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林野庁

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第1部 第2章 第3節 森林保全の動向(2)


(2)治山対策の展開

(山地災害への迅速な対応)

我が国の国土は、地形が急峻かつ地質がぜい弱であることに加え、前線や台風に伴う豪雨や地震等の自然現象が頻発することから、毎年、各地で多くの山地災害が発生している。

平成30(2018)年には「平成30年7月豪雨」により、広島県を始め、西日本の広域において記録的な豪雨が観測され、多数の山腹崩壊、土石流等が発生し、林野関係では36道府県において被害箇所12,734か所、被害額約1,659億円の甚大な被害をもたらした(*78)。

また、同9月には「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」により、北海道胆振地方を中心に多数の山腹崩壊等が発生し、被害箇所446か所、被害額約475億円の甚大な被害をもたらした(*79)。

これらの豪雨や地震等により、平成30(2018)年の山地災害による被害は約2,068億円に及んだ(資料2-25)。この他にも、平成29(2017)年には「平成29年7月九州北部豪雨」、平成28(2016)年には「平成28年(2016年)熊本地震」を始めとした災害が頻発しており、日本各地で甚大な被害が引き起こされた。

林野庁では、山地災害が発生した場合には、初動時の迅速な対応に努めるとともに、二次災害の防止や早期復旧に向けた災害復旧事業等の実施等に取り組んでいる。特に、大規模な災害が発生した場合には、地方公共団体への職員派遣や、被災都道府県等と連携したヘリコプターによる上空からの被害状況調査等の支援も行っている(*80)。


(*78)詳しくは、トピックス(2-3ページ)を参照。

(*79)詳しくは、トピックス(2-3ページ)を参照。

(*80)山地災害の対応について詳しくは、トピックス2-3ページ及び、第5章(219ページ)を参照。



(近年の山地災害を踏まえた治山対策)

「平成29年7月九州北部豪雨」による流木災害等の発生を受けて実施された緊急点検により選定された約1,200地区(*81)においては、令和2(2020)年度までのおおむね3年間で、流木捕捉式治山ダム等の治山施設の設置、樹木の根や下草の発達を促す間伐等の森林整備を実施する、「流木災害防止緊急治山対策プロジェクト」を推進している(*82)。同プロジェクトの進捗状況は、平成31(2019)年1月末現在、6割以上で着手済みとなっている(資料2-26)。

資料2-26 流木捕捉式治山ダムの設置状況

「平成30年7月豪雨」では、特にマサ土等のぜい弱な地質地帯における土石流、山腹崩壊や、花崗岩地帯におけるコアストーン等の巨石の流下等により、下流域に甚大な被害が発生した。このことを踏まえ、林野庁は、同様の災害の発生や激甚化、多様化する山地災害への対応に向けて「平成30年7月豪雨を踏まえた治山対策検討チーム」を設置し、検討結果について同11月に「中間取りまとめ」として公表した(*83)。

また、「平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震」で大きな被害が発生した原因として、岩盤などに比べて強度が高くない火山灰の地層であったこと、斜面の上部や凸型斜面において地形効果により地震動が増幅したことなどが挙げられ、今後の緊急的な対応として、航空レーザ計測等による危険箇所の早急な把握、大型土のうの設置や渓流内に残っている不安定土砂や危険木の除去、センサーの設置による警戒避難態勢の強化、治山ダムの設置等が必要であるとの調査結果(*84)を示した。

平成29(2017)年の緊急点検に加え、平成30(2018)年度は、近年の頻発する自然災害の発生を受け、山地災害危険地区や海岸防災林等の重要インフラの機能確保に向け、全国で「重要インフラの緊急点検」を実施した。これらを踏まえ、緊急に実施すべき対策としてまとめられた「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)に基づき、治山施設の設置等による荒廃山地の復旧・予防対策、植栽や防潮堤の設置等による海岸防災林の整備、流木捕捉式治山ダムの設置等の流木対策等を実施している。


(*81)中小河川の緊急点検を実施する国土交通省と連携し、全国の崩壊土砂流出危険地区、山腹崩壊危険地区等を対象に行った緊急点検により選定された、緊急的・集中的に流木対策が必要な地区。

(*82)林野庁プレスリリース「九州北部豪雨等を踏まえた流木災害防止緊急治山対策プロジェクトについて」(平成29(2017)年12月1日付け)

(*83)林野庁プレスリリース「「平成30年7月豪雨を踏まえた治山対策検討チーム」中間取りまとめについて」(平成30(2018)年11月13日付け。中間取りまとめの詳細については、82ページを参照。

(*84)林野庁ホームページ「平成30年北海道胆振東部地震によって発生した災害への対応について」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/saigai/joho/H30hokkaidojishin.html)


コラム 「平成30年7月豪雨」を踏まえた治山対策検討チーム中間取りまとめの概要

平成30(2018)年11月に公表された「平成30年7月豪雨を踏まえた治山対策検討チーム」中間取りまとめでは、平成30年7月豪雨における山地災害の発生メカニズムの分析・検証等を行った上で、今後の事前防災・減災に向けた効果的な治山対策の内容を示している。

今回の災害では、多くの観測点で24時間、48時間、72時間降水量が観測史上第1位を更新するような数日にわたる長時間の大雨が発生していた。このため、多量の雨水が凹地形等に集中し、土壌の飽和を伴いながら深い部分まで浸透し、根系(樹木の根)が分布する表土層及び一部風化した基岩と、基岩との境界を滑り面として崩壊が発生していた。また、長時間に及んだ降雨により、斜面が緩やかなため、通常崩壊が発生しにくい尾根部付近でも崩壊が多発するとともに、崩壊発生箇所は花崗岩等のぜい弱な地質地帯に集中していた。さらに、崩壊地に生育していた立木や崩壊土砂のほか、コアストーン注等の巨石が、著しく増加した流水により、渓流周辺の立木や土砂を巻き込みながら下流域に流下したことで、治山ダムの損壊や下流保全対象への被害の拡大につながった。

こうした今回の山地災害の特徴的なメカニズム等を踏まえ、(ア)ソフト対策の強化、(イ)コアストーンを含む巨石や土石流への対策、(ウ)ぜい弱な地質地帯における山腹崩壊等対策、(エ)流木対策、について整理している。また、これらの対策を地形や地質などの条件に応じて組み合わせ、山地災害を効果的に防御する『複合防御型治山対策』を推進することとしている。


注:大きさ約2~3m程度の未風化の花崗岩の巨石。


(治山事業の実施)

国及び都道府県は、安全で安心して暮らせる国土づくり、豊かな水を育む森林づくりを推進するため、「森林整備保全事業計画」に基づき、山地災害の防止、水源の涵(かん)養、生活環境の保全等の森林の持つ公益的機能の確保が特に必要な保安林等において、治山施設の設置や機能の低下した森林の整備等を行う治山事業を実施している。

治山事業は、「森林法」で規定される保安施設事業と、「地すべり等防止法(*85)」で規定される地すべり防止工事に関する事業に大別される。保安施設事業では、山腹斜面の安定化や荒廃した渓流の復旧整備等のため、治山施設の設置や治山ダムの嵩(かさ)上げ等の機能強化、森林の整備等を行っている。例えば、治山ダムを設置して荒廃した渓流を復旧する「渓間工」、崩壊した斜面の安定を図り森林を再生する「山腹工」等を実施しているほか、火山地域においても荒廃地の復旧整備等を実施している(事例2-5)。また、地すべり防止工事では、地すべりの発生因子を除去・軽減する「抑制工」や地すべりを直接抑える「抑止工」を実施している。

これらに加え、地域における避難体制の整備等のソフト対策と連携した取組として、山地災害危険地区(*86)に関する情報を地域住民に提供するとともに、土石流、泥流、地すべり等の発生を監視・観測する機器や雨量計等の整備を行っている。

近年、短時間強雨の発生頻度が増加傾向にあることに加え、気候変動により大雨の発生頻度が更に増加するおそれが高いことが指摘されており(*87)、今後、山地災害の発生リスクが一層高まることが懸念されている。このような中、平成26(2014)年に策定され、平成30(2018)年に改定された「国土強靱(じん)化基本計画」では、国土強靱化の推進方針として、山地災害対策の強化等が位置付けられており、内閣府の中央防災会議の下に設置された「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ」が平成27(2015)年に取りまとめた報告では、山地災害による被害を未然に防止・軽減する事前防災・減災対策に向けた治山対策を推進していく必要があるとされている。これらの状況を踏まえて、山地災害危険地区の的確な把握、土砂流出防備保安林等の配備、ぜい弱な地質地帯における山腹崩壊等対策や巨石・流木対策、荒廃森林の整備、海岸防災林の整備等を推進するなど、総合的な治山対策により地域の安全・安心の確保を図ることとしている。

事例2-5 「平成30年7月豪雨」における岡山県の治山施設の効果

平成30(2018)年7月5日から8日にかけて、停滞した梅雨前線に暖かく湿った空気が流れ込んだ影響等により、局地的には線状降水帯が形成・維持されたことから、西日本を中心に長期間かつ広範囲で記録的な大雨となった。

この大雨により、岡山県では、河川の氾濫等により大きな被害が生じ、林野関係でも、林地荒廃257か所、治山施設30か所、林道施設被害424か所など、甚大な被害が発生した。

岡山県笠岡(かさおか)市吉田地区では、今回の大雨により、山腹崩壊が発生した。しかし、岡山県が整備した治山ダム(昭和42(1967)年度施工)が、渓床や山脚(注1)を固定し、渓岸侵食による斜面崩壊を防ぐとともに、渓床勾配を緩和(注2)していたことにより土砂や流木が堆積し、崩壊土砂や流木の流出等が抑制された。これらの結果、当該地区の山地災害による被害が軽減された。


注1:山の斜面の裾(すそ)のこと。

2:治山ダムの上流側に土砂が堆積し、渓流の傾斜が緩やかになること。

治山ダム(昭和42年度施工)による流木の流出等の抑制効果(岡山県笠岡市吉田地区)

(*85)「地すべり等防止法」(昭和33年法律第30号)

(*86)平成29(2017)年3月末現在、全国で合計19.4万か所が調査・把握され、市町村へ周知されている。

(*87)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書(2014年11月)による。



(海岸防災林の整備)

我が国の海岸線の全長は約3.5万kmに及んでおり、潮害、季節風等による飛砂や風害等の被害を防ぐため、先人たちは、潮風等に耐性があり、根張りが良く、高く成長するマツ類を主体とする海岸防災林を造成してきた。これらの海岸防災林は、地域の暮らしと産業の保全に重要な役割を果たしているほか、白砂青松(はくしゃせいしょう)の美しい景観を提供するなど人々の憩いの場ともなっている。

このような中、東日本大震災で海岸防災林が一定の津波被害の軽減効果を発揮したことが確認されたことを踏まえ、平成24(2012)年に中央防災会議が決定した報告等の中で、海岸防災林の整備は、津波に対するハード・ソフト施策を組み合わせた「多重防御」の一つとして位置付けられた(*88)。

これらの報告や「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」が示した方針(*89)を踏まえ、林野庁では都道府県等と連携しつつ、地域の実情、生態系保全の必要性等を考慮しながら、東日本大震災により被災した海岸防災林の復旧・再生を進めてきた。これらの事業における生育基盤盛土造成により得られた知見等も活かしつつ、津波で根返りしにくい海岸防災林の造成や、飛砂害、風害及び潮害の防備等を目的とした海岸防災林の整備・保全を全国で進めている(*90)(事例2-6)。

事例2-6 「海岸防災林の生育基盤盛土造成のためのガイドライン(案)」を取りまとめ

津波により根返りした海岸防災林
津波により根返りした海岸防災林

生育基盤土の造成風景
生育基盤土の造成風景

林野庁は、海岸防災林の植栽木が健全に生長できる生育基盤の施工方法について、東日本大震災以降に被災地等で行われた施工実態を踏まえ、情報を分析した結果を、「海岸防災林の生育基盤盛土造成のためのガイドライン(案)」として取りまとめ、平成30(2018)年4月より全国の都道府県・森林管理局の事業担当者に向けて普及を行っている。

津波で被災した海岸防災林において、植栽地の地下水位が高い場合には、植栽木の根の生長が妨げられ、津波により根返りし流木化する事象がみられた。このため、地下水位が高い場合には、盛土を行い地下水位から一定の高さを確保した生育基盤を造成する必要がある。

しかし、これまで盛土を行ってから海岸防災林を造成した実績は少なく、盛土を締め固め過ぎて植栽木の根系の発達が阻害されるケースがあるなど、造成に当たっての知見も十分ではなかった。このため、海岸防災林の造成を行った箇所の生育基盤土の厚さや材料、盛土の固さ等の情報を収集し、植栽木の現況把握を行った上で、植栽木の根が健全に発達することが可能な盛土の施工方法について分析した結果を取りまとめた。

今後、ガイドライン(案)の活用により、津波による根返りのしにくい海岸防災林の造成を全国で推進していくこととしている。


資料:林野庁「海岸防災林の生育基盤盛土造成のためのガイドライン(案)」

コラム 重要インフラ緊急点検に基づく「防災・減災、国土強靱(じん)化のための3か年緊急対策」

平成30(2018)年に発生した一連の激甚な災害により、重要なインフラの機能に多大な影響が発生したことを受けて、重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会合(平成30(2018)年9月21日)が開催され、総理の指示に基づき、各省庁は重要インフラを緊急点検することとなった。さらに、緊急点検等に基づいて行う「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30(2018)年12月14日閣議決定)が取りまとめられた。

こうした中で、林野庁は治山分野及び森林分野において、山腹の崩壊状況、渓流や森林の荒廃状況、海岸防災林の生育状況、林道法面(のりめん)の状況や迂回路機能等の緊急点検を実施し、3か年の内に早急な対策が必要と判明した地区において、治山施設の設置や海岸防災林の整備、森林造成や間伐等を実施するとともに、平成29(2017)年から着手している「流木災害防止緊急治山対策プロジェクト」の加速化を含めた緊急対策を講じることとなった。

また、平成26(2014)年の策定以降、5年ぶりの改定となった「国土強靱化基本計画」(平成30(2018)年12月14日閣議決定)には、国土強靱化の推進方針として、前述の3か年緊急対策とともに、山地災害が発生する危険性の高い地区の的確な把握、保安林の適正な配備、治山施設の整備や森林の整備を組み合わせた対策等、事前防災・減災のための山地災害対策を強化すると位置付けられており、今後、同計画を踏まえて被災地の着実な復旧や国土の強靱化に向けた治山対策と森林整備に積極的に取り組んでいくこととしている。

重要インフラ緊急点検に基づく「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」

(*88)中央防災会議防災対策推進検討会議「防災対策推進検討会議最終報告」(平成24(2012)年7月31日)、中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ「南海トラフ巨大地震対策について(最終報告)」(平成25(2013)年5月28日)、中央防災会議防災対策推進検討会議津波避難対策検討ワーキンググループ「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24(2012)年7月18日)

(*89)林野庁プレスリリース「今後における海岸防災林の再生について」(平成24(2012)年2月1日付け)

(*90)東日本大震災により被災した海岸防災林の再生については、第6章(241-243ページ)も参照。


お問合せ先

林政部企画課

担当者:年次報告班
代表:03-3502-8111(内線6061)
ダイヤルイン:03-6744-2219

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