにより、根の広がりが促進されることや、間伐によって林内の光環境が改善し、下層植生が発達することにより表面侵食による土壌流出を低減すること等が報告されている(*26)。

資料1-16 山地災害防止機能/土壌保全機能を有する森林のイメージ

平成30(2018)年に改定された「国土強じん化基本計画」(平成30(2018)年12月14日閣議決定)の推進方針では、森林の整備・保全等を通じた防災・減災対策を推進することとしている。また、林業生産活動を持続させ、森林を適切に保全管理することを通じて、国土保全機能を適切に発揮させるとともに、地域で生産される木材の積極的な利用及び土木・建築分野におけるCLT(直交集成板)(*27)等の木材を利用するための工法の開発・普及等を進めることとしている。


(*23)針葉樹一斉人工林を帯状、群状等に択伐し、その跡地に人工更新等により複数の樹冠層を有する森林を造成すること。

(*24)従来の単層林施業が40~50年程度で主伐(皆伐)することを目的としていることが多いのに対し、これのおおむね2倍に相当する林齢まで森林を育成し主伐を行うこと。

(*25)針葉樹一斉人工林を帯状、群状等に択伐し、その跡地に広葉樹を天然更新等により生育させることにより、針葉樹と広葉樹が混在する針広混交林や広葉樹林にすること。

(*26)藤堂千景ほか(2015)間伐がスギの最大引き倒し抵抗モーメントにもたらす影響、宇都木玄ほか(2007)人工林施業に伴うトドマツ人工林内下層植生現存量の変化、恩田裕一(2008)人工林荒廃と水・土砂流出の実態, 岩波書店: 139-140. ほか

(*27)「Cross Laminated Timber」の略。詳しくは、第3章第3節(9)210-212ページを参照。



(森林整備の実施状況)

このため、我が国では、「森林法」に基づく森林計画制度等により計画的かつ適切な森林整備を推進している(*28)。

また、地球温暖化対策として、我が国は、令和2(2020)年度における温室効果ガス削減目標を平成17(2005)年度総排出量比3.8%減以上としており、森林吸収源対策により約3,800万CO2トン(2.7%)以上の吸収量を確保することとしている。この森林吸収量の目標を達成するため、「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法(*29)」(以下「間伐等特措法」という。)に基づき農林水産大臣が定める「特定間伐等及び特定母樹の増殖の実施の促進に関する基本指針」では、平成25(2013)年度から令和2(2020)年度までの8年間において、年平均52万haの間伐を実施することとしている(*30)。

このような中、林野庁では、森林所有者等による主伐後の再造林や間伐等の森林施業や路網整備に対して、「森林整備事業」により支援を行っている。この中では、「森林経営計画(*31)」の作成者等が施業の集約化や路網整備等を通じて低コスト化を図りつつ計画的に実施する施業に対し、支援を行っているほか、所有者の自助努力によっては適正な整備が期待できない急傾斜地等の条件不利地において、市町村等が森林所有者と協定を締結して実施する施業等に対し支援を行っている。

また、国有林野事業では、間伐の適切な実施や針広混交林化、モザイク状に配置された森林への誘導等、多様な森林整備を推進している(*32)。

平成30(2018)年度の主な森林整備の実施状況は、近年の主伐面積が推計値で年約7~8万haとなっている(*33)中、人工造林の面積が3.0万haであり、このうち複層林の造成を目的として樹下に苗木を植栽する樹下植栽は0.5万haであった。また、保育等の森林施業を行った面積は51万haであり、このうち間伐の面積は37万haであった(資料1-17)。


(*28)森林計画制度については、第1章第1節(2)56-60ページを参照。

(*29)「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」(平成20年法律第32号)

(*30)地球温暖化対策については、第1章第4節(2)99-102ページを参照。

(*31)森林経営計画については、第2章第1節(4)126ページを参照。

(*32)国有林野事業の具体的取組については、第4章(217-218ページ)を参照。

(*33)林野庁「森林・林業統計要覧」



(公的な関与による森林整備の状況)

ダムの上流域等の水源地域に所在する水源かん養上重要な保安林のうち、水源かん養機能等が低下している箇所においては、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センターが実施する「水源林造成事業」により水源をかん養するための森林の造成が行われている。同事業は、土地所有者、造林者及び国立研究開発法人森林研究・整備機構の3者が分収造林契約(*34)を締結して、土地所有者が土地の提供を、造林者が植栽、植栽木の保育及び造林地の管理を、同機構が植栽や保育に要する費用の負担と技術の指導を行うものである。同事業により、平成30(2018)年度末までに全国では約48万haの水源林が造成・管理されている(*35)。

また、森林所有者による整備が進みにくい地域においては、都道府県によって設立された法人である林業公社が、分収方式による造林を推進してきた。林業公社はこれまで、全国で約40万haの森林を造成し、森林の有する多面的機能の発揮や、雇用の創出等に重要な役割を果たしてきた。平成31(2019)年3月末現在、24都県に26の林業公社が設置されており、これらの公社が管理する分収林は、全国で約31万ha(民有林の約2%)となっている。林業公社の経営は、個々の林業公社により差があるものの、木材価格の長期的な下落等の社会情勢の変化や森林造成に要した借入金の累増等により、総じて厳しい状況にあり、経営健全化が必要となっている。

このため、林業公社に対しては、林野庁の補助事業により、収益性の向上に資する分収比率の見直し等の取組や、森林の有する多面的機能の発揮の観点から行う森林整備等に支援を行っているほか、金融措置や地方財政措置による支援も講じられている。各林業公社は、このような支援等も活用しつつ、経営改善に取り組んでいる。

このほか、「治山事業」により、森林所有者等の責めに帰することができない原因により荒廃し、機能が低下した保安林の整備が行われている(*36)。


(*34)一定の割合による収益の分収を条件として、「分収林特別措置法」(昭和33年法律第57号)に基づき、造林地所有者、造林者及び造林費負担者のうちの3者又はいずれか2者が当事者となって締結する契約。

(*35)国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センターホームページ「水源林造成事業 分収造林契約実績」

(*36)治山事業については、第1章第3節(2)79-83ページを参照。



(災害による風倒木被害への対応)

平成30(2018)年の台風第21号や、令和元(2019)年の令和元年房総半島台風の強風による風倒木被害が発生している。風倒木による影響は森林にとどまらず、鉄道、道路や送配電線等のインフラ施設沿いの樹木が倒れ、交通網の遮断や停電等により市民生活に大きな影響を与えた事例も発生した(事例1-3)。

被害を受けた森林の復旧に向けては、森林災害復旧事業や森林整備事業により、被害木の処理やその後の植栽等への支援を行っている。

一般に、形状比(*37)が高い樹木や樹冠長率(*38)が低い樹木が風害を受けやすいとされており、風倒木被害を防止するためには、適切に間伐を行い、森林の生長に応じて樹木の形状比や樹冠長率を適切に維持することが重要である。一方、インフラ施設周辺の森林は、林地が分断され、高性能林業機械の乗り入れが難しいこと等により森林整備が進みにくい傾向が見られることから、適切な森林整備を行うことを通じて、倒木等の被害の未然防止につなげていく取組を進めることとしている。

また、風倒木被害等の自然災害に対しては、森林所有者自らに備えてもらう観点から、災害に備える森林保険への加入促進を進めることとしている。

事例1-3 台風による風倒被害を受けた森林の再生に向けて

平成30(2018)年9月の台風第21号により、京都府京都市では、252haの森林で風倒木被害が発生した。倒木は道路、線路沿いや民家裏でも発生し、叡山えいざん電車が約2ヶ月間の長期運休を余儀なくされるなど、市民生活に大きな影響があった。

風倒木被害地への対応として、市民生活への影響を考慮し、道路、民家等に近接する箇所のうち、土砂流出が懸念される箇所について優先して倒木処理を進めることとし、令和2(2020)年1月末時点で70haに着手(うち22ha完了)している。

京都市は、今後同様の被害を繰り返さないため、令和元(2019)年11月に「針葉樹人工林の風倒木被害地における森林再生の指針(平成30年台風21号被害)」を策定している。この指針では、風倒木被害地について、地域生態系に配慮した適地適木の考え方の下で防災的機能を持つ森林へと誘導するとともに、林業としての経済性も追求することを基本理念として、(ア)広葉樹を中心とした多様な樹種からなる森林への誘導、(イ)針葉樹人工林の適正な保育の推進、(ウ)道路沿い等への中低木植栽の3点を再生方針として掲げ、森林再生に取り組むとしている。



(*37)樹木の形状を示す指標で、樹木の高さをその樹木の直径で割った値。

(*38)林木の形態を表す指標で、樹高に対する樹冠(枝葉部分)の長さの割合。



(適正な森林施業の確保等のための措置)

我が国では、適切な森林整備の実施を確保するため、「森林法」に基づき、「市町村森林整備計画」で伐採、造林、保育等の森林整備の標準的な方法を示しており、森林所有者等が森林を伐採する場合には、市町村長にあらかじめ伐採及び伐採後の造林の計画等を記載した届出書を提出することとされている(*39)。また、市町村が伐採後の森林の状況を把握しやすくし、指導・監督を通じた再造林を確保するため、同法に基づき、森林所有者等は、市町村長へ伐採後の造林の状況を報告することとされている(*40)(以下「伐採届出制度」という)。

今般、届出書の偽造等により、森林所有者に無断で森林の伐採が行われる事案が発生しており、林野庁において都道府県調査を行ったところ、市町村又は都道府県に無断伐採に関する情報や相談等がなされた件数は、平成30(2018)年1月から12月までの間に78件あった。林野庁では、無断伐採の未然防止を図るため、平成31(2019)年3月から、(ア)伐採届における届出内容の確認の徹底、(イ)森林経営管理制度等を活用した優良業者の育成及び悪質業者の排除、(ウ)合法伐採木材の流通の徹底といった対策を進めている。


(*39)「森林法」第10条の8第1項

(*40)「森林法」第10条の8第2項



(優良種苗の安定供給)

現在、戦後造林された人工林を中心に本格的な利用期を迎えており、今後、主伐の増加が見込まれる中、主伐後の再造林に必要な苗木の安定的な供給を図ることが一層重要になっている。

我が国における山行やまゆき苗木(*41)の生産量は、平成25(2013)年の約56百万本を底に増加に転じており、平成30(2018)年度は約60百万本となっているが、このうち約2割をコンテナ苗(*42)が占めるようになるなど、今後の森林施業の在り方を見据えた苗木の安定供給が進められている(資料1-18)。


生産された苗木のうち、針葉樹ではスギが約21百万本、ヒノキが約6百万本、カラマツが約15百万本、マツ類が約3百万本となっており、広葉樹では約5百万本となっている。また、苗木生産事業者数は、全国で約810となっている(*43)。苗木の需給については、地域ごとに過不足が生ずる場合もあることから、必要量の確保のため、林業用種苗需給連絡協議会等を活用し、地域間での需給情報の共有等が行われている。


(*41)その年の造林に用いる苗木。

(*42)コンテナ苗について詳しくは、第2章第1節(4)134ページを参照。

(*43)林野庁整備課調べ。



(花粉発生源対策)

近年では、国民の3割が患し(*44)国民病ともいわれる花粉症(*45)への対策が課題となっている。このため、関係省庁が連携して、発症や症状悪化の原因究明、予防方法や治療方法の研究、花粉飛散量の予測、花粉の発生源対策等により、総合的な花粉症対策を進めている。

林野庁では、(ア)花粉を飛散させるスギ人工林等の伐採・利用、(イ)花粉症対策に資する苗木(*46)による植替えや広葉樹の導入、(ウ)スギ花粉の発生を抑える技術の実用化の「3本の“斧”」による花粉発生源対策に取り組んできている。

花粉症対策に資する苗木の生産拡大に向けては、少花粉スギ等の種子を短期間で効率的に生産する「ミニチュア採種園」や苗木生産施設の整備、コンテナ苗生産技術の普及等に取り組んでいる。その結果、平成30(2018)年度のスギの花粉症対策に資する苗木の生産量は約1,097万本(スギ苗木全体の約5割)に増加した(資料1-19)。引き続き、同苗木の需要及び生産の拡大を推進することとしている。


また、スギ花粉の発生を抑える技術の実用化については、自然界に生育しスギ雄花を枯らす菌類を活用したスギ花粉飛散防止剤が開発され、その抑制効果が証明された。現在、実用化に向けて、スギ林への効果的な散布方法の確立や薬剤散布による生態系への影響調査等を進めている(*47)。さらに、これらの取組に加えて、毎年春の花粉飛散予測に必要なスギ雄花の着花量調査や、ヒノキ雄花の観測技術の開発も進めている。

平成30(2018)年4月に改正された「スギ花粉発生源対策推進方針」(*48)では、スギ苗木の年間生産量に占めるスギの花粉症対策に資する苗木の割合を令和14(2032)年度までに約7割に増加させる目標や、森林資源の循環利用のサイクルの確立といった林業の成長産業化に向けた取組を通じてスギ花粉発生源対策を推進することなどが盛り込まれている。


(*44)馬場廣太郎, 中江公裕(2008)鼻アレルギーの全国疫学調査 2008(1998年との比較)―耳鼻咽喉科およびその家族を対象として―,Progress in Medicine, 28(8): 145-156.

(*45)花粉に対して起こるアレルギー反応で、体の免疫反応が花粉に対して過剰に作用して、くしゃみや鼻水等を引き起こす疾患であるが、その発症メカニズムについては、大気汚染や食生活等の生活習慣の変化による影響も指摘されており、十分には解明されていない。

(*46)花粉症対策品種(ほとんど、又は、全く花粉を作らない品種)の苗木及び間伐等特措法第2条第2項に規定する特定母樹から採取された種穂から生産された苗木。

(*47)菌類を用いたスギ花粉飛散防止剤の開発については、「平成28年度森林及び林業の動向」第1章第2節(4)30ページを参照。

(*48)国、都道府県、市町村、森林・林業関係者等が一体となってスギ花粉発生源対策に取り組むことが重要であるとの観点から、技術的助言等を林野庁が取りまとめたもの。



お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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