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林野庁

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第1部 第4章 第2節 国有林野事業の具体的取組(3)

(3)「国民の森林もり」としての管理経営等

国有林野事業では、国有林野を「国民の森林もり」として位置付け、国民に対する情報の公開、フィールドの提供、森林・林業に関する普及啓発等により、国民に開かれた管理経営に努めている。

また、国有林野が、国民共通の財産であるとともに、それぞれの地域における資源でもあることを踏まえ、地域振興へ寄与する国有林野の活用にも取り組んでいる。

さらに、東日本大震災からの復旧及び復興に貢献するため、国有林野等における被害の復旧に取り組むとともに、被災地のニーズに応じて、海岸防災林の再生や原子力災害からの復旧等に取り組んでいる。


(ア)「国民の森林もり」としての管理経営

(国有林野事業への理解と支援に向けた多様な情報受発信)

国有林野事業では、「国民の森林もり」としての管理経営の推進と、その透明性の確保を図るため、事業の実施に係る情報の発信や森林環境教育の活動支援等を通じて、森林・林業に関する情報提供や普及・啓発に取り組んでいる。

また、各森林管理局の「地域管理経営計画」等の策定に当たっては、計画案についてパブリックコメント制度を活用するとともに、計画案の作成前の段階から広く国民の意見を集めるなど、対話型の取組による双方向の情報受発信を推進している。

さらに、国有林野における活動全般について国民の意見を聴取するため、一般公募により「国有林モニター」を選定し、「国有林モニター会議」や現地見学会、アンケート調査等を行っている。国有林モニターには、令和2(2020)年4月現在、全国で373名が登録している。

このほか、ホームページの内容の充実に努めるとともに、森林管理局の新たな取組や年間の業務予定等を公表するなど、国民への情報発信に積極的に取り組んでいる。


(森林環境教育の推進)

国有林野事業では、森林環境教育の場としての国有林野の利用を進めるため、森林環境教育のプログラムの整備、フィールドの提供等に取り組んでいる(事例4-10)。

事例4-10 「山の日」記念イベントで森林散策のバーチャル体験を実施

近畿中国森林管理局では、ウィズコロナ下に対応した新たな森林とのふれあい体験ツールとして、VR(バーチャル・リアリティ)技術を用いた森林散策が可能となるデジタルコンテンツの提供を開始した。

同森林管理局が令和2(2020)年8月に開催した国民の祝日「山の日」を記念するイベントにおいて、家族連れを中心とした一般参加者を対象に「VR森林散策」等を実施した。参加者は、自身のスマートフォンや会場のスクリーンに映し出されるVR動画を通じて、箕面みのお国有林(大阪府箕面市)の大ケヤキやニホンザル、大悲山だいひざん国有林(京都府京都市)にある日本一の樹高を誇る「花脊はなせの三本杉」を3Dで体験し、都市に居ながら、普段気軽に目にすることができない貴重な自然景観を身近に感じる感覚を味わった。

VR技術の活用により、時と場所を選ばずに、森林・林業への理解を深める機会を広く提供できるため、同局は引き続き、様々な森林空間を題材にしたVR動画の配信に取り組むこととしている。





この一環として、学校等と森林管理署等が協定を結び、国有林野の豊かな森林環境を子供たちに提供する「遊々ゆうゆうの森」を設定している。令和元(2019)年度末現在、154か所で協定が締結されており、地域の地方公共団体、NPO等の主催により、森林教室や自然観察、体験林業等の様々な活動が行われている。

また、環境教育に取り組む教育関係者の活動を支援するため、教職員やボランティアのリーダー等に対する技術指導、森林環境教育のプログラムや教材の提供等に取り組んでいる。


(地域やNPO等との連携)

国有林野事業では、国民参加の森林づくりの推進のため、NPO等が行う自主的な森林整備等へのフィールド提供のほか、NPO等に継続的に森林づくり活動に参加してもらえるよう、技術指導や助言及び講師の派遣等の支援に取り組んでいる。

地域の森林の特色を活かした効果的な森林管理が期待される地域においては、各森林管理局が、地方公共団体、NPO、自然保護団体等と連携して森林整備・保全活動を行う「モデルプロジェクト」を実施している。

例えば、群馬県みなかみまちに広がる国有林野約1万haを対象にした「赤谷あかやプロジェクト」は、平成15(2003)年度から、関東森林管理局、地域住民で組織する「赤谷プロジェクト地域協議会」及び公益財団法人日本自然保護協会の協働により、生物多様性の復元と持続可能な地域づくりを目指した森林管理を実施している。

また、自ら森林もりづくりを行うことを希望するNPO等と協定を締結して森林もりづくりのフィールドを提供する「ふれあいの森」を設定しており、令和元(2019)年度末現在、全国で131か所が設定されている。

このほか、企業の社会的責任(CSR)活動等を目的とした森林づくり活動へのフィールドを提供する「社会貢献の森」、森林保全を目的とした森林パトロール、美化活動等のフィールドを提供する「多様な活動の森」を設定しており、令和元(2019)年度末現在、全国でそれぞれ180か所、78か所が設定されている。さらに、国有林野事業では、歴史的に重要な木造建造物や各地の祭礼行事、伝統工芸等の次代に引き継ぐべき木の文化を守るため、「木の文化を支える森」を設定している(資料4-14)。「木の文化を支える森」には、歴史的木造建造物の修復等に必要となる木材を安定的に供給することを目的とする「古事の森」、神社の祭礼で用いる資材の供給を目的とする「御柱おんばしらの森」等がある。

「木の文化を支える森」は、令和元(2019)年度末現在、全国で合計24か所が設定されており、地元の地方公共団体等から成る協議会が、作業見学会の開催や下刈り作業の実施等に継続的に取り組むなど、国民参加による森林もりづくり活動が進められている。


(分収林制度による森林もりづくり)

国有林野事業では、将来の木材販売による収益を分け合うことを前提に、契約者が苗木を植えて育てる「分収造林」や、契約者が費用の一部を負担して国が森林を育てる「分収育林」を通じて、国民参加の森林もりづくりを進めている。令和元(2019)年度末現在の設定面積は、分収造林で約10.2万ha、分収育林で約1.2万haとなっている(*10)。

分収育林の契約者である「緑のオーナー」に対しては、契約対象森林への案内や植樹祭等のイベントへの招待等を行うことにより、森林と触れ合う機会の提供等に努めるとともに、契約者からの多様な意向に応えるため、10年から20年程度契約を延長することも可能としている。

また、分収林制度を活用し、企業等が契約者となって社会貢献、社員教育及び顧客との触れ合いの場として森林もりづくりを行う「法人の森林もり」も設定している。令和元(2019)年度末時点で、「法人の森林もり」の設定箇所数は472か所、設定面積は約2.3千haとなっている。


(*10)個人等を対象とした分収育林の一般公募は、平成11(1999)年度から休止している。



(イ)地域振興への寄与

(国有林野の貸付け・売払い)

国有林野事業では、農林業を始めとする地域産業の振興、住民の福祉の向上等に貢献するため、地方公共団体や地元住民等に対して、国有林野の貸付けを行っている。令和元(2019)年度末現在の貸付面積は約7.2万haで、道路、電気・通信、ダム等の公用、公共用又は公益事業用の施設用地が49%、農地や採草放牧地が14%を占めている。

このうち、公益事業用の施設用地については、「FIT制度(*11)」に基づき経済産業省から発電事業の認定を受けた事業者も貸付対象としており、令和元(2019)年度末現在で約311haの貸付けを行っている。

また、国有林野の一部に、地元住民を対象として、薪炭材等の自家用林産物採取等を目的とした共同利用を認める「共用林野」を設定している。共用林野は、自家用の落葉や落枝の採取、地域住民の共同のエネルギー源としての立木の伐採、山菜やきのこ類の採取等を行う「普通共用林野」、自家用薪炭のための原木採取を行う「薪炭共用林野」及び家畜の放牧を行う「放牧共用林野」の3つに区分される。これらに加えて、平成31(2019)年4月に成立した「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(*12)」に基づき、アイヌ文化の振興等に必要な林産物の採取を行う新たな共用林野の設定をしている(事例4-11)。共用林野の設定面積は、令和元(2019)年度末現在で、117万haとなっている。

さらに、国有林野のうち、住民福祉の向上等に必要な森林、苗畑及び貯木場の跡地等については、地方公共団体等への売払いを行っている。令和元(2019)年度には、ダム用地や道路用地等として、計194haの売払い等を行った。

事例4-11 アイヌ文化の振興等のための共用林野設定の取組

令和元(2019)年に施行された「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(平成31年法律第16号)により、共用林野制度を活用して国有林野からアイヌ文化の振興等に利用する林産物を採取することが可能になった。

令和2(2020)年7月、北海道森林管理局日高ひだか南部森林管理署(北海道新ひだかちょう)では、本制度を用いた初の共用林野の契約を新ひだか町と締結した。

これまで地元のアイヌ関連団体は、アイヌの祭具である「イナウ」の材料となるヤナギを河川敷などにおいて採取してきたが、近年、資源が減少傾向にあった。こうした中、この契約により、約1,000haの国有林野から毎年ヤナギの枝600本の採取が可能となり、今後は祭具の材料を国有林野から安定的に採取できることが期待できるとの評価を得ている。

北海道森林管理局では、引き続きアイヌ文化の振興等に寄与するため、共用林野制度の活用を含めた国有林野の活用支援等を行っていくこととしている。



(*11)FIT制度については、第3章第2節(3)189-190ページを参照。

(*12)アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(平成31年法律第16号)



(公衆の保健のための活用)

国有林野事業では、優れた自然景観を有し、森林浴、自然観察、野外スポーツ等に適した国有林野について、令和2(2020)年4月現在、全国で620か所、約27万haを「自然休養林」、「自然観察教育林」等の「レクリエーションの森」に設定している(資料4-15)。令和元(2019)年度には、「レクリエーションの森」において、延べ約1.3億人の利用があった。


「レクリエーションの森」では、地元の地方公共団体を核とする「「レクリエーションの森」管理運営協議会」を始めとした地域の関係者と森林管理署等が連携しながら、利用者のニーズに即した管理運営を行っている。

管理運営に当たっては、利用者からの「森林環境整備推進協力金」による収入や、「サポーター制度」に基づく企業等からの資金も活用している。このうち、サポーター制度は、企業等がCSR活動の一環として、「「レクリエーションの森」管理運営協議会」との協定に基づき、「レクリエーションの森」の整備に必要な資金や労務を提供する制度であり、令和元(2019)年度末現在、全国11か所の「レクリエーションの森」において、延べ18の企業等がサポーターとなっている。


(観光資源としての活用の推進)

平成29(2017)年4月、観光資源としての潜在的魅力がある「レクリエーションの森」を「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」として全国で93か所選定した(*13)(資料4-16)。これらについては、外国人観光客も含めた利用者の増加を目的に、標識類等の多言語化、施設整備等の重点的な環境整備やウェブサイト等による情報発信の強化に取り組んでいる(事例4-12)。令和3(2021)年3月には全国3か所の「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」について、魅力を伝える動画を農林水産省公式YouTubeチャンネル及びホームページで公開したほか、それぞれの「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」における四季折々の姿や地元のイベント等を最新情報として紹介するなど魅力の発信に取り組んだ(*14)。

資料4-16 「日本美しの森 お薦め国有林」の例

事例4-12 地域と連携した「日本美にっぽんうつくしの森 お薦め国有林」における景観保全の取組

「日本美しの森 お薦め国有林」の田代原たしろばる風致探勝林を含む奥雲仙田代原おくうんぜんたしろばる地域では、以前、一帯の放牧地及びその周辺で、鮮やかなピンク色の花を咲かせるミヤマキリシマが多くの観光客を楽しませていたが、近年の放牧地減少に伴い、他の樹木が生育地を広げたため、ミヤマキリシマの群落が減少していた。

この状況を打開するため、平成17年(2005)年に地元有志による「NPO法人奥雲仙おくうんぜんの自然を守る会」が設立され、以来、令和2(2020)年度まで毎年度、ミヤマキリシマの生育に支障となる樹木の除去等、ミヤマキリシマの保全活動が継続して行われている。

長崎森林管理署(長崎県諫早いさはや市)は、この保全活動により復活したミヤマキリシマを多くの方に楽しんでもらうため、同NPO法人をはじめとした地域関係者と連携し国有林野内の整備を行っている。平成30(2018)年度からは、これらの地域関係者と調整を行いながら、利用者等の要望を踏まえ、眺望を確保するための修景伐採に取り組んでおり、令和2(2020)年度に同風致探勝林内を横断する県道沿いにおいて実施したことで、ミヤマキリシマを車中からも見ることができるようになった。同署は今後も地域と連携しながら美しい景観の維持に努めていくこととしている。



(*13)「日本美しの森 お薦め国有林」の選定については、「平成29年度森林及び林業の動向」トピックス4(8-9ページ)を参照。

(*14)民有林を含めた森林を観光資源として活用する取組については、第2章第3節(2)149-150ページを参照。



(ウ)東日本大震災からの復旧・復興

(応急復旧と海岸防災林の再生)

平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災からの復旧・復興に当たって、森林管理局や森林管理署等では、地域に密着した国の出先機関として地域の期待に応えるため、震災直後には、ヘリコプターによる現地調査、担当官の派遣、支援物資の搬送等を行ったほか、10年にわたり様々な取組を行ってきた。

中でも海岸防災林の再生については、国有林における海岸防災林の復旧工事を行うとともに、民有林においても民有林直轄治山事業等により復旧に取り組んできたほか、海岸防災林の復旧工事に必要な資材として使用される木材について、国有林野からの供給も行ってきた。


(原子力災害からの復旧への貢献)

東京電力福島第一原子力発電所の事故による原子力災害への対応については、平成23(2011)年度から福島県内の国有林野において環境放射線モニタリングを実施し、その結果を市町村等に提供しているほか、森林除染に関する知見の集積、林業再生等のための実証事業、国有林野からの安全なきのこ原木の供給等の支援を行った。さらに、環境省や市町村等に対して、除去土壌等の仮置場用地として国有林野の無償貸付け等を実施しており、令和2(2020)年9月末現在、福島県、茨城県、群馬県及び宮城県の4県19か所で計約68haの国有林野が仮置場用地として利用されている。

なお、避難指示解除区域における森林整備事業の再開が可能な地域については、森林事務所を再開し、事業に本格的に着手している。今後も、避難指示解除区域における森林整備や木材生産を着実に実施していくこととしている(*15)。


(*15)「平成30年度森林及び林業の動向」第5章第2節(3)のコラム(238ページ)を参照。


挿絵6

お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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