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林野庁

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第1部 第1章 第3節 森林保全の動向(2)

(2)山地災害等への対応

(山地災害等への迅速な対応)

我が国の国土は、地形が急峻かつ地質がぜい弱であることに加え、前線や台風に伴う豪雨や地震、豪雪等の自然現象が頻発することから、毎年、各地で多くの山地災害が発生している。

令和2(2020)年7月には、「令和2年7月豪雨」において、線状降水帯が多数発生するなど、全国各地で記録的な大雨となり、九州地方を始めとして林地荒廃や林道施設等の被害など、広域にわたり山地災害等が多発した。7月豪雨等の災害により、令和2(2020)年の山地災害等による被害額は約1,132億円に及んだ(*80)(資料1-26)。なお、令和元(2019)年には「令和元年東日本台風(台風第19号)」を始めとして約1,039億円、平成30(2018)年には「平成30年7月豪雨」を始めとする約2,526億円の山地災害等による被害が発生するなど、近年、日本各地で甚大な被害が発生している。

資料1-26 近年の山地災害等に伴う被害

林野庁では、山地災害が発生した場合には、初動時の迅速な対応に努めるとともに、二次災害の防止や早期復旧に向けた災害復旧事業等の実施に取り組んでいる。特に、大規模な災害が発生した場合には、被災地への林野庁本庁、森林管理局等の職員派遣(災害対策現地情報連絡員(リエゾン)・農林水産省のサポート・アドバイスチーム(MAFF-SAT))による技術的支援、被災都道府県等と連携したヘリコプターによる上空からの被害状況調査、JAXAとの協定に基づく人工衛星からの緊急観測結果の被災県等への情報提供等の支援も行っている(*81)。


(*80)山地災害(林地荒廃、治山施設)及び林道施設等の被害額。

(*81)山地災害の対応については、トピックス5(7ページ)及び第4章第2節(1)218-219ページも参照。



(近年の山地災害を踏まえた治山対策)

「令和元年東日本台風」では、東北、関東甲信越地域を中心に、広域で記録的な豪雨が観測され、宮城県を始め各地で山腹崩壊等が多発した。被災箇所では、令和2(2020)年12月末時点で、災害復旧事業等が29地区で完了し、90地区で実施中である。

「平成30年7月豪雨」の被災箇所では、特にマサ土(*82)等のぜい弱な地質地帯における土石流や山腹崩壊、花崗岩地帯におけるコアストーン(*83)等の巨石の流下等により、下流域に甚大な被害が発生した。これらの被災箇所では、令和2(2020)年12月末時点で、244地区で災害復旧事業等が完了した。特に激甚な被害が発生した広島県東広島市においては、国の直轄事業による早期復旧に取り組んでいる。また、過去に例のないような大規模かつ集中的な山地災害が発生した「平成30年北海道胆振いぶり東部地震」の被災箇所については、令和2(2020)年12月末時点で、53地区で工事が完了し、18地区で災害復旧事業等を実施中である(資料1-27)。


(*82)花崗岩が風化してできた砂状の土。

(*83)大きさ約2~3m程度の未風化の巨石。



(治山事業の実施)

国及び都道府県は、安全で安心して暮らせる国土づくり、豊かな水を育む森林づくりを推進するため、森林整備保全事業計画に基づき、山地災害の防止、水源のかん養、生活環境の保全等の森林の持つ公益的機能の確保が特に必要な保安林等において、治山施設の設置、機能の低下した森林の整備等を行う治山事業を実施している。

治山事業は、森林法で規定される保安施設事業と、「地すべり等防止法(*84)」で規定される地すべり防止工事に関する事業に大別される。保安施設事業では、山腹斜面の安定化、荒廃した渓流の復旧整備等のため、治山施設の設置や治山ダムのかさ上げ等の機能強化、森林の整備等を行っている。例えば、治山ダムを設置して荒廃した渓流を復旧する「渓間工」、崩壊した斜面の安定を図り森林を再生する「山腹工」等を実施しているほか、火山地域においても荒廃地の復旧整備等を実施している(事例1-4)。また、地すべり防止工事では、地すべりの発生因子を除去・軽減する「抑制工」や地すべりを直接抑える「抑止工」を実施している。

これらに加え、地域における避難体制の整備等のソフト対策と連携した取組として、山地災害危険地区(*85)に関する情報を地域住民に提供するとともに、土石流、泥流、地すべり等の発生を監視・観測する機器や雨量計等の整備を行っている。

近年、短時間強雨の発生回数が増加傾向にあることに加え、気候変動の影響により大雨の発生頻度が更に増加するおそれが高いことが指摘されており、今後、山地災害の発生リスクが一層高まることが懸念されている。また、近年の災害では、山腹崩壊等に伴う流木災害が頻発化しているなど、山地災害の発生形態も多様化している。このような中、例えば、兵庫県では、県独自の住民税の超過課税である「県民緑税」を活用し、渓流の倒木・流木の除去や山地の表面侵食防止のための伐倒木を活用した土留工設置など「災害に強い森づくり」の取組を進めている。

林野庁では、災害の発生状況や各地での取組を踏まえ、豪雨災害に関する今後の治山対策の在り方検討会を開催し、今後の気候変動を見据えて、森林の有する土砂流出防止機能・洪水緩和機能を適切に発揮させるための対策について令和3(2021)年3月に取りまとめを行ったところである。引き続き、山地災害危険地区の的確な把握、土砂流出防備保安林等の配備、ぜい弱な地質地帯における山腹崩壊等対策や巨石・流木対策、荒廃森林の整備、海岸防災林の整備等を推進するなど、総合的な治山対策により地域の安全・安心の確保を図ることとしている。

事例1-4 「令和2年7月豪雨」における岐阜県の治山施設の効果

令和2(2020)年7月3日から7月31日にかけて、日本付近に停滞した前線の影響で、暖かく湿った空気が継続して流れ込み、各地で豪雨となり、甚大な被害が発生した。

岐阜県でも7日から8日にかけて記録的な豪雨となり、浸水や土砂流出等によって大きな被害が生じ、林野関係でも、林地荒廃55か所、治山施設2か所、林道施設等被害493か所等の被害が発生した。

このような中、岐阜県下呂げろ宮田水洞みやだみずぼら地区では、岐阜県が整備した治山ダム群2基(平成29(2017)年度及び平成30(2018)年度施工)が渓床勾配を緩和(注1)し山脚(注2)を固定していたため、渓岸侵食を軽減するとともに土砂や流木が渓床に堆積し下流への流出が抑制され、当地区における災害による被害が軽減された。

注1:治山ダムの上流側に土砂が堆積し、渓流の傾斜が緩やかになること。

2:山の斜面の裾。



(*84)「地すべり等防止法」(昭和33年法律第30号)

(*85)平成29(2017)年3月末現在、全国で約19.4万か所。



(災害による風倒木被害への対応)

台風の強風により、しばしば大規模な風倒木の発生がみられる。近年では、平成30(2018)年の台風第21号や、令和元(2019)年の令和元年房総半島台風により被害が発生している。風倒木による影響は森林にとどまらず、道路、送配電線等のインフラ施設沿いの樹木が倒れ、大きな影響を与えた事例も発生した。

一般に、形状比(*86)が高い樹木や樹冠長率(*87)が低い樹木が風害を受けやすいとされており、風倒木被害を防止するためには、適切に間伐を行い、森林の生長に応じて樹木の形状比や樹冠長率を適切に維持することが重要である。一方、インフラ施設周辺の森林は、林地が分断され、高性能林業機械の乗り入れが難しいこと等により森林整備が進みにくい傾向が見られることから、森林所有者やインフラの施設管理者等が連携を図りつつ、適切な森林整備を行うことを通じて、倒木等の被害の未然防止につなげていく取組を進めることとしている。

風倒被害を受けた森林については、被害木の下流域への流出や、山地災害の発生等の二次被害のおそれがあることから、早期の復旧が重要であり、森林災害復旧事業や森林整備事業により、被害木の処理やその後の植栽等への支援を行っている。また、風倒木被害等の自然災害に対しては、森林所有者自らに備えてもらう観点から、災害に備える森林保険への加入促進を進めることとしている。


(*86)樹木の形状を示す指標で、樹木の高さをその樹木の胸高直径で割った値。

(*87)樹木の形態を表す指標で、樹高に対する樹冠(枝葉部分)の長さの割合。



(海岸防災林の整備)

我が国の海岸線の全長は約3.5万kmに及んでおり、潮害、季節風等による飛砂や風害等の被害を防ぐため、先人たちは、潮風等に耐性があり、根張りが良く、高く成長するマツ類を主体とする海岸防災林を造成してきた。これらの海岸防災林は、地域の暮らしと産業の保全に重要な役割を果たしているほか、白砂青松はくしゃせいしょうの美しい景観を提供するなど人々の憩いの場ともなっている。

このような中、東日本大震災で海岸防災林が一定の津波被害の軽減効果を発揮したことが確認されたことを踏まえ、平成24(2012)年に中央防災会議が決定した報告等の中で、海岸防災林の整備は、津波に対するハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の一つとして位置付けられた(*88)。

これらの報告や「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」が示した方針(*89)を踏まえ、林野庁では都道府県等と連携しつつ、地域の実情、生態系保全の必要性等を考慮しながら、東日本大震災により被災した海岸防災林の復旧・再生を進めてきた。これらの事業における生育基盤盛土造成により得られた知見等も活かしつつ、津波で根返りしにくい海岸防災林の造成や、飛砂害、風害及び潮害の防備等を目的とした海岸防災林の整備・保全を全国で進めている(*90)。


(*88)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議最終報告」(平成24(2012)年7月31日)、中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)

(*89)林野庁プレスリリース「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月1日付け)

(*90)東日本大震災により被災した海岸防災林の再生については、第5章第1節(3)242-246ページも参照。



(防災・減災、国土強じん化に向けた取組)

平成30(2018)年に改定された「国土強靱化基本計画」では、事前防災・減災のための山地災害対策を強化すると位置付けられている。また、平成30年度より、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30(2018)年12月14日閣議決定)に基づき、緊急点検の結果、早急な対策が必要と判明した地区において、流木対策等としての治山施設の設置、海岸防災林の整備、森林造成、間伐、林道改良等を実施したところである。

引き続き、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図り、災害に屈しない強靱な国土づくりを進める必要があることから「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2(2020)年12月11日閣議決定)が取りまとめられ、林野庁では、山地災害危険地区や重要なインフラ施設周辺等における治山対策や森林整備対策を加速化・深化し、「災害に強い森林づくり」を通じた国土強靱化の取組を推進することとしている。さらに、近年、各地において激甚な洪水被害が発生している中、気候変動による水災害リスクの増大に備えるために、流域全体のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う「流域治水」の取組と連携し、河川上流域等での森林の整備・保全の取組を各地域で推進し、河川の氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策に取り組んでいくこととしている。

コラム 「災害に強い森林づくり」を通じた「緑の国土強じん化」

気候変動の影響による大雨等の増加に伴って、流木災害、風倒木、河川の氾濫・浸水等の新たな災害リスクが顕在化し、また、地震による被害が生じるなど、近年の災害は多様化してきている。国は、平成30(2018)年度から「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」を集中的に講じてきた。しかし、災害の激甚化・頻発化やインフラ施設の老朽化等に対する備えが引き続き必要な状況にあることから、令和3(2021)年度から令和7(2025)年度まで国土強靱化に関する施策の更なる加速化・深化を図り、重点的かつ集中的に対策を講ずる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を令和2(2020)年12月に閣議決定した。この中で、近年の多様化する山地災害に備えるため、土石流等のリスクが高い地域、氾濫河川上流域や重要インフラ周辺等における治山施設の整備等の治山対策や間伐等の森林整備を講じることとしている。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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